うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅

文字の大きさ
41 / 80

第41話 棚ボタ式ダンジョン攻略を実地でやってしまいました

しおりを挟む
「不毛だった……。アンデッド・フロアはこの上もなく不毛だった」
「そう、気を落とすなニャ。収穫もあったニャ。電マ砲とか、電マ砲とか……」
「いや、それを言うならむしろ多能性スライム細胞だろう!」

 ノーベル賞物ですよ、本当に。この世界にノーベルさんはいないけど。

「スライム細胞はあります!」

 大声で叫びたいね。……興奮して、失礼いたしました。

「こんなフロアに未練は無いから、さっさと第5層に進もうや」
「異議なしニャ。だんだん魔法型モンスターが増えてきたニャから、第5層は魔法中心フロアかもしれないニャ」
「相手にとって不足なし! トーメー探検隊の実力を見せてやりましょう!」

 俺たちは、勝って来るぞと勇ましく階段を下りて行った。

 ◆◆◆

「お前んち、天井低くない?」

 そういう状況が俺たちの目の前に広がっていた。
 階段の間につながる通路は、床から天井までの高さが150センチしかない。

 たったこれだけのことで、ウチのチームにとっては大打撃だ。

「えーと、確認してみるか? アリスさん、スラ1、トビー、コビ1は言うまでもなく問題なしだね?」
「わん!」
「ハルバードが引っかかる? 横向きにしなさい。味方のお尻を刺さないように気を付けてね」

「おほん。それから俺自身は頭を下げれば何とか通れる。長い時間はきついけど」

 腰に良くないですよ。前傾姿勢は。

「問題はストーン5ニャ」
「ですよねぇ。デザイン上は分解して運べる予定だったのに、石化でばらせなくなっちゃったから」
「加工機械が無いので、ナノマシンで削ろうとすると時間が掛かるニャ」

 墓石の匍匐前進とか見たくありませんよ。

「ぷっぷるー」
「えっ? 行けるのか、スラ1」
「ぷーるるん」
「何と、宇宙生命体として漂流中に武闘派の寄生型宇宙生物から超強力溶解液の作り方を教わった? 宇宙貨物船で活躍した友達だって?」

 うわー……。いかつい交友関係ですこと。紹介しなくて良いからね、お友達は。

「その溶解液をもってすれば、ストーン5など豆腐同然……と」
「そうニャ。ニャッたら、こんな感じでメスを入れてほしいニャ」

 アリスさんが施工手順を3D-CAD図で発注してますね。呑み込みの早いことで。
 スラ1は俺たちの目の前で5体に分裂し・・・・・・、ストーン5の体を覆って溶かし始めた。

 ポタリ、ポタリ。

「スラ1がナノマシンに分乗して防御網を構成した時から分裂機能を持っていることは知っていたニャ」
「……アリスさん?」

「しかし、さすがに5等分に分かれて分業ができるとは予想していなかったニャ」
「……ええと、ちょっといいですか?」

 ポタリ、ポタリ。

「いや、もちろんボクにもできるにゃ。猫型でいるのはあくまでも趣味ニャ」
「これは、えぇえ?」

 ポタ、ポタ、ポタ。

「ボクが言っているニャは生命体として分裂・再合体を自由にできると言うニャは……」
「あの、アリスさん!」

「何ニャ! 人が話の途中でしょうニャ!」
「これ、ヤバい奴じゃないでしょうか?」
「何がニャ?」

 ポタ、ポタ、ポタ、ポタ……。

「ストーン5だけじゃなくて、ダンジョンの床も溶けてますけどー」
「逃げるニャ!」

「ぎゃあああああ!」

 ドン! ガラガラガラ……!

「ぷるぷるー」

 おっとー! 危機一髪スラ1が体を網上に広げて俺たちを掬い上げてくれた。
 ナイス・セーフティネット! 国の政策もこうであってほしいね。

「それはさておき、危ないじゃないか、スラ1! 工事中は周囲の安全を確認すること」
「ぷるぷるん」
「わかればよろしい!」

 さて、我々はどうなったんですかな?

 ピコーン!

「うん? 何か、光る宝箱的なものが出ましたけど?」
「ニャ? これは……光る宝箱ニャ!」

 見たまんまかい! しかし、なぜに宝箱がここに?

「ほえ? がれきの下から血が広がって来ましたね」
「ここ掘れ、ニャンニャンニャ」

 ニャンニャンに「ニャ」の語尾を付ける必要はないんじゃないでしょうか?

