飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第3章 魔術覚醒編

第102話 その問いを忘れなければ、ギフトはお前と共にある。

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「王族じゃないですか!」
「王族ではいかんという規定はないのでな」

 してやったりとネルソンが茶々を入れた。

「ギルモアが動けば2通目の推薦状などどうにでもなるのだが、殿下が書きたいとおっしゃったのだ」
「ほとんどお話もしたことないのに……」
「プリシラがな、お世話をしながらお前のことを色々と申し上げたらしい」
「プリシラ……」

「何とかいう先輩に、腕が上がらなくなるまでクリード卿の似姿を書かされた話などいたく気に入られたそうだ」
「そんな話まで」
「薬種を全部食いまくれと助言されたと聞いて、腹が痛いと仰っていましたな」

 マルチェルが話を引き取って、オチをつけた。

「そういう面白い人間を取り立てるのはギルモアの得意技であろうと仰ってな」
「旦那様、そこでわたしの顔を見るのはなぜでしょう?」
「さてな。なぜであろうな?」

 ステファノにはそんな大人のじゃれ合いにつき合う余裕はなかった。

「いやいやいや。侯爵家と第3王子の推薦状とか、まずいでしょう? むしろ悪目立ちして敵を作る原因になりませんか?」
「それで、学科長がマリアンヌだから大丈夫だろうと言ったのだ」

「彼女は徹底した実力主義だからな。お前が実力を示しさえすれば支持し、擁護してくれるという訳だ」
「実力なんてありませんよ」
「さて、どうかな?」

 ネルソンはマルチェルの顔を見やった。

「まず、ギフトの発現は大きな得点になるでしょう。貴族はともかく、平民でギフトを持つものは希少です」
「うむ。ギルモア家がギフトの存在を保証すると推薦状に入れて置こう」
「次に、この度の暗殺手口推理について。わずかな痕跡から魔術の使用方法まで暴き出したことは、立派な実績と言えるでしょう」
「そうだな。事件の詳細は伏せるが、それも推薦状に入れさせよう」
「ただ、それだけですとギルモアの『やらせ』と受け取られるかもしれません」

 実力を過大に吹聴しているのではないかと疑われる可能性を、マルチェルは懸念した。

「マリアンヌは意固地なところがあると聞くからな。うん。私に考えがある」
「何でしょうか?」

 ネルソンは腕組みをして間を置いた。

「私に対してやってくれたことを、彼女にもやって見せてやれば良い」
「え? 何の話でしょう?」

 ステファノは当惑した。

「あれだよ、あれ。『爪の汚れ』という奴だ」
「おお! それは名案ですな。マリアンヌ女史が目を白黒させる姿が目に浮かびます」

 隠れた事実を言い当てる、あの推理力を魔法学科長の前で発揮して見せろと言うのであった。

「魔術には関係ありませんが……」
「そうでもないぞ。あの時のお前からはギフトの光を感じた。まだぼんやりとしたものだったがな」
「ギフトが発現した今なら、さらに強い輝きが見えるはずでございます」

 この2人は本当に仲が良いなと、あきれながらステファノは思った。

「読み書きや計算が一通りできることは知っています。今はギフトに親しみ、慣れることに集中すれば十分でしょう」

 マルチェルは真顔に戻ると、今後の準備に話を戻した。

「どのようなことをすれば良いのでしょう?」

「まずは、1人の時にギフトの名を唱えて見なさい。ギフトの性質、何ができるかが徐々にわかって来るでしょう」
「知っておくべきは、ギフトとは成長するものだということです。正しく使えば、ギフトはより高度に、応用範囲の広いものに成長します」

 マルチェルは簡単な注意を与えた。
 
「普通の技術と同じようなことですね?」
「そうですね。技術も道具も、使わなければ磨きがかかりません。ギフトの性質を良く知り、意識して使ってやることが大切です」
「やってみます」

「そして本人が共に成長することです。わたしの場合は体力と体術を並行して鍛えました。ギフトとは単体で存在するものではなく、他の資質と共に育てるべきものなのです」
「他の資質なんて、自分にあるでしょうか?」

 ステファノは途方に暮れた。「何も持たない」からこそ魔術に活路を見出そうとした自分であった。

「お前自身が語ったではありませんか。『自分は見る者であり、考える者だ』と。そこに立ち返りなさい」
「そうだな。迷ったときは常に原点に戻ることだ。自分は何者で、何を為そうとしているのか? その問いを忘れなければ、ギフトはお前と共にある」

 この2人を見ていれば、その言葉通りに行動を貫いていることがわかる。口先だけの言葉ではなかった。

「それとな、ステファノ。これは私の研究者としての勘なのだが、お前のあのノートがあろう?」
「心覚えのノートのことですか?」
「そうだ。きっとあれはお前の本質の近くにある。あれを手にした時のお前からはギフトのさざめきを感じた」

「妙な言い方かもしれないが、お前のギフトはあれを喜んでいるようだ」
「あのノートですか……」
「時に読み返してみるのも悪く無かろう」

 時に短く、時に長く、2年前からつけているノートであった。出来事の記録であると同時に、ステファノが何を思ってきたかも記されている。
 ノートを読み直すことは、己を見詰め直すことでもあった。

「そういう気持ちで読み返したことは、今までありませんでした。試してみます」
「うむ。きっと何か新しい発見が生まれるだろう」

「旦那様、それでステファノの扱いですが、今後いかが致しましょう?」
「残りひと月、店の仕事に時を費やすこともあるまい。手の怪我のこともある。書斎を使ってギフトと魔術について探求するがよかろう」
「書斎って、旦那様の書斎ですか?」
「勉強するには一番ふさわしかろう? わずかだが、魔術に関する書物も備わっている。薬種や医学に関する書籍がほとんどだがな」

 ネルソンは普段本宅を使用しているので、不自由はないのだと言う。

「そんな恐れ多い……」
「遠慮はいらんさ。部屋を遊ばせておいても仕方ないからな。本も読まれた方がうれしかろう」

 あんな立派な机で勉強などして良いものだろうか……。ステファノは申し訳なさを感じていた。

「でしたら、旦那様。午前中を勉強時間とし、午後は体を動かす時間としましょう。書斎にこもり切りというのも良くありません」

 マルチェルが提案した。

「初日はわたしがつき添って、程よいやり方を教えましょう。それからは、そうですね。3日に1度くらい覗きに来て、護身術の手解きでも致しましょう」
「良かろう。週に1度は休養日として、街に出てみたらどうだ? プリシラにつき合わせれば、お互いに気が晴れるだろう」

 その時に店に顔を出して、近況を報告してくれれば丁度良い。ネルソンは言った。
 
「それとな、お前の給金だがジョナサンに渡してある。後で受け取りなさい。保管場所に困るようなら一部を身につけて残りはジョナサンに預けても良い」
「何から何まで、行き届いたお心遣いにお礼の言葉もありません。ありがとうございます」
 
 自分のような者になぜここまでしてくれるのか、ステファノは恐縮すると共に不思議にも思った。

「私はな、ステファノ。楽しみなのだ。お前が何を為すかがな。アカデミーは私にとって決して良い思い出では無かったが、今の私を作ったのは紛れもなくあの場所だった」

「お前は私のように『のろい』を背負う必要はない。自由にやりたいことをやるが良い。あらゆる可能性に挑むが良い」

「今一度言うぞ、ステファノ。お前の価値を決めるのは、お前だけなのだ」

 ネルソンