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第35話 聖戦士召喚~そして道は開かれた
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<改造手術って、どういうつもりだ?>
戦いが終わった今、さらに改造を施す理由があるとはWO-9には思えなかった。
<魔核よ。魔核を原子炉の代わりに埋め込んで魔力と動力を得る動力炉換装手術よ>
<なぜ、今更そんなことを?>
WO-2がやっていることである。実績のある改造手術であったが、魔物がいなくなった今実施する意味があるのだろうかとWO-9は悩んだ。
<2人は帰りたくないの?>
アンジェリカは唐突に尋ねた。
<何だって? 帰るとは元の世界のことかい? もちろん帰りたいさ!>
<帰る手段があるならな? 100億の人が死んだんだ。残った人間だって苦しんでいるはずだ>
そんな時こそ休む必要も、眠る必要もない、砂漠でもジャングルでも活動できる自分たちのようなサイボーグが人の役に立てるはずだ。
何よりも……地球には仲間たちがいる。
<だが、どうやって帰る?>
<こっちには核爆弾なんて物騒な物は無いぜ>
2つの世界をつなげるには多重核爆発の膨大なエネルギーを必要とした。それを繰り返すことなどできるはずが無かった。
<繰り返す必要は無いわ。核爆発からわずか1日。時空のひずみはまだ残っているの>
<すると、オレ達2人が次元魔法を使えば道が開けるというのか?>
ブラストが目をぎらつかせた。
<その通りよ。可能性は最初から想像していたわ。魔核という形で必要なエネルギーを手に入れられたのは偶然だったけど>
「ブラスト」
「ああ、スバルよ、悪いが俺とお揃いの改造手術を受けてくれ」
「わかったよ。これで本当の義兄弟ってことだね」
「へっ、お前サンとは血を分けちゃいないが、まさか魔物の体を分け合うことになるとは思わなかったぜ」
<アンジェリカ。覚悟はできたよ。そうと決まったら、さっさと頼む>
<わかったわ。といってもワタシには体が無いから……>
<執刀医はこのブラストさまが務めるぜ>
WO-9は再び祭壇の上に身を横たえた。
<ブラスト、体の制御を頂くわね。じゃあ、始めるわ>
ブラストの体をコントロールしたアンジェリカが、WO-9のセキュリティを解除し開胸手術を開始した。
術式が確立されている2度目の今、改造は目が眩むようなスピードで行われた。
ごとりと取り外されたマイクロ原子炉が壇上に置かれ、代わりに魔核が埋め込まれた。
WO-9は賢者の石と魔核という全く性質の異なる動力源を装備したハイブリッドに生まれ変わった。
<終わったわ。すべての生き物を癒し、無生物をも修復する。まるで救世主のような力をアナタは手にしたことになるわ、スバル>
<やめてくれ。ボクにそんなものは似合わないよ。ボクが救うのは『世界』じゃない。目の前の『人間』さ>
<そうだな、スバル。オレたちはいつだって家族のために戦ってきた。これからだってそうさ>
そう言ってWO-2はWO-9の肩を叩いた。
「スバルが救世主なら、オレちゃんは大天使ってところじゃないか? 回復魔法で人々を救い給うってね?」
「キミが一緒だと神様扱いされることは無さそうで、助かるよ。これからもよろしくね、ブラスト」
<お姫様たちを呼んでお別れを言わなくちゃね。短い間だったけどいろいろあったわ>
スバルは聖廟の扉を開けて、王女たちを招き入れた。
「勇者様、御用は済みましたか?」
「ええ、この世界での用事はすべて終わりました」
「『この世界で』とは?」
言葉にひっかりを覚えた王女に、ブラストが端的に告げる。
「オレたちは元の世界に戻る。これでお別れだ」
「えっ? 一体それは?」
勇者召喚を行った自分たちでさえ、「送還」の儀式は行えない。そのような術式は存在しないのだ。
「オレ達には魔核がある。今なら時空の歪みを通って元の世界に帰れるんだ」
「何と、そのようなことが可能なのですか?」
「ええ、大精霊アンジェリカ様のお告げです」
「そ、それは……」
アンジェリカによって命を救われたミレイユである。その名を出されて疑いをさしはさむことはできなかった。
