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夜の決戦 まだ見ぬ真相・二
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月鈴は明玉の手を引いて走っていた。途中で桃の枝の灰を撒くことは忘れずに、雨桐の路地を走り抜ける。
「それにしても、薬を買いにって、こんな時間にわざわざ?」
「違うよ、雨桐から出ないと売っていないところに薬屋さんがあるから、そこまで出ないといけなかったの」
「……雨桐では手に入らない薬なのか?」
明玉は大きく頷いた。それに月鈴は驚いて目をパチパチとさせる。
雨桐は王都であり、雲仙国で一番人の流れの大きい場所のはずだ。どう考えても皇帝のお膝元が一番商売がやりやすいものだから、そこで売られてないものなんて大丈夫なんだろうか。
「いったいなんの薬を買いに行ったんだ?」
「仙丹だよ。霊薬? そういう類」
「仙丹……そんなものを売っている薬屋があるのか!?」
思わず月鈴は悲鳴を上げる。それに明玉は首を傾げた。
「そんなに驚くものなの?」
「……そもそも、仙丹は方士でなければつくれないはずだ。ましてやそんなものを売るなんて……」
基本的に、方術修行の一環で、薬丹をつくることは珍しくもなんともない。それらの薬の調合は、各寺院によってまちまちだ。ただ傷薬や飲み薬などの調合は、そこまで難しいものでもないため、寺院の収入源として売られることも多いが、仙丹となると話が違ってくる。
仙丹は基本的に万病に効くと世間ではもっぱらの評判であり、実際に月鈴もそれらは霊薬と呼ばれて持てはやされてもしょうがないものだと知っているが。これらは調合がとにかく難しい上に、材料集めも難航を極める。そのせいで調合したとしても、一回の調合で三個つくれればいいほうだ。
そのために、仙丹はどの寺院でも他の薬丹と違って売ることは推奨されていない。売値を付けるとしたら、それこそ王族や王都で店を構えられる程度の豪商でない限りは、買うことができないはずなのだ。
ところが明玉が買いに行っているので、話がおかしくなってくる。たしかに明玉は王都出身だが、王都だって表通りに住んでいるような豪商や大富豪だけでなく、路地裏にひっそりと住んでいるような民間人だっている。明玉の着物はどう見たって路地裏に住む民間人のものであり、そんな王族や豪商でない限り手を出せないような仙丹を買えるようには思えない。
「すまない、その仙丹を見せてもらってもいいだろうか?」
「……駄目、これはお父さんにあげるものだから」
どうも明玉がわざわざ雨桐から出てまで買いに行っていたのは、父親のためのものだかららしい。だったらなおのこと、悪いものでないかの確認が必要だった。
「すまない、私は見ての通り方士だ。仙丹についても知識があり、あなたの持っている仙丹がどのようなものか気になるんだ。もしかしたら私でも調合できるもので、王都で店を出せやしないかと」
「本当?」
「一応陛下には許可をいただかねばならないが」
「そのほうが、皆が喜ぶもんね。いいよ」
明玉が納得して袋を解いてくれたのに、月鈴はほっとする。
仙丹はさすがに自分も値段を考えたらとてもじゃないが売れるものではないが、一般的に売られているものより少しだけ質のいい薬丹なら売ることもできるから、その辺りは泰然が起きたら交渉してみてもいいかもしれない。
そう考えながら明玉が「はい」と差し出してくれたものを月鈴は見る。
匂い自体は普通の薬丹であり、仙丹ほど高い薬草を使っているようには見えない。ただなにか嫌な気配がするのだ。
月鈴は明玉の父に使う分がなくならないよう、慎重に爪で仙丹の表面を削ってから、それを指ですくって舐めた。
「……これは」
「どうしたの? これ、方士様の開いている薬局で売っていたんだよ」
「……仙丹に限りなく近いが、これは……まずいものだ」
「どうして? これ、お父さんにあげたら駄目なの?」
