初恋の幼馴染に助けてもらったと思ったらヤンデレだった

音羽 藍

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42.不安とキス

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鏡を見て小さく息をついた。
楓にイタズラされてデコルテや首、耳に痕がついていたのだ。

 少し赤くなった痕を見て、彼の口車に乗せられて帰って早々にいとも簡単に手のひらで踊らされた私は少し悔しい。でも同時に彼に求められているという安堵もうまれる。

少し暫くぶりに出勤したのと、お店に常連のお客さん達がやってきて、心配していたとか話していたからか、色々対応していたら遅くなった。
 お店の外までにお迎えに来た彼が新しく入ったお店の中から後輩の声が響いていた。
 
たぶん、書店に新しく入った後輩に嫉妬しているのだと気がついた。

 なんでも彼の思う通りに動いていく気がして、少し気分が下がり、むくれた。

最初に同棲する時も、私が働く理由も家賃とか光熱費をまとめて支払う様にしようと彼にそれとなく言って共通の口座で行うとしようとしたら、簡単に彼に断られてしまった。

『あ、お金ならいいよ。気にしなくて良い、もう十分あるからさ。』

そう、彼にまるで今日の夕飯のメニューを決めるよりもどうでも良さげに言われてしまったのだ。

『え?』

私はその時、まるで狐につままれる様な気持ちで同棲という、未知の領域であり緊張する瞬間である同棲のお金の管理の部分だった。

それを簡単に別に良いよ?とサラリな感じだったのだ。

『え……だったら、私が家事負担するから。』

そう言って、少しでも役に立とうとしたが、彼は微笑んでそれをじっくりと眺める様に見ていた。

『重たい仕事は俺がするね、ゴミ出しとかさ。干すのも乾燥機あるから使って……気になるなら洗濯物別でも……良いけど、どうする?小春』
『洗濯機で洗うからそんなに気にしない……わよ?』
『そう?なら別に良いんだ。』

何故かこの質問で緊張していたのか、私は彼の方を向くと無表情だった彼の顔はふにゃ、とても嬉しそうに頬や唇をゆがめたのだ。

その時はキッチンで調味料などが入った小瓶を並べていた。

背後はまだ余裕があるのに、彼にぴったりとゼロ距離感で腰を押しつけられて彼の手が腰に置かれて、とても私はドキドキとしてしまった。

『これをハンバーグに入れてくれたのが、小春の料理で美味しかったなぁ。』
『また、作るわよ?あれは私も好きだからね。』
『小春の手料理が毎日食べれるだけで、俺は幸せだよ。こうして隣に入れられるのも嬉しいしさ。』

そうした何気ない会話をして、私はそう思ってくれるのが嬉しかったのだ。

思わず、私は嬉しさからニコニコしちゃって、んふと声を漏らして、口元に手を当ててドキドキとした。

……だってストーカーが終わったら、私達の関係は終わってしまうかもしれない。

そんな事を考えたらずきりと心が痛たかったなと当時の事を思い出した。
 



 しかし、今は"恋人"だ。
 確かに、彼の手のひらの上でコロコロされる。
 でも、それも悪くはない。

 ……少しは私の意見も尊重して欲しい。

 洗面台の場所から出て、キッチンに向かうとリビングで背を伸ばした彼がいた。

 今日の仕事が忙しかったのか、少し疲れた表情が魅力的に感じてしまいキュッと下心の目で見てしまった。
 思わず、見てしまった事を恥じた。

あの不快に感じた目線を好きな彼に向けてしまったと思い、私はそんな自分が気持ち悪いと感じた。

 キッチンに向かい、極力楓の方を向かない様にしようとしていた。
 乾燥器にかけていた乾燥した夕食で使った皿を片付けた。

肩を掴まれて、ハッとして振り返るといつの間にかに背後に来ていた楓が逃げ場を塞ぐようにシンクに両手をついて私を挟まれた。

 私の体は、彼の体温と、同じボディソープの微かに甘い香りに閉じ込められる。

楓が、心配そうに眉を寄せてこちらをのぞき込む。

「……ごめん。俺、なんか嫌なことした?」

 その声が、やけに優しかった。

 胸の奥がちくりと痛んだ。

 違う。

彼は何も悪くない。

悪いのは全部私の方だ。

「ううん、違うの。」

 慌てて首を振る。
色々な心の中の動揺を隠しきれなかった。
 今まで彼にどう接していたっけ?

