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特にロマンスは求めてないし
4話
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その日私は院長先生に、有給休暇の申請と、引っ越しする旨を伝えに行った。
番号が変わるだけでもいろいろ変わるから、市役所なり銀行なり郵便局なりをはしごしなければならないんだ。並ばないなら休み時間に自転車を走らせて行くけれど、さすがに市役所の待ち時間を考えたら、有給休暇を使ったほうがよさそうだ。
院長先生は私の申請に、変な顔をしつつも了承してくれた。
「そりゃまあ、柏原さんは有休を滅多に取らないから消化してくれるのはいいけど。でも普段は副業の納期でしか取らないのに、副業のほうは大丈夫?」
院長先生には私の副業内容は教えてないものの、納期が存在することだけは伝えているし、あまりにも締切がタイト過ぎる場合は有休を申請している。そのことを心配されると心底申し訳ない気分になったけれど、まあ仕方ないか。
「大丈夫です。なんとかしますから」
「そうかい」
それだけ伝えてから院長室を出て行くと、パートさんがにこにこ笑いながら声をかけてきた。
「柏原さん、引っ越しするって本当? ついに同棲でも決まったの?」
その言葉に、私は自分の頬が引きつってないかを気にした。この人、まさか院長室に聞き耳立ててたんじゃないよなあと疑う。さすがにうちみたいな診療所、防音機能なんかないから、聞き耳立てたら聞き放題だ。
私はなんとか自分自身に「クールになれ、野々子」と言い聞かせてから答える。
「いえ。単純に引っ越しです」
「そーう? だって普段から家に篭もっている子が気分転換に引っ越しするなんて考えられないし、遂に腹でも括ったんじゃないかと思ってね」
そのカビの生えた価値観どうにかならないのかな。私はげんなりとした。
私はパートさんたちと違って、バブルの恩恵なんて受けた試しないし、結婚すれば幸せになれる信仰も持ち合わせていないし、そもそもなんでもかんでも恋愛に結びつける小学生女子みたいな発想、いい年なんだからそろそろ勘弁して欲しい。
……なんて。思っていても言ったらなにをばら撒かれるかわかったもんじゃないから言わないけど。この人、嘘をばら撒いて勝手に人間関係を悪辣に仕立てていくから、適当に受け流す以外に道はない。
ひとりでそう結論付けて、私は話を変えることにした。
「今日朝イチで早めの患者さん来るんでしたよね?」
「あー、はいはい。歯周病こじらせている方と、歯石取りの方ですね」
「わかりました。歯周病は院長先生にお任せしますから、歯石の方は私のほうに回してください」
「わかりました」
正直、仕事の話だけしたい。私はそう思いながらマスクを付けてゴム手袋を嵌めた。
歯科衛生士は基本的に治療はしない。それは歯科医の仕事だからだ。逆に言ってしまえばそれ以外はなんでもする。歯垢歯石を取るのも、歯磨き指導も、レントゲンや治療の補佐も。
患者さんは看護師も歯科衛生士もパートの助手も歯科医も区別が付かない。そりゃ細かい仕事内容なんて、患者さんがわかる訳がない。
私はそれらをこなしながら、治療が終わるたびにゴム手袋を外し、必死に手を洗った。
この仕事を嫌い抜いていても、BL小説で稼いだ印税のほうが、とっくの昔に私の本職の給料を追い抜いてしまっていても、あまり辞めたくない理由は、ゴム手袋でマスクを付けて接していても、失礼に当たらない数少ない仕事だからだ。
これを付けている限りは無敵になれるけれど、これを付けていなかったら、私はただの非力な人間になってしまう。他の仕事ができるとはお世辞にも思えなかった。ネットだけで仕事ができる小説家以外の仕事のほとんどは、ゴム手袋とマスクを外すことを求められるのだから。
そう思ったら、簡単に辞められるものでもなかった。
****
有給を取ったから、その日の内に各届け出をざっと出して、その日までに荷物を全部浜尾さん家に運ばないといけない。
