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ご褒美にはケーキを一ホール
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月末である。もう仕事がはちゃめちゃに押し寄せてきて泣きそうになりながら、モニターを確認する。AIで効率化と謳い文句はあるものの、インクの滲んだ領収書、ネット取り込みのトラブル、そして度重なる人的トラブル。それらはAIだけでは防げない。
ようやっと終わったときには、もう涙が涸れ果てて目がしぱしぱしていた。体がギコギコとありえない音を立てる中、どうにか目薬を差して目の潤いを取り戻す。
「終わったぁぁぁぁぁ」
「お疲れ様」
「はい。お疲れ様です」
私が立川さんに挨拶すると、立川さんもまた、大量の領収書の確認でうっすらと目に隈が浮いてしまっていた。互いに「疲れた疲れた」と言いながら、ようやっと会社を出る。既に会社の帰宅時刻は二時間遅れている。
「最近ケーキとか全然食べてないよなあ」
「ケーキですか? そうですね、最近はあんまり食べませんけど、昔は一ホールとか食べてましたね」
「元気だなあ……でもこの時間帯だったらもうケーキなんて買えないもんなあ」
「そういえばそうですね」
休みの日だったらいざ知らず、定時退社できなかったらもうケーキ屋さんにめぼしいケーキは残ってない。
一ホールケーキなんて、今のご時世結構絞っているんだから、その時間帯に残っている訳もなく。それに「うーん……」と立川さんが唸る。
「言っていたらケーキが食べたくなってきたぁ」
「だったらつくります? ケーキ」
「……一ノ瀬さんケーキつくれるの?」
「まあ、一応は……そんな、店のパティシエがつくるようなものには絶対に負けますけどね! 手作りケーキとしては及第点くらいだったら、一応は……」
実家の都合上、当然ながら誕生日にケーキなんて発想がなかった。おいしい果物でお祝いしていたけれど、友達の家に誕生日会で出されるケーキが嬉しかった。
だから大学時代、暴飲暴食と並行して、大学生の財布ではなかなか買えないケーキをどうにかして自作できないかとお菓子づくりが得意な子たちにレクチャーしてもらいながらつくっていた時期がある。一部の子たちは本当にお菓子メーカーの開発部に行ったり、ケーキ屋さんのパティシエールとして働いてたりするから、その子たちと比べることはできないけれど、一応はつくれる。
……もっとも、ケーキづくりは体力勝負だ。体力が落ち込んだボロボロの今だと、一ホールケーキなんてつくれるかなあと思ってしまう訳で。
途端に、立川さんが「だ、だったら……!」といきなりお札を差し出してきた。それに私はびっくりする。
「あ、あのう……!?」
「材料費出すから、つくってくれないかな!? さすがに休みの日にケーキ食べに行くのも気が引けるし」
「最近でしたらスイーツ男子とかそこまで珍しくないですか?」
「いや、女性だらけな店におっさんが混ざってたら、気を遣わせてしまうから」
「なるほど……」
女子会をやっているような人たちは多分気にしないんじゃないかなとは思ったものの、混雑している喫茶店にひとりだけで入ると気まずい気持ちはなんとなくわかる。
私はひとまず材料費をいただき「それじゃあ、今度つくりますけど。いつ持っていきますか?」と尋ねると、立川さんが頷いた。
「なら、今度の日曜でも。そこの駅に」
「わかりました。なんとか持って行けるよう頑張りますんで。リクエストありますか? ショートケーキとか、チョコレートケーキとか」
「なら……フルーツケーキで」
フルーツケーキだったら、たしかに材料費もらってないときついもんなあ。結構細々と必要になるから。
私はどんなフルーツケーキにするか、どんなクリームにするか、無塩バターはさすがに家にないから買ってこないとなと思いながら、「わかりました」と答えた。
昔取った杵柄だなあと、大学時代に鍛えてくれた友達に感謝しながら。
