転生悪役令嬢とヤンデレ魔術師のゆるっとやり直し生活(希望)〜今世は大聖女ですが気楽に生きてみせますわ!〜

碧野葉菜

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5.ナターシャとアリストの力

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「要するに……ここの穏やかな暮らしを守るためには、参加した方がいいと?」
「その通りです……団長、聞こえていましたか?」
「……ない」
「え?」
「き、聞こえない、な、なにも、知らない、ぼ、ボクは、か、関係ない」

 どう考えても聞こえているのに、明らかな現実逃避だ。
 先ほどのドSモードが解除されたアリストは、陰気なオーラを纏いながら、片手の親指をガジガジと齧っている。
 パトリックは眉をハの字に曲げながらも、アリストの丸くなった背中に話しかける。

「今回は大きな祭典ですから、なるべく参加された方がよいかと……」
「……ぼ、ボクが、無理なこと、わ、わかってるくせに、い、言うんだ……」
 
 アリストの震える声に、パトリックはハッと目を見開くと、急いで頭を下げる。
 ずいぶん小さく見えるアリストの後ろ姿に、パトリックはこれ以上強く言うことはできなかった。

「も、申し訳ありません、出過ぎた真似を……では、今回も私から王都に断りの書面を送っておきます」

 いつも通りあっさり引き下がるパトリックに、アリストが喜んだかというとそうではない。
 その証拠に、アリストは背中をどんどん丸めて前屈みになっていく。

「そ、そうだよね……ど、どうせ、ぼ、ボクには、で、できないんだ、み、みんな、わかってるから、ぼ、ボクに期待なんかしない、さ、最初から、い、行くわけないって」

 どこを見ているのかわからない目で、ぶつぶつ独り言のように口を動かすアリスト。
 怖い。道端を歩いていてこんな人物に出会ったら、各地の護衛騎士団に通報するレベルだ。
 さらにアリストのすごいところは、ただ怖いだけでなく、めんどくさいということだ。
 行けと言えば嫌がり、行かなくていいと言えば、どうせ最初っから期待してなかったんでしょ! とくる。
 こうなってしまっては、もう手の施しようがない。
 長年の付き合いである団員たちはそれをよくわかっているので、ただ黙って見ているしかできない。下手に刺激して、さらに拗らせては大変だからだ。
 アリストのそばにいるガネットはといえば、魔術をかけられ拗ねていたことも忘れ、彼になにか声をかけようとしては、やめるを繰り返していた。
 ピリピリとした空気の中、まるで暗闇に侵食されているかのように、アリストの視界が狭くなっていく。
 ついにアリストは両耳を塞ぐと、勢いよくその場にしゃがみ込んだ。

「ど、どうせ、どうせ、ぼ、ボクはっ、み、みんなと同じようにできないんだっ、そ、それで、ま、周りに迷惑をかけてっ、ぼ、ボクなんか、ボクなんかっ、き、消えてなくなればいいんだぁぁぁ……!!」

 カツ――
 不意に響いたのは、革靴の低いヒールの音。
 静まり返った室内で、ナターシャだけが動き、アリストの元に歩き出していた。
 しかし、その音も、気配も、アリストには届かなかった。
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