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10.アリストの覚悟
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「まあ……まあぁああ……!!」
ナターシャの目下には、淡い霧に覆われたティルバイト……銀の森や、そこに至るまでの白黒の樹木が生えた森が広がっている。
それだけではない。すでにティルバイトに来るまでの道や、周りの町までも見渡すことができる、それほど上空まで来ていたのだ。
ここまで高度が上がるとティルバイトの霧も届かないため、今日は晴天であることがよくわかった。
「なんて素晴らしい……まさに絶景ですわね……!」
「こ、怖くない?」
「まったくもって怖くありませんわ! ワクワクして仕方がありませんことよ!」
子供のようにはしゃぐナターシャに、アリストは一安心するとともに微笑ましい気持ちになる。
いくら魔力が強いからといっても、空を飛ぶことはできないので、こんなふうに高い場所から陸を一望できるのは、飛行型の魔獣に乗れる者だけの特権だ。
「へ、ヘルユングは、お、王都を越えた、ず、ずっと向こう、山奥にあるんだ」
「聞いたことがありますわ。では、そこに到着するまで、アリストと空中遊泳を楽しめるんですのね」
ヘルユングに着くまでの旅路を想像したナターシャは、デートするかのような気分でうっとりと言った。
普段なら、ここでアリストが頬の一つでも染めるところだろうが、今はナターシャの明るい空気に馴染めない。
それほどまでに、アリストは重苦しい覚悟を背負っていた。
「じ、じゃあ、く、クリスタ、へ、ヘルユングまで、お願い」
「クルルッ!」
アリストが言うと、クリスタは高い鳴き声を上げて快諾し、優雅に翼をはためかせながら前に進み始めた。
青い空の中、時折白い雲と追いかけっこするように飛ぶ。爽やかな気流の波に乗り、ナターシャは自身も風になったかのような錯覚を覚えた。
そうしてしばらく移りゆく景色を堪能した後、ナターシャは目の前にいるアリストに視線を戻す。
興奮してあちこちを見ていたナターシャと違い、アリストは実に落ち着いた様子で、ずっと前を向いたままだ。
風に靡く漆黒のフードが、ちょうどナターシャの視界を遮るが、少しがんばって顔を上げればふわりとした白髪が見える。
太陽の光を纏ったそれは、いつもに増してパールのような細やかな煌めきを帯びていた。
出発から少し時間が経ち、空の旅に馴染んできたナターシャは、徐々にアリストの変化に気づき始める。
この体勢だとナターシャからアリストの顔は見えないので、表情から気分を読むことはできないが、後ろ姿や纏う空気が……どこか思い詰めているような気がしたのだ。
ナターシャの目下には、淡い霧に覆われたティルバイト……銀の森や、そこに至るまでの白黒の樹木が生えた森が広がっている。
それだけではない。すでにティルバイトに来るまでの道や、周りの町までも見渡すことができる、それほど上空まで来ていたのだ。
ここまで高度が上がるとティルバイトの霧も届かないため、今日は晴天であることがよくわかった。
「なんて素晴らしい……まさに絶景ですわね……!」
「こ、怖くない?」
「まったくもって怖くありませんわ! ワクワクして仕方がありませんことよ!」
子供のようにはしゃぐナターシャに、アリストは一安心するとともに微笑ましい気持ちになる。
いくら魔力が強いからといっても、空を飛ぶことはできないので、こんなふうに高い場所から陸を一望できるのは、飛行型の魔獣に乗れる者だけの特権だ。
「へ、ヘルユングは、お、王都を越えた、ず、ずっと向こう、山奥にあるんだ」
「聞いたことがありますわ。では、そこに到着するまで、アリストと空中遊泳を楽しめるんですのね」
ヘルユングに着くまでの旅路を想像したナターシャは、デートするかのような気分でうっとりと言った。
普段なら、ここでアリストが頬の一つでも染めるところだろうが、今はナターシャの明るい空気に馴染めない。
それほどまでに、アリストは重苦しい覚悟を背負っていた。
「じ、じゃあ、く、クリスタ、へ、ヘルユングまで、お願い」
「クルルッ!」
アリストが言うと、クリスタは高い鳴き声を上げて快諾し、優雅に翼をはためかせながら前に進み始めた。
青い空の中、時折白い雲と追いかけっこするように飛ぶ。爽やかな気流の波に乗り、ナターシャは自身も風になったかのような錯覚を覚えた。
そうしてしばらく移りゆく景色を堪能した後、ナターシャは目の前にいるアリストに視線を戻す。
興奮してあちこちを見ていたナターシャと違い、アリストは実に落ち着いた様子で、ずっと前を向いたままだ。
風に靡く漆黒のフードが、ちょうどナターシャの視界を遮るが、少しがんばって顔を上げればふわりとした白髪が見える。
太陽の光を纏ったそれは、いつもに増してパールのような細やかな煌めきを帯びていた。
出発から少し時間が経ち、空の旅に馴染んできたナターシャは、徐々にアリストの変化に気づき始める。
この体勢だとナターシャからアリストの顔は見えないので、表情から気分を読むことはできないが、後ろ姿や纏う空気が……どこか思い詰めているような気がしたのだ。
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