****
「怒っています」
「ごめんって」
「魔法少女の力は闇妖精を鎮めるためのものです。なんでケーキをつくるのにいちいち魔法少女になる必要があるんですか!?」
「ごめんって。ケーキできたら、味見させてあげるから」
「ミュミュウ……最近ナナさん、リリパスを食べ物で懐柔すればいいと思ってるでしょう?」
リリパスはウサギのようなネズミのような毛を逆立てて抗議するのに、私はひたすら謝っていた。
ケーキづくりは体力だ。ケーキの土台になるスポンジケーキをつくるには卵を卵黄と卵白と分けて、卵白をひたすら泡立てないといけないし、生クリームだってホイップクリームになるよう泡立てないと駄目。
フルーツケーキの材料はいろいろ考えた結果、オーソドックスにイチゴとブルーベリーを買ってきて、フルーツケーキの間にフルーツジャムを塗ることにした。ラズベリージャムを買ってきたから、それを間に塗れば味のまとまりもできるだろう。
電動泡立て器を買えばいいものの、ケーキづくりをそう頻繁にする訳でもないしなあと躊躇して未だに買っていない。
私は泡立て器を卵白の入ったボウルに突き立てて、かき混ぜはじめた。
最初は怒っていたリリパスも、ケーキづくりを見学するのは初めてらしく、不思議そうに見守っている。
「卵って、普段食べてますよね? 白い部分ってこんなにアワアワになるんですか?」
「なるよー。泡立てる道具や機械が必要だけど」
砂糖を継ぎ足しながら混ぜ、継ぎ足しながら混ぜ、だんだんもこもこになっていく様が楽しい。固く泡立ったのを確認して、次は卵黄のほうを混ぜる。卵黄にも砂糖を入れて混ぜ、
少し白くてもったりするまで混ぜたあとに、バニラエッセンスを少し振り入れ、小麦粉とベーキングパウダーを濾しながら入れる。私がザルに粉を入れてふるい入れているのも、リリパスは不思議そうに眺めていた。
「直接入れずに穴ぼこだらけの入れ物から入れますの?」
「そうだねえ……粉って直接入れると、ダマになって食感がおいしくなくなるの。プロのケーキ屋さんだったら三回くらいは粉を漉し器にかけてふるうらしいけど、私はプロじゃないし」
「ミュミュウ……」
リリパスは驚いたように生地づくりを見守っていた。
生地にメレンゲを少しずつ加えると、生地が大分膨らみやすくなる。そして型に入れて、温めたオーブンにかけて焼きはじめた。
焼いている間に、生クリームとラズベリージャム、果物の準備をする。洗うと果物がシャバシャバになってしまうから、キッチンペーパーでいちごとブルーベリーの表面を拭いておき、ジャムの用意をしておく。生クリームは砂糖を入れて八分立てで泡立てる。
そうこうしている間に、生地が焼けた。
「よっと……うん。いい感じ」
「ふわあ……いい匂いです」
「そうでしょ」
ケーキづくりは忍耐だ。年々細かい作業が億劫になっているから、魔法少女になってぴょこぴょこしながらケーキをつくるのはテンションが上がるし、なによりも疲れない。
焼きたてのケーキを型から外して、ザルの上で冷ます。冷めて常温になったところで、ケーキナイフで横から三等分に切った。三等分に切ったら、一番下から塗りはじめる。
まず一番下には生クリームを伸ばし、二番目を重ねたら、ラズベリージャムを塗って、一番上を重ねる。全部重なったら、生クリームを伸ばしてコーティングしていく。本当だったら回転台が必要なんだけれど、そんなものは家にないから、こちらがくるくる回って塗っていくしかない。真っ白に塗りおえたら、やっといちごとブルーベリーで飾り付けするのだ。
「よっし、できた」
「ミュミュミュ!」
それにはリリパスも感激だ。
……私のなんて、普通においしい手作りケーキだから、これを砂糖や小麦粉、卵の生産地にこだわってつくっているパティスリーと一緒くたにされると困る。
「でもこれ、ケーキ持っていきますの? リリパスたちの分は?」
「私たちのは、こっちね」
そう言って取り出したのは、カステラだった。