「ただ、私がちょっと……色々考えちゃって……だから気にしないで。」

 自分でも、何を言ってるのかよくわからない。
楓は、どういう事?という風に、きょとんと考えた後、ふっと笑った。

 その純粋そうな笑顔を見て、余計に胸が締めつけられた。
 
「私は楓の事が好きよ。」
「俺もだよ、小春は考えていたんだ?教えて?」
 
 胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
 
「ちょっと怖くなっちゃっただけよ。」
「どんな?」
「私が楓を愛している事が不快にならない?不快になった事って今まである?」

 私は笑おうとした。けれど、うまく笑えなかった。
 それでも、彼の目をまっすぐに見つめて言う。

「……こうして、ずっと一緒にいたいの。」

 自分でも驚くほど、声が小さくて震えていた。

「……すぐに言ってくれる?直しておきたいから。」
 
 寂しそうに微笑むしかできない私を、彼は黙って見つめていた。

 ほんの一拍置いて、彼が小さく口を開く。

「……そんな事はない。」

 その声は、風に溶けてしまいそうなくらい静かだった。
 けれど確かに、私の心には届いていた。

 あたたかくて、優しくて、涙が出そうになるほどに。

「不快になるってそれって本気で言ってる?」

気づけば、彼の手がそっと伸びて私の頬を包み込むように這った。指先が耳の裏を通って這わせられる。
 でも逃がさないという様な熱い視線と間近で彼の吐息さえも鼻にかかる。
 
「不快なわけないだろう……むしろ、足りない。」

彼が当たり前な事聞いた時の様に、ニヤリと笑った。

「俺がどんなに小春の事考えているか、わかってない。小春の愛は常時足りてない。もっと俺に溺れてほしい。俺なしでは生きていけないように。」
 
 視線が絡まったまま、時間がゆっくりと溶けていくようだった。
 
「その声も、身体も考える事も全部俺だけに。一生、飽きるなんてないからさ……小春は俺のだけのだから。」
「……ありがとう。」
 
彼は満足げに目を細めると、狭まった私達の間の距離は更に狭まり、楓が顔を傾けた時に私は目を閉じると唇にあたたかいものが触れた。
 
 ただ優しくて触れるキス。
 
 まるで、私の全てを埋めるようだ。
 
 心が確かめ合う、私達のキスはゆっくりと舌先を絡め合う。
 後頭部を支えられて何度も重ね合い、くちゅくちゅと音がしても恥ずかしさよりもただ本能に従う。
 それはまるで私が彼の所有物であり、前から変わっていない愛を再確認させるための、深くて長いキスだった。

 ふたりの鼓動だけが響いていた。
 怖さも、不安も、その瞬間だけは消えていた。
 ただ、彼のぬくもりだけが、確かにそこにあった。

 ようやく、唇が離れたあとも、心臓の鼓動だけはバクバクと早鐘をうち、うるさい程だった。
 
どうしていいかわからなくなるくらい、思考が散漫する。
 
 そんな言葉が喉の奥で震えた。
 
 顔に熱が集まって、頬が火照るのがわかる。
まだ平日なのにシタくなっちゃった。
 思わず、寝室に行こうと声を出そうと口を開きかける。
 
 
 \チャラチャラ~お風呂ができました/

 
 
 知らせる電子音が、空気を切り裂くように鳴り響いた。
 
 現実に引き戻される音に今まで、高まっていた煩悩が冷まされる。
 
「ふっ」
「もう……」
 
 私達は目を瞬かせて、少し照れくさそうに笑いあった。

 けれど、頬の熱はまだ引かないままだった。
 楓は苦笑して、首の後ろをかきながら立ち上がった。
 
「……なんか、タイミング悪いな。」
 
 気まずそうに笑うその顔を見て、さっきまで私とキスしてたのにと考えると、妙に可愛いなと思ってしまった。
 
「さて、片付け始めるわ。」
 
 照れ隠しのつもりでわざと終わりと言う様に片付けを強調していって、振り向いて流しの方を向く。
 背中越しに、彼の低く笑った声を感じた。

「……今回は特別に、許してやるか。明日も仕事だろうからな。」

 上から目線のその言い方に、思わず振り返りたくなったけど……やめた。
 顔が熱くなってるのが、絶対にバレる。

「も、もう……ばか」
「はは、小春になら罵られても可愛いな。」
 
 小さく呟くと、彼がますます楽しそうに笑って去っていくのがわかった。

 “今回だけは許してやるよ”。

 その言葉の意味を、頭の中でリフレインしている。
まるで、次もあるみたいな言い方て、ぞくりと何かが走った。
 
 考えちゃだめだ。
 そんなの期待しているみたいだ。
 けれど、どうしても顔の熱が引かないまま、私は黙々と皿を片付けて、明日の弁当を用意し始めた。

 片付けとお弁当の用意が終わる頃には、心の中がようやく少しは治ってきた。
 好きな人同士だったら良いけど、見知らぬ人からの性的な目線はやはり不快に思うんだと結論が出た。
 
 ため息をひとつついて、手をタオルで拭く。
 
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