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忘れられればトラウマにはならないし
1話
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【乃々原かしこ様
お世話になっております。締切ですが、最終締切は月末になります。それまではまだ余裕がありますから、それまでどうぞ養生なさってくださいね。
滅多にスランプにならないから動揺されているかもわかりませんが、職業病ですから。あまり深刻に悩まないでくださいね。
原稿お待ちしております。】
あれから私は、全然修正案の出ない企画書と共に、他の原稿すら手に付かないという深刻なスランプに陥ってしまった。一文字書こうとするたびに吐き気がしてトイレに直行し、文章を読んだらとうとう洗面所に駆け込む。
これじゃ駄目だと、取引先には全て事情を説明し、締切を待ってもらうことにした。幸いにもほとんどの出版社の締切自体はそこまで近くはなかったけれど。伸ばしてもらった締切までにスランプに対処するしかない。
それでも。こんな病的なスランプは生まれて初めてで、足掻けば足掻くほど、蟻地獄に落ちていくかのように、気持ちまでマイナス方向に引きずり落とされていく。
それに並行して、歯医者でまで手が突然震えるようになり、今までやり慣れてきた歯垢除去にまで影響が出るようになってしまった。
「痛っ!」
患者さんの悲鳴に、私ははっとする。器具で歯石を削り落とそうとして、歯と歯茎の境目を抉ってしまったのだ。
普段だったらこれくらい、歯石除去の最中だったらよくあることで「次からはもっとこまめに病院に通ってください」で済む話なのに、私は狼狽し過ぎて、ひたすら謝り続けていた。
「申し訳ございません! 他に痛むところは……」
「今のところだけですけど……もしかして、虫歯できてましたか?」
「いえ、それはちっとも」
患者さんは気のいい人だったからやんわりと許してくれたけれど、とうとう院長先生に呼び出されてしまった。
「柏原さん、大丈夫? 最近具合が悪いみたいだけど。手元狂っているみたいだし」
「申し訳ありません……」
「いや、患者さんがいい人だったからよかったけどね。でも次からは本当に気を付けてね。最近は本当にSNSになんでも書き込まれるし、ブラウザの地図とかにまで書き込まれたら、一貫の終わりだから」
昔気質の院長先生も、さすがに人の口には戸が立てられないこと、人のSNSアカウントには口出しできないことはよくわかっているらしく、それを執拗に怖がっていた。
でも、私のせいで悪口を書き込まれてしまったら、最悪うちの診療所が閉院に追い込まれるし、ほどほどにしないといけないかもしれない。
私は何度目かの「申し訳ございません」を訴えてから、今日の仕事は終わった。
「……はあ」
原稿は完成しない。仕事では失敗ばかり続いている。
気持ちの問題なんだから、気持ちのほうをなんとかしないといけないのはわかっている。でも。これをどうしたらいいんだろう。
結局その日はパソコンの前に座るのを放棄し、コンビニでビールとおつまみのビーフジャーキーを買って帰ることにした。浜尾さんの分もお土産にしようと、日頃浜尾さんが飲むときに食べているおつまみを思い浮かべて、チーズとドライフルーツも一緒に買った。
ごろごろと、駄目な方向に転がっていっている気がする。
浜尾さんが書けないBL小説家を置いてくれているからって、甘え過ぎている。あの人は聖人なんかじゃない、人間なのに。
おつまみごときで、賄賂になんてならないのにと、手に食い込んだビニール袋が妙に重く感じだ。
****
メンタルが落ち込んでいるときほど、アルコールは口にするもんじゃない。
落ち込んでいるときに酒を飲んだら、大概は悪い夢を見るのだから。
私がこれは夢だとどこかうすらぼんやりと思ったのは、牧歌的な光景を歩いているからだった。
昭和の面影の残った街並み。私はそこを教科書をぎっちりと詰め込んだランドセルを背負って歩いていた。
