飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第2章 魔術都市陰謀編

第56話 サトリのお化け。

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 アランとネロと呼ばれた護衛騎士は、2人ともまだ若かった。精々20代前半だろう。

「紹介しておきます。これが側仕え見習いとして今日から加わったステファノです」

 ソフィアは型通りステファノを紹介した。ステファノは立ち上がって2人に礼をする。

「ステファノと申します。ネルソン商会から参りました。殿下がご本復なされるまでご厄介になりますので、よろしくお願い申し上げます」
「うむ。アランだ。よろしく頼む」
「……」

 体の大きい方がネロという人のようだが、こくりと頷いたのみだった。

「こいつはネロだ。口数が少ないんでな。気にしないでやってくれ」

 アランはネロの肩を叩きながら、気さくに笑った。

「午前中、ステファノには館の巡回をしてもらっていました。早速賊の尻尾を捕えて来てくれたようです。ステファノ、面倒でしょうが先程の話を2人にも」

 色めき立つ2人――主にアランの方だったが――に、ステファノは自分の推測を話して聞かせた。

「うむ。筋は通っているようだが、魔術を使った証はあるのか?」
「これを見てください」

 ステファノは手ぬぐいを取り出すと、テーブルの上に広げた。

「この糸くずは、食肉貯蔵庫の前に立つ樹木の幹に付着していたものです。グレーか、濃茶か、暗めの布ではないかと」
「ふむ。賊ならば、目立たぬ服装を選んだであろうな」
「グレーの粉と、茶色の粉は木の枝にあるうろに残っていたものです」
「樹液の塊ではないのだな?」
「違います。グレーの方は煙草の灰、茶色は煙草の葉です」
「煙草? 暗殺者が木の上で煙草を吸っていたのか?」

 アランは煙草の葉の匂いを嗅ぎながら、首を傾げた。

「煙を使うためです。普段から煙草を吸う奴なのでしょう。毒薬を火壺で熱しながら、煙草の煙を吹き掛けたのでしょう」

 吸い殻が無いところを見ると紙巻ではなく、パイプか煙管キセル。立ち昇る毒気を風魔法で制御しながら、吸いつけた煙を吹き込んだのだろう。

「木の洞が灰皿に丁度良かったもので、つい吸い終わった煙草を捨ててしまったのでしょう」

 木に登る人間がいるとも思っていなかったのであろう。敵側の油断であった。

「わかった。その木を見張れば、賊を待ち伏せることができるな?」
「そうなんですが、ここで捕まえてしまって良いものか……」

 ステファノは悩ましげな顔をした。

「どういうことですか? 捕まえずに、見逃せと言うのですか?」
「依頼人と接触するのを待つという手もあります」
「成程、あえて泳がせるのですね……。ネルソンの意見を聞くことにしましょう」

 先程の勢いを見ると、すぐにでも賊を捕まえたいであろうに、ソフィアはネルソンに判断を任せることにした。
 それだけ兄の判断を信頼しているということであろう。

「次に襲われる機会は恐らく明後日の月曜日。それまでにこちらの態勢を整えれば間に合います」
「それなんだがな、ステファノ。どうして月曜の朝に狙われるんだ? 貯蔵庫に肉が入っていれば良いんだろう?」
「日中は地面が日に照らされて温まり、空気が上向きに昇って来るのです」

 それが目に見えるのが陽炎かげろうだと言う。

「できるだけ空気が静まっている朝の方が、微風そよかぜの術を使い易いのでしょう」
「お前は……見て来たように語るのだな」

 ステファノはこの館に来てまだ半日だ。その短時間で、毒殺未遂の事件をすべて見通したように説明して見せた。
 館の人間は誰一人見当もつかなかったというのに。

「まことに、ステファノには変わった才があるようです」

 ソフィアも何と評したら良いかわからぬようであった。

「ネルソンが見込んだ意味がわかって来ました」

 護衛の役にも立たぬ17の少年をネルソンがなぜ館に送り込んだのか。直に説明を聞いても納得できなかった。
 海千山千のネルソンが言うことだからと己を抑えて聞き入れたが、今となってわかる。ステファノの異形さが。

「サトリのお化けか」

 ぼそりと呟いたのはネロであった。
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