カステラを半分に切ると、そこにラズベリージャムを塗って重ね、表面を生クリームでコーティングしていく。あとは残ったいちごとブルーベリーを飾れば、四角いか丸いかだけでだいたい似たような形になった。
「最初から土台は買えばよかったんじゃ?」
「そ、そうなんだけどねえ。立川さんにはお世話になってるから、そういう風にはしたくなかったの。それじゃ食べよう。すぐにお茶を淹れるからねえ」
「ミュミュウ」
私は明日持っていくケーキを百均ショップで買ってきた白い箱の中に入れて冷蔵庫にしまい込む。
ベリー系のフルーツケーキに合うよう、お茶はルイボスティーにした。カフェインが入ってないけど、深みのある味が、甘いケーキにもよく合う。
ケーキをふたりで半分に分けっこしたら、それを「いただきまーす」と食べはじめた。
……ラズベリージャムと生クリームって合うの。その上いちごとブルーベリーの甘酸っぱさも、カステラに合う。
「おいしい……っ」
「ミュミュウ……でもナナはケーキ屋さんはしませんの?」
「無理、ケーキ屋さんって体力勝負だから、ヘルニアで泣く泣く辞めた人だっているって、友達から聞いてるから」
「へるにあ?」
「腰がむっちゃ痛くって立てなくなることだよ」
「ミュミュッ、それは大変ですの」
「そうなんだよ。だからお菓子屋さんもケーキ屋さんもすごいんだよ」
自分でつくればつくるほど、プロのありがたみがわかるし、自分のつくったケーキでより一層ケーキ屋さんにお金を落としたいという気になる。
……それにしても、立川さんもケーキが食べたいって言ってたのなら、普通に休みの日にケーキ屋さんに買いに行けばよかっただけでは? カフェだったらいざ知らず、朝から行ったらケーキ屋さんが空いてない訳ないし。
そこまで考えて、気付いた。
……これ、私を呼び出すための口実だったんじゃ。
「ナナ?」
「……リリパス、私先輩に呼び出されたけど、なにが起こるかわからないの」
「ミュミュ?」
普段から一緒に仕事してるだけだし、立川さん婚活してても上手く行ってないし、ヤケ起こして私に目を付けたんじゃ。
嫌いじゃないけどどうしたもんか。
最後にひと口飲んだルイボスティーが、ひどく苦く感じた。
ようやっと終わったときには、もう涙が涸れ果てて目がしぱしぱしていた。体がギコギコとありえない音を立てる中、どうにか目薬を差して目の潤いを取り戻す。
「終わったぁぁぁぁぁ」
「お疲れ様」
「はい。お疲れ様です」
私が立川さんに挨拶すると、立川さんもまた、大量の領収書の確認でうっすらと目に隈が浮いてしまっていた。互いに「疲れた疲れた」と言いながら、ようやっと会社を出る。既に会社の帰宅時刻は二時間遅れている。
「最近ケーキとか全然食べてないよなあ」
「ケーキですか? そうですね、最近はあんまり食べませんけど、昔は一ホールとか食べてましたね」
「元気だなあ……でもこの時間帯だったらもうケーキなんて買えないもんなあ」
「そういえばそうですね」
休みの日だったらいざ知らず、定時退社できなかったらもうケーキ屋さんにめぼしいケーキは残ってない。
一ホールケーキなんて、今のご時世結構絞っているんだから、その時間帯に残っている訳もなく。それに「うーん……」と立川さんが唸る。
「言っていたらケーキが食べたくなってきたぁ」
「だったらつくります? ケーキ」
「……一ノ瀬さんケーキつくれるの?」
「まあ、一応は……そんな、店のパティシエがつくるようなものには絶対に負けますけどね! 手作りケーキとしては及第点くらいだったら、一応は……」
実家の都合上、当然ながら誕生日にケーキなんて発想がなかった。おいしい果物でお祝いしていたけれど、友達の家に誕生日会で出されるケーキが嬉しかった。
だから大学時代、暴飲暴食と並行して、大学生の財布ではなかなか買えないケーキをどうにかして自作できないかとお菓子づくりが得意な子たちにレクチャーしてもらいながらつくっていた時期がある。一部の子たちは本当にお菓子メーカーの開発部に行ったり、ケーキ屋さんのパティシエールとして働いてたりするから、その子たちと比べることはできないけれど、一応はつくれる。
