時空の先で君を待つ

石田空

文字の大きさ
14 / 23

炭鉱工と結界師見習い

しおりを挟む
 デュークの青痣に治癒魔法をかけつつ、リアは不思議に思った。

「他の人たちと違うようなんですが……」
「ああ、地盤沈下に巻き込まれて、危うく面倒見ていたらサラマンドラの子供が潰れそうになったから、助けたら巻き込まれてな」
「なっ……」

 リアは二重の意味で絶句した。
 サラマンドラは別名火トカゲとも呼ばれる魔物である。こんな炭鉱で育てていたら火花が散ったらこの辺り一面爆発しかねないので、普通に危ない。
 そしてリアはデューク自身が相当人がいいことを知っていた。

(私が会ったときには大分落ち着いていたけれど……若い頃だったらもっと危なっかしかったのかも……)

 一応リアは尋ねた。

「それで……サラマンドラは……」
「ああ。親が迎えに来たから、帰してやった。あいつらが無事でよかった」
「本当に……」

 サラマンドラが怒ったら、火花が散りまくって本当に炭鉱ひとつが丸々消し炭になるところであった。リアは治療を完了したら、腫れ上がった青痣は引っ込み、綺麗な腕になる。それに「おっ」と言いながらデュークは腕を曲げ伸ばししはじめた。

「ありがとうな」
「いえ……」

 リアはそう一旦言い置いてから、ひとまずは炭鉱工に言われた結界の修復へと向かっていった。
 炭鉱工曰く、地盤が崩れた先だという。本来は、ここは魔物避けが施されていて、強い魔物は来られない。サラマンドラも子供だったから結界に弾かれなかっただけで、親ともなったら普通に入れないはずだ。
 リアはカルメーラから習った通りに魔力の流れを見る。

(地盤沈下で乱れているだけで、完全に破れた訳じゃない。先生の結界ってやっぱりすごい。これを習えば、私だって……)

 そう思いながら結界に魔力を注ぎ込んでいく。治癒魔法と結界魔法が遠いようで意外と近く、リアが結界魔法と治癒魔法を同時に勉強修行しているのは、このためである。

「修繕《リペア》……」

 結界の綻びがみるみる塞がり、最後に蓋をするようにリアが魔力を流しきって、修繕は完了となる。

「終わりましたよ」
「はあ、お疲れ様。君すごいな」
「あら……?」

 思わずリアは仰け反る。案内してくれた炭鉱工と思ったのに、来たのはデュークだったのだ。それに彼は不思議そうに彼女を見下ろす。まだあどけない彼に、リアはどんな表情を浮かべればいいのかがわからない。

「なんだ? 俺は君になにかしたか?」
「い、いえ……寝てましたのに、いきなり起きて大丈夫ですか?」
「別に。ただまあ……そろそろここでの路銀稼ぎも終了って思ったのに、もうしばらくはここから離れられないなと思っただけで」
「あら?」

 それはリアは初めて聞いた話だった。

(デュークの昔話、私実はほとんど知らないんだよね。私の中で、彼はずっと尊敬すべき発掘師だったから、発掘師になるまでの話は。私と違って遺跡の上に住んでた訳でもないのに)

 リアは変に思われないよう、どう質問するか考えあぐねてから口を開いた。

「お金稼いで買いたいものでもあるんですか?」
「買いたい? そうだなあ……強いて言うなら、夢かな」
「夢、ですか……」

 どうも彼女の知っているデュークよりも、若い頃はお調子者な部分が多かったらしい。でも夢を買うとは、大きく出たものだ。
 デュークは炭鉱の出口を見た。

「遺跡を買いたくってな」
「ええ……遺跡って、買えるものなんですか?」
「金持ちは買えるらしいから、案外なんとかなるものらしくって。今度プロセルピナに行くんだ」

 あまりにも屈託なく言うのに、リアの喉は鳴った。

「……プロセルピナって」
「ああ、知らないか? 遺跡の上にある街だが。あそこは古代文明の解明が遅々として進まないから、発掘師を定期的に募集しているんだよ」

 それはプロセルピナに住んでいたリアからしてみれば、ずっと流し見していた宣伝である。管理者が強欲なのは知っていたが、まさか街の外にまで大きく宣伝していたことまでは知らなかったが。
 デュークはのんびりと言う。

「あそこは魔動具がたくさん見つかって、古代文明の研究が進みそうなんだ。だから、あそこに行くための金を稼いでいるんだ」

 まだまだ調子者だが、その言い方はリアの知っているデュークに限りなく近いものだった。
 リアはそこで迷った。

(……プロセルピナは、近いうちに絶対に古代兵器が見つかる。彼の夢見ていた古代文明を解き明かそうとしたら……きっと古代兵器が出てきてなにもかもを無茶苦茶にする。プロセルピナは管理者こそろくでなしだけど……嫌いになって欲しくないなあ)

 本来なら、彼を止めることが一番正しいとは、リアも理解していた。
 近い内に現代人では手に負えないようなものが次々と見つかり、やがて重騎士団を召喚しなかったら対処できなくなると。重騎士団だってキラーまでなら始末できようが、肝心の遺跡の破壊までは無理だろう。
 でも同時にプロセルピナで育ったリアは、デュークの憧れもよく理解できた。

「……私も」
「うん?」
「私も、プロセルピナ出身で、発掘師を目指してたんですよ……」
「おお、君も!?」
「うっは……!」

 思わず手を取られて、リアはドギマギした。そして手袋を嵌めているデュークに手を取られて衝撃が走った。

(……手袋越しでもわかる。スコップとシャベルをずっと握ってた分厚くて硬い手だ。この人……本当にプロセルピナに行くために、ずっと資金稼ぎをしていたんだ……)

 発掘師は大学所属の修復師や復元師とチームを組むものの、発掘で成果を上げる……それこそ調査の進捗を早めるとか、新たな魔動具を発掘するとか……ことをしなければ、大学はお金を出してはくれない。自前で生活資金を調達しないといけなかった。
 それにリアはキュンとなりつつも、本当のことは言えない。

「……昔、の話ですよ」

 ズキズキとする胸は、こんなに早くデュークと再会しなかったらしなかった痛みだろう。

「私、今は最高の結界師を目指してるんです」

 だからもう発掘師として一緒に遺跡に潜ることもできないし、それどころかプロセルピナを封印したがっているなんて、言える訳がなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...