魔法少女の食道楽

石田空

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 私が実家から家に帰ってから、リリパスに聞いてみた。

「リリパス、魔法少女ってそもそも寿退社できるものなの?」
「そういえばナナ様、結婚を前提にお付き合いされてる方いらっしゃいますしねえ」

 リリパスは耳をピルピル揺らしながらこちらを見てきた。
 闇妖精討伐というとんでも依頼をしてきたものの、この妖精は意外と変なことはしない。地元で遭遇した魔王少女集団だって、元々地元で飲み会しているサークルが、飽食が原因でぶくぶく太った闇妖精が自分たちの通っている店を潰して回るから結成されたらしいし、意外とやる気のある人しか選ばない。
 リリパス曰く「妖精の鱗粉は悪用しようと思えばいくらでもできます。悪用してくる方を魔法少女にするのは危険では?」ともっともなことを言っていた。まあ、たしかに人の視覚記憶があやふやになる上にカメラも光で誤魔化すとなったら、悪いことし放題なんだから、やる気満々で悪いことに使わない人じゃないと選ばないのか。
 私やテンカさんみたいに私用に使う奴もいるけれど、他人に迷惑はかけてないからなあ。
 そしてリリパスは空気読まずに出動要請してくる以外は、意外と融通が利く。尻尾をふりふりしながら教えてくれた。

「可能ですよ」
「そっかあ」
「ただし、ちゃんと辞めるときはおっしゃってくださいね。カレイドタクトを回収しなくてはいけませんし、引継ぎを決めなければいけませんから。十代の子を選べなくなった一番の理由は、十代の子たちは分刻みで予定が詰まっているため、魔法少女活動を最優先してくださいませんから……」
「えっ、そうだったの?」

 そういえば、大学生たちも話している限り皆酒を飲める年頃だったし、十代はいなかったけれど。まさかリリパスが十代をわざと外しているとは思わなかった。
 リリパスはしくしく泣きながら言う。

「はい……すぐ失恋が原因でカラオケに行ってしまいますし、テスト期間中に出動要請しても断られますし、夏休み中はそもそも各地に遠征に出かけて地元に帰ってきませんし……」
「う、うん……」

 そりゃそうか。
 仕事があるから仕事先付近から出張でもない限り離れられない社会人と違い、高校生は時間は有限なんだからと、遊びの予定から埋めてしまう。魔法少女活動がそのおまけくらいの扱いにされてしまったら、リリパス視点だと溜まったもんじゃないんだろう。

「あんたも苦労してたんだね……」
「ミュミュウ……」

 尻尾を垂らしてしおしおになっているリリパスを慰めていたとき。スマホがピコンと鳴った。

「うん?」

 見てみたら、闇妖精の活動対策で続けていたブログ【魔法少女の食道楽】にコメントが来ていたのだ。こちらのことを覚えられても困るから、必要最低限の情報と、料理がおいしかった記録にスマホで撮った写真しかない。はっきり言ってあまりにも普通な食レポブログで、来るときは人がものすごく来るし、来ないときは滅多に来ないという、閑古鳥でもないけれど大盛況でもない感じだった。

「どうなさいましたか?」
「うん……珍しくコメントが来てるけど、どうしようかと……あれ?」
「ミュミュウ?」

 リリパスと一緒にスマホでコメント欄を読んでいたら、こんな文字が並んでいた。

【こんにちは。普段から食レポブログを楽しく拝見しています。
 魔法少女さんのブログはおいしそうな上、文章も優しくて感激していました。
 さて、本題ですが。
 うちの店の紹介をしてくれないでしょうか?
 今度の決済で赤字が出たら、店を辞めようという判断が出ています。
 店自体はものすごく頑張って盛り立ててきたのですが、先日の流行病以降客足が戻らず、このままだと潰れてしまいます。助けてください。】

 最後に店のサイトらしきアドレスが載っていた。
 念のため、スマホに搭載しているウイルスチェックソフトで確認し、問題ないのを確認してから、私はその投稿者さんのサイトに行ってみた。

「はあ……ここ、なんでもおいしそうなのに」

 見てみた店は、洋食店だった。
 有名老舗洋食店から暖簾分けしてもらったとあるその店は、温かい雰囲気においしそうな洋食の数々。普通に繁盛しかしなさそうな雰囲気なのに、このままだと店が潰れるという。
 私はリリパスに尋ねた。

「ところでさあ。闇妖精って飽食が原因で力を増してるって言っているけれど。店が潰れそうな場合はどうなの?」
「飽食で力が増しているのは結果であって、闇妖精は元々マイナス感情から生まれますよ。頑張りが報われないっていう結果は自然と闇妖精を生みますし、この街道は人の流れが大きいでしょう?」
「そういえばそうだね」

 ここは通りからしてみても一等地だ。
 一等地で人が来なくなったというのは結構ただ事ではない。リリパスは続けた。

「この人の流れの大きな場所で闇オーラが少しでも湧けば、人の流れの大きさで生まれた闇妖精は、飽食を餌に成長します。この並びは飲食店も並んでますから、先日の怪獣みたいな闇妖精に成長を遂げてもおかしくはありません」
「わあ!? それってものすごく大変じゃない!!」