「スラ1頼む。むむむっ? 何かいますね。これは……」
「おおーっ! 不思議生物正横綱のドラゴンニャ!」
「何ですと? ダンジョンフロア崩落に巻き込まれて、ドラゴン暁に死す!」
「昼も夜も無いから、暁かどうか知らんけどニャ」

 どうなんでしょうねぇ、これ。楽して元取れ的な発想で言えば、「ラッキー!」って喜ぶところでしょうが……。良いのかなあ?

「世の中、結果がすべてニャ」
「身もふたもないな」

 それよりも宝箱! 箱の中身は何でしょか?

「スラ1、つんつんお願い!」
「ぷるぷる」

 ツンツン。

 パッカーン!

「うおっ! ま、まぶしいー!」
「こ、これは! これはー!」
「何だろう?」

 光が収まると、何やら青み掛かった透明に輝く玉のようなものが現れた。

「新型のテニスボールでしょうか?」

 ピコーン!

『説明しよう! 当ダンジョンのラスボスであるマッチョ・ドラゴンが倒されたので、討伐報酬である『スキル・オーブ』が開放されたのである!』

「こいつ、誰やねん?」
『説明しよう! ダンジョン・マスターの残留思念である!』
「どうでも良いけど」
『ええんかい!』

 ふうん。スキル・オーブねえ。

「どんなもんなのか、触れたらわかるかな?」

 はい、タッチ! 何やら温かい。わずかに振動しているようだな。何だかもやもやする。
 もわっと、頭の中に言葉が浮かび上がってきた。

『スキル:モンスターテイマー』

「えーと、夢だな。うん。何か、変な夢を見たみたい」
「むしろ爺のくじ引き運がすごすぎるんじゃニャいか?」

 いやいやいや。ここに来て引くか? テイマーて?

「アリスさん、わたくし久しくテイマーでやらしてもらってますけれども?」
「これはあれニャ。公認と非公認の差、的なやつニャ」

 えー、くれる物はもらっときますよ? もらいますけどが、既に間に合ってる感がすんごいんですけど。

「何だかなあ。火魔法とか、風魔法とかね。剣技とかでも良かったんだけど、今更テイマーかって思いがすごいっすね」
「長い目で見るニャ。今回のゴースト、レイスなんかもそうニャがナノマシンではテイムできない系統のモンスターがいるニャ。ひょっとしたら精霊なんて物もテイムできるかも。そう思ったら、夢のあるスキルニャ」

 そうかあ。アリスさんたらセールス・トーク上手ですね。ちょっとその気になって来ましたよ。

「目指しましょうかネ? 精霊魔法師兼悪魔召喚士。悪魔は小悪魔希望ですよ。精霊もちょっとツンデレ系のね」
「うっせー、爺。虫でもテイムしてろニャ」

 何でやねん? 虫は要らんわ。心が通わないでしょうよ? やっぱり精霊とかが良いかな? 今回死んじゃったドラゴンも惜しかったね。ドラゴンライダーとかは格好いいじゃない。

 あれ? そう言えば、俺ってドラゴン・スレイヤーの称号が付くんじゃねえの? 倒してますもんね、ドラゴン。形はどうあれ。

 ピンポーン!

『称号が発生しました』

 おっ! 来たか?

『新しい称号は「業務上ドラゴン過失致死犯」です』

 何やねん、その称号! 故意に殺すべきものを過失で死なせただけやって!
 もう面倒くさいからさっさとスキルを吸収しよう。

「やり方わからんが、叫んでみよう。『スキル習得!』っと」

 ピカーッ!

 腕の中の球体が眩い光を発し、胸に吸収されていった。こ、これは?

「あっつい小籠包を無理やり飲み込んだ時みたいな感覚だな」
「奇跡体験が急に中華街体験に置き換わっとるガナ」

 ふうむ。胸の中に何かが刻まれた感覚はあるな。
 試してみるしかないよね?

「再び叫ぼう。『モンスター・テイム!』っと」

「ぷぎゃああああ!」
「誰の声?」
「ワタクシ、ただいまテイムされたダンジョン・マスターの残留思念でございます。長いので『ダンマス』とお呼び下さい」
「いや、お前は要らんわ」

 そんなもんをテイムして何の得があんねん? 第一、姿形もないじゃんか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...