「魔物のせいで今も苦しんでいる人たちがいることは知っています。……実際にこの目で見てきました。しかし、我々の世界でもたくさんの人たちが苦しんでいるんです。ボクたちはその人たちを、ボクたちの家族を救いたい」
「それがオレたちの仕事なのさ」
「ボクたちは『愛と平和の戦士』ワールド・オーダーだ!」
2人は声を合わせて叫んだ。
ミレイユは言葉を飲み込み、ただ涙をこぼした。
「じゃあな、お姫様。世話になったぜ。達者でな」
「被災された人たちの救済をよろしくお願いします」
「勇者様。いえ、ブラスト様、スバル様。ロマーニをお救い頂き、心から感謝申し上げます。女神イルミナのご加護があらんことを」
ミレイユは跪き、女神に祈りを捧げた。それが彼女の生き方であるがゆえに。
明日も彼女は祈るであろう。民のために。国のために。
愛と平和のために。
「さようなら。グラビティ・フィールド!」
サイボーグ2人は体内の魔核から最大の魔力を汲み上げ、時空の歪みへとぶつけた。
細い、細い、蜘蛛の糸のようなラインが2つの世界の裂け目に通じ、「声」が流れ込む。
<……答して。スバル、ブラスト。答えて。こちらはWO-3。ワールド・オーダー本部です。繰り返します……>
「へっ、モテる男はつらいねえ。ほら、返事してやれよ、スバル」
「キミのことも呼んでるじゃないか?」
「2番目にな。ほれ、さっさとしろよ」
<ワールド・オーダー本部。こちらはWO-9。WO-2も一緒にいる。2人とも無事だ。そっちは大丈夫か、セシル?>
<スバル! スバルなの? 本当に? ああ、無事だったのね。良かった……>
<話せば長いんだけど、今別の世界にいるんだ。これから帰るからもう少し待っててくれ>
<えっ? 何を言ってるの? 別の世界って何? どこにいるの?>
「ああー、こりゃ混乱させちまったな。無理もないけどな。後で説明が大変だぜ」
「とにかく早く帰らなくちゃ。だいぶ待たせたみたいだし」
「ああ、そうだな。待たせるのは良くねえ。オレ達はヒーローだからな」
2人はオーバードライブのスイッチを入れ、広がり始めた時空の裂け目にためらいもなく飛び込んだ。
「ヒーローは絶対に遅れない!」
2人を必要とする家族が、世界中で待っているはずであった。
(完)
戦いが終わった今、さらに改造を施す理由があるとはWO-9には思えなかった。
<魔核よ。魔核を原子炉の代わりに埋め込んで魔力と動力を得る動力炉換装手術よ>
<なぜ、今更そんなことを?>
WO-2がやっていることである。実績のある改造手術であったが、魔物がいなくなった今実施する意味があるのだろうかとWO-9は悩んだ。
<2人は帰りたくないの?>
アンジェリカは唐突に尋ねた。
<何だって? 帰るとは元の世界のことかい? もちろん帰りたいさ!>
<帰る手段があるならな? 100億の人が死んだんだ。残った人間だって苦しんでいるはずだ>
そんな時こそ休む必要も、眠る必要もない、砂漠でもジャングルでも活動できる自分たちのようなサイボーグが人の役に立てるはずだ。
何よりも……地球には仲間たちがいる。
<だが、どうやって帰る?>
<こっちには核爆弾なんて物騒な物は無いぜ>
2つの世界をつなげるには多重核爆発の膨大なエネルギーを必要とした。それを繰り返すことなどできるはずが無かった。
<繰り返す必要は無いわ。核爆発からわずか1日。時空のひずみはまだ残っているの>
<すると、オレ達2人が次元魔法を使えば道が開けるというのか?>
ブラストが目をぎらつかせた。
<その通りよ。可能性は最初から想像していたわ。魔核という形で必要なエネルギーを手に入れられたのは偶然だったけど>
「ブラスト」
「ああ、スバルよ、悪いが俺とお揃いの改造手術を受けてくれ」
「わかったよ。これで本当の義兄弟ってことだね」
「へっ、お前サンとは血を分けちゃいないが、まさか魔物の体を分け合うことになるとは思わなかったぜ」
<アンジェリカ。覚悟はできたよ。そうと決まったら、さっさと頼む>
<わかったわ。といってもワタシには体が無いから……>
<執刀医はこのブラストさまが務めるぜ>
WO-9は再び祭壇の上に身を横たえた。
<ブラスト、体の制御を頂くわね。じゃあ、始めるわ>
ブラストの体をコントロールしたアンジェリカが、WO-9のセキュリティを解除し開胸手術を開始した。
