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夏至祭の準備
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王都もだんだん暑い日が続くようになり、人形のために化粧を施したり足踏みミシンを踏み続けるのも億劫になる日が多くなる。
普段だったら安い麦湯を飲むところを、少々割高でもミントティーをつくって飲まないことには、涼しく過ごすことができない。
一方で王都でお祭りの準備のために、人形を買い求める人が増えてきた。
最近は恋人人形ばかりつくっていた私も、この時期になったら人手不足解消のためにメイド人形をつくる日が多くなる。
涼し気な色のワンピースを縫い、それに合わせてエプロンドレスも涼やかなレースを重ねて華やかに仕上げる。
「ありがとう、助かったよ。この時期になったら、本当に人手不足のせいでね」
「いいえ。お祭りですしね。どこもかしこも郊外に出てしまって人がいなくて大変でしょうし」
「本当にそうだよ」
この時期の祭りシーズンは、稼ぎ時はもっぱら王都よりも郊外だ。郊外では危険なお祭りが多く、危険な分だけ給料も高い。そのせいで王都で働いている新興貴族や商家は突然の人手不足に喘ぎ、急遽人形を買い足して人手を補うことが増えるのだ。
私としてはありがたいけれど、この時期の祭りは人形師として、魔女として複雑なのだ。
だって、一番多いのが。
「お焚き上げ用の魔女人形、くださらない?」
王都の教会を出入りしている方たちから、こんな無神経な注文が殺到するのである。
私は内心頬が引きつらないよう心掛けながら、笑顔で対応する。
「夏至祭用ですか?」
「そうそう、等身大人形が欲しいの! 自律稼働はしなくてよろしいから、適当にデザインして」
「……かしこまりました」
基本的にどこもかしこも、この時期になったら魔女人形の注文がものすごく増える。
王都の場合は本気で人形師と魔女が同系列だと理解してない人が多いため、怒るに怒れない。ちなみに郊外では、これはわかっていてやっている嫌がらせなため、普通に喧嘩になって騎士団対応になるケースが多い。
私はいやいやながらも、いつもよりも燃えやすい素材で、いつものように顔をつくりこまずに燃えやすい髪、燃えやすい服を着せて納品することとなる。
基本的に普段売っている自律稼働人形よりも簡単だし安価でつくれるけれど、心身はいつもよりもどっと削られる。
だから魔女人形と一緒に可愛い可愛いメイド人形を並行してつくらないとやっていられなかったりする。
私が黙々と魔女人形の雑な黒ローブを縫いながら、メイド人形のヘッドドレスのレースを編んでいるところで、いつものどたどたとした足音が聞こえてきた。
「すっかりと夏至祭の季節だな」
「こんにちはー、シリルさん」
思わずつっけどんな返事になったことに、シリルさんは少しだけ驚いたように目を瞬かせる。
……この人だけは、私を人形師で魔女だからと馬鹿にしたり攻撃的になったりしないのに、なにをやっているのか。ひとりで反省会をしていたら、シリルさんは不思議そうな顔で私のほうに座った。
「どうした? 暑いからか? この時期は食べないとやってられないが、食欲も沸かないからな」
「そういうのじゃないですよぉ。いつもなにか食べたり飲んだりしてませんしぃ」
「じゃあなんだ……お前の新しい黒ローブか?」
私の雑に縫った黒ローブに目を留めているシリルさんに、私はムキャーとなった。
「こんな雑な縫い目の黒ローブ、いくら私が出不精だからって着ませんし! そこまで恥知らずじゃありませんし!」
「……俺はエスターを恥知らずと思ったことは別にないが。抜けているとは思うが」
「どこが抜けてるんですかぁ! 私だって時と場所は選びますしぃ!」
「……なにを怒っているのかわからないが、俺は服にあまり興味がないから、いつものお前の丁寧な縫物と変わらないと思ったんだが。服をつくるものだったら違うのかもしれない。すまない」
