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20話 唐突な謁見 その1
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アラン王子殿下が帰った翌日、私は宮殿内で錬金術師としての仕事をしていた。純度100%近いポーションやエーテルなどの製造だ。
「ウィンリー、凄いわね……なんなのその才能」
「いきなり新人に抜かれるのだけは勘弁してほしいぜ……」
「いや、あははは。別に大したことはしてないけど……」
仕事仲間である他の錬金術師の人らとも会話が増えてきた。基本的には貴族出身の人が多いみたいなので、緊張はするけど。ただ、イシューマ王国の調合室はあまり身分の差が見え隠れする場所ではなかった。
「これはあれだな、才能ある者特有の……自慢だな」
「ええっ!? ちょっと、やめてよね……そういうつもりじゃないんだってば、本当に」
「本当に凄いんだから、もっと自信持ったら良いのに」
本当はもう少し自慢をした方が嫌味にはならないのかもしれないけど、イシューマ王国で働くまでの経緯があれなので、まだまだ自信を持つことは難しかった。だから、こうして調合中に突っつかれることが多い。
ちなみに全員が冗談で言っている。私にもそれくらいのことは分かるので、嫌な気分にはならない。
「精が出ているな」
「こ、これはラグナ王太子殿下……!!」
ラグナ王太子殿下が調合室に護衛やマリアベルと共に入って来た。私をからかっていた人達はみんな、一斉にラグナ王太子殿下に敬礼をする。この辺りは流石としか言いようがない。訓練されているというか。
「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」
「いやいや、構わないさ。むしろ、ウィンリーが楽しくやれているようで安心したよ」
「は、はい。それはもう! みなさん、とてもお優しいですし……」
私は怪しい笑みを浮かべつつ、さっきの仕返しとばかりに皆を見渡した。周囲の者達の血の気が引いていくのが分かる。
「ほう、ウィンリーは何か不愉快の想いをしたのかな? 誰にやられたというのだ?」
私の意を汲み取ってくれたのか、ラグナ王太子殿下が乗ってくれる。
「そうですね……ええと」
「ちょ、ウィンリーさん!? ほんと、勘弁して……冗談だったんだってば!」
「そ、そう……不愉快な思いをさせたなら、謝るから……!」
冗談に冗談が重なって、どこまでが冗談か分からなくなってきた。先ほどまで、私の才能にやっかみの言葉を掛けていた人達が真面目な顔になっている。冗談とはいえ、ラグナ王太子の前では不味いってことなのかな。
本当に、ここの調合室の人達は鍛えられている気がする。ジドル王国とは大違い……というか、錬金術師は私しか居なかったけど。
「冗談ですよ、みなさん。そんなに必死にならなくても……」
「あ、そ、そうなんだ……よかった……」
「まあ、冗談だったのだろうが、ウィンリーはここに来て日が浅い。距離を縮めるにしても、もう少し時間を掛けた方が良いかもしれんな」
「はい……申し訳ありませんでした……」
彼らは再び、ラグナ王太子殿下に敬礼をしてそれぞれの持ち場に帰って行った。
「さて、ウィンリー少し良いかな?」
「はい。なんでしょうか、ラグナ様?」
本題とばかりにラグナ王太子殿下が咳ばらいをする。まさか、もうジドル王国から動きがあったのかな? 時間的にはあり得ない気がするけれど……。
「ええと、なんというかだな……」
「もしかして、ジドル王国絡みのことでございますか?」
「いや、それは違うんだが……その、頼みがあってな」
「頼み……でございますか?」
「ああ」
ラグナ王太子殿下からの頼み……? あんまり想像は付かないけれど、彼には感謝しても仕切れないくらいの恩がある。私は気付いた時には力強く頷いていた。否定するなどあり得なかったからだ。
「私に出来ることであれば、なんなりとお命じください」
「そう言ってもらえるのは非常に助かる。実はな……私の母上に会ってもらいたいのだ」
「は、母上……えっ? 王妃様ですよね……?」
「そうだな……実を言うと、私が一昨日、高級宿でウィンリーのことを婚約者宣言した件が母上に伝わっていてな……その、ぜひとも会いたいというもので」
想定外……確かに想定外だった……。いえ、宮殿内の仕事をさせてもらっているのだから、いつかはお会いすることがあるとは思っていたけれど……まさかこんなに早く実現するなんて。しかも、婚約者という関係性で王妃様への謁見が実現しそうなことに、私は今にも意識が飛びそうになっていた……。