私の家は校区の一番端であり、クラスの誰とも一緒に帰ることはできず、必然的にひとりで帰ることが多かった。今だったら集団下校で帰るのが当たり前だけれど、当時の地元は比較的平和だったから、自由下校だったんだ。
ひとりでのんびりと下校する途中、私はクラスメイトの男子たちに取り囲まれた。学校に近くに住んでいるこの子たちは、さっさと家にランドセルを置いて、もう遊びに出ていたらしい。
「見てみろよ」
私はいきなり捕まえられた。訳がわからず、私はきょとんと男子を見ていた。当時私は細長くって肉がなく、簡単に捕まえられるくらいには体重もなかった。
対してクラスのリーダー格の体格は大きく、当時の小学生にしてもがっちりとしていた。逃げられない。
殴られるんだろうか。にやにやと笑う男子を見て、ようやく私は震えた中、いきなり体臭が近付いてきた。
臭い。汚い。ばっちぃ。
その体臭は一瞬。男子たちは「ヒュー」と声を上げた。
そこでようやく私は気が付いた。
キスをされたのだと。鳥肌が立った。
男子が手を離した瞬間に背負っていたランドセルを外すと、それで男子の頭に思いっきり投げつけた。教科書のぎっちりと詰まったランドセルは重く、はっきり言って痛い。
私はそのまま逃げ出した。
ランドセルもなしに帰ってきた私を、母は当然ながら驚いた顔で見ていたものの、「ランドセルどこに落としてきたの」と聞く。
先程のことを思い出そうとすると、口がハクハクとなって、上手く動かなかった。母は困りながら聞く。
「誰かに意地悪されたの?」
「……くんが」
「まあ、あれねえ。好きな子に意地悪してしまう奴ね」
母は本気でそれを言ったのかがわからなかった。
好きな子をそんな男子皆で取り囲んで、見せしめにするんだろうか。
そんなの人間扱いじゃない。賞品扱いだ。
結局はあのとき取り囲んだ男子の内のひとりが、家に持って帰ってくれたらしく、「野々子ちゃんのランドセルがうちにあるんですけど」とその子の母から電話があり、取りに行った。
「野々子ちゃん来たって」
「うん」
見せしめにしない男子はなにかを言いたげに見ていたけれど、私は許す気にはなれなかった。
私は嫌だったのに。助けてくれなかったじゃない。大嫌い。
翌日、私はいじめられるんじゃないか、また晒し物にされるんじゃないかとビクビクしていたけれど、結局はなにもなかった。ただ、あの頃からだった。
男子に触ると鳥肌が立って、まともにしゃべれなくなってしまったのは。フォークダンスなんて、私がいきなり泣き出すせいで、私はおかしくなったと思われてフォークダンスのときはひとりで見学で座らされていた。
原因になった男子は、私にトラウマだけを植え付けて、ひとりのうのうと転校してしまった。取り巻きは私をときどき遠巻きに眺めていたけれど、誰ひとりとして謝ることもなかった。
女子は集団になったら最後、徹底的に言葉で男子を叩き潰す行動を取る。男子からしてみれば、女子にかぶせられた汚名をどうにかしてそそぎたい中で、のほほんとしている私が目に付いたのだろう。私はよくも悪くも家の位置の関係で、気の強い女子たちと絡むことがなかったから、体のいいサンドバッグだったんだろうか。
全ては本人たちに聞いたことがなく、私の当てずっぽうだけれど、地元に残った子たちの噂を地元にまだいるたつきから聞いている限り、そこまで的外れではないらしい。
男女の共同作業なんて全然駄目で、男子としゃべれない、触れない上に、だんだん男子が汚いものに見えてきたのだった。
思春期に入った頃になったら、成長の早い子だったらブラジャーだって付けはじめるし、生理だってやって来る。男子たちはそれを興奮したように見つめるようになってきたのだ。
ただでさえ苦手だったものが、汚くって生理的に無理な生き物に成長してきた。
私は小学生のときは細長いだけで、特に肉は付くことがなく、胸も育たなかった。だけれど、私が生理的に男子が無理になったのを見かねた母が、父に提案したのだ。
「この子、女子校のほうがよくない?」と。
