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あふれる想い

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 夏を謳歌していた蝉たちが姿を消し、赤とんぼが空に彩りを添えた頃、美汪は今の学校に転入生としてやって来た。
 浮世離れした彼の美しさは、生徒だけならず教師にも衝撃を与えた。
 美汪に学校に通う義務などないのだが、今現在の社会と繋がりを持つためにもとりあえず生徒という形を取っていた。
 
 美汪は周りの注目を一身に集めることに辟易していた。
 どの国に行っても、どの年齢のクラスに入っても、その反応は変わらなかった。
 そのため、なるべく人の少ない過疎地域、そして得意とする寒さを誇る雪国を選びやって来たのだ。

 この高校に来てから二週間が経過したある日、美汪は体育の授業を休み保健室にいた。
 九月の陽射しはまだ強く、校庭で一時間も直射日光に晒されては命に関わるため、屋内以外の授業は適当な理由をつけて避けているのだ。
 容姿の端麗さもさることながら、成績も素晴らしかった美汪に文句を言う教師はいなかった。
 
 美汪が面倒でならなかったのが、この噂があっという間に校内に広がり、保健室にいる時に女生徒たちがやって来ることだった。
 わざとらしく偶然を装い声をかける者もいれば、「黒川くんがいると思って」と恥ずかしげもなく授業をサボって来る者もいた。
 それに対し明らかに迷惑だという態度を取り続け、ようやく静かな一人の時間を手に入れつつあった。

 ――今日こそは誰も来ないでくれよ。わずらわしくて仕方がない……。

 美汪は保健医も留守の室内で、白いベッドの上に布団もかけず寝転び、天井を見上げていた。
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