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魔法少女の後日談
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それからというもの、私は無事に入籍し、直哉さんと一緒に暮らしている。
仕事は相変わらず経理でひいこら言い、一緒に帰って家事を分担し、生活している。
直哉さんは管理職に出世したせいで、一緒に帰れることも減ったけれど、それでもなんとか暮らしていけている。
そして。
「結婚したと聞いたのに、まだ魔法少女続けてるのかい?」
テンカさんに呆れた顔で聞かれてしまった。今日も闇妖精を討伐し、闇オーラを回収していたらの会話だった。
私は苦笑しながら頷いた。
「はい……引継ぎ相手が見つからなかったというものありますけど」
「でも旦那は自分が引継ぐのを断ったと」
「あはははは……あの人ちょっとだけ出世したんでこれ以上仕事が増えたらパンクするんでこれでよかったんだとは思いますけどねえ……ただ」
「ただ?」
「私の食事をむっちゃ見たがるんですよ……」
恥ずかしくなって、そっぽを向く。
それにはテンカさんは何故か「ああー……」と声を上げた。
「若いもんの食事なんて、おっさんが見てたら犯罪だからねえ。店でも営業してない限りは、そうマジマジ見れるもんでもねえしな」
「それなんの意味があるんですかね!?」
「でもお前さんも想像してみろ。近所の高校生が部活帰りにラーメンを食べていくのを」
想像してみたら、甲子園目指しているような子たちに、すごい勢いでラーメンが吸い込まれていく場面が頭に浮かんだ。
「……若いってすごいなって、ものすごく見てたくなりますね」
「そうだろそうだろ。最近はなにかとアルハラとかパワハラとか言われる時代だから、若いのに食事をおごって食事食べてるのをただ眺めるだけで面白いってえのもできねえし、若返って食べるのが好きな嫁さんがご飯食べてるのを眺めたいってえならまだマシだろ」
「そういうもんなんですかねえ……そもそも元の姿なんてうちの人ほぼ毎日見てたはずなんですが」
「これぁー、俺が勝手に言ってることだが。嫁さんの若い頃が見られたら普通に嬉しいんじゃないかい? ああ……こういうのもまた、セクハラになるんかねえ?」
「いやあ、どうなんでしょうねえ。年齢によるとしか。でもありがとうございます」
そう言って、私はテンカさんと別れを告げると、魔法少女姿のまま家まで飛んで行った。
引っ越した我が家は、最近新築のアパートだ。前に直哉さんが住んでいたマンションの一室みたいな縦に長いマンションではないけれど、収納がたっぷりあり、部屋の広さもちょうどいいアパートなため気に入っている。
私がベランダをトントンと叩いたら、やっと帰って来たばかりの直哉さんが出迎えてくれた。
「お疲れ様。今日も危ないことなかった?」
「ただいま帰りました。直哉さんもお疲れ様……お仕事疲れてないですか? 最近また仕事が増えて」
「経理のほうは、奈々さんが新人を育ててくれているおかげで仕事自体は問題ないでしょ。どちらかというと、上からのいい加減過ぎる要望跳ねのけるのが嫌なだけ」
「わあ……お疲れ様です」
「いい、いい。はい、お土産」
そう言って出してくれたのは、有名アップルパイ専門店のアップルパイだった。
キャラメリゼされたアップルフィリングが、パイ生地にみっちりと詰まっている。シナモンの香りが香ばしいパイの匂いを際立たせている。
「わあ……でもよく売ってましたね、この時間に」
「むしろこの時間だったから半額セールで売ってたから買ってきた。これオーブントースターで温めてようか。あとアイスいる? 俺は明日食べるから今日はやめとくけど」
「アイス! バニラアイス付けてください!」
夜にバニラアイスを乗せた熱々アップルパイなんて贅沢、若くなかったらできなかった。年取ってからやると糖分と脂肪が気になり過ぎてそれどころじゃない。
ワクワクしながら待っていたら、前に溜まったポイントで買ったバニラアイスをこんもりと乗せた熱々アップルパイがやってきた。
「はい、お待たせ」
「いただきます!」
サクッとフォークを入れ、ひと口大に割ったアップルパイを少し溶けかけのアイスと一緒にいただく。
途端に目の前に星がチカチカと瞬いたように、おいしさが広がった。
「おいしい~! アップルパイって、クランブいっぱいまぶしたのとか、変わり種でチョコレートと一緒に焼き込んだのとかいろいろありますけど、やっぱりオーソドックスなアップルパイじゃないと得られないものってありますよね!」
「それはよかったよかった」
そして直哉さんは、私がいちいち「おいしい」「おいしい」と言いながら食べているのを、つくり置いていた夜用のお弁当を食べて、麦茶を飲みながら眺めていた。
「……あのう、私が食べてるの見るの、面白いですか?」
「うん、面白い」
「普段の私の食べてるのもさんざん見てたじゃないですかあ……」
「いや、うちの奥さん食べるの好きな割にたくさん食べられないで恨めしそうな顔よくしてたから。元気に食べられてるのを見られて嬉しい」
そんなサラリと口説き文句言うことあるのか!?