私は思春期に入って早々、受験勉強をすることとなった。
塾に通い、勉強の内容を思いっきり詰め込まれる。塾では私は劣等生で、何度勉強しても駄目で、そのたびに先生に晒し上げられた。
でも塾の内容はクラスの勉強よりも先に進んでいたため、私は学校では百点しか取らなくなってきた。
「すごいね」
「すごいね」
「天才だね」
「すごいね」
今思っても、こんな生活は小学生に送らせるものじゃない。
塾では劣等生だ出来損ないだと罵倒され続け、他の塾生の成績がよくなるため、優越感を得るための生贄にされ、学校では必要以上に持ち上げられて褒めそやされる。
そんなものを毎日毎週毎月浴びせられて、壊れてしまってメンタルがガタガタになってしまったのだ。
最初は塾が嫌だ、受験勉強が嫌だと思っていた私は、もう壊れた心のまま、手だけを動かしていた。
必要最低限の勉強だけ済ませて、必要最低限の点さえ取れば、怒られないからだ。
もう罵倒されたくないし、見せしめにされたくない。それが私のためだとはちっとも思えないけれど、頑張ってないとだけは言われたくなかった。
塾で怒るに怒れない点を取り、学校で百点を連発して周りから持てはやされるのをスルーしている中、出会いがあった。
その中で、塾帰りに本屋にいた。塾で言われた参考書を買いに来たけれど、どれを買えばいいのかわからず、メモを持って店員さんを探してうろうろしていたとき。
「あ」
普段は来ない本棚の近くを通った。
少女漫画のような華やかな絵だけれど、不思議と女性が描かれていない。男性同士しか書かれていない絵だった。
私は財布を見ると、参考書以外に、本一冊だったらどうにか買えそうだった。一冊手に取ると、参考書を店員さんに出してもらってから、会計に出た。
会計をしてくれた店員さんはなにかを言いたげだったけれど、私はそれを大事に持って帰ったんだ。
今思うと、店員さんがなにか言いたげなのは当然だけれど、今も昔も小説を買うのに注意書きは存在しない。
メンタルボロボロだった当時の私を救ったのは、BL小説だった。ショッキングな内容で最初は驚いたものの、それを少しずつ咀嚼するように読んでいった。
壊れてガタガタになってしまった当時の私に、ショッキングな内容ながらも愛のある交流はよく染みた。
それから、受験勉強をしながらこっそりと読むBL小説に、壊れた私のメンタルは、少しずつ修復されていったんだ。
お世話になっております。締切ですが、最終締切は月末になります。それまではまだ余裕がありますから、それまでどうぞ養生なさってくださいね。
滅多にスランプにならないから動揺されているかもわかりませんが、職業病ですから。あまり深刻に悩まないでくださいね。
原稿お待ちしております。】
あれから私は、全然修正案の出ない企画書と共に、他の原稿すら手に付かないという深刻なスランプに陥ってしまった。一文字書こうとするたびに吐き気がしてトイレに直行し、文章を読んだらとうとう洗面所に駆け込む。
これじゃ駄目だと、取引先には全て事情を説明し、締切を待ってもらうことにした。幸いにもほとんどの出版社の締切自体はそこまで近くはなかったけれど。伸ばしてもらった締切までにスランプに対処するしかない。
それでも。こんな病的なスランプは生まれて初めてで、足掻けば足掻くほど、蟻地獄に落ちていくかのように、気持ちまでマイナス方向に引きずり落とされていく。
それに並行して、歯医者でまで手が突然震えるようになり、今までやり慣れてきた歯垢除去にまで影響が出るようになってしまった。
「痛っ!」
患者さんの悲鳴に、私ははっとする。器具で歯石を削り落とそうとして、歯と歯茎の境目を抉ってしまったのだ。
普段だったらこれくらい、歯石除去の最中だったらよくあることで「次からはもっとこまめに病院に通ってください」で済む話なのに、私は狼狽し過ぎて、ひたすら謝り続けていた。
「申し訳ございません! 他に痛むところは……」
「今のところだけですけど……もしかして、虫歯できてましたか?」
