24 / 32
打ち上げのバーベキュー
しおりを挟む
私はルーナさんたちと一緒にバーベキュー場へとやってきた。
「バーベキューって、河原や海辺でやるもんだとばかり思ってたんで、まさかバーベキュー専門のハウスがあるなんて思ってもみませんでした」
「焼き肉屋と同じ理屈ですね。換気扇をガンガンに回して炭火を使っても一酸化炭素が増えないようになってるんですよ。それにここで素材を用意してもらってますから、手ぶらでバーベキュー気分が味わえるんでお得なんです」
「へえ……」
たしかに女子グループでバーベキューをするとなったら、網や炭は重くてひとりじゃ運べないし、食材も皆でばらけて持っていくとなったら大変なんだ。
そう考えると、店舗で用意してもらって、セルフサービスで焼いていくのが一番いいのかもしれない。
魔法少女の姿でも、店の人たちが誰も気にしないのは、いったいどういう名義で予約したんだろうなあ。
そんなことを考えつつ、店の人たちにノンアルコールのカクテルを注文しはじめた。
「魔法少女の格好してるときって、さすがにお酒飲むのは罪悪感湧きますよねえ」
「わかります。肉にはビールかジンジャーエールをぐいっと合わせたいところなんですけど」
「でもレースフリフリにジョッキはちょっと、ねえ……」
魔法少女も様々だ。
バーベキュー場が用意してくれたのは、定番の薄切りとうもろこしにかぼちゃ、じゃがいも、にんじん。それらを皆で網で焼いていく。
あといい匂いがすると思ったら、スペアリブやソーセージを焼きはじめていた。
皆でそれぞれ取り、バーベキューソースを付けて食べはじめる。
濃いバーベキューソースに野菜の甘みはよく合う。そしてスペアリブ。噛めば噛むほど肉の脂の甘みを噛み締められて、ずっと食べていたくなる。
「おいしい……!」
「そりゃよかったです」
「でもいつも魔法少女たちでバーベキューを?」
「いえ。私たち、元々大学生で同じサークルに入ってサークル活動してたところでリリパスに声をかけられたんですよ」
それに私の心は傷付いた。
そりゃアラサーが魔法少女やってるなんて言ったら、この子たちだって反応に困るだろう。私の年齢は伏せておかないと。
リリパスはというと、他の魔法少女たちに「これ食べる?」「これは?」と肉や野菜をもらっていた。リリパスは酸っぱいもの以外はなんでも食べるけれど、とりわけとうもろこしがお気に召したらしく、それをもりもり食べて目を輝かせている……そういえば中華のとうもろこしスープにもやけに食いつきがよかったから、甘い野菜が好きなのかもしれない。
そうこうしている内に、「お待たせしました」と店員さんがノンアルコールのカクテルを持ってきてくれた。
肉に合うのはシンデレラにサラトガクーラー、そしてノンアルコールで仕立てたモヒートだ。
シンデレラはオレンジジュース、パイナップルジュース、レモンジュースを同量入れてシェイクしたもので、炭酸が入ってないから炭酸が苦手な人でも飲みやすい。
サラトガクーラーはライムジュースとシロップをジンジャーエールで割ったもの。こっちも比較的甘めだけれどジンジャーエールの分の炭酸が入っているから、さらっとした味わいでも炭酸が苦手な人は苦手かも。
そしてノンアルコールのモヒートは、ライムとミントに炭酸水を注いだシンプルで全く甘くないカクテルだから、肉に合う代わりに苦手な人はとことん苦手な味わいとなっている。
私はモヒートを飲みながら、肉を食べはじめた。肉は本当はビールと一緒に飲むのがいいけれど、肉がおいし過ぎてビール飲み過ぎると、翌日胃がしくしく泣いてしまうから、アルコール摂らずに食べられる範囲までで肉を食べ終えないといけない。
なによりも、私はまだ実家の門にまでしか辿り着けてないのだから。
「それにしても、今日はナナさん、わざわざこちらまでどうなさったんですか?」
「いやあ……家出していた兄が、実家に彼女連れて挨拶に行くっていうのを仲介頼まれてたところでリリパスに捕まったんですよ」
私が軽く言うと、大学生魔法少女たちは全員凍り付いた。
……申し訳ないな。私は私で肉食べている理由が、家に着いたら野菜しか食べさせてもらえないという危機感だからだというのに。最近はヴィーガンなる生きとし生けるもの全て食べちゃ駄目って食習慣もあるから、うちのお母さんそれに染まってないだろうなという警戒もある。