「……あなたのお父さんはこれで助かるだろう。だが、これは……」
舐めた際に最初に飛び込んできたのは、梨の花の香りだった。そしてその奥にツンと漂うのは桂皮に陳皮……そして更に奥。
もうこれは仙丹の作成をしたことのあるような方士でなければまず気付かないような微量の冬虫夏草……。冬虫夏草は仙丹の材料としてもっとも見つけにくいきのこの一種だが、中でも一番見つけにくい冬虫夏草は、蝙蝠蛾の幼虫に生えたものである。
それは雲仙国ではまず手に入らないものなのだ。
それを手に入れるには、雲仙国が霊山として扱っている蓬莱山まで登らなければならず、そこでしかまず材料を入手することができない。
(だが、蓬莱山はたしか……)
そこは四代前……つまりは空燕の父の代……に雲仙国に統括されたが、元はそこには四像国《しぞうこく》のものだったはずだ。現在、四像国の国民は皆出家して寺社にいるか、抵抗して他国に亡命したかのいずれかである。
(……だいたいのからくりは読めた)
どうして三代も続けて皇帝が昏睡状態に陥ったのか。
どうしてこの国に屍兵が出没し、人々を襲っているのか。
どうしてわざわざ仙女を雇って後宮に入れ、後宮の宮女たちを屍兵に替えていたのか……。
なんてことはない。これは復讐なのだ。
国を奪われ、霊山を奪われ、挙げ句の果てに霊山のものを勝手に盗んでいく雲仙国の民を、亡国は決して許しはしない。
****
空燕は動きのいい方服の軍人たちと戦いを続けていた。
後宮内のことは気になるが、こればかりは同盟を結んだ花妃たち主従に任せる他あるまい。
空燕が大きく青竜刀を振り回すと、相手は投げ剣を投げて距離を取る。空燕はそれらを弾いて相手に当てた。
「……お前さんたちが国を憂う気持ちはわかるさ。父上のやったこと、許されないだろうこともなあ。だが」
搾取され、憎悪を向ける。それが王族ならば仕方がない話だし、もし被害者が兄たちだけならば、空燕は彼らに自分の首ひとつでことを治めて欲しいと、皇族らしからぬ交渉をしていただろうが。
既に彼は後宮で働く宮女たちの中にも、雨桐で暮らす一般市民の中にも、無理矢理魂を抜かれて屍兵に替わり、生きた屍として尊厳を陵辱され続けている人々がいることを知っている。
「やるなら、俺たちだけを狙え。民は巻き込むな」
「……民は巻き込むな、だと? よくそんなことが言えたものだな」
戦っていた軍人のひとりが、唸り声を上げた。それは低く、野犬の威嚇に近く聞こえた。
「我らの故郷を奪われた。我らの教えを奪われた。我らの国を奪われた……この国に、この国民に、この国の教えに……それのいったいどうしてそれを許せるものか?」
怨嗟。怨念。憎悪。嫌悪。
それらが入り交じった声、呪った言葉、それらは空燕たちの知っている方術と近い言の葉をつくっていた。
(なるほど……俺たちの知るものに近いが、使い方の異なる方術か……これが、魂を抜いていた訳だな……あの仙女も、囮かなにかだろう)
青蝶は偽りだらけの仙女ではあるが、享楽主義であった。四像国の方士たちのように、呪いと怨念に満ちた使い方をしなかった。
彼女に視線を向けるべく、彼女を置いた。そして帳簿を改竄して、彼女がいつからいるのかわからなくした。もう犯人はわかりそうなものだが。
彼らが今、本気で空燕を狙っているのもまた、雲仙国を転覆させるためだろう。
皇帝の血筋が完全に潰えれば、あとは勝手に諸侯たちで争い出す。そうなれば、後宮から少しずつ腐らせていった雲仙国は簡単に瓦解する。そのボロボロになったところで四像国が攻め落とせば、復讐は完了するのだ。
これだけ手間暇かけたのも、ひとえに四像国自体が、バラバラに解体されてしまったせいで、割ける人数が雲仙国と比べても圧倒的に少なく、正攻法では負けるからであろう。
「……俺がなにを言ったところで、おそらくお前さんたちは聞かないだろうがなあ……! だが」
桃の香油が香った。月鈴が事前にさんざん空燕の体中に塗りたくったものだ。甘い香りは正直彼の性には合わないが、月鈴の心配する顔を思えば、彼女の香りだと思うことで耐えられた。