「いえ、それはちっとも」
患者さんは気のいい人だったからやんわりと許してくれたけれど、とうとう院長先生に呼び出されてしまった。
「柏原さん、大丈夫? 最近具合が悪いみたいだけど。手元狂っているみたいだし」
「申し訳ありません……」
「いや、患者さんがいい人だったからよかったけどね。でも次からは本当に気を付けてね。最近は本当にSNSになんでも書き込まれるし、ブラウザの地図とかにまで書き込まれたら、一貫の終わりだから」
昔気質の院長先生も、さすがに人の口には戸が立てられないこと、人のSNSアカウントには口出しできないことはよくわかっているらしく、それを執拗に怖がっていた。
でも、私のせいで悪口を書き込まれてしまったら、最悪うちの診療所が閉院に追い込まれるし、ほどほどにしないといけないかもしれない。
私は何度目かの「申し訳ございません」を訴えてから、今日の仕事は終わった。
「……はあ」
原稿は完成しない。仕事では失敗ばかり続いている。
気持ちの問題なんだから、気持ちのほうをなんとかしないといけないのはわかっている。でも。これをどうしたらいいんだろう。
結局その日はパソコンの前に座るのを放棄し、コンビニでビールとおつまみのビーフジャーキーを買って帰ることにした。浜尾さんの分もお土産にしようと、日頃浜尾さんが飲むときに食べているおつまみを思い浮かべて、チーズとドライフルーツも一緒に買った。
ごろごろと、駄目な方向に転がっていっている気がする。
浜尾さんが書けないBL小説家を置いてくれているからって、甘え過ぎている。あの人は聖人なんかじゃない、人間なのに。
おつまみごときで、賄賂になんてならないのにと、手に食い込んだビニール袋が妙に重く感じだ。
****
メンタルが落ち込んでいるときほど、アルコールは口にするもんじゃない。
落ち込んでいるときに酒を飲んだら、大概は悪い夢を見るのだから。
私がこれは夢だとどこかうすらぼんやりと思ったのは、牧歌的な光景を歩いているからだった。
昭和の面影の残った街並み。私はそこを教科書をぎっちりと詰め込んだランドセルを背負って歩いていた。
私の家は校区の一番端であり、クラスの誰とも一緒に帰ることはできず、必然的にひとりで帰ることが多かった。今だったら集団下校で帰るのが当たり前だけれど、当時の地元は比較的平和だったから、自由下校だったんだ。
ひとりでのんびりと下校する途中、私はクラスメイトの男子たちに取り囲まれた。学校に近くに住んでいるこの子たちは、さっさと家にランドセルを置いて、もう遊びに出ていたらしい。
「見てみろよ」
私はいきなり捕まえられた。訳がわからず、私はきょとんと男子を見ていた。当時私は細長くって肉がなく、簡単に捕まえられるくらいには体重もなかった。
対してクラスのリーダー格の体格は大きく、当時の小学生にしてもがっちりとしていた。逃げられない。
殴られるんだろうか。にやにやと笑う男子を見て、ようやく私は震えた中、いきなり体臭が近付いてきた。
臭い。汚い。ばっちぃ。
その体臭は一瞬。男子たちは「ヒュー」と声を上げた。
そこでようやく私は気が付いた。
キスをされたのだと。鳥肌が立った。
男子が手を離した瞬間に背負っていたランドセルを外すと、それで男子の頭に思いっきり投げつけた。教科書のぎっちりと詰まったランドセルは重く、はっきり言って痛い。
私はそのまま逃げ出した。
ランドセルもなしに帰ってきた私を、母は当然ながら驚いた顔で見ていたものの、「ランドセルどこに落としてきたの」と聞く。
先程のことを思い出そうとすると、口がハクハクとなって、上手く動かなかった。母は困りながら聞く。
「誰かに意地悪されたの?」
「……くんが」
「まあ、あれねえ。好きな子に意地悪してしまう奴ね」
母は本気でそれを言ったのかがわからなかった。
好きな子をそんな男子皆で取り囲んで、見せしめにするんだろうか。
そんなの人間扱いじゃない。賞品扱いだ。
結局はあのとき取り囲んだ男子の内のひとりが、家に持って帰ってくれたらしく、「野々子ちゃんのランドセルがうちにあるんですけど」とその子の母から電話があり、取りに行った。