……もっとも、ケーキづくりは体力勝負だ。体力が落ち込んだボロボロの今だと、一ホールケーキなんてつくれるかなあと思ってしまう訳で。
途端に、立川さんが「だ、だったら……!」といきなりお札を差し出してきた。それに私はびっくりする。
「あ、あのう……!?」
「材料費出すから、つくってくれないかな!? さすがに休みの日にケーキ食べに行くのも気が引けるし」
「最近でしたらスイーツ男子とかそこまで珍しくないですか?」
「いや、女性だらけな店におっさんが混ざってたら、気を遣わせてしまうから」
「なるほど……」
女子会をやっているような人たちは多分気にしないんじゃないかなとは思ったものの、混雑している喫茶店にひとりだけで入ると気まずい気持ちはなんとなくわかる。
私はひとまず材料費をいただき「それじゃあ、今度つくりますけど。いつ持っていきますか?」と尋ねると、立川さんが頷いた。
「なら、今度の日曜でも。そこの駅に」
「わかりました。なんとか持って行けるよう頑張りますんで。リクエストありますか? ショートケーキとか、チョコレートケーキとか」
「なら……フルーツケーキで」
フルーツケーキだったら、たしかに材料費もらってないときついもんなあ。結構細々と必要になるから。
私はどんなフルーツケーキにするか、どんなクリームにするか、無塩バターはさすがに家にないから買ってこないとなと思いながら、「わかりました」と答えた。
昔取った杵柄だなあと、大学時代に鍛えてくれた友達に感謝しながら。
****
「怒っています」
「ごめんって」
「魔法少女の力は闇妖精を鎮めるためのものです。なんでケーキをつくるのにいちいち魔法少女になる必要があるんですか!?」
「ごめんって。ケーキできたら、味見させてあげるから」
「ミュミュウ……最近ナナさん、リリパスを食べ物で懐柔すればいいと思ってるでしょう?」
リリパスはウサギのようなネズミのような毛を逆立てて抗議するのに、私はひたすら謝っていた。
ケーキづくりは体力だ。ケーキの土台になるスポンジケーキをつくるには卵を卵黄と卵白と分けて、卵白をひたすら泡立てないといけないし、生クリームだってホイップクリームになるよう泡立てないと駄目。
フルーツケーキの材料はいろいろ考えた結果、オーソドックスにイチゴとブルーベリーを買ってきて、フルーツケーキの間にフルーツジャムを塗ることにした。ラズベリージャムを買ってきたから、それを間に塗れば味のまとまりもできるだろう。
電動泡立て器を買えばいいものの、ケーキづくりをそう頻繁にする訳でもないしなあと躊躇して未だに買っていない。
私は泡立て器を卵白の入ったボウルに突き立てて、かき混ぜはじめた。
最初は怒っていたリリパスも、ケーキづくりを見学するのは初めてらしく、不思議そうに見守っている。
「卵って、普段食べてますよね? 白い部分ってこんなにアワアワになるんですか?」
「なるよー。泡立てる道具や機械が必要だけど」
砂糖を継ぎ足しながら混ぜ、継ぎ足しながら混ぜ、だんだんもこもこになっていく様が楽しい。固く泡立ったのを確認して、次は卵黄のほうを混ぜる。卵黄にも砂糖を入れて混ぜ、
少し白くてもったりするまで混ぜたあとに、バニラエッセンスを少し振り入れ、小麦粉とベーキングパウダーを濾しながら入れる。私がザルに粉を入れてふるい入れているのも、リリパスは不思議そうに眺めていた。
「直接入れずに穴ぼこだらけの入れ物から入れますの?」
「そうだねえ……粉って直接入れると、ダマになって食感がおいしくなくなるの。プロのケーキ屋さんだったら三回くらいは粉を漉し器にかけてふるうらしいけど、私はプロじゃないし」
「ミュミュウ……」
リリパスは驚いたように生地づくりを見守っていた。
生地にメレンゲを少しずつ加えると、生地が大分膨らみやすくなる。そして型に入れて、温めたオーブンにかけて焼きはじめた。