「俺の父上は、たしかにどうしようもない男だった。それだけは、我が国の皇族として謝罪する。だが、兄上たちはあれとは違う……!!」
長兄、次兄、三兄……。それらは崩御した父に成り代わり、この国を盛り立てようと努力をしていた。
国を統一するために残虐な戦争や侵略を繰り返し、大量に怨嗟を積み重ねていった父に対して、息子たちは代々、我慢強く交渉に継ぐ交渉を続け、協議を行っていった。積み重ねていった怨嗟は、簡単に国を転覆させて村々、町々を焼き払う。なによりも父の代で大量に人が死んだせいで、これ以上戦争を繰り返しても、出せる兵力なんてなかった。だからこそ、交渉と協議により、怨嗟を薄めて行かなければならなかった。
雲仙国の泥を被り続けた長兄。
後宮に住まう妃たちを使ってこの国の諸侯と粘り強く交渉を重ねていった次兄。
そして後宮に住まう妃たちの意思を統一して、この国を盛り立てようとした三兄。
空燕が寺院に篭もっている間も、国のことを憂いて行動していた兄たちを否定することは許せなかった。
「兄上たちはこの国を変えようとしていた! お前さんたちと一緒に!」
「戯れ言を抜かすな!?」
「戯れ言でそんなことを言うものか!?」
バチン、と音が響き渡った。空燕の首筋目掛けて、なにかが追突したのだ。それ目掛けて
乱暴に空燕は青竜刀を一閃する。
「ピギャッ」と鳴き声を上げて斬られたのは、鳥の妖怪、羅羅鳥《ららちょう》であった。人の魂を好む妖怪であり、好きな香りに惹かれることが多い。わずかに香る冬虫夏草の匂いにより、誘き出されたのだろう。
「なるほど……これで市中の人間の魂を食らっていた訳か……後宮には結界が張られているから、仙女を招いて術式で魂を抜かせていたか」
冬虫夏草は薬丹として使われる、稀少価値の高いきのこだ。流行病を流行らせ、その特効薬だと触れ回って冬虫夏草を使った薬丹が出回りやすくする。そうすれば羅羅鳥を捕まえ、それらを籠から放てば、あとは勝手に魂を食らってくれる。
魂を食らって動けなくなった遺体を、方士の名目で葬る手伝いをし、埋葬の最中に札を貼れば……晴れて屍兵が完成するという寸法だった。
「それにしても、薬を買いにって、こんな時間にわざわざ?」
「違うよ、雨桐から出ないと売っていないところに薬屋さんがあるから、そこまで出ないといけなかったの」
「……雨桐では手に入らない薬なのか?」
明玉は大きく頷いた。それに月鈴は驚いて目をパチパチとさせる。
雨桐は王都であり、雲仙国で一番人の流れの大きい場所のはずだ。どう考えても皇帝のお膝元が一番商売がやりやすいものだから、そこで売られてないものなんて大丈夫なんだろうか。
「いったいなんの薬を買いに行ったんだ?」
「仙丹だよ。霊薬? そういう類」
「仙丹……そんなものを売っている薬屋があるのか!?」
思わず月鈴は悲鳴を上げる。それに明玉は首を傾げた。
「そんなに驚くものなの?」
「……そもそも、仙丹は方士でなければつくれないはずだ。ましてやそんなものを売るなんて……」
基本的に、方術修行の一環で、薬丹をつくることは珍しくもなんともない。それらの薬の調合は、各寺院によってまちまちだ。ただ傷薬や飲み薬などの調合は、そこまで難しいものでもないため、寺院の収入源として売られることも多いが、仙丹となると話が違ってくる。
仙丹は基本的に万病に効くと世間ではもっぱらの評判であり、実際に月鈴もそれらは霊薬と呼ばれて持てはやされてもしょうがないものだと知っているが。これらは調合がとにかく難しい上に、材料集めも難航を極める。そのせいで調合したとしても、一回の調合で三個つくれればいいほうだ。
そのために、仙丹はどの寺院でも他の薬丹と違って売ることは推奨されていない。売値を付けるとしたら、それこそ王族や王都で店を構えられる程度の豪商でない限りは、買うことができないはずなのだ。
