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#1 牢獄にいた件
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無機質な部屋である。
そこにある光は、妖しげなもので。
緑とも青とも取れないような色の淡い光が、壁を、床を──部屋全体を、全反射のように照らしていた。
そんな不気味な空間に、名も知れぬ生物たちが檻の中に収容されている。
この光景に慣れたのはいつからだろうか。
──興味とは恐ろしいものだ。
薄暗い部屋の中、薄い唇が微かに弧を描いた。
◇
「……の、あの、そろそろ目を覚ましてくれませんか?」
「んん……ぇ?」
簡潔に言おう。
声がして目を覚ますと、目の前に女性がいた。
白銀の長髪の先は青色のグラデーションになっていて、髪と同じ白銀のスーツらしき服装。深い碧色の瞳は、しっかりとこちらを見ていた。
しゃがんでいるため、太腿がスーツによって強調されており、豊満な胸と相まって色気を感じる。
そして何より意味不明なのは、白銀の彼女と自分の間を隔てるもの。少し錆び付いた棒状の金属が並んでおり、中心には厳重に鍵がかけられていた。
まるで檻のような──いや、檻そのものだった。
「な、なにこれっ!?」
やっと声らしい声が出た。
よほど長い間眠っていたのか、声が掠れている。
小さく咳き込んだ後、目の前の女性を見上げた。
「説明は後で行います。異世界人さん」
「異世界、人……?」
静かに語る白銀の女性は、淡々と話を進めていく。
「まずはお名前をお聞きします。教えていただけますか?」
「えと、朱里……雨宮朱里です」
「それではアカリ、私に着いてきてください」
「あのっ、あなたのお名前は?」
「私はセイラ・トルレーン。セイラとお呼びください」
「セイラ、さん」
白銀の女性──セイラ・トルレーンは、スーツのポケットから鍵を取り出した。いくつもの鍵が連なっており、ジャラジャラと音が響く。
その中から素早くひとつの鍵を見つけ出し、ガチャリと、檻の扉を開いた。開かれた空間は決して大きくはなく、人1人がやっと通れるほどだ。
目を白黒させる朱里に対し、セイラが「どうぞ」というように手で促すので、朱里は檻から1歩踏み出す。
まっすぐな道を歩いた。
廊下、でいいのだろうか。コンクリートの質素な床をただただ歩く。ふと後ろを振り向くと、かなり後方に壁が見えた。あれが端のようだ。
「これから属性を確かめるための広間に向かいます。ここから徒歩で少しかかりますので、アカリの質問を受けますよ」
質問。
そう言われ、頭の中で数えていく。属性やらセイラ本人の事やら檻の事やら、質問は沢山ある。多すぎるが故に何から聞いたらいいのかわからない。
まるで、数多とある選択肢の中から正しいものをひとつだけ見つけ出すようだ。
「質問がないのですか? 珍しいですね」
朱里の沈黙を、セイラは質問がない、と解釈した。確かに傍から見ればそう思うかもしれない。
ここで、朱里にひとつわかったことがあった。
珍しい、ということは、珍しいと評価する基準があるということだ。つまり、このような人間は朱里以外にもいると考えて間違いなさそうだ。
そこまで考えて、この状況で冷静に事を分析している自分に驚いた。ありえなさすぎる状況だと逆に冷静になってしまうのだろうか。
「質問がありすぎて困るんです!」
言葉を選んで、やっと絞り出した。
セイラは少しだけ目を見開き、そして朱里の髪に触れた。
どうやら髪が乱れていたようだ。それに気づいた朱里はぺこりと頭を下げる。
「では、話をしましょうか。少し長くなりますが」
セイラが話し始めたのは、朱里の左側に先が真っ暗な通路が見えた所だった。廊下を歩いていて初めての脇道だ。
そこにある光は、妖しげなもので。
緑とも青とも取れないような色の淡い光が、壁を、床を──部屋全体を、全反射のように照らしていた。
そんな不気味な空間に、名も知れぬ生物たちが檻の中に収容されている。
この光景に慣れたのはいつからだろうか。
──興味とは恐ろしいものだ。
薄暗い部屋の中、薄い唇が微かに弧を描いた。
◇
「……の、あの、そろそろ目を覚ましてくれませんか?」
「んん……ぇ?」
簡潔に言おう。
声がして目を覚ますと、目の前に女性がいた。
白銀の長髪の先は青色のグラデーションになっていて、髪と同じ白銀のスーツらしき服装。深い碧色の瞳は、しっかりとこちらを見ていた。
しゃがんでいるため、太腿がスーツによって強調されており、豊満な胸と相まって色気を感じる。
そして何より意味不明なのは、白銀の彼女と自分の間を隔てるもの。少し錆び付いた棒状の金属が並んでおり、中心には厳重に鍵がかけられていた。
まるで檻のような──いや、檻そのものだった。
「な、なにこれっ!?」
やっと声らしい声が出た。
よほど長い間眠っていたのか、声が掠れている。
小さく咳き込んだ後、目の前の女性を見上げた。
「説明は後で行います。異世界人さん」
「異世界、人……?」
静かに語る白銀の女性は、淡々と話を進めていく。
「まずはお名前をお聞きします。教えていただけますか?」
「えと、朱里……雨宮朱里です」
「それではアカリ、私に着いてきてください」
「あのっ、あなたのお名前は?」
「私はセイラ・トルレーン。セイラとお呼びください」
「セイラ、さん」
白銀の女性──セイラ・トルレーンは、スーツのポケットから鍵を取り出した。いくつもの鍵が連なっており、ジャラジャラと音が響く。
その中から素早くひとつの鍵を見つけ出し、ガチャリと、檻の扉を開いた。開かれた空間は決して大きくはなく、人1人がやっと通れるほどだ。
目を白黒させる朱里に対し、セイラが「どうぞ」というように手で促すので、朱里は檻から1歩踏み出す。
まっすぐな道を歩いた。
廊下、でいいのだろうか。コンクリートの質素な床をただただ歩く。ふと後ろを振り向くと、かなり後方に壁が見えた。あれが端のようだ。
「これから属性を確かめるための広間に向かいます。ここから徒歩で少しかかりますので、アカリの質問を受けますよ」
質問。
そう言われ、頭の中で数えていく。属性やらセイラ本人の事やら檻の事やら、質問は沢山ある。多すぎるが故に何から聞いたらいいのかわからない。
まるで、数多とある選択肢の中から正しいものをひとつだけ見つけ出すようだ。
「質問がないのですか? 珍しいですね」
朱里の沈黙を、セイラは質問がない、と解釈した。確かに傍から見ればそう思うかもしれない。
ここで、朱里にひとつわかったことがあった。
珍しい、ということは、珍しいと評価する基準があるということだ。つまり、このような人間は朱里以外にもいると考えて間違いなさそうだ。
そこまで考えて、この状況で冷静に事を分析している自分に驚いた。ありえなさすぎる状況だと逆に冷静になってしまうのだろうか。
「質問がありすぎて困るんです!」
言葉を選んで、やっと絞り出した。
セイラは少しだけ目を見開き、そして朱里の髪に触れた。
どうやら髪が乱れていたようだ。それに気づいた朱里はぺこりと頭を下げる。
「では、話をしましょうか。少し長くなりますが」
セイラが話し始めたのは、朱里の左側に先が真っ暗な通路が見えた所だった。廊下を歩いていて初めての脇道だ。
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