「野々子ちゃん来たって」
「うん」
見せしめにしない男子はなにかを言いたげに見ていたけれど、私は許す気にはなれなかった。
私は嫌だったのに。助けてくれなかったじゃない。大嫌い。
翌日、私はいじめられるんじゃないか、また晒し物にされるんじゃないかとビクビクしていたけれど、結局はなにもなかった。ただ、あの頃からだった。
男子に触ると鳥肌が立って、まともにしゃべれなくなってしまったのは。フォークダンスなんて、私がいきなり泣き出すせいで、私はおかしくなったと思われてフォークダンスのときはひとりで見学で座らされていた。
原因になった男子は、私にトラウマだけを植え付けて、ひとりのうのうと転校してしまった。取り巻きは私をときどき遠巻きに眺めていたけれど、誰ひとりとして謝ることもなかった。
女子は集団になったら最後、徹底的に言葉で男子を叩き潰す行動を取る。男子からしてみれば、女子にかぶせられた汚名をどうにかしてそそぎたい中で、のほほんとしている私が目に付いたのだろう。私はよくも悪くも家の位置の関係で、気の強い女子たちと絡むことがなかったから、体のいいサンドバッグだったんだろうか。
全ては本人たちに聞いたことがなく、私の当てずっぽうだけれど、地元に残った子たちの噂を地元にまだいるたつきから聞いている限り、そこまで的外れではないらしい。
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「この子、女子校のほうがよくない?」と。
私は思春期に入って早々、受験勉強をすることとなった。
塾に通い、勉強の内容を思いっきり詰め込まれる。塾では私は劣等生で、何度勉強しても駄目で、そのたびに先生に晒し上げられた。
でも塾の内容はクラスの勉強よりも先に進んでいたため、私は学校では百点しか取らなくなってきた。
「すごいね」
「すごいね」
「天才だね」
「すごいね」
今思っても、こんな生活は小学生に送らせるものじゃない。
塾では劣等生だ出来損ないだと罵倒され続け、他の塾生の成績がよくなるため、優越感を得るための生贄にされ、学校では必要以上に持ち上げられて褒めそやされる。
そんなものを毎日毎週毎月浴びせられて、壊れてしまってメンタルがガタガタになってしまったのだ。
最初は塾が嫌だ、受験勉強が嫌だと思っていた私は、もう壊れた心のまま、手だけを動かしていた。
必要最低限の勉強だけ済ませて、必要最低限の点さえ取れば、怒られないからだ。
もう罵倒されたくないし、見せしめにされたくない。それが私のためだとはちっとも思えないけれど、頑張ってないとだけは言われたくなかった。
塾で怒るに怒れない点を取り、学校で百点を連発して周りから持てはやされるのをスルーしている中、出会いがあった。
その中で、塾帰りに本屋にいた。塾で言われた参考書を買いに来たけれど、どれを買えばいいのかわからず、メモを持って店員さんを探してうろうろしていたとき。
「あ」
普段は来ない本棚の近くを通った。
少女漫画のような華やかな絵だけれど、不思議と女性が描かれていない。男性同士しか書かれていない絵だった。
私は財布を見ると、参考書以外に、本一冊だったらどうにか買えそうだった。一冊手に取ると、参考書を店員さんに出してもらってから、会計に出た。
会計をしてくれた店員さんはなにかを言いたげだったけれど、私はそれを大事に持って帰ったんだ。
今思うと、店員さんがなにか言いたげなのは当然だけれど、今も昔も小説を買うのに注意書きは存在しない。
メンタルボロボロだった当時の私を救ったのは、BL小説だった。ショッキングな内容で最初は驚いたものの、それを少しずつ咀嚼するように読んでいった。
壊れてガタガタになってしまった当時の私に、ショッキングな内容ながらも愛のある交流はよく染みた。
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