ひとまず私は、段ボールをひとつ運びにチャイムを鳴らすと、すぐに出てくれた。
「かしこ先生こんばんは!」
「ええっと、浜尾さん。引っ越しなんですけれど……」
「あ、はい。でも玄関じゃあれですんで、かしこ先生が使ってもかまわない場所を見てもらってもいいですか?」
「ええっと? はい」
私は浜尾さんに連れられて部屋にお邪魔して、少しだけ「あれ?」と思った。
この人といると不思議だなと思うのは、私は基本的に人間嫌いが過ぎて、宅配便は玄関に宅配ポストを設置する程度には、なるべく人との交流を避けている。買い物だって営業終了間近の人が少ない時間を選んでしているくらいだし。
だというのに、浜尾さんといても、特に背中を仰け反らせるようなことがない。
思えば、隣の家に挨拶したときも、私たちは当たり障りのない挨拶しかせずにここまで来たし、この間私の本を拾ったときも、私が拒否感を示さなかった。
なんでだろう。
不思議に思いながらも、部屋に入った。
同じ間取りにもかかわらず、流れる匂いが違う。人の家の匂いって拒否感を示しがちなのに、不思議と浜尾さん家の匂いは落ち着いた。
リビングに部屋がふたつ。台所には最新式電子キッチン。部屋の間取りは同じだから、それはわかっていたけれど、本当に同じ部屋なのかと思うくらいに、浜尾さん家にはなにもなかった。
私はなにもないのは寂しいからと、百均ショップで買った花瓶とフェイクフラワーを端っこに置いてあるけれど、それは一切なかった。
テレビは置いてないものの、パソコンはものすごく大きなモニターが三つくっついたカスタマイズされまくったデスクトップがあるから、問題がないんだろう。
「これ、趣味のですか?」
私が何気なく尋ねると、浜尾さんが照れたように頷いた。
「仕事と実益を兼ねて、いろいろ足していったら気付いたらこう魔改造されてたんですよね。お金はパソコン以外だったら、本当にBL小説しかないんで」
「BLマンガではないんですねえ?」
何気なく聞いてみると、浜尾さんは困ったように首を傾げた。
「なんて言うんでしょう。BL小説の場合は、挿絵を見ずにいろいろ想像することができるんですけど、BLマンガだと想像の余地がないと言いますか。なんかマンガに描かれている以上のことが想像できないと言いますか……だから、自分はBLは小説のほうが好きなんですよ」
「はあ……そういうものなんですね?」
少し意外な気分になった。
BL小説はイラストがあるのとないのじゃ扱いが大きく変わるし、表紙だけだと文句が出る。その上挿絵が見たいシーンじゃなくっても文句が出るけど、イラストの指示は基本的に編集さんだから作家に申請するのは勘弁して欲しい。
それはさておき、挿絵を見ず、表紙イラストも見ず、想像したいからBL小説を読むというのは、なんだか崇高な趣味な気もする。
私、そんな崇高は話は書いた覚えがないんだけどな。そう思いつつも、浜尾さんは「ここなんですけど」と案内してくれた。
一室、なにもない部屋があった。北側だから年中日当たりが悪いのはネックだけれど、返って本や資料が日焼けしにくいからちょうどいい。でもそんな本を置いておくには都合のいい部屋を、私がいただいてしまってもいいんだろうか。
「あの……物書きとしてはものすっごく申し分ないくらいにいい部屋なんですけど……こんないい部屋、もらってしまってもよろしいんでしょうか……? 浜尾さんも本集めてらっしゃるじゃないですか」
私がそう言うと、浜尾さんが慌てて手を振る。
「い、いえ! むしろ北側の日当たりの悪い部屋を渡すことになって申し訳ないです! もっと日当たりのいい場所のほうがとも思いましたけど……」
「いえ! 充分です! 本や資料が焼けたほうが悲しいですし、ここの大家は浜尾さんですから! 充分いい部屋を借りてたと思いますし!」
普通だったら同居というと、プライベートゾーンとかを考えるのに、真っ先に確保してくれたのを、どうして感謝せずにいられるのか。私があわあわと言うと、浜尾さんが心底ほっとした顔をした。
「よかったです。かしこ先生のお役に立てて」
私はそこら辺を見て、ようやく浜尾さんといても、人間嫌いが発動しないのか気が付いた。
この人、私のパーソナルスペースに入ってこない。仕事でなかったら嫌だと思うくらいに駄目だし、この人は仕事だと割り切れなかったら無理だし、本当にパートさんとの付き合いが嫌っていう位に、パーソナルスペースに入ってくる人に対して緊張するのに。
浜尾さんは私との距離を一定に保っているのだ。それこそ、自分から入るときは謝ってくるから、私の緊張が緩む。だからこそ、私の人間嫌いが発動しなかったんだ。
人から見れば、私のパーソナルスペースは相当広いらしい。過度の潔癖性も同じような行動らしいけれど、私は仕事でしてくる人に対しては若干緩い……ただし、自分が完全に休業中になっていると、本当に誰にも会いたくないし、誰とも肉声でしゃべりたくなくなる……から、美容院にも病院にも普通に通えるし、触られても平気だ。そもそも潔癖症が過ぎる人は、歯科医院では働けないと思う。
そのパーソナルスペースに土足で踏み込んでこないということは。
きっとこの人も、私と同じでパーソナルスペースが相当広いんだ。そう考えたら、私は一連の出来事に少しだけ納得した。
同族意識を持っているなら、よそに行ったらきっと困ることがあるだろうと心配して、ここに住ませてくれることになったんだろう。わざわざ私のプライベートゾーンをつくってくれたということは、そういうことだ。
「ありがとうございます……ひとまず、段ボールここに置かせてもらいますね。本格的な引っ越しは来週の土日かなと」
「ああ! だったら鍵もそれまでに用意していますね! あの、手伝いましょうか?」
「えっと……できたらパソコンの設置、お任せしたいんですけど……」
さすがにパソコンの設定もろもろを弄って仕事が滞ったら困る。
IT関係の人だからって、さすがに甘え過ぎだろうか。そう思ったけれど、浜尾さんはキリッとした顔で言う。
「かしこ先生の原稿を守るために、精一杯頑張ります!」
どうも、私は納期関係は難なくクリアできそうだ。
初めて見かけた同類さんのおかげで。
番号が変わるだけでもいろいろ変わるから、市役所なり銀行なり郵便局なりをはしごしなければならないんだ。並ばないなら休み時間に自転車を走らせて行くけれど、さすがに市役所の待ち時間を考えたら、有給休暇を使ったほうがよさそうだ。
院長先生は私の申請に、変な顔をしつつも了承してくれた。
「そりゃまあ、柏原さんは有休を滅多に取らないから消化してくれるのはいいけど。でも普段は副業の納期でしか取らないのに、副業のほうは大丈夫?」
院長先生には私の副業内容は教えてないものの、納期が存在することだけは伝えているし、あまりにも締切がタイト過ぎる場合は有休を申請している。そのことを心配されると心底申し訳ない気分になったけれど、まあ仕方ないか。
「大丈夫です。なんとかしますから」
「そうかい」
それだけ伝えてから院長室を出て行くと、パートさんがにこにこ笑いながら声をかけてきた。
「柏原さん、引っ越しするって本当? ついに同棲でも決まったの?」
その言葉に、私は自分の頬が引きつってないかを気にした。この人、まさか院長室に聞き耳立ててたんじゃないよなあと疑う。さすがにうちみたいな診療所、防音機能なんかないから、聞き耳立てたら聞き放題だ。
私はなんとか自分自身に「クールになれ、野々子」と言い聞かせてから答える。
「いえ。単純に引っ越しです」
「そーう? だって普段から家に篭もっている子が気分転換に引っ越しするなんて考えられないし、遂に腹でも括ったんじゃないかと思ってね」
そのカビの生えた価値観どうにかならないのかな。私はげんなりとした。
私はパートさんたちと違って、バブルの恩恵なんて受けた試しないし、結婚すれば幸せになれる信仰も持ち合わせていないし、そもそもなんでもかんでも恋愛に結びつける小学生女子みたいな発想、いい年なんだからそろそろ勘弁して欲しい。
……なんて。思っていても言ったらなにをばら撒かれるかわかったもんじゃないから言わないけど。この人、嘘をばら撒いて勝手に人間関係を悪辣に仕立てていくから、適当に受け流す以外に道はない。
ひとりでそう結論付けて、私は話を変えることにした。
「今日朝イチで早めの患者さん来るんでしたよね?」
「あー、はいはい。歯周病こじらせている方と、歯石取りの方ですね」
「わかりました。歯周病は院長先生にお任せしますから、歯石の方は私のほうに回してください」
「わかりました」
正直、仕事の話だけしたい。私はそう思いながらマスクを付けてゴム手袋を嵌めた。
歯科衛生士は基本的に治療はしない。それは歯科医の仕事だからだ。逆に言ってしまえばそれ以外はなんでもする。歯垢歯石を取るのも、歯磨き指導も、レントゲンや治療の補佐も。
患者さんは看護師も歯科衛生士もパートの助手も歯科医も区別が付かない。そりゃ細かい仕事内容なんて、患者さんがわかる訳がない。
私はそれらをこなしながら、治療が終わるたびにゴム手袋を外し、必死に手を洗った。
この仕事を嫌い抜いていても、BL小説で稼いだ印税のほうが、とっくの昔に私の本職の給料を追い抜いてしまっていても、あまり辞めたくない理由は、ゴム手袋でマスクを付けて接していても、失礼に当たらない数少ない仕事だからだ。
これを付けている限りは無敵になれるけれど、これを付けていなかったら、私はただの非力な人間になってしまう。他の仕事ができるとはお世辞にも思えなかった。ネットだけで仕事ができる小説家以外の仕事のほとんどは、ゴム手袋とマスクを外すことを求められるのだから。
そう思ったら、簡単に辞められるものでもなかった。
****
有給を取ったから、その日の内に各届け出をざっと出して、その日までに荷物を全部浜尾さん家に運ばないといけない。
ひとまず私は、段ボールをひとつ運びにチャイムを鳴らすと、すぐに出てくれた。
「かしこ先生こんばんは!」
「ええっと、浜尾さん。引っ越しなんですけれど……」
「あ、はい。でも玄関じゃあれですんで、かしこ先生が使ってもかまわない場所を見てもらってもいいですか?」
「ええっと? はい」
私は浜尾さんに連れられて部屋にお邪魔して、少しだけ「あれ?」と思った。
この人といると不思議だなと思うのは、私は基本的に人間嫌いが過ぎて、宅配便は玄関に宅配ポストを設置する程度には、なるべく人との交流を避けている。買い物だって営業終了間近の人が少ない時間を選んでしているくらいだし。
だというのに、浜尾さんといても、特に背中を仰け反らせるようなことがない。
思えば、隣の家に挨拶したときも、私たちは当たり障りのない挨拶しかせずにここまで来たし、この間私の本を拾ったときも、私が拒否感を示さなかった。
なんでだろう。
不思議に思いながらも、部屋に入った。
同じ間取りにもかかわらず、流れる匂いが違う。人の家の匂いって拒否感を示しがちなのに、不思議と浜尾さん家の匂いは落ち着いた。
リビングに部屋がふたつ。台所には最新式電子キッチン。部屋の間取りは同じだから、それはわかっていたけれど、本当に同じ部屋なのかと思うくらいに、浜尾さん家にはなにもなかった。
私はなにもないのは寂しいからと、百均ショップで買った花瓶とフェイクフラワーを端っこに置いてあるけれど、それは一切なかった。
テレビは置いてないものの、パソコンはものすごく大きなモニターが三つくっついたカスタマイズされまくったデスクトップがあるから、問題がないんだろう。
「これ、趣味のですか?」
私が何気なく尋ねると、浜尾さんが照れたように頷いた。
「仕事と実益を兼ねて、いろいろ足していったら気付いたらこう魔改造されてたんですよね。お金はパソコン以外だったら、本当にBL小説しかないんで」
「BLマンガではないんですねえ?」
何気なく聞いてみると、浜尾さんは困ったように首を傾げた。
「なんて言うんでしょう。BL小説の場合は、挿絵を見ずにいろいろ想像することができるんですけど、BLマンガだと想像の余地がないと言いますか。なんかマンガに描かれている以上のことが想像できないと言いますか……だから、自分はBLは小説のほうが好きなんですよ」
「はあ……そういうものなんですね?」
少し意外な気分になった。
BL小説はイラストがあるのとないのじゃ扱いが大きく変わるし、表紙だけだと文句が出る。その上挿絵が見たいシーンじゃなくっても文句が出るけど、イラストの指示は基本的に編集さんだから作家に申請するのは勘弁して欲しい。
それはさておき、挿絵を見ず、表紙イラストも見ず、想像したいからBL小説を読むというのは、なんだか崇高な趣味な気もする。
私、そんな崇高は話は書いた覚えがないんだけどな。そう思いつつも、浜尾さんは「ここなんですけど」と案内してくれた。
一室、なにもない部屋があった。北側だから年中日当たりが悪いのはネックだけれど、返って本や資料が日焼けしにくいからちょうどいい。でもそんな本を置いておくには都合のいい部屋を、私がいただいてしまってもいいんだろうか。
「あの……物書きとしてはものすっごく申し分ないくらいにいい部屋なんですけど……こんないい部屋、もらってしまってもよろしいんでしょうか……? 浜尾さんも本集めてらっしゃるじゃないですか」
私がそう言うと、浜尾さんが慌てて手を振る。
「い、いえ! むしろ北側の日当たりの悪い部屋を渡すことになって申し訳ないです! もっと日当たりのいい場所のほうがとも思いましたけど……」
「いえ! 充分です! 本や資料が焼けたほうが悲しいですし、ここの大家は浜尾さんですから! 充分いい部屋を借りてたと思いますし!」
普通だったら同居というと、プライベートゾーンとかを考えるのに、真っ先に確保してくれたのを、どうして感謝せずにいられるのか。私があわあわと言うと、浜尾さんが心底ほっとした顔をした。
「よかったです。かしこ先生のお役に立てて」
私はそこら辺を見て、ようやく浜尾さんといても、人間嫌いが発動しないのか気が付いた。
この人、私のパーソナルスペースに入ってこない。仕事でなかったら嫌だと思うくらいに駄目だし、この人は仕事だと割り切れなかったら無理だし、本当にパートさんとの付き合いが嫌っていう位に、パーソナルスペースに入ってくる人に対して緊張するのに。
浜尾さんは私との距離を一定に保っているのだ。それこそ、自分から入るときは謝ってくるから、私の緊張が緩む。だからこそ、私の人間嫌いが発動しなかったんだ。
人から見れば、私のパーソナルスペースは相当広いらしい。過度の潔癖性も同じような行動らしいけれど、私は仕事でしてくる人に対しては若干緩い……ただし、自分が完全に休業中になっていると、本当に誰にも会いたくないし、誰とも肉声でしゃべりたくなくなる……から、美容院にも病院にも普通に通えるし、触られても平気だ。そもそも潔癖症が過ぎる人は、歯科医院では働けないと思う。
そのパーソナルスペースに土足で踏み込んでこないということは。
きっとこの人も、私と同じでパーソナルスペースが相当広いんだ。そう考えたら、私は一連の出来事に少しだけ納得した。
同族意識を持っているなら、よそに行ったらきっと困ることがあるだろうと心配して、ここに住ませてくれることになったんだろう。わざわざ私のプライベートゾーンをつくってくれたということは、そういうことだ。
「ありがとうございます……ひとまず、段ボールここに置かせてもらいますね。本格的な引っ越しは来週の土日かなと」
「ああ! だったら鍵もそれまでに用意していますね! あの、手伝いましょうか?」
「えっと……できたらパソコンの設置、お任せしたいんですけど……」
さすがにパソコンの設定もろもろを弄って仕事が滞ったら困る。
IT関係の人だからって、さすがに甘え過ぎだろうか。そう思ったけれど、浜尾さんはキリッとした顔で言う。
「かしこ先生の原稿を守るために、精一杯頑張ります!」
どうも、私は納期関係は難なくクリアできそうだ。
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