魔法少女の食道楽

石田空

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肉にレンコンを挟んである

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 会社が休みの日は、カフェインドリンクに頼らなくてもいい。
 麦茶と出汁に干しキノコ。そこに少量の塩を足してコトコトとしたスープとご飯が私の朝ご飯だった。元気があったら素麺を茹でて一緒に具にするけれど、元気がないので夏に素麺が残らない限りはあまりしない。
 リリパスはそれを不思議そうな顔で見ていた。ちなみにリリパスはしょっちゅういたりいなくなったりする上、たまに見える人がいるけれど「可愛いウサギですね」で終わってしまう。
 ウサギのようなネズミのような見た目で、鳴き声が「ミャア」。妖精ってよくわからない。
 それはさておき、私が食べているものを毎度毎度不思議そうに眺めている。

「疲れてるのに食べるんですねえ」
「胃を休めたいから、基本的に寝る前は食べないけど、それ以外のときはまあまあ食べるよ……胃に負担がかからないよう気を付けながら」
「ミャア?」

 わからん。という顔をされた。そういえば妖精は食は嗜好品だから、その手のことがわからないのかも。

「食べないで動き回ると、かえって体に悪いから、少量でもカロリーは摂れって言われてるの。ガソリン切れてるのに車は走れないし。ガスが切れてるのにコンロは動かないって……わかるかな?」
「ええっと。魔力がないと魔法が使えないから生活できないってことですかね?」
「そうそう。それそれ」

 スープとご飯で、ご飯でカロリーを摂り、スープで味を締める。一応カロリーと塩分は摂っているから、ほどほどなはずだ。他に野菜を食べたいときは、昼間に野菜多めのバスタを食べ、夜にちょっとだけお肉を意識する。
 私が麦茶スープを出してあげると、最初は怪訝な顔をしていたリリパスが、目を輝かせた……今までカレイドナナの仕事明けに食べたどのご飯よりも反応よくないか、これは。

「おいしいです! この香ばしい香り」
「それ麦茶。麦茶は香ばしいよね」
「そして具材の濃厚さが!」
「干したら旨味が増えるんだってさ、きのこ」
「ミャア、ミャア……」

 ……私がカレイドナナにならないと食べられないような高カロリーよりも、私が普段食べてる低カロリー胃に優しい料理のほうが好きか、この子は。
 まあ食自体が嗜好品な妖精からしてみたら、カロリー欲しがる人間はおかしく見えるのかもしれない。そう思いながら食事を済ませ、家事をはじめた。
 平日は睡眠に当てるために家事はほとんどしない。休みの日はのったりと家事に明け暮れるのだ。

****

 洗濯機を回し、掃除機をかけ。ついでに窓もピカピカに磨いてから買い物に行くことにした。
 昨今は商店街がどんどん潰れて行っている中、うちは比較的元気な商店街だ。地元密着型な店がほとんどで、地形や持ちビルの関係で大型スーパーが入り込めなかったというのが勝因だと思う。
 その中で肉屋の前を通りかかると、プンと油と弾ける揚げ音が響いた。初めて聞く音に、私の肩の近くを飛んでいたリリパスが「ミャア!?」と悲鳴を上げて私に引っ付いた。肩が重い。外れる。やめて。

「なあに?」
「今の音はなんですか!?」
「揚げ物の音?」
「あげもの?」
「うちは貸家だから揚げ物はやらないけど……油でいろんなものをジュワァって揚げるんだよ。そこの肉屋なんてそんなもんだしねえ」

 肉屋の揚げ物は近所の学校帰りの高校生の格好のおやつだ。羨ましい。
 揚げ物なんて、この数年食べてない。油は健康な臓腑じゃないと胃もたれ胸焼けがやばいのだ。
 なんて思っていたら男子高生たちが「おばちゃん、豚の挟み揚げちょうだい!」と言っているのが見えた。

「はいよ」
「はさみあげってなんですか?」
「肉の間になんか挟んで揚げるんだよ。あれは……豚肉にレンコンを挟んで揚げてるんだよねえ」

 レンコンを揚げただけでも、豚肉を揚げただけでもおいしいのに。それを一緒くたに揚げようとした人は天才だと思う。
 豚肉はジューシーだし、肉の脂と油を溜め込んだレンコンの味は冒涜的だ。最後に食べたのは就活終了して、会社にもろもろの書類提出したあと、嬉しくって買い食いした頃だったなあ……もう何年も食べてない。
 私がしみじみしていたら、「キャア!!」と悲鳴が上がった。
 途端にリリパスがキリッとした顔で飛んだ。

「さあ、タクトをかまえて! またしても闇妖精ですよ!!」
「……こんな商店街でも暴れるんだ……なにに取り憑いたの?」
「猫ですね!!」
「……猫は可哀想だなあ」

 地域猫はきちんと保健所にも話を取り付けた上で、去勢されて町に大事に育てられている。ご飯をちゃんともらっているせいで、商店街を荒らすこともないのだから、あの子たちは賢いんだろう。
 そうだ。これが終わったらレンコンの挟み揚げを買おう。

「カレイドスコープ、オープン!!」

 カレイドタクトを携えて、私はメルヘンなドレスを着て、そのまま走りはじめた。
 商店街の人たちはパニックに陥っている。今日は休みだ、下手に店を閉めても営業できないし、でも闇妖精が暴れているせいで店の商品壊されたくない。
 真っ黒で熊くらいの大きさになってしまった闇妖精が、商店街のボスのように立ち塞がっていた……大きいな。

「いいから、大人しく、しなさーい!!」

 私は助走を付けて、カレイドタクトで殴りかかった。
 頭にクリーンヒットし、闇がしゅわしゅわとタクトに吸われていく。商店街の段ボールがあちこちひっくり返ったけれど、リカバリーが利きそうなほどの被害で幸いだった。
 すっかり小さくなった元闇妖精の地域猫は「みゃあ」と鳴くとそのまま去って行ってしまった。

「終わったあ」
「お疲れ様です」
「うん。すみませーん。レンコンと豚の挟み揚げふたつくださーい」
「はい? はい」

 肉屋のおばちゃんは少々戸惑いながらも、油でじゅわっと挟み揚げを揚げて、紙袋に入れてくれた。私は紙袋のひとつをリリパスにあげ、もうひとつにかぶりついた。
 噛むとじわっと湧き出す豚の旨味。レンコンの甘さと豚肉の旨味で、夢中で食べていたら一瞬で儚く消えてしまう。これぞ買い食いの醍醐味。

「最後に買い食いしたの、いつだったかなあ……」
「買い食いってそんなに頻繁にするようなものですか?」
「学生時代はね。大きくなったらなかなかできなくなるからさあ」

 商店街にはいつまでも続いて欲しいけれど、世の中が世の中だ。いつおなじみの味が消えるかわからない以上、元気な内は頑張って通うしかない。
 紙袋を手に、私たちは買い物を済ませて家に帰ることにした。魔法少女姿だと人から声をかけられないから比較的楽だと、このとき初めて思い知った。
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