初恋の幼馴染に助けてもらったと思ったらヤンデレだった

音羽 藍

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26. 閏年のバレンタインデー

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 バレンタインデーまで、明後日になった。

 私はキッチンの棚の中に隠した100均のラッピング用品達を眺めた。

 そして、ようやく完成した渡す予定のお気に入りの小さなラッピングした箱をそっと撫でた。

 可愛いハートを持つローグ君が描かれた小さな紙袋。

 中には楓のために作ったガトーショコラ。

 仕上げるまで色々なレシピを何度も失敗した。

 レシピによって、美味しいかったり微妙……ってなったりした事があるから、その中でも美味しいと思えるものにした。

 この時期色々なサイトやアプリを見つつも美味しそうと思うレシピがよくあるしと悩んだ。

その中でも美味しそうなガトーショコラを作ろうと選んだ。
理由は彼が好んでいそうだからだ。

彼の為に作る物であるからと選んだが、久しぶりになので焦った。

 楓にバレたくなくて、楓が居ない時を狙って頑張って作った。
 時々彼がキッチンに来そうになって、廊下の足音がすると、私が楓を私の部屋に連れて入って誘惑……した。

 あぁ、恥ずかし過ぎた。

 なぜか、嬉しそうに仕方ないなと彼がノッてくれたから助かったけど。

 でもなにより楓の事を考えて、彼の好きな事を考えて、彼の事しか考えていないのが恥ずかしい。

 そして、ソーシャルメディアを見ていてもできましたとプロレベルに映る作品を見て、余り上手く出来ない不器用な自分がちょっと惨めになる。

「……今年こそはちゃんと渡したい。」

 自分を励ましながらもようやく作り上げた。

 高校の時は、彼が他の女の子からプレゼントされていたのを見てしまって、逃げだしたんだっけ。

 後一歩のところでうまくいかなかった。

 気づけばこうして、私は彼に面と向かってぶつかってない。

『ずっとあの頃から燻っている想い』が、胸の奥にずっと下火で燃えながらも残っていた。
 私の初恋を何度も失恋だと泣きながらも忘れようとして溶かして、固めた。

この恋の煌めきも恋を感じる楽しさ

 そして今回こそは、楓とこうして同棲してやり直せてようやくここまでこれたのに。


そう、美しき世界は残酷だった。




「……本当に行くの?」

 スーツケースのファスナーを開ける音が、やけに大きく響いた。

 楓は申し訳なさそうに振り返る。

「倉庫の火事、結構ひどかったらしくてさ。うちの会社の担当品も被害が出ててな……X国に確認に行かないといけないんだ。今、すぐに確認できるのが子供がいないのが俺ぐらいなんだよな。ニュースにも出てるだろう?X国の倉庫大火事で調べれば出てくるから。」

 わかっている。
 仕事だと言う事は。

 楓は社会人だし、優先しなきゃいけない事も。



……いつも世界は残酷だ。

 でも胸の中ではやっと今年は渡せるんだという期待と恋人になれるかもしれないという淡い希望がガラスのコップから溢れて行くのを止められなかった。

「ごめんね、楓……責めたい訳ではないの。バレンタインを一緒にいられると思ってたから……」

 消え入りそうな声になって、思わず涙が溢れてしまいそうだ。

「ほんとごめん、仕事が大事だとわかっているから……大丈夫。」
「……小春を今独りにしたら……今だって‼︎本当は!」
「しょうがないのはわかって……いるから。」

 私は泣きそうになる身体を止められない。

私は仕事と私どっちが大事なの?なんて言いたく無いし、だるい女になりたくない。

……ただのバレンタインデーだから。別になにもない日になるだけで。誰かに迷惑かかる事ではない。

それにここの光熱費も家賃も色々払ってくれてるのは、彼のお金だ。
私は頭では、彼が仕事に行く事は正しいと理解はしている。

……でも、感情は別で。

彼と居たかった。


がっしりと彼に引き寄せられて、震える私の身体を抱きしめてくれた楓の背に手を回した。

「しょうがなくなんて、ないだろ……!」

 震えた楓の声は、怒っているようで、でも泣いている様に聞こえていた。

「やっと……やっと今度こそは小春とバレンタインを過ごせると思ったのに……ずっと前から一緒にって決めてたさ……俺だって一緒に居たかった!」

 感情がこらえきれずに滲みだした涙が、頬をすべって落ちる。
彼も一緒に居たいと強く思ってくれたとわかる。

「離れたくない……ほんとは、行きたくなんかない!」

 怒っている理由な仕事でも火事でもなく、どうしようもない現実と運命。
  
「……ごめんな。俺だって、小春が今年頑張ってるの、気づいてたのに。」

ギュッと抱きしめてくれた彼が身を引き、視線をあげると彼の沈んだ泣き顔が見えた。

「……気づいてたの?」
「隠してるつもりでもわかるよ。甘い匂いもしてたし。渡したいって普通なら思ってるんだろうなって。」
「えっ、わかっていたの!?じゃあ、だったらあの時はっ」

 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。
 見透かされていた恥ずかしさと、あの時必死になって彼を誘惑して止めたのは。

 それでも嬉しい気持ちと困惑と、恥ずかしさが混ざり合った。

「ご、ごめん。わざと、わかってて行こうとしてた。それに、君が可愛く必死に誘惑してくるのが……そそるからその……」
「かーえーでーーー」
「わざとわかってて楽しんでました、ごめん。」

楓の胸元を掴み、ぐらぐらとゆする。
泣き顔でヘラっと笑う彼を怒りに怒れない。

「じゃあ……今から少し早いけど渡すから。」
「うん、受け取るよ。ありがとう、すっごい嬉しい。」

 赤くなり、喜んでいる彼をそっと抱きしめた。
 まるで離れたくないと伝えるように、少し強くしてくれた。


「仕事終わったら、すぐ戻るから!また来年も楽しみにしてる。」
「……そ、そうね!来年もあるよね。」

 私はキッチンの棚の方に移動するために歩いて、扉が閉まる。

静けさが戻る。

 私は胸の前で手をぎゅっと握りしめた。

 彼が帰ってきたら。

その時の、週末に伝えたい。
だから、その時は答えを教えて欲しい。

恋人としてなのか。

それとも……

ただの都合のいいキープの女なのか。
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