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9.回想・高校生編3
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冬の風がまだ冷たい放課後、
いつものように校門の前で楓を待っていた。
時が経ち、三年生。
そろそろ受験という言葉が頭に来る。
性格も良い、面倒見が良く、外面も良い、頭もそして良い。運動系はそこそこだ。
こんな条件の良すぎた彼。
彼は人気者で、やはり思っていた通りに生徒会長になってしまった。
我が高校は珍しく、三年の年に色々生徒会長を選び、二学期の期末前に引き継ぎを決める。
彼も生徒会側で二年時は書記だった。
あの後、彼が誰かと付き合ったとかは聞いてはいない。
周りも私達の前よりも少し冷えた温度差に少し冷静になっているのかもしれない。
私は、校庭の隅にひっそりと佇む小さなもみじの紅葉が終わり葉っぱが落ちる木の下に立っていた。
幼児の背の高そうな年長でも手が届く様な小さな木。
でも風が吹き抜け、周りの景色が段々と冷たい冬に染まる中、私の目に留まったのは、地面に落ちた一枚の紅葉したもみじの葉っぱだった。
その葉っぱは、鮮やかな赤色で、まるで小さな炎のように輝いていた。
私はしゃがみ込み、そっとその葉を手に取る。
指先で触れる。
切れ込みが深く、縁がギザギザとしている。
葉の表面は少しざらざらしていて、既に紅葉が終わりを迎えて落ち切った冬の訪れを感じさせる。
「小さな葉っぱにも、こんなに美しい。一瞬の煌めきがあるんだね……」
私は思わずつぶやいた。
幼い中学生三年になって高校一年生として必要な手続きとか色々必要な物を買う時に母親達と彼と一緒に来た時を思い出した。
次に入る学校。
一緒にこの木の近く、帰りながらも新しく入るこの高校の事で新たな門出に喜びながらも、遊んだことを思い出す。
あの頃は、何も気にせず笑い合って、無邪気に未来の事を彼が"ずっと変わらず"隣にいると信じ勝手に期待してしまった。
今は、彼に呼ばれていて此処にいるよと、スマホで連絡してから心がざわついている。
「小春!こんな端かよ、なんでこんな所に。」
声がして、向こうとするとそよ風にふわっと風が髪を巻き上げなびく。
髪を抑えながらもその方向を見るとカバンを片手に、嬉しそうに走ってくる彼の姿を見た。
私は自然と、中学生と違って少しずつ私の背を抜かして、背が高くなって、筋肉を付けて変わって行く姿に笑顔になる。
そのはずだった。
「小春!」
息を弾ませながら駆け寄ってきた楓は、どこかいつもと違う顔をしていた。
「どうしたの、なにかあったの?いつもとなにか違うね。」
「うん、実はさ……」
彼は少し照れたように頭をかいて、だけどすぐに目を輝かせた。
「俺、都会の国公立大学に進学するんだ。推薦も前にもらえてたんだ。この前合格発表があってさ。」
「え……」
一瞬、時間が止まった気がした。
耳に届いた言葉の意味を理解するまで、少しかかった。
都会の国公立大学。
推薦。
つまり楓は、ここを離れるって事?
