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秘密

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「あ……ありがとう」
「……何、今しがた髪を引っ掴まれたのを忘れたわけ?」
「さすがにそんなすぐに忘れないよ! でも、今痛くしないで吸ってくれたし、よく考えてみたら、美汪は吸いたくもない血をわざわざ吸ってくれて……そのおかげで、私の身体は少し楽になってるから……お礼言うのが遅くなっちゃって、ごめんね」

 申し訳なさそうに眉を下げながらも微笑む穏花を見て、美汪はやめろとは言わなかった。本心からの笑顔だとわかったからだ。

「別に。なぜか君の血は特段美味しく感じるから、毎日吸ってあげてもいいよ」
「そう、なの? 味とかあるんだ?」
「……らしいね。味に変化を感じたのは初めてだけど」
「そっかぁ。私たちに食べ物の好みがあるみたいに、吸血族の人たちにも好き嫌いがあるんだ。一緒だね」

 穏花は天真爛漫な笑みを浮かべつつ、自然と吸血族のことを“人”と呼んでいた。
 別に人間扱いされることが嬉しいわけではないが、美汪は少し、悪くないな、と思った。

「あ、そうだ、一つ聞いてもいい?」
「何……よくしゃべるね」
「美汪が私の血を吸ってる時、すごくいい匂いがするんだけど、なんなんだろうって……、昨日も気絶する直前に、その匂いがした気がする」

 美汪は僅かに驚いたように一瞬目の色を変えたが、即座にいつもの冷静さを取り戻した。

「それは、たぶん僕自身の香りだろうね」

 穏花は目を丸くして大きく瞬きを繰り返した。

「そ、そうなの!?」
「自分ではわからないけどね。今まで誰かに言われたこともないし」
「今まで血を吸ってきた人とかには……」
「……あいにく、こんなに堂々と人の血を飲むのは初めてだからね」

 と、そこで美汪が嫌悪に近い視線を送ってきたため、穏花はこの話題はNGだ、と判断しそれ以上続けるのはやめた。
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