「ウィンリー、凄いわね……なんなのその才能」
「いきなり新人に抜かれるのだけは勘弁してほしいぜ……」
「いや、あははは。別に大したことはしてないけど……」
仕事仲間である他の錬金術師の人らとも会話が増えてきた。基本的には貴族出身の人が多いみたいなので、緊張はするけど。ただ、イシューマ王国の調合室はあまり身分の差が見え隠れする場所ではなかった。
「これはあれだな、才能ある者特有の……自慢だな」
「ええっ!? ちょっと、やめてよね……そういうつもりじゃないんだってば、本当に」
「本当に凄いんだから、もっと自信持ったら良いのに」
本当はもう少し自慢をした方が嫌味にはならないのかもしれないけど、イシューマ王国で働くまでの経緯があれなので、まだまだ自信を持つことは難しかった。だから、こうして調合中に突っつかれることが多い。
ちなみに全員が冗談で言っている。私にもそれくらいのことは分かるので、嫌な気分にはならない。
「精が出ているな」
「こ、これはラグナ王太子殿下……!!」
ラグナ王太子殿下が調合室に護衛やマリアベルと共に入って来た。私をからかっていた人達はみんな、一斉にラグナ王太子殿下に敬礼をする。この辺りは流石としか言いようがない。訓練されているというか。
「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」
「いやいや、構わないさ。むしろ、ウィンリーが楽しくやれているようで安心したよ」
「は、はい。それはもう! みなさん、とてもお優しいですし……」
私は怪しい笑みを浮かべつつ、さっきの仕返しとばかりに皆を見渡した。周囲の者達の血の気が引いていくのが分かる。
「ほう、ウィンリーは何か不愉快の想いをしたのかな? 誰にやられたというのだ?」
私の意を汲み取ってくれたのか、ラグナ王太子殿下が乗ってくれる。
「そうですね……ええと」
「ちょ、ウィンリーさん!? ほんと、勘弁して……冗談だったんだってば!」
「そ、そう……不愉快な思いをさせたなら、謝るから……!」
冗談に冗談が重なって、どこまでが冗談か分からなくなってきた。先ほどまで、私の才能にやっかみの言葉を掛けていた人達が真面目な顔になっている。冗談とはいえ、ラグナ王太子の前では不味いってことなのかな。
本当に、ここの調合室の人達は鍛えられている気がする。ジドル王国とは大違い……というか、錬金術師は私しか居なかったけど。
「冗談ですよ、みなさん。そんなに必死にならなくても……」
「あ、そ、そうなんだ……よかった……」
「まあ、冗談だったのだろうが、ウィンリーはここに来て日が浅い。距離を縮めるにしても、もう少し時間を掛けた方が良いかもしれんな」
「はい……申し訳ありませんでした……」
彼らは再び、ラグナ王太子殿下に敬礼をしてそれぞれの持ち場に帰って行った。
「さて、ウィンリー少し良いかな?」
「はい。なんでしょうか、ラグナ様?」
本題とばかりにラグナ王太子殿下が咳ばらいをする。まさか、もうジドル王国から動きがあったのかな? 時間的にはあり得ない気がするけれど……。
「ええと、なんというかだな……」
「もしかして、ジドル王国絡みのことでございますか?」
「いや、それは違うんだが……その、頼みがあってな」
「頼み……でございますか?」
「ああ」
ラグナ王太子殿下からの頼み……? あんまり想像は付かないけれど、彼には感謝しても仕切れないくらいの恩がある。私は気付いた時には力強く頷いていた。否定するなどあり得なかったからだ。
「私に出来ることであれば、なんなりとお命じください」
「そう言ってもらえるのは非常に助かる。実はな……私の母上に会ってもらいたいのだ」
「は、母上……えっ? 王妃様ですよね……?」
「そうだな……実を言うと、私が一昨日、高級宿でウィンリーのことを婚約者宣言した件が母上に伝わっていてな……その、ぜひとも会いたいというもので」
想定外……確かに想定外だった……。いえ、宮殿内の仕事をさせてもらっているのだから、いつかはお会いすることがあるとは思っていたけれど……まさかこんなに早く実現するなんて。しかも、婚約者という関係性で王妃様への謁見が実現しそうなことに、私は今にも意識が飛びそうになっていた……。
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