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第14話 合宿は終了しましたが、きれいなお姉さんに会うまでが遠足です!

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「結果発表~!」

 2時間後、収穫祭が執り行われました。

「トビー、ウサギ2羽、雉1羽、うずら3羽」

 さすがだよね。天空より舞い降りる音速の狩人。

「アリスにゃん、セリ、天然ワサビ、行者ニンニク、茗荷、山芋など山菜多数」

 まさか子猿形態に変身して山菜狩りに行くとは……。変身能力、奥が深い。

「式神軍団、山葡萄、舞茸、ツバメの巣など貴重食材ゲット!」

 数の論理は強いね。運ぶ量が限られていたみたいだけど。

「最後に爺……釣果ゼロ。役立たずの証明完了!」
「いや、たまたま魚がいなかったんだって。釣りは運次第ですから」

 次の機会に期待して頂こう。

「アリスにゃんは甲斐性なしの兄を必死に支える美少女という設定でやっていくニャ」

 聞こえが悪いわ! ちゃんと働いてるっちゅうねん。

「また競輪? もうギャンブルは止めたって言ってたのに……」

 止めんか、そのメロドラマ設定!

「次は頑張るから、勘弁して」
「最初から頭を垂れておけば良かったニャ」
「分かりましたよ。お前は鬼嫁か?」

 下僕、いや有力メンバーの皆さんが獲ってきた食材はバーベキューにして、美味しく頂きました。

「1週間の合宿も今日で終わりニャ。結局爺は1匹の魚も釣れなかったニャ」
「ぬー。そうだけど、彫金の腕は上がっただろ?」

 毎日午前中は、彫金の腕を磨いたのだ。

「刮目するニャ。爺はめでたく『中の下』にランクインなのニャ!」
「嬉しいけど、微妙だなあー。『上』は無理でも『中の上』は目指したいね」
「魚は釣れなかったニャが、合宿の成果は大きいニャ」

 式神軍団が集めた金、銀、宝石などの鉱物類。トビーがハントした動物の毛皮。アリスが集めた薬草類。

「工房を始めるには十分な素材ニャ」

 彫金だけでなく、皮革製品も作れるし、薬の調合も出来る。

「それにしても、トビーが熊まで倒して来るとはなあ」
「ステルス攻撃機の威力は絶大ニャ。爺が解体の練習をする教材にもなったニャ」

 うん。ARガイダンスのお陰で何とかなったね。モノ作り革命じゃ。

「魚は釣れなかったけど、細工の腕は上がっただろ?」
「アリスにゃんも鬼ではないニャ。多少の進歩を認めるのにやぶさかでないのニャ」
「でしょ? で、これよ。ジャジャン!」

 取り出したのは、毛鉤けばりである。ほら、トビーが雉とかうずらを狩って来たから、羽根や羽毛で作ってみたのよ。
 針金を作って曲げて、返しを付けてと飾職の練習にもなったし。

「こんなのも売り物になるんじゃない?」

 動画サイトの釣り動画とか、結構好きだったんだ。自分では釣りはしなかったけど。
 釣れても釣れなくても、自然の中で竿先に没入する風情が楽しそうだなと思ってね。

「今日は街に帰る日だけど、まだ時間はあるでしょ? 擬餌針の試運転をしてもいいかな?」
「悪足掻き感は拭えないニャが、爺の努力に免じて昼までは自由時間にするニャ」
「よーし! やったろうじゃないの!」

 で、擬餌針「くったくん・・・・・」を投入してみると、あら不思議。昨日までの不振が嘘のように入れ食い状態ではありませんか?

「うほほほ。また来たー。そうかあ。そんなにこの針がええんかあ」

 やっと釣れたという喜びと、作品が役に立ったという手応え。かー、ビール飲みてえ。

「爺の運勢はどうなっているのか、判定に苦しむニャ。脈絡なく当たりを引くニャ」
「いや、実力ってことでいいんじゃない?」
「それはないニャ」

 イワナだのヤマメだのを10尾ほども釣り上げた所で、くったくんの試運転は終了。美味しいお昼ご飯を頂きました。
 合宿は有終の美を飾ることが出来た。

「トビーもお魚美味しいって言ってたし、合宿は大成功だったね」
「確かに。山に籠って生きて行ける目安も付いたニャ」

 そうだな。人間社会から弾き出されたとしても、生きて行くのに不足はないな。話し相手の仲間がいるからね。

「ぶひひん」
「うん。話さなくてもアローは可愛い」

 山を下り、途中で馬車を回収して、元来た道を街へと戻る。

 念のため馬車の車輪を鎖と南京錠で施錠しておいたが、荒らされもせず無事だった。
 毛皮や燻製肉、鉱石類、そして細工品の数々。行きに比べて帰りの荷物が増えているのが頼もしい。