皆を代表して、ルーナさんが声を上げた。
「だ、駄目じゃないですかね!? それお兄さん困ってませんか!?」
「私も唐突に頼まれて困ってますけどねえ。うちの父とは連絡取り合ってましたけど、母は変な食生活送ってたのが原因で、兄は家出し、父は家だと滅多に食事摂らなくなりましたから」
「それってさらっと言っていい話なんですかね!?」
大学生たち困らせちゃって、このアラサー困ったもんだな。
他人事のように思いつつも、私は値段を確認してから、自分の分を支払う。
「いえいえ。私は私で、魔法少女してなかったらこんなにおいしいもの食べる機会あんまりなかったんで。今が一番楽しいんですよ。ごちそうさま。空気悪くしちゃってごめんなさい」
現金持っててよかった。さすがにカードで格好よくお支払いしようにも、魔法少女で名前書きたくないし。
それにルーナさんは「えっと!」と再び声をかけた。
「こちらこそ、応援本当にありがとうございます! なんだか大変そうですけど、頑張ってください! 戦い終わったあとの肉って、無茶苦茶おいしいですよね!」
その言葉に、私は思わず破顔した。
ルーナさんはルーナさんで、戦い明けの肉の美味さがわかるなんて、わかってる勘がものすごい。
「そりゃもう!」
こうして、私は道の途中で変身を解くと、怖々と実家へと帰ることとなった次第だ。
****
数年家に帰ってなかったというのに、外観だけは本当になにも変わっていなかった。私はチャイムを鳴らすと『はあい』とチャイム越しに声をかけられた。
それに私は喉を鳴らす。
「お母さん? お久し振りです。奈々です」
『あら奈々! お兄ちゃんいきなりやってきたと思ったら、奈々が途中でいなくなったとか言ってて心配してたわよ!』
「ごめんなさい、急な呼び出しで……」
『なあに、それ。とりあえず入ってらっしゃい』
久々に聞くお母さんの声は、本当に何年ぶりだというくらいに上機嫌に聞こえた。
お兄ちゃんと梅子さんのお付き合い、認めてくれたんだろうか。それともふたりにまた無茶なことを言って、今度こそ絶縁宣言か。
私は怖々としながら、久々の実家に足を踏み入れたのだった。
「バーベキューって、河原や海辺でやるもんだとばかり思ってたんで、まさかバーベキュー専門のハウスがあるなんて思ってもみませんでした」
「焼き肉屋と同じ理屈ですね。換気扇をガンガンに回して炭火を使っても一酸化炭素が増えないようになってるんですよ。それにここで素材を用意してもらってますから、手ぶらでバーベキュー気分が味わえるんでお得なんです」
「へえ……」
たしかに女子グループでバーベキューをするとなったら、網や炭は重くてひとりじゃ運べないし、食材も皆でばらけて持っていくとなったら大変なんだ。
そう考えると、店舗で用意してもらって、セルフサービスで焼いていくのが一番いいのかもしれない。
魔法少女の姿でも、店の人たちが誰も気にしないのは、いったいどういう名義で予約したんだろうなあ。
そんなことを考えつつ、店の人たちにノンアルコールのカクテルを注文しはじめた。
「魔法少女の格好してるときって、さすがにお酒飲むのは罪悪感湧きますよねえ」
「わかります。肉にはビールかジンジャーエールをぐいっと合わせたいところなんですけど」
「でもレースフリフリにジョッキはちょっと、ねえ……」
魔法少女も様々だ。
バーベキュー場が用意してくれたのは、定番の薄切りとうもろこしにかぼちゃ、じゃがいも、にんじん。それらを皆で網で焼いていく。
あといい匂いがすると思ったら、スペアリブやソーセージを焼きはじめていた。
皆でそれぞれ取り、バーベキューソースを付けて食べはじめる。
濃いバーベキューソースに野菜の甘みはよく合う。そしてスペアリブ。噛めば噛むほど肉の脂の甘みを噛み締められて、ずっと食べていたくなる。
「おいしい……!」
「そりゃよかったです」
「でもいつも魔法少女たちでバーベキューを?」
「いえ。私たち、元々大学生で同じサークルに入ってサークル活動してたところでリリパスに声をかけられたんですよ」
それに私の心は傷付いた。
そりゃアラサーが魔法少女やってるなんて言ったら、この子たちだって反応に困るだろう。私の年齢は伏せておかないと。
