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11.ヘルユング魔術学校
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なんとも逞しい少女だ。将来は年下男子と一緒になって、姉さん女房なんて似合うかもしれない。
……なんて、本当におじさ……お父さんくさいことを考えながら、パトリックはポンッと左手に魔術書を出した。
そして見もせずに一発で転移魔術のページを開くと、なにもない目の前の空間に右手を伸ばし、静かに呪文を唱え始める。
するとほどなくして、パトリックが翳した手のひらの前にある空間が歪み出す。
紫の縁に囲まれたそれは次第に幅を広げ、やがて人一人が通れるほどの縦長の黒い宇宙に変化した。
このパトリックのやり方が、通常の魔術の使い方である。こんな高度な魔術を、本を使わず魔法陣も描かずしてポンポン出せるアリストが異常なのだ。
パトリックは魔術書を消し去ると、なにも言わず宇宙のような空間に足を踏み入れる。
黒い世界に飲み込まれてゆくパトリックの後ろ姿を、ガネットは黙って見送った。
転移空間を通過したパトリックは、出口に決めた場所からまずは顔を覗かせる。
そして視界に映る景色が指定通りであることを確認すると、心の中でよしと思いながらゆっくりと全身を出した。
すると宇宙のような空間はたちまち収縮し、跡形もなく消え失せる。
パトリックが降り立ったのは、先日式典が開かれた場所……王都にある王宮の中だった。
白と金で構成された広々とした建物、その一角でパトリックは辺りに視線を巡らせる。
壁を背に立ったパトリックの前と右側には、真っ直ぐの廊下が伸びている。
滅多に使われない物置部屋に沿ってできたL字の角、王宮内で最も人気が少ないとされるこの場所は、騎士団の詰め所に一番近い出入り口へと繋がっている。
そのため、王宮に用がある騎士たちは、必ずと言っていいほどこの廊下を使うのだ。
パトリックはそれを知っていたので、ここを転移場所に指定した。
なぜ知っているかというと、パトリックは定例会議などで王宮に来る機会があるため、その都度、建物の作りを調べたり、周りの者たちの話に聞き耳を立てたりしていたからだ。
いずれなにかの役に立つかもしれないとやっていたことが、今まさに成果を見せていた。
パトリックは再び左手で魔術書を出すと、呪文を唱えて自分の姿を周りの景色と同化させる。
テレスが使っていたのと同じ、姿を隠す魔術だ。
パトリックは壁と一体化した状態で、誰かが通りかかるのを待った。まるで獲物を狙う食虫植物のように。
しばらくすると、パトリックの前方奥から、誰かがやってくるのが見えた。
白い騎士服を身に纏った、体格のいい青年、その姿を認めた時、パトリックは心の中でほくそ笑む。
――これは、ラッキーですね。
そう思ったのは、前から歩いてくる人物が、ミカエリアス聖騎士団の副団長、ジェレミオだったからだ。
……なんて、本当におじさ……お父さんくさいことを考えながら、パトリックはポンッと左手に魔術書を出した。
そして見もせずに一発で転移魔術のページを開くと、なにもない目の前の空間に右手を伸ばし、静かに呪文を唱え始める。
するとほどなくして、パトリックが翳した手のひらの前にある空間が歪み出す。
紫の縁に囲まれたそれは次第に幅を広げ、やがて人一人が通れるほどの縦長の黒い宇宙に変化した。
このパトリックのやり方が、通常の魔術の使い方である。こんな高度な魔術を、本を使わず魔法陣も描かずしてポンポン出せるアリストが異常なのだ。
パトリックは魔術書を消し去ると、なにも言わず宇宙のような空間に足を踏み入れる。
黒い世界に飲み込まれてゆくパトリックの後ろ姿を、ガネットは黙って見送った。
転移空間を通過したパトリックは、出口に決めた場所からまずは顔を覗かせる。
そして視界に映る景色が指定通りであることを確認すると、心の中でよしと思いながらゆっくりと全身を出した。
すると宇宙のような空間はたちまち収縮し、跡形もなく消え失せる。
パトリックが降り立ったのは、先日式典が開かれた場所……王都にある王宮の中だった。
白と金で構成された広々とした建物、その一角でパトリックは辺りに視線を巡らせる。
壁を背に立ったパトリックの前と右側には、真っ直ぐの廊下が伸びている。
滅多に使われない物置部屋に沿ってできたL字の角、王宮内で最も人気が少ないとされるこの場所は、騎士団の詰め所に一番近い出入り口へと繋がっている。
そのため、王宮に用がある騎士たちは、必ずと言っていいほどこの廊下を使うのだ。
パトリックはそれを知っていたので、ここを転移場所に指定した。
なぜ知っているかというと、パトリックは定例会議などで王宮に来る機会があるため、その都度、建物の作りを調べたり、周りの者たちの話に聞き耳を立てたりしていたからだ。
いずれなにかの役に立つかもしれないとやっていたことが、今まさに成果を見せていた。
パトリックは再び左手で魔術書を出すと、呪文を唱えて自分の姿を周りの景色と同化させる。
テレスが使っていたのと同じ、姿を隠す魔術だ。
パトリックは壁と一体化した状態で、誰かが通りかかるのを待った。まるで獲物を狙う食虫植物のように。
しばらくすると、パトリックの前方奥から、誰かがやってくるのが見えた。
白い騎士服を身に纏った、体格のいい青年、その姿を認めた時、パトリックは心の中でほくそ笑む。
――これは、ラッキーですね。
そう思ったのは、前から歩いてくる人物が、ミカエリアス聖騎士団の副団長、ジェレミオだったからだ。
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