ところが明玉が買いに行っているので、話がおかしくなってくる。たしかに明玉は王都出身だが、王都だって表通りに住んでいるような豪商や大富豪だけでなく、路地裏にひっそりと住んでいるような民間人だっている。明玉の着物はどう見たって路地裏に住む民間人のものであり、そんな王族や豪商でない限り手を出せないような仙丹を買えるようには思えない。
「すまない、その仙丹を見せてもらってもいいだろうか?」
「……駄目、これはお父さんにあげるものだから」
どうも明玉がわざわざ雨桐から出てまで買いに行っていたのは、父親のためのものだかららしい。だったらなおのこと、悪いものでないかの確認が必要だった。
「すまない、私は見ての通り方士だ。仙丹についても知識があり、あなたの持っている仙丹がどのようなものか気になるんだ。もしかしたら私でも調合できるもので、王都で店を出せやしないかと」
「本当?」
「一応陛下には許可をいただかねばならないが」
「そのほうが、皆が喜ぶもんね。いいよ」
明玉が納得して袋を解いてくれたのに、月鈴はほっとする。
仙丹はさすがに自分も値段を考えたらとてもじゃないが売れるものではないが、一般的に売られているものより少しだけ質のいい薬丹なら売ることもできるから、その辺りは泰然が起きたら交渉してみてもいいかもしれない。
そう考えながら明玉が「はい」と差し出してくれたものを月鈴は見る。
匂い自体は普通の薬丹であり、仙丹ほど高い薬草を使っているようには見えない。ただなにか嫌な気配がするのだ。
月鈴は明玉の父に使う分がなくならないよう、慎重に爪で仙丹の表面を削ってから、それを指ですくって舐めた。
「……これは」
「どうしたの? これ、方士様の開いている薬局で売っていたんだよ」
「……仙丹に限りなく近いが、これは……まずいものだ」
「どうして? これ、お父さんにあげたら駄目なの?」
「……あなたのお父さんはこれで助かるだろう。だが、これは……」
舐めた際に最初に飛び込んできたのは、梨の花の香りだった。そしてその奥にツンと漂うのは桂皮に陳皮……そして更に奥。
もうこれは仙丹の作成をしたことのあるような方士でなければまず気付かないような微量の冬虫夏草……。冬虫夏草は仙丹の材料としてもっとも見つけにくいきのこの一種だが、中でも一番見つけにくい冬虫夏草は、蝙蝠蛾の幼虫に生えたものである。
それは雲仙国ではまず手に入らないものなのだ。
それを手に入れるには、雲仙国が霊山として扱っている蓬莱山まで登らなければならず、そこでしかまず材料を入手することができない。
(だが、蓬莱山はたしか……)
そこは四代前……つまりは空燕の父の代……に雲仙国に統括されたが、元はそこには四像国《しぞうこく》のものだったはずだ。現在、四像国の国民は皆出家して寺社にいるか、抵抗して他国に亡命したかのいずれかである。
(……だいたいのからくりは読めた)
どうして三代も続けて皇帝が昏睡状態に陥ったのか。
どうしてこの国に屍兵が出没し、人々を襲っているのか。
どうしてわざわざ仙女を雇って後宮に入れ、後宮の宮女たちを屍兵に替えていたのか……。
なんてことはない。これは復讐なのだ。
国を奪われ、霊山を奪われ、挙げ句の果てに霊山のものを勝手に盗んでいく雲仙国の民を、亡国は決して許しはしない。
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空燕は動きのいい方服の軍人たちと戦いを続けていた。
後宮内のことは気になるが、こればかりは同盟を結んだ花妃たち主従に任せる他あるまい。
空燕が大きく青竜刀を振り回すと、相手は投げ剣を投げて距離を取る。空燕はそれらを弾いて相手に当てた。
「……お前さんたちが国を憂う気持ちはわかるさ。父上のやったこと、許されないだろうこともなあ。だが」
搾取され、憎悪を向ける。それが王族ならば仕方がない話だし、もし被害者が兄たちだけならば、空燕は彼らに自分の首ひとつでことを治めて欲しいと、皇族らしからぬ交渉をしていただろうが。
既に彼は後宮で働く宮女たちの中にも、雨桐で暮らす一般市民の中にも、無理矢理魂を抜かれて屍兵に替わり、生きた屍として尊厳を陵辱され続けている人々がいることを知っている。
