オリーブの季節

chance

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 イケメン先輩は始終笑っている。



「……なるよ」


「はい?」


「今にきっと好きで好きでたまらなくなる人ができるよ」


「……」



 さっきまでのヘラヘラ顔が一転、真っ直ぐに見つめられると、ちょっと。



「あっ、もちろん相手は俺ね」


「なりませんから」



 イケメン先輩はまた軽い口調に戻った。





 コンビニでお菓子や飲み物をカゴに入れる。これくらいで足りるかなとイケメン先輩を探すと、まだ商品を見ているようだったから横の本棚から雑誌を取って流し読みしていた。



「聖ちゃん、これも入れといて」


「あっはい」



 渡されたのはピンクの長方形の箱。なんだろ。箱の文字を読んでいたら視線を感じたから顔を上げた。



「――!」


「買うの」



 栗色のソバージュに青いピアス。刺すような瞳に……あと、初めて聞く声。


 ……あの人だ。




「……それ、買うの?」


「へっ?」



 ゆっくりと、手に持っていた箱に目をやった。




「それゴムだけど」


「ゴ……?」



 うええええぇぇぇーっ?

 声には出さなかったけど、まるで爬虫類でも見たかのような爬虫類自身になった私はどう遠慮がちにみてもブサイクだったと思う。


 最悪だ、最悪だ。よりによってこの人にこの箱の正体を証されるなんて。しかも絶対私が買うんだと思われているよね。赤ずきんのくせに準備がいいって思っているよね? 心の中がじたばたしてる。


 だけど栗毛のピアスは無表情で爬虫類となった私を通りすぎ、雑誌を手に立ち読みし始めた。


 今から横に立って言い訳なんてできない、私はコンドームを持った赤ずきん。そんな言い訳、今まで考えたことないよ。




「あれ、聖ちゃんどしたの。顔、変わってるよ」



 イケメン先輩が ひょうひょうと近づいて顔を覗き込む。




「先輩」

「なに、どした聖ちゃん?」



 笑顔がムカつく。



「なんでコレ買うんですか?」



「ん? 無い方がいいタイプ?」


「そ、そうじゃなくてっ、なんで今いるんですかっ」


「俺さぁ、持って無くて。備えあれば憂いなし、って言うでしょ」



 先輩は両手で私の肩をガシッと握った。



「わっ、私は備えも憂いも要りません!」


「あっ、聖ちゃん」



 恥ずかしいのと腹が立つのとで、持っていた箱を先輩に押しつけ、コンビニの外へ飛び出した。飛び出したけど……。


 児嶋が怪しげなDVDを観ているところには帰りたくない。仕方なくコンビニの前で先輩を待っていると、ガラス越しにピアスの人。


 俯きかげんで本を読む姿は何て言うか、フェミニンな感じ。良いお顔だわ。あの緩いウェーブが女の子を惑わすんだな、などと考えながら、ガラスの向こうをガン見していた。


 先輩まだ商品見てる。手元にはさっきの箱が、って持ったまんまかよ。



「ん?」


 先輩、ピアスの人のこと見てる?



 先輩から笑顔が消えていた。

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