歴史酒場謎語りーー合掌造りの里五箇山と硝石

藍染 迅

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仕切り直して六杯目 五箇山は硝酸バレー?

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 切り刻んだ葛は、桑の木を育てる肥料にも使われたことだろう。実にうまくリサイクルの輪が回っている。葛で育てた桑を食べて蚕は生糸を作り糞をする。其の糞と雑草、葛を混ぜ込んで硝石を製造するとは。

「まったく無駄がないな。しかも仕入れ費用ゼロで再生産を繰り返している」
「どう考えたって儲かるでしょう? そりゃあ、あんな立派な合掌造り家屋を維持できる筈さ」

 そう思って考え直すと、山里の鄙びた風景と思っていたものがIT長者の豪邸に見えてくる。

「凄まじい産業機密だな。よくぞ幕末まで隠し通したものだ」
「余所者を入れない閉鎖社会だからこそ、できたことさ。土師氏末裔の結束を『結』と呼んだのだろうよ」

 とはいえ、秘密はいつか漏れるもの。硝石の秘密を得ようと、戦国大名の勢力はしのぎを削ったのではなかろうか? 五箇山を支配下に置いていた石山本願寺は、鉄砲すなわち火薬の軍事力によって最後まで信長を悩ませた。

「信長がさっさと上洛せず、越前だ北陸だと背後に拘っていたのは、五箇山硝石の存在が不安だったからかな?」
煙硝えんしょうだけに、さぞや煙たかった・・・・・ろう」
「利休はそれだけの重大機密を握っていたから、信長、秀吉に重用されたのか――」
「喫茶店のマスターを上場企業の経営顧問にする訳ないもんね。いや、優秀なマスターがいるかもしれんけど」
「千利休――。ただの茶人などではなく、とんでもない傑物だったようだな」

 須佐は残った酒を一気に飲み干すと、言った。
「利休の話は、これまた長くなるぜ。ことによったら奈良・飛鳥まで遡らないと説明がつかん」
「茶坊主恐るべし。また日を改めることにしようか」

 私もゆっくりとグラスを空けた。結構なお点前で――。

(完)
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