「やるなら、俺たちだけを狙え。民は巻き込むな」
「……民は巻き込むな、だと? よくそんなことが言えたものだな」
戦っていた軍人のひとりが、唸り声を上げた。それは低く、野犬の威嚇に近く聞こえた。
「我らの故郷を奪われた。我らの教えを奪われた。我らの国を奪われた……この国に、この国民に、この国の教えに……それのいったいどうしてそれを許せるものか?」
怨嗟。怨念。憎悪。嫌悪。
それらが入り交じった声、呪った言葉、それらは空燕たちの知っている方術と近い言の葉をつくっていた。
(なるほど……俺たちの知るものに近いが、使い方の異なる方術か……これが、魂を抜いていた訳だな……あの仙女も、囮かなにかだろう)
青蝶は偽りだらけの仙女ではあるが、享楽主義であった。四像国の方士たちのように、呪いと怨念に満ちた使い方をしなかった。
彼女に視線を向けるべく、彼女を置いた。そして帳簿を改竄して、彼女がいつからいるのかわからなくした。もう犯人はわかりそうなものだが。
彼らが今、本気で空燕を狙っているのもまた、雲仙国を転覆させるためだろう。
皇帝の血筋が完全に潰えれば、あとは勝手に諸侯たちで争い出す。そうなれば、後宮から少しずつ腐らせていった雲仙国は簡単に瓦解する。そのボロボロになったところで四像国が攻め落とせば、復讐は完了するのだ。
これだけ手間暇かけたのも、ひとえに四像国自体が、バラバラに解体されてしまったせいで、割ける人数が雲仙国と比べても圧倒的に少なく、正攻法では負けるからであろう。
「……俺がなにを言ったところで、おそらくお前さんたちは聞かないだろうがなあ……! だが」
桃の香油が香った。月鈴が事前にさんざん空燕の体中に塗りたくったものだ。甘い香りは正直彼の性には合わないが、月鈴の心配する顔を思えば、彼女の香りだと思うことで耐えられた。
「俺の父上は、たしかにどうしようもない男だった。それだけは、我が国の皇族として謝罪する。だが、兄上たちはあれとは違う……!!」
長兄、次兄、三兄……。それらは崩御した父に成り代わり、この国を盛り立てようと努力をしていた。
国を統一するために残虐な戦争や侵略を繰り返し、大量に怨嗟を積み重ねていった父に対して、息子たちは代々、我慢強く交渉に継ぐ交渉を続け、協議を行っていった。積み重ねていった怨嗟は、簡単に国を転覆させて村々、町々を焼き払う。なによりも父の代で大量に人が死んだせいで、これ以上戦争を繰り返しても、出せる兵力なんてなかった。だからこそ、交渉と協議により、怨嗟を薄めて行かなければならなかった。
雲仙国の泥を被り続けた長兄。
後宮に住まう妃たちを使ってこの国の諸侯と粘り強く交渉を重ねていった次兄。
そして後宮に住まう妃たちの意思を統一して、この国を盛り立てようとした三兄。
空燕が寺院に篭もっている間も、国のことを憂いて行動していた兄たちを否定することは許せなかった。
「兄上たちはこの国を変えようとしていた! お前さんたちと一緒に!」
「戯れ言を抜かすな!?」
「戯れ言でそんなことを言うものか!?」
バチン、と音が響き渡った。空燕の首筋目掛けて、なにかが追突したのだ。それ目掛けて
乱暴に空燕は青竜刀を一閃する。
「ピギャッ」と鳴き声を上げて斬られたのは、鳥の妖怪、羅羅鳥《ららちょう》であった。人の魂を好む妖怪であり、好きな香りに惹かれることが多い。わずかに香る冬虫夏草の匂いにより、誘き出されたのだろう。
「なるほど……これで市中の人間の魂を食らっていた訳か……後宮には結界が張られているから、仙女を招いて術式で魂を抜かせていたか」
冬虫夏草は薬丹として使われる、稀少価値の高いきのこだ。流行病を流行らせ、その特効薬だと触れ回って冬虫夏草を使った薬丹が出回りやすくする。そうすれば羅羅鳥を捕まえ、それらを籠から放てば、あとは勝手に魂を食らってくれる。
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