私はキュンッと胸が高鳴ったのを誤魔化しながら、アップルパイをいただいた。
いつもよりも、フィリングもパイも異様に甘かった。
魔法少女は続いている。
飽食のせいで闇妖精が強くなったり、時には魔法少女を闇落ちさせたりするけれど。
食事のおかげで頑張れる魔法少女だっている。
だからきっと、大丈夫だ。
<了>
仕事は相変わらず経理でひいこら言い、一緒に帰って家事を分担し、生活している。
直哉さんは管理職に出世したせいで、一緒に帰れることも減ったけれど、それでもなんとか暮らしていけている。
そして。
「結婚したと聞いたのに、まだ魔法少女続けてるのかい?」
テンカさんに呆れた顔で聞かれてしまった。今日も闇妖精を討伐し、闇オーラを回収していたらの会話だった。
私は苦笑しながら頷いた。
「はい……引継ぎ相手が見つからなかったというものありますけど」
「でも旦那は自分が引継ぐのを断ったと」
「あはははは……あの人ちょっとだけ出世したんでこれ以上仕事が増えたらパンクするんでこれでよかったんだとは思いますけどねえ……ただ」
「ただ?」
「私の食事をむっちゃ見たがるんですよ……」
恥ずかしくなって、そっぽを向く。
それにはテンカさんは何故か「ああー……」と声を上げた。
「若いもんの食事なんて、おっさんが見てたら犯罪だからねえ。店でも営業してない限りは、そうマジマジ見れるもんでもねえしな」
「それなんの意味があるんですかね!?」
「でもお前さんも想像してみろ。近所の高校生が部活帰りにラーメンを食べていくのを」
想像してみたら、甲子園目指しているような子たちに、すごい勢いでラーメンが吸い込まれていく場面が頭に浮かんだ。
「……若いってすごいなって、ものすごく見てたくなりますね」
「そうだろそうだろ。最近はなにかとアルハラとかパワハラとか言われる時代だから、若いのに食事をおごって食事食べてるのをただ眺めるだけで面白いってえのもできねえし、若返って食べるのが好きな嫁さんがご飯食べてるのを眺めたいってえならまだマシだろ」
「そういうもんなんですかねえ……そもそも元の姿なんてうちの人ほぼ毎日見てたはずなんですが」
「これぁー、俺が勝手に言ってることだが。嫁さんの若い頃が見られたら普通に嬉しいんじゃないかい? ああ……こういうのもまた、セクハラになるんかねえ?」
「いやあ、どうなんでしょうねえ。年齢によるとしか。でもありがとうございます」
そう言って、私はテンカさんと別れを告げると、魔法少女姿のまま家まで飛んで行った。
引っ越した我が家は、最近新築のアパートだ。前に直哉さんが住んでいたマンションの一室みたいな縦に長いマンションではないけれど、収納がたっぷりあり、部屋の広さもちょうどいいアパートなため気に入っている。
私がベランダをトントンと叩いたら、やっと帰って来たばかりの直哉さんが出迎えてくれた。
「お疲れ様。今日も危ないことなかった?」
「ただいま帰りました。直哉さんもお疲れ様……お仕事疲れてないですか? 最近また仕事が増えて」
「経理のほうは、奈々さんが新人を育ててくれているおかげで仕事自体は問題ないでしょ。どちらかというと、上からのいい加減過ぎる要望跳ねのけるのが嫌なだけ」
「わあ……お疲れ様です」
「いい、いい。はい、お土産」
そう言って出してくれたのは、有名アップルパイ専門店のアップルパイだった。
キャラメリゼされたアップルフィリングが、パイ生地にみっちりと詰まっている。シナモンの香りが香ばしいパイの匂いを際立たせている。
「わあ……でもよく売ってましたね、この時間に」
「むしろこの時間だったから半額セールで売ってたから買ってきた。これオーブントースターで温めてようか。あとアイスいる? 俺は明日食べるから今日はやめとくけど」
「アイス! バニラアイス付けてください!」
夜にバニラアイスを乗せた熱々アップルパイなんて贅沢、若くなかったらできなかった。年取ってからやると糖分と脂肪が気になり過ぎてそれどころじゃない。
ワクワクしながら待っていたら、前に溜まったポイントで買ったバニラアイスをこんもりと乗せた熱々アップルパイがやってきた。
「はい、お待たせ」
「いただきます!」
サクッとフォークを入れ、ひと口大に割ったアップルパイを少し溶けかけのアイスと一緒にいただく。
途端に目の前に星がチカチカと瞬いたように、おいしさが広がった。
「おいしい~! アップルパイって、クランブいっぱいまぶしたのとか、変わり種でチョコレートと一緒に焼き込んだのとかいろいろありますけど、やっぱりオーソドックスなアップルパイじゃないと得られないものってありますよね!」
「それはよかったよかった」
そして直哉さんは、私がいちいち「おいしい」「おいしい」と言いながら食べているのを、つくり置いていた夜用のお弁当を食べて、麦茶を飲みながら眺めていた。
「……あのう、私が食べてるの見るの、面白いですか?」
「うん、面白い」
「普段の私の食べてるのもさんざん見てたじゃないですかあ……」
「いや、うちの奥さん食べるの好きな割にたくさん食べられないで恨めしそうな顔よくしてたから。元気に食べられてるのを見られて嬉しい」
そんなサラリと口説き文句言うことあるのか!?
私はキュンッと胸が高鳴ったのを誤魔化しながら、アップルパイをいただいた。
いつもよりも、フィリングもパイも異様に甘かった。
魔法少女は続いている。
飽食のせいで闇妖精が強くなったり、時には魔法少女を闇落ちさせたりするけれど。
食事のおかげで頑張れる魔法少女だっている。
だからきっと、大丈夫だ。
<了>
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