公爵令嬢は罠を張る

白槻

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後編  結末2

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「何故だっ、セレナーゼ公爵には他言無用と約束させたではないか。なのに何故話が漏れた!」

 机を叩きかねない剣幕でまくし立てる国王を前に、宰相はやれやれと肩を竦めた。噂の出どころなど知れている。

「仰せの通り、セレナーゼ公爵は何も話していないでしょう。話の内容と広まった場所を考えるに、王子の周辺から広がったとしか考えられません」

 要するに、それほど王子は周囲から疎んじられていたのだ。一つの不祥事を機に、次から次へと悪い証言が溢れてくる。

 王妃の地位をちらつかせ、学園の令嬢たちに関係を迫っただとか、恐喝だとか。

「ノアは、ノア·トンプソンは何をやっていたのだ」

 ノア·トンプソンはこの三年間、滞りなく報告書を提出していた。そして随分前から、王子の素行について、王家に書簡を送っていた。始めはニ年前にまで遡る。

 内容は王子の行動の乱れを受け、警護を刷新すること、金銭の管理を厳重化することなどを求めるものだった。どれも的をいた指摘だった。最近のものでは悲壮な言葉で王子の身の危険を訴え、諌めてくれるよう求めていた。最後の書簡は自分が罷免されたことが記されていた。

 その一枚一枚を辿れば、どれだけノアが王子を案じ、尽くしてきたか解るというものだ。宰相は度々、ノアのしたためた書簡を持って、国王夫妻に進言してきた。

 けれど、いつでも夫妻の返事は同じだった。王太子である息子のすることに間違いはない。ノアは引き続き、学園生活をサポートするように、と。

 要するに、王子の素行の乱れなど認めない。あるはずが無い。ノアは王子の学園生活を健全で実り多いものにしなければならない。そんな馬鹿な回答が繰り返された。

 彼の言葉に国王夫妻が耳を貸していれば、少なくとも事件は起こらなかっただろう。

「ノアが何をしていたのか、ここに書いてありますので、今一度確認を」

 宰相は三年間に及ぶノアの報告書と二年前からの書簡を執務机にぶちまけた。

「ノアが何をしていたか、その証明はここに御座います。これからは国王が何をしていたかが問われるでしょう。次の議会の争点は、そちらになるかと」

 唸り声を上げる国王に一礼して宰相は執務室を出た。

 清々した

 宰相は口の中だけで呟いた。 

 漸くノア·トンプソンをあのバカ王子から開放することができた。王子の強い希望だったとは言え、ノアを王子の側近に任命したのは宰相だった。ノアにはすまないことをした。

 ノアは今後、次期宰相であるセレナーゼ公爵に預ける事になる。本来の才能を十分に発揮できるだろう。



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