うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅

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第75話 ところで、増田って性別とかあるの?

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「それではボス、そいつのテイムをお願いします」
「はいよ。我トーメーの名において命ずる。下僕となって我に従え、じゅテイム!」

 今回もアドリブでテイマー・スキルを使ってみました。それっぽかったら良いかなって。
 俺のイメージ次第なんでしょう?

 ピカーン!

 倒れた骸骨博士の全身が黄金色に輝いた。

「おお! それでは、失礼いたします。強制入居!」

 ゾゾゾと鼠色の影が差して、何かが骸骨博士のボディーに侵入した。
 オカルト物で悪霊が憑りつくシーンみたいだなあ。憑りつかれるのが既に悪霊みたいなやつなんだけど。

「ぐおお! みなぎるぞお! ワタクシがみなぎっておりますー!」

 知らんがな。おとなしくボディ・スナッチしてくれないかなあ。

「貴様、何者だ! 我が肉体を乗っ取ろうとは?」

 あ、中の人が起きた。面倒くさいな、これ。

「ダイヤマン、もう一発やっといて」
「ま゛っ!」

 バビビビビ……!

「はい、ストップ」

 少し煙が黒くなってきた気がするけど、気のせいだ。
 味付けは濃いめくらいにしとかないと、冷めたら薄くなるからね。料理は関係ない?

「効きが悪かったのかもしれないから、もう1回テイムかけとこう。オイラが大将、アンタは子分。テイムしちゃうから!」

 決して投げ槍になんかなってませんよ? いろいろな言い回しにトライしているだけですから。

 パァーン。

 何かパイプオルガンの音色的なものに包まれて、黄金色の輝きが強まった。ような気がする。

「はっ? いったい何が?」
「あ、起きたかい?」
「ボス! ワタクシは気を失っていたのでしょうか?」
「ちょっとだけな。骸骨博士の抵抗が手ごわかったようだ」

 そんな感じにしとこう。自分が寝ていた間に飲み会が盛り上がっていたとか、聞きたくないでしょう?
 知らない方が幸せなことってあるのよ。

「そうですか。ボスのテイムにそこまで抵抗するとは、敵ながら天晴な奴」
「お前の器にふさわしいということだなあ。ふふふ」

 わけわからないけど雰囲気出しときましょう。部下のモチベーションを高めるのも上司の大切な役割ですよ。

「ははははは」
「わはははは」

 黄金骸骨博士姿で馬鹿笑いされても明るい気持ちにはなれないのだが、人を外見で判断するのはよろしくない。まだ耳から薄っすら煙が出ていることだし、立ち上がりは優しくしてあげよう。

「ところで人化の術とやらは使えるのか?」
「おお、そうでした。早速やってみましょう」

 黄金骸骨改め増田博士はくしはうにょうにょと口の中で呟いていたかと思うと、両手を組んでじっと俯いた。

 もももももん。

 と、音がしたような感じで。音はしないが、増田の骨に肉が付いて来た。
 人化の術と言っても見た目が人間になるだけらしく、血管やら内臓やらが作られるわけじゃなくて助かった。

 まるで粘土細工のように、皮膚感のある肉が盛り上がって来るだけだった。

「あれ? ところで、増田って性別とかあるの?」

 今までそういう・・・・目で見たこと無かったから。というか実体がなかったからね。
「声」は頭の中で聞いていただけだから、肉声じゃなかったし。

「本質ダンジョンですからねぇ。性別はありませんよ」
「だよね。そうだと思ったよ。てことはさ、どっちでも良いんじゃない?」

 外見は、ですよ。

「……構いませんが」
「警戒するんじゃないよ! 単純に見た目で和む方が良いでしょ? ジジイとかは間に合ってるわけよ」
「何となくわかりましたが、ご希望があるということでしょうか?」

 そりゃあるさ。
 ここでいきなりデブデブのジジイとか、ムキムキの親父とかになられてもげんなりするじゃないですか?

「えーと、お前メラニーさんて見たでしょ? あんな感じよ。きりっとしてシュッとして、ボンでキュッでボンね。わかる?」
「ダンマスとして人間の欲望と向き合って600年。その言葉だけで十分伝わりました」

 何事も経験だねえ。キャバクラの黒服と話してる感じがして来たけど、気のせいだな。

「じゃあ、折角だからあの線でお願いします」
「かしこまりました」

 増田は俺との会話中停止していた「肉付け作業」を再開した。
 偉いもんであっという間に美女ができ上がった。

 ベースは「骸骨博士」なんで黒の海パンとマントしか身に着けていない。
 至極扇情的な衣装だと思うのだが、途中経過を見てしまったのが良くなかった。

 どうしても「作り物」、「マネキン」を見ている感覚が頭から離れないのだ。フィギュア好きの方なら萌える場面かもしれないのだが。

 切ない思いを抱えつつ、俺は俺ダンに入って女性用衣料を調達して来た。
 せめてもの抵抗にパンツはTバックにしてやった。

「ええとね、増田のロールとしては有能な女性秘書という立ち位置で振舞ってくれる。やる気のない上司に呆れつつ、結局は面倒を見てしまう的な?」
「理解しました。気は進みませんが、調子を合わせましょう。仕事はしっかりやってもらいますよ?」

 うまいっ。その感じでお願いします。

「ところで性別が変わりましたので、名前を付け直して頂く必要がありますね」
「そうだね。卓士のままじゃまずいよね。増田……、増田……。美しくあれと願いを込めて増田美麗みれいとでも名付けようか」

 ピッカーン!

 俺が増田に名付けを行った瞬間、増田改め美麗の体が黄金色に輝いた。

「おっ? 何か名付け効果で、能力アップしたんじゃない?」
「どうでしょう? あら、リッチ時代の各種魔法行使能力を取り戻したようです」
「ほう。それは便利かもね。いいんじゃない」

 テイマー権限でいずれ俺にも魔法スキルが生えるかも? そう考えると、下僕は見た目だけじゃなくて能力を見て採用しないといけないね。何だか人事部門の話みたいだけれど。
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