術式が確立されている2度目の今、改造は目が眩むようなスピードで行われた。
ごとりと取り外されたマイクロ原子炉が壇上に置かれ、代わりに魔核が埋め込まれた。
WO-9は賢者の石と魔核という全く性質の異なる動力源を装備したハイブリッドに生まれ変わった。
<終わったわ。すべての生き物を癒し、無生物をも修復する。まるで救世主のような力をアナタは手にしたことになるわ、スバル>
<やめてくれ。ボクにそんなものは似合わないよ。ボクが救うのは『世界』じゃない。目の前の『人間』さ>
<そうだな、スバル。オレたちはいつだって家族のために戦ってきた。これからだってそうさ>
そう言ってWO-2はWO-9の肩を叩いた。
「スバルが救世主なら、オレちゃんは大天使ってところじゃないか? 回復魔法で人々を救い給うってね?」
「キミが一緒だと神様扱いされることは無さそうで、助かるよ。これからもよろしくね、ブラスト」
<お姫様たちを呼んでお別れを言わなくちゃね。短い間だったけどいろいろあったわ>
スバルは聖廟の扉を開けて、王女たちを招き入れた。
「勇者様、御用は済みましたか?」
「ええ、この世界での用事はすべて終わりました」
「『この世界で』とは?」
言葉にひっかりを覚えた王女に、ブラストが端的に告げる。
「オレたちは元の世界に戻る。これでお別れだ」
「えっ? 一体それは?」
勇者召喚を行った自分たちでさえ、「送還」の儀式は行えない。そのような術式は存在しないのだ。
「オレ達には魔核がある。今なら時空の歪みを通って元の世界に帰れるんだ」
「何と、そのようなことが可能なのですか?」
「ええ、大精霊アンジェリカ様のお告げです」
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アンジェリカによって命を救われたミレイユである。その名を出されて疑いをさしはさむことはできなかった。
「魔物のせいで今も苦しんでいる人たちがいることは知っています。……実際にこの目で見てきました。しかし、我々の世界でもたくさんの人たちが苦しんでいるんです。ボクたちはその人たちを、ボクたちの家族を救いたい」
「それがオレたちの仕事なのさ」
「ボクたちは『愛と平和の戦士』ワールド・オーダーだ!」
2人は声を合わせて叫んだ。
ミレイユは言葉を飲み込み、ただ涙をこぼした。
「じゃあな、お姫様。世話になったぜ。達者でな」
「被災された人たちの救済をよろしくお願いします」
「勇者様。いえ、ブラスト様、スバル様。ロマーニをお救い頂き、心から感謝申し上げます。女神イルミナのご加護があらんことを」
ミレイユは跪き、女神に祈りを捧げた。それが彼女の生き方であるがゆえに。
明日も彼女は祈るであろう。民のために。国のために。
愛と平和のために。
「さようなら。グラビティ・フィールド!」
サイボーグ2人は体内の魔核から最大の魔力を汲み上げ、時空の歪みへとぶつけた。
細い、細い、蜘蛛の糸のようなラインが2つの世界の裂け目に通じ、「声」が流れ込む。
<……答して。スバル、ブラスト。答えて。こちらはWO-3。ワールド・オーダー本部です。繰り返します……>
「へっ、モテる男はつらいねえ。ほら、返事してやれよ、スバル」
「キミのことも呼んでるじゃないか?」
「2番目にな。ほれ、さっさとしろよ」
<ワールド・オーダー本部。こちらはWO-9。WO-2も一緒にいる。2人とも無事だ。そっちは大丈夫か、セシル?>
<スバル! スバルなの? 本当に? ああ、無事だったのね。良かった……>
<話せば長いんだけど、今別の世界にいるんだ。これから帰るからもう少し待っててくれ>
<えっ? 何を言ってるの? 別の世界って何? どこにいるの?>
「ああー、こりゃ混乱させちまったな。無理もないけどな。後で説明が大変だぜ」
「とにかく早く帰らなくちゃ。だいぶ待たせたみたいだし」
「ああ、そうだな。待たせるのは良くねえ。オレ達はヒーローだからな」
2人はオーバードライブのスイッチを入れ、広がり始めた時空の裂け目にためらいもなく飛び込んだ。
「ヒーローは絶対に遅れない!」
2人を必要とする家族が、世界中で待っているはずであった。
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