「すごいね……頑張ったんだね、生徒会長もしてたし、完璧だね。友として誇らしいよ。」
私の全ての脳内を振り出し切って、思考が停止しかけながらも、彼を微かにも思ってもなかったすごい事をしたから、彼を褒めようとした。
ようやく出たそれだけ言葉にして、私は無理やり笑った。
彼がその後、勉学励んだ甲斐があったよ、あの難関の大学に行けるんだと全国有名ランキングにも載ってる様な有名所である大学の名前とその大学の画面を見せてくれながら言った。
本当に友として、すごいと思うんだ。
生徒会長なんて、実権は無いのに、役割としては色々あるし、面倒だ。
「うん。本当はわかった時に……言おうと思ったんだけどな。なんか言い出せなくてね。まぁ、これからが本番だけどな。」
楓はいつものように、朗らかに笑う。
その笑顔が眩しすぎて、
目の奥が熱くなった。
本当は、『寂しい』って言いたかった。
『私から離れて、遠くに行かないで』
って、言いたかった。
喉まででかけた言葉を飲み込む。
けど、そんなこと言えるわけがない。
彼の夢を、縛りたくなかった。
だって、推薦はそんなに簡単には取れない。
そして、私は彼の人生において、なにもあげられないし、変えたく無かった。
だから代わりに、私はたった一言だけを花向けとして最後に口にした。
「……頑張ってね。」
それだけ。
それで精一杯だった。
「ありがとう」
彼は笑った。
「ごめん、これから親が迎えに来ているからさ。一人暮らしするから、色々必要だろうって買い物行く事になったんだ。またな、小春。」
春の風のように軽やかに手を振って、走ってその背中が遠ざかった。
どうしても“行かないで”が言えなかった。
ただ、唇の奥でその言葉を噛み殺した。
残されたのは、まだ寒い風と、いつのまにか泣くのを堪える為に手を握っていた手の中でいつのまにかしわくちゃになった葉っぱだけ。
あの時、ちゃんと想いを伝えていたら、今とは少し違う未来があったのだろうか。
手を開き、手の中にある葉っぱをじっと眺めながら、自分の心の中にある感情を整理しようとした。
過去の思い出と、これからの未来を考える瞬間。
私は紅葉の葉をそっと地面に落として、"あるはずの未来の一欠片"とお別れして叶わない初恋を仕舞い込み、深呼吸をした。
新たな一歩を踏み出すために、心を整える。
「忘れようか、私。さようなら、楓。」
楓は孤高の人だ。
そう思いながら、家へと帰る。
楓と私の道はあの時掛け違い始めたんだ。
その日、私はスマホを操作してスレッズから彼の連絡先を消して、親に頼み込み、実際時々迷惑メールが来ていたのでスマホの番号も変えてしまった。
それを彼と偶然会って話した事もあるが、"スマホが壊れた"と嘘を言って新たな番号を話さなかった。
彼はムッとしていて、少し不満そうだったが、引っ越しの支度をしていて忙しそうだったから気が逸れたの皮切りに話を逸らした。
彼も私に遠くへ行くのを黙っていたし、色々強く言い出せにくくなったのか言わなかった。
それに、母親にも楓と少し言いにくい関係になったと本人には伝えないでと誤魔化したが母親は見抜いていたらしく、何も聞かずにいてくれた。
三年だった為に、学期の登校義務が実質無く、通常授業は二学期で終了。
卒業が近い為に学校を休んでも良いそろそろ長い休みが始まり、私達はそれぞれの道へとフェードアウトしていった。
いつものように校門の前で楓を待っていた。
時が経ち、三年生。
そろそろ受験という言葉が頭に来る。
性格も良い、面倒見が良く、外面も良い、頭もそして良い。運動系はそこそこだ。
こんな条件の良すぎた彼。
彼は人気者で、やはり思っていた通りに生徒会長になってしまった。
我が高校は珍しく、三年の年に色々生徒会長を選び、二学期の期末前に引き継ぎを決める。
彼も生徒会側で二年時は書記だった。
あの後、彼が誰かと付き合ったとかは聞いてはいない。
周りも私達の前よりも少し冷えた温度差に少し冷静になっているのかもしれない。
私は、校庭の隅にひっそりと佇む小さなもみじの紅葉が終わり葉っぱが落ちる木の下に立っていた。
幼児の背の高そうな年長でも手が届く様な小さな木。
でも風が吹き抜け、周りの景色が段々と冷たい冬に染まる中、私の目に留まったのは、地面に落ちた一枚の紅葉したもみじの葉っぱだった。
その葉っぱは、鮮やかな赤色で、まるで小さな炎のように輝いていた。
私はしゃがみ込み、そっとその葉を手に取る。
指先で触れる。
切れ込みが深く、縁がギザギザとしている。
葉の表面は少しざらざらしていて、既に紅葉が終わりを迎えて落ち切った冬の訪れを感じさせる。
「小さな葉っぱにも、こんなに美しい。一瞬の煌めきがあるんだね……」
私は思わずつぶやいた。
幼い中学生三年になって高校一年生として必要な手続きとか色々必要な物を買う時に母親達と彼と一緒に来た時を思い出した。
次に入る学校。
一緒にこの木の近く、帰りながらも新しく入るこの高校の事で新たな門出に喜びながらも、遊んだことを思い出す。
あの頃は、何も気にせず笑い合って、無邪気に未来の事を彼が"ずっと変わらず"隣にいると信じ勝手に期待してしまった。
今は、彼に呼ばれていて此処にいるよと、スマホで連絡してから心がざわついている。
「小春!こんな端かよ、なんでこんな所に。」
声がして、向こうとするとそよ風にふわっと風が髪を巻き上げなびく。
髪を抑えながらもその方向を見るとカバンを片手に、嬉しそうに走ってくる彼の姿を見た。
私は自然と、中学生と違って少しずつ私の背を抜かして、背が高くなって、筋肉を付けて変わって行く姿に笑顔になる。
そのはずだった。
「小春!」
息を弾ませながら駆け寄ってきた楓は、どこかいつもと違う顔をしていた。
「どうしたの、なにかあったの?いつもとなにか違うね。」
「うん、実はさ……」
彼は少し照れたように頭をかいて、だけどすぐに目を輝かせた。
「俺、都会の国公立大学に進学するんだ。推薦も前にもらえてたんだ。この前合格発表があってさ。」
「え……」
一瞬、時間が止まった気がした。
耳に届いた言葉の意味を理解するまで、少しかかった。
都会の国公立大学。
推薦。
つまり楓は、ここを離れるって事?