「ひあ」
「なにがひあなんだ」
……こちらの八つ当たりを普通に謝ってくるシリルさんに、だんだんと罪悪感が増してきた。
「……依頼で人形つくってたら、嫌気が差しただけですよ」
「いつもあれだけ楽しそうに人形をつくっているエスターでも、嫌になる依頼があるのか?」
「私だって、本当はメイド人形だけつくってたいですよ。でもそれだけじゃ生活できないから、他の仕事だってします。それがお焚き上げ用の魔女人形だって」
それにシリルさんは目を瞬かせたあと、眉間に皺を寄せた。
「断ることはできないのか?」
「金払いいい仕事なんですよ。材料だって安価ですし、つくるのだって早いですし」
「それで自棄起こすようだったら全然駄目だろ」
「……そんなこと言ったって。私だって本当は嫌ですよ。ただお焚き上げするためだけに等身大人形つくるのなんて。そんなの自分でつくってくださいって思いますし」
「お焚き上げ人形ってあれだな? 夏至祭のときに焼く奴だな?」
「はい……」
しばらく考えていたシリルさんは、やがて腕を組んでから答えた。
「そういえば、お前の仕事の納期はどうなっている?」
「はい? 今はちょっと忙しいですけれど、夏至になったら暇になります、かねえ……」
「夏至の直前は?」
「まあ……その頃には今よりは暇になるかと……」
「お前や人形師みたいな、魔女人形をつくるのが嫌なら、いっそのこと作り方を教えて、お焚き上げしたい人間につくらせたほうが早くないかと思ってな。材料も安価、値段も手頃となったら、教会あたりの孤児の奉仕活動の一環にもなるだろうし」
「あ、ああ……!」
私はポンと手を叩いた。
自律稼働の人形を売っている人形師なんて、魔女しかいない。そして魔女はいくらよく売れるからって、魔女人形をつくりたくはないんだから。
もう材料だけ売ってつくってもらったほうがいいし、むしろそれらの作り方を教会に教えてしまえば、教会で定期的に開催されているバザーみたいに教会の維持費に回してもらえるんだ。
「今度教会に話を付けてみます! 人形師仲間にも声をかけて! ありがとうございます。私……いつも夏至は嫌だったんで」
夏至になったら、どこかで魔女人形のお焚き上げが行われ、それが見世物として屋台が出される。それが嫌で、その時期になったら家から一歩も出ずにミントティー飲んで寝ていた。
それがなくなったら、私みたいに肩身の狭い人形師も減ると思うんだ。私はうきうきしながら、シリルさんに頭を下げた。
****
人形師たちが情報交換のために集まる喫茶店が存在する。
元々は、王都に越してきた魔女たちは単身だったり訳ありが多かったりで、店主の未亡人の魔女がその人たち用につくった店だったけれど。
今は魔女と呼ばれる人は宮廷魔術師として働いている人か、人形師としてひっそりと王都の端っこで暮らしているかのどちらかなため、ほぼほぼ人形師ばかりが通う店となっている。
どの人も多かれ少なかれ王都では珍しがられ、郊外では石を投げられる赤毛なため、外を出歩く場合は帽子やローブですっぽりと覆って隠してしまう髪も、ここでは皆露わにして、皆で話をしている。
「はあ……人形づくり教室ねえ……」
「駄目ですかねえ。どのみち自律稼働の歯車は魔力がないとどうにもつくれませんし、一番安い人形ですから、たくさん注文は撮れますけど利益自体はあまりないですし」
「うーん、王都にやってきた新入り人形師にとっては、一番仕事の取れる仕事だったからねえ」
駄目かあ……。そう思ってしょんぼりしていたものの。
この中だと一番の古株人形師のグウィネスさんが口を開いた。
「むしろ新入りに教会と交渉する方法を覚えさせるために、新入りに人形教室の補佐をするようにしたら、教会、新入り人形師、他の人形師もいいこと尽くしなんじゃないかい?」
「まあ!」
私は頭をペコペコと下げた。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「まあ年も取ったら、魔女人形をつくることになんとも思わなくなるけど、それでメンタルやっちゃう若い子は多いから。王都に溶け込む勉強と、教会と上手いことやれる方法を身に着けるためにもいいんじゃないかい? それに教会だって、毎度毎度バザーするほどお金もないからねえ」
「はい」
「しかしエスターにそんな入れ知恵するなんて、いい彼氏ができたねえ」
そうグウィネスさんに笑いかけられ、途端にどっと熱を持つ。
店主さんが入れてくれた少しスパイシーなレモネード。それを飲んで気持ちを鎮めようとしても、なかなか鎮まってはくれない。
「そんなんじゃ……ないですっ」
「エスターもここに来るまでは苦労してたしねえ」
「郊外じゃ、未だに魔女は出て行けって偏見運動強いから、人数多くてごちゃごちゃしている王都のほうが暮らしやすいしね」
「ここは手に職さえ持ってれば、魔女ひとりでも暮らしていけるから。そんな中で、エスターに惚れこむ人が出るなんてねえ……」
途端に皆が温かい眼差しを向けてくるので、いたたまれなくなる。
私はシリルさんを気にしてはいるけれど、あの人はどうなのかよくわからないし。
多分優しい人なんだとは思う。口が悪過ぎて、すぐお見合いしても断られるけど。
……あれ、本当にいい人なんじゃないの?
私がひとりで混乱しているものの、皆で教会の打ち合わせと一緒に、それぞれの店で売る夏至のお菓子についての話にまで話が飛んだ。
夏至になったら、メレンゲクッキーを売る習慣がある。皆で打ち合わせして、それぞれなにを売るのか決めるのだ。売っている人形によっては、つくっている暇がない店もあるからだ。
私は毎年毎年、予定がカツカツ過ぎて、売れるほどのクッキーを焼けた試しがない。日頃から私がメイド人形をつくって売りまくっていたことは皆知っている話だ。
私は今年も予定がカツカツ過ぎてできないことと、教会のほうならば回れそうな旨を伝えると「なら今年はよろしくね」と、人形づくり教室に出かけることとなった。
今まで億劫だった夏至も、ほんの少しだけ楽しみになったような気がする。
普段だったら安い麦湯を飲むところを、少々割高でもミントティーをつくって飲まないことには、涼しく過ごすことができない。
一方で王都でお祭りの準備のために、人形を買い求める人が増えてきた。
最近は恋人人形ばかりつくっていた私も、この時期になったら人手不足解消のためにメイド人形をつくる日が多くなる。
涼し気な色のワンピースを縫い、それに合わせてエプロンドレスも涼やかなレースを重ねて華やかに仕上げる。
「ありがとう、助かったよ。この時期になったら、本当に人手不足のせいでね」
「いいえ。お祭りですしね。どこもかしこも郊外に出てしまって人がいなくて大変でしょうし」
「本当にそうだよ」
この時期の祭りシーズンは、稼ぎ時はもっぱら王都よりも郊外だ。郊外では危険なお祭りが多く、危険な分だけ給料も高い。そのせいで王都で働いている新興貴族や商家は突然の人手不足に喘ぎ、急遽人形を買い足して人手を補うことが増えるのだ。
私としてはありがたいけれど、この時期の祭りは人形師として、魔女として複雑なのだ。
だって、一番多いのが。
「お焚き上げ用の魔女人形、くださらない?」
王都の教会を出入りしている方たちから、こんな無神経な注文が殺到するのである。
私は内心頬が引きつらないよう心掛けながら、笑顔で対応する。
「夏至祭用ですか?」
「そうそう、等身大人形が欲しいの! 自律稼働はしなくてよろしいから、適当にデザインして」
「……かしこまりました」
基本的にどこもかしこも、この時期になったら魔女人形の注文がものすごく増える。
王都の場合は本気で人形師と魔女が同系列だと理解してない人が多いため、怒るに怒れない。ちなみに郊外では、これはわかっていてやっている嫌がらせなため、普通に喧嘩になって騎士団対応になるケースが多い。