焼いている間に、生クリームとラズベリージャム、果物の準備をする。洗うと果物がシャバシャバになってしまうから、キッチンペーパーでいちごとブルーベリーの表面を拭いておき、ジャムの用意をしておく。生クリームは砂糖を入れて八分立てで泡立てる。
そうこうしている間に、生地が焼けた。
「よっと……うん。いい感じ」
「ふわあ……いい匂いです」
「そうでしょ」
ケーキづくりは忍耐だ。年々細かい作業が億劫になっているから、魔法少女になってぴょこぴょこしながらケーキをつくるのはテンションが上がるし、なによりも疲れない。
焼きたてのケーキを型から外して、ザルの上で冷ます。冷めて常温になったところで、ケーキナイフで横から三等分に切った。三等分に切ったら、一番下から塗りはじめる。
まず一番下には生クリームを伸ばし、二番目を重ねたら、ラズベリージャムを塗って、一番上を重ねる。全部重なったら、生クリームを伸ばしてコーティングしていく。本当だったら回転台が必要なんだけれど、そんなものは家にないから、こちらがくるくる回って塗っていくしかない。真っ白に塗りおえたら、やっといちごとブルーベリーで飾り付けするのだ。
「よっし、できた」
「ミュミュミュ!」
それにはリリパスも感激だ。
……私のなんて、普通においしい手作りケーキだから、これを砂糖や小麦粉、卵の生産地にこだわってつくっているパティスリーと一緒くたにされると困る。
「でもこれ、ケーキ持っていきますの? リリパスたちの分は?」
「私たちのは、こっちね」
そう言って取り出したのは、カステラだった。
カステラを半分に切ると、そこにラズベリージャムを塗って重ね、表面を生クリームでコーティングしていく。あとは残ったいちごとブルーベリーを飾れば、四角いか丸いかだけでだいたい似たような形になった。
「最初から土台は買えばよかったんじゃ?」
「そ、そうなんだけどねえ。立川さんにはお世話になってるから、そういう風にはしたくなかったの。それじゃ食べよう。すぐにお茶を淹れるからねえ」
「ミュミュウ」
私は明日持っていくケーキを百均ショップで買ってきた白い箱の中に入れて冷蔵庫にしまい込む。
ベリー系のフルーツケーキに合うよう、お茶はルイボスティーにした。カフェインが入ってないけど、深みのある味が、甘いケーキにもよく合う。
ケーキをふたりで半分に分けっこしたら、それを「いただきまーす」と食べはじめた。
……ラズベリージャムと生クリームって合うの。その上いちごとブルーベリーの甘酸っぱさも、カステラに合う。
「おいしい……っ」
「ミュミュウ……でもナナはケーキ屋さんはしませんの?」
「無理、ケーキ屋さんって体力勝負だから、ヘルニアで泣く泣く辞めた人だっているって、友達から聞いてるから」
「へるにあ?」
「腰がむっちゃ痛くって立てなくなることだよ」
「ミュミュッ、それは大変ですの」
「そうなんだよ。だからお菓子屋さんもケーキ屋さんもすごいんだよ」
自分でつくればつくるほど、プロのありがたみがわかるし、自分のつくったケーキでより一層ケーキ屋さんにお金を落としたいという気になる。
……それにしても、立川さんもケーキが食べたいって言ってたのなら、普通に休みの日にケーキ屋さんに買いに行けばよかっただけでは? カフェだったらいざ知らず、朝から行ったらケーキ屋さんが空いてない訳ないし。
そこまで考えて、気付いた。
……これ、私を呼び出すための口実だったんじゃ。
「ナナ?」
「……リリパス、私先輩に呼び出されたけど、なにが起こるかわからないの」
「ミュミュ?」
普段から一緒に仕事してるだけだし、立川さん婚活してても上手く行ってないし、ヤケ起こして私に目を付けたんじゃ。
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最後にひと口飲んだルイボスティーが、ひどく苦く感じた。
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