リリパスはというと、他の魔法少女たちに「これ食べる?」「これは?」と肉や野菜をもらっていた。リリパスは酸っぱいもの以外はなんでも食べるけれど、とりわけとうもろこしがお気に召したらしく、それをもりもり食べて目を輝かせている……そういえば中華のとうもろこしスープにもやけに食いつきがよかったから、甘い野菜が好きなのかもしれない。
そうこうしている内に、「お待たせしました」と店員さんがノンアルコールのカクテルを持ってきてくれた。
肉に合うのはシンデレラにサラトガクーラー、そしてノンアルコールで仕立てたモヒートだ。
シンデレラはオレンジジュース、パイナップルジュース、レモンジュースを同量入れてシェイクしたもので、炭酸が入ってないから炭酸が苦手な人でも飲みやすい。
サラトガクーラーはライムジュースとシロップをジンジャーエールで割ったもの。こっちも比較的甘めだけれどジンジャーエールの分の炭酸が入っているから、さらっとした味わいでも炭酸が苦手な人は苦手かも。
そしてノンアルコールのモヒートは、ライムとミントに炭酸水を注いだシンプルで全く甘くないカクテルだから、肉に合う代わりに苦手な人はとことん苦手な味わいとなっている。
私はモヒートを飲みながら、肉を食べはじめた。肉は本当はビールと一緒に飲むのがいいけれど、肉がおいし過ぎてビール飲み過ぎると、翌日胃がしくしく泣いてしまうから、アルコール摂らずに食べられる範囲までで肉を食べ終えないといけない。
なによりも、私はまだ実家の門にまでしか辿り着けてないのだから。
「それにしても、今日はナナさん、わざわざこちらまでどうなさったんですか?」
「いやあ……家出していた兄が、実家に彼女連れて挨拶に行くっていうのを仲介頼まれてたところでリリパスに捕まったんですよ」
私が軽く言うと、大学生魔法少女たちは全員凍り付いた。
……申し訳ないな。私は私で肉食べている理由が、家に着いたら野菜しか食べさせてもらえないという危機感だからだというのに。最近はヴィーガンなる生きとし生けるもの全て食べちゃ駄目って食習慣もあるから、うちのお母さんそれに染まってないだろうなという警戒もある。
皆を代表して、ルーナさんが声を上げた。
「だ、駄目じゃないですかね!? それお兄さん困ってませんか!?」
「私も唐突に頼まれて困ってますけどねえ。うちの父とは連絡取り合ってましたけど、母は変な食生活送ってたのが原因で、兄は家出し、父は家だと滅多に食事摂らなくなりましたから」
「それってさらっと言っていい話なんですかね!?」
大学生たち困らせちゃって、このアラサー困ったもんだな。
他人事のように思いつつも、私は値段を確認してから、自分の分を支払う。
「いえいえ。私は私で、魔法少女してなかったらこんなにおいしいもの食べる機会あんまりなかったんで。今が一番楽しいんですよ。ごちそうさま。空気悪くしちゃってごめんなさい」
現金持っててよかった。さすがにカードで格好よくお支払いしようにも、魔法少女で名前書きたくないし。
それにルーナさんは「えっと!」と再び声をかけた。
「こちらこそ、応援本当にありがとうございます! なんだか大変そうですけど、頑張ってください! 戦い終わったあとの肉って、無茶苦茶おいしいですよね!」
その言葉に、私は思わず破顔した。
ルーナさんはルーナさんで、戦い明けの肉の美味さがわかるなんて、わかってる勘がものすごい。
「そりゃもう!」
こうして、私は道の途中で変身を解くと、怖々と実家へと帰ることとなった次第だ。
****
数年家に帰ってなかったというのに、外観だけは本当になにも変わっていなかった。私はチャイムを鳴らすと『はあい』とチャイム越しに声をかけられた。
それに私は喉を鳴らす。
「お母さん? お久し振りです。奈々です」
『あら奈々! お兄ちゃんいきなりやってきたと思ったら、奈々が途中でいなくなったとか言ってて心配してたわよ!』
「ごめんなさい、急な呼び出しで……」
『なあに、それ。とりあえず入ってらっしゃい』
久々に聞くお母さんの声は、本当に何年ぶりだというくらいに上機嫌に聞こえた。
お兄ちゃんと梅子さんのお付き合い、認めてくれたんだろうか。それともふたりにまた無茶なことを言って、今度こそ絶縁宣言か。
私は怖々としながら、久々の実家に足を踏み入れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる