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あふれる想い

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 一瞬にして、穏花の前から圭太が消えた。
 いや、穏花の目には見えなかっただけだ。

 何が起きたかわからず、穏花は震えたままの身体を抱え、視線だけを動かした。
 すると、視界の右側に圭太らしき人物を捕らえることができる。
 彼は穏花から数メートル離れた先にある樹木の太い幹に背中をつけ、俯いて座り込んでいた。

 圭太は突如として激しい圧力に吹き飛ばされ、木にぶつかり止まったのである。
 息を詰め、内臓を圧迫されたような強烈な痛みに、圭太は咽せた息とともに血を吐き出した。
 ぼやけた視界が鮮明になるにつれ、そこに現れた革靴を履いた長い足元を認める。
 その時、穏花もまた、彼の姿を確認していた。

 ――美汪が、立っていた。
 音もなく、決して醜く崩れない冷淡の表情を守りながら。
 その侮蔑の限りを込め開かれた目は、圭太を地獄の底まで突き落とさんばかりに見下していた。
 凍てつくような空気は美汪の真骨頂ではあったが、圭太が何より恐れたのはその美しい瞳の奥に静かに燃え盛る激高の炎だった。

 美汪を見上げた圭太は身体をすくませ、本能で理解した。自分などが到底敵う相手ではないことを。

「……お、お前、もしかして、純血、なのか……?」

 圭太は代々混血の家に伝わる昔話で聞いていた。たった一人だけ純血の吸血族の生き残りがいる、と。
 だから家に隠された吸血族についての古書を読んだこともあり、その生態について、浅くだが把握していたのだ。
 美汪の異常な強さ、そしてこの、暴力的な目に、圭太はもう、笑うしかなかった。
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