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吸血族の城

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「僕は日本に来るまで数多の国を渡り歩いて来た。ここにもいつまでいるかわからない」
「そ、そうなの?」
「……君は緊張感がなさすぎるんじゃない? まさかこの僕を信用したわけじゃないよね?」

 足を止めずして疑惑めいた視線を向けられた穏花は、美汪との出来事を思い出していた。

 人が誰かを信用する時、何が必要であるか。それは各自、違うだろう。
 地位や名誉、経済力があるものを信じる者もいれば、そんなものなくとも情があれば信じる者もいる。
 また、その情に部類される優しさ、これも人により判断が違う。ただただ甘やかすことを優しさと思う者もいれば、あえて厳しく接することを優しさと感じる者もいる。

 穏花は美汪に生き血を吸われる際、相変わらず乱暴に扱われていた。
 髪を掴まれることもあれば、壁に押しつけられたり、机にねじ伏せるようにして後ろから吸血されることもあった。

 しかし美汪は嘘を愛さなかった。
 無理に誤魔化そうものならたちまち不機嫌になるため、穏花はいつしか美汪の前では愛想笑いをしなくなった。
 怖い時は怖がり、笑いたい時に笑う。
 そんな当たり前が許されることが、こんなに満たされることなのだと穏花は初めて知った。
 美汪の行いはいわゆる“普通”からは外れていたかもしれないが、穏花は確かに彼に恐怖以外のもっと大きな何かを感じていたのだ。
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