「狩猟や採集に出掛ける人は、帰りの荷が重ければ足取りが軽くなり、荷が軽ければ気が重くなるんだろうね」
「どんなに猟の名手であろうと、獲物に出会わぬ日もあるニャ」

 そうだよなあ。それを思うと、式神軍団の全方位センサーを装備した俺達はとんでもなく恵まれている。外れがないもんなあ。

「それなのに6日も坊主だった爺は、奇跡の人ニャ」

 いや、釣りは式神に頼ってなかったからね? 全部自力で頑張りましたって。だから釣れなかったんだけど……。

「おーい。停まれー。あれ、お前、久しぶりだなあ」
「お久しぶりです。ちょっと山に籠ってました。これお土産です」

 顔馴染みになった衛兵さんに、今回は燻製肉とイワナの一夜干しを差し入れた。

「おっ。何だ、悪いな。気を使わせて」
「お裾分すそわけですから。ご遠慮なく」
「そうか? 晩酌の肴に頂くわ。ほい、通ってくれ」
「どーもー」

 生活に余裕があると、心にも余裕が生まれるよね。潤いのある生活っていいわ。

「あっ! そうだ!」
「何だ! びっくりさせるな」
「ごめんなさい。新しい獣をテイムしたんで、ご紹介しておきます」
「また、何か捕まえたのか?」
「トビー! 降りといでー!」
「Kwaaaah!」

 フワサアーッと、ほとんど音も立てずにトビーが俺の方に舞い降りた。

「うおぅ! えぇー、ハヤブサか?」
「はい。森で仲良くなりました」
「はぁー。どうなってんだ、お前んとこは? 猫も馬も平気な顔してやがるし」

 ハヤブサは猛禽ですからね。普通の猫なら逃げ回るでしょうね。

「うちの子はみんなお利巧なもんで……」
「お利巧ったって、元は野生だったんだろう? どうやったらこんなに馴れるんだ?」
「やっぱり愛情ですかねえ。なあ、アロー?」
「ひひん」
「お前ら、会話してるみたいだな……」

 頻りに首を捻りながらも衛兵はトーメーの馬車を通してくれた。

 取り敢えず一旦荷物と馬車を住まいに運んでから、徒歩でゴンゾーラ商会に顔を出すことにした。街中で馬車を乗り回すのは、意外と邪魔なのだ。アロー君、いい子に留守番しててね。

「そういう訳でお久しぶりです」

 俺はしらっとゴンゾーラ商会に出頭してメラニーさんと面会していた。当然姐さんはお冠である。

「何がそういう訳だ? 貴様、言い付けはどうした。毎日報告しろと言って置いただろうが?」
 メラニーさんは柳眉を逆立てて、語気を荒くした。その件は、本当に申し訳なく。

「実は傷を負って倒れていまして。やっとまともに動けるようになったのが今日なんです」

 俺はアリスと相談した言い訳・・・をここぞとばかりに開陳した。可哀そうな被害者なんですよ、僕って。

「冒険者って荒くれ者が多いんですね。あイタタタ。7人で徒党を組んで、幼気いたいけな少年を袋叩きにするなんて……」

 体のあちこちにはちゃんと治り掛けの青痣だの、塞ぎ掛かった傷口だのを用意してある。痛いのは嘘だけどね。

「む、むう。傷だらけなのは見れば判るが……」
「新しい下僕しもべのトビーが無法者を何とか撃退してくれましてですね――」
「いや、ちょっと待て。下僕というのは何のことだ?」

 そこからかー。メラニーさんにはテイマーの実力を見せる機会が無かったからなあ。

「はい。ワタクシテイマーでして、野生動物を使役することが出来るんです」
「その、さっきから貴様の頭の上に座っている黒猫も下僕のひとつということか?」
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