「すごいね……頑張ったんだね、生徒会長もしてたし、完璧だね。友として誇らしいよ。」
私の全ての脳内を振り出し切って、思考が停止しかけながらも、彼を微かにも思ってもなかったすごい事をしたから、彼を褒めようとした。
ようやく出たそれだけ言葉にして、私は無理やり笑った。
彼がその後、勉学励んだ甲斐があったよ、あの難関の大学に行けるんだと全国有名ランキングにも載ってる様な有名所である大学の名前とその大学の画面を見せてくれながら言った。
本当に友として、すごいと思うんだ。
生徒会長なんて、実権は無いのに、役割としては色々あるし、面倒だ。
「うん。本当はわかった時に……言おうと思ったんだけどな。なんか言い出せなくてね。まぁ、これからが本番だけどな。」
楓はいつものように、朗らかに笑う。
その笑顔が眩しすぎて、
目の奥が熱くなった。
本当は、『寂しい』って言いたかった。
『私から離れて、遠くに行かないで』
って、言いたかった。
喉まででかけた言葉を飲み込む。
けど、そんなこと言えるわけがない。
彼の夢を、縛りたくなかった。
だって、推薦はそんなに簡単には取れない。
そして、私は彼の人生において、なにもあげられないし、変えたく無かった。
だから代わりに、私はたった一言だけを花向けとして最後に口にした。
「……頑張ってね。」
それだけ。
それで精一杯だった。
「ありがとう」
彼は笑った。
「ごめん、これから親が迎えに来ているからさ。一人暮らしするから、色々必要だろうって買い物行く事になったんだ。またな、小春。」
春の風のように軽やかに手を振って、走ってその背中が遠ざかった。
どうしても“行かないで”が言えなかった。
ただ、唇の奥でその言葉を噛み殺した。
残されたのは、まだ寒い風と、いつのまにか泣くのを堪える為に手を握っていた手の中でいつのまにかしわくちゃになった葉っぱだけ。
あの時、ちゃんと想いを伝えていたら、今とは少し違う未来があったのだろうか。
手を開き、手の中にある葉っぱをじっと眺めながら、自分の心の中にある感情を整理しようとした。
過去の思い出と、これからの未来を考える瞬間。
私は紅葉の葉をそっと地面に落として、"あるはずの未来の一欠片"とお別れして叶わない初恋を仕舞い込み、深呼吸をした。
新たな一歩を踏み出すために、心を整える。
「忘れようか、私。さようなら、楓。」
楓は孤高の人だ。
そう思いながら、家へと帰る。
楓と私の道はあの時掛け違い始めたんだ。
その日、私はスマホを操作してスレッズから彼の連絡先を消して、親に頼み込み、実際時々迷惑メールが来ていたのでスマホの番号も変えてしまった。
それを彼と偶然会って話した事もあるが、"スマホが壊れた"と嘘を言って新たな番号を話さなかった。
彼はムッとしていて、少し不満そうだったが、引っ越しの支度をしていて忙しそうだったから気が逸れたの皮切りに話を逸らした。
彼も私に遠くへ行くのを黙っていたし、色々強く言い出せにくくなったのか言わなかった。
それに、母親にも楓と少し言いにくい関係になったと本人には伝えないでと誤魔化したが母親は見抜いていたらしく、何も聞かずにいてくれた。
三年だった為に、学期の登校義務が実質無く、通常授業は二学期で終了。
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