私はいやいやながらも、いつもよりも燃えやすい素材で、いつものように顔をつくりこまずに燃えやすい髪、燃えやすい服を着せて納品することとなる。
基本的に普段売っている自律稼働人形よりも簡単だし安価でつくれるけれど、心身はいつもよりもどっと削られる。
だから魔女人形と一緒に可愛い可愛いメイド人形を並行してつくらないとやっていられなかったりする。
私が黙々と魔女人形の雑な黒ローブを縫いながら、メイド人形のヘッドドレスのレースを編んでいるところで、いつものどたどたとした足音が聞こえてきた。
「すっかりと夏至祭の季節だな」
「こんにちはー、シリルさん」
思わずつっけどんな返事になったことに、シリルさんは少しだけ驚いたように目を瞬かせる。
……この人だけは、私を人形師で魔女だからと馬鹿にしたり攻撃的になったりしないのに、なにをやっているのか。ひとりで反省会をしていたら、シリルさんは不思議そうな顔で私のほうに座った。
「どうした? 暑いからか? この時期は食べないとやってられないが、食欲も沸かないからな」
「そういうのじゃないですよぉ。いつもなにか食べたり飲んだりしてませんしぃ」
「じゃあなんだ……お前の新しい黒ローブか?」
私の雑に縫った黒ローブに目を留めているシリルさんに、私はムキャーとなった。
「こんな雑な縫い目の黒ローブ、いくら私が出不精だからって着ませんし! そこまで恥知らずじゃありませんし!」
「……俺はエスターを恥知らずと思ったことは別にないが。抜けているとは思うが」
「どこが抜けてるんですかぁ! 私だって時と場所は選びますしぃ!」
「……なにを怒っているのかわからないが、俺は服にあまり興味がないから、いつものお前の丁寧な縫物と変わらないと思ったんだが。服をつくるものだったら違うのかもしれない。すまない」
「ひあ」
「なにがひあなんだ」
……こちらの八つ当たりを普通に謝ってくるシリルさんに、だんだんと罪悪感が増してきた。
「……依頼で人形つくってたら、嫌気が差しただけですよ」
「いつもあれだけ楽しそうに人形をつくっているエスターでも、嫌になる依頼があるのか?」
「私だって、本当はメイド人形だけつくってたいですよ。でもそれだけじゃ生活できないから、他の仕事だってします。それがお焚き上げ用の魔女人形だって」
それにシリルさんは目を瞬かせたあと、眉間に皺を寄せた。
「断ることはできないのか?」
「金払いいい仕事なんですよ。材料だって安価ですし、つくるのだって早いですし」
「それで自棄起こすようだったら全然駄目だろ」
「……そんなこと言ったって。私だって本当は嫌ですよ。ただお焚き上げするためだけに等身大人形つくるのなんて。そんなの自分でつくってくださいって思いますし」
「お焚き上げ人形ってあれだな? 夏至祭のときに焼く奴だな?」
「はい……」
しばらく考えていたシリルさんは、やがて腕を組んでから答えた。
「そういえば、お前の仕事の納期はどうなっている?」
「はい? 今はちょっと忙しいですけれど、夏至になったら暇になります、かねえ……」
「夏至の直前は?」
「まあ……その頃には今よりは暇になるかと……」
「お前や人形師みたいな、魔女人形をつくるのが嫌なら、いっそのこと作り方を教えて、お焚き上げしたい人間につくらせたほうが早くないかと思ってな。材料も安価、値段も手頃となったら、教会あたりの孤児の奉仕活動の一環にもなるだろうし」
「あ、ああ……!」
私はポンと手を叩いた。
自律稼働の人形を売っている人形師なんて、魔女しかいない。そして魔女はいくらよく売れるからって、魔女人形をつくりたくはないんだから。
もう材料だけ売ってつくってもらったほうがいいし、むしろそれらの作り方を教会に教えてしまえば、教会で定期的に開催されているバザーみたいに教会の維持費に回してもらえるんだ。
「今度教会に話を付けてみます! 人形師仲間にも声をかけて! ありがとうございます。私……いつも夏至は嫌だったんで」
夏至になったら、どこかで魔女人形のお焚き上げが行われ、それが見世物として屋台が出される。それが嫌で、その時期になったら家から一歩も出ずにミントティー飲んで寝ていた。
それがなくなったら、私みたいに肩身の狭い人形師も減ると思うんだ。私はうきうきしながら、シリルさんに頭を下げた。
****
人形師たちが情報交換のために集まる喫茶店が存在する。
元々は、王都に越してきた魔女たちは単身だったり訳ありが多かったりで、店主の未亡人の魔女がその人たち用につくった店だったけれど。
今は魔女と呼ばれる人は宮廷魔術師として働いている人か、人形師としてひっそりと王都の端っこで暮らしているかのどちらかなため、ほぼほぼ人形師ばかりが通う店となっている。
どの人も多かれ少なかれ王都では珍しがられ、郊外では石を投げられる赤毛なため、外を出歩く場合は帽子やローブですっぽりと覆って隠してしまう髪も、ここでは皆露わにして、皆で話をしている。
「はあ……人形づくり教室ねえ……」
「駄目ですかねえ。どのみち自律稼働の歯車は魔力がないとどうにもつくれませんし、一番安い人形ですから、たくさん注文は撮れますけど利益自体はあまりないですし」
「うーん、王都にやってきた新入り人形師にとっては、一番仕事の取れる仕事だったからねえ」
駄目かあ……。そう思ってしょんぼりしていたものの。
この中だと一番の古株人形師のグウィネスさんが口を開いた。
「むしろ新入りに教会と交渉する方法を覚えさせるために、新入りに人形教室の補佐をするようにしたら、教会、新入り人形師、他の人形師もいいこと尽くしなんじゃないかい?」
「まあ!」
私は頭をペコペコと下げた。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「まあ年も取ったら、魔女人形をつくることになんとも思わなくなるけど、それでメンタルやっちゃう若い子は多いから。王都に溶け込む勉強と、教会と上手いことやれる方法を身に着けるためにもいいんじゃないかい? それに教会だって、毎度毎度バザーするほどお金もないからねえ」
「はい」
「しかしエスターにそんな入れ知恵するなんて、いい彼氏ができたねえ」
そうグウィネスさんに笑いかけられ、途端にどっと熱を持つ。
店主さんが入れてくれた少しスパイシーなレモネード。それを飲んで気持ちを鎮めようとしても、なかなか鎮まってはくれない。
「そんなんじゃ……ないですっ」
「エスターもここに来るまでは苦労してたしねえ」
「郊外じゃ、未だに魔女は出て行けって偏見運動強いから、人数多くてごちゃごちゃしている王都のほうが暮らしやすいしね」
「ここは手に職さえ持ってれば、魔女ひとりでも暮らしていけるから。そんな中で、エスターに惚れこむ人が出るなんてねえ……」
途端に皆が温かい眼差しを向けてくるので、いたたまれなくなる。
私はシリルさんを気にしてはいるけれど、あの人はどうなのかよくわからないし。
多分優しい人なんだとは思う。口が悪過ぎて、すぐお見合いしても断られるけど。
……あれ、本当にいい人なんじゃないの?
私がひとりで混乱しているものの、皆で教会の打ち合わせと一緒に、それぞれの店で売る夏至のお菓子についての話にまで話が飛んだ。
夏至になったら、メレンゲクッキーを売る習慣がある。皆で打ち合わせして、それぞれなにを売るのか決めるのだ。売っている人形によっては、つくっている暇がない店もあるからだ。
私は毎年毎年、予定がカツカツ過ぎて、売れるほどのクッキーを焼けた試しがない。日頃から私がメイド人形をつくって売りまくっていたことは皆知っている話だ。
私は今年も予定がカツカツ過ぎてできないことと、教会のほうならば回れそうな旨を伝えると「なら今年はよろしくね」と、人形づくり教室に出かけることとなった。
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