 前の闇妖精は、地元の魔法少女たちの数が多かったから助かったんだ。
 うちの近所ではテンカさん以外の魔法少女はいないし、大きく肥え育った闇妖精は、闇オーラを吸収しない限り討伐はまず無理だ……最悪魔法少女が闇落ちしてもおかしくはない。

「困る! なんとかしたい! でもどうしよう。私が直接話を聞くにしても……魔法少女姿で話を聞きに行っていいのかな?」
「いつもそのスマホでブログを書いたり、写真を撮ってるじゃないですか。それで相手と連絡を取り合うことはできませんか?」
「うちのブログのメッセージツールならなんとかなるかな」

 一応ブログには備え付けのメッセージツールがある。こちらのメールアドレスさえ登録しておけば、あとはメッセージのやり取りをツール上で行えるという便利機能だ。
 私はそれで相手の方に連絡を取ってみることにした。
 それにしても。私も経理の仕事だから、潰れかけの店の再興なんて、経理方面の仕事でしかサポートできないし、でも経理で無駄を探す、というのは絶対になんか違うと思うんだよなあ。
 私は気を揉みながら、その人の連絡を待つことにした。

****

「はあ、潰れかけの店を黒字にする相談?」
「はい……」

 その日も月末。領収書を各部署から徴収し、「これは予算から引き落とせません」「これは経緯になりません」「そもそもこの領収書間違ってます」と駄目出しし、周りから恨まれまくって、胃が痛い。
 胃に優しいよう、この数日の私の昼ご飯はスープジャーにつくってきたお粥ばかり食べていた。私の向こうに座っている立川さんは、買ってきたサンドイッチとコーヒーを飲んで昼ご飯にしていた。
 ブログにやってきた相談は、要約するとコメント欄に書かれたことが全てだった。

・元々普通に儲かっている店だった
・でも流行病が原因で客足が途絶え、それ以降戻ってこない
・次の決算で赤字になったら店を畳むから、なんとか黒字にしたい

 さすがにその内容をそのまんま伝える訳にもいかず、だからと言って妖精のリリパスに経営再建の相談なんてできる訳もなく、こうして立川さんに相談していた。
 それに立川さんは「うーん?」と首を捻った。

「これって、普通に考えたら」
「普通に考えたら?」
「客足をよそに奪われてないか?」
「……そうなるんですかねえ?」
「この辺り、一等地だからその分店の移り変わりも激しいし、ときどきチェーン店でも質の悪いのがいるんだよ」
「……質の悪いチェーン店、ですか?」

 立川さんが普段から食べ歩いている分だけ、仲良くなった店主さんと話をしていて、私よりもその手の情報をよく持っている。うちのお付き合いしている人すごいな。
 そんな立川さんはサンドイッチをひと口食べてから続けた。

「……先に出していた店のコンセプトを根こそぎ奪って、その店よりも安い値段で提供して、元々いたその手の店の客足を根こそぎ奪うっていう、本当に質の悪いのが」
「ええ……それって、ずるいじゃないですか」
「大手資本でやられたら、個人経営の店は勝てないんだよなあ。それこそ、よっぽどブランドを高めているようなところじゃないとなんともならない。裁判だって金食い虫だしな」
「そんなあ……」

 洋食店。日本風にアレンジ加えられた洋食は、卵でくるんと包んだオムライスとか、元々タルタルステーキとしていたものを固めて焼いたハンバーグとか、牛乳普及のためにデミグラスソースではなく牛乳でつくったホワイトソースでつくられたホワイトシチューとか。日本人が連想する洋食は案外日本生まれなものが多い。
 たしかに……そのコンセプトはわかりやすく、それを根こそぎ後続にパクられたら、手も足も出ないじゃないか。

「でもなあ。老舗の店の場合は先に出していたほうが強みもあるんだよな」
「……チェーン店に奪われないよう、新しいものを出すとか、ですかね?」

 年々新しい料理を増やし、季節限定品として価値を高めるっていうのは、チェーン店でよくある話だけれど。
 それに立川さんは「むしろ逆」と答えた。

「下手にコンセプトを崩して変なことするより、料理はそのままに宣伝に金をかけたほうがいい。値段や流行色じゃないブランドって、安心感だからな」

 それは私も思った。
 行きつけの遂になくなってしまった喫茶店。居心地のよさに、久々に行っても変わらない味にどれだけ癒やされたか。

「ありがとうございます……なんとかしてみます」
「うん。なんか知らないけど頑張れ。でもそれって、ただのボランティアでバイトではないな? さすがに経理の人間だから一ノ瀬さんがそんなんするとは思えないけど」
「ぶっ……」

 副職は、報告しないと、経理はものすごく困ります。
 私は思いっきり「違いますから!!」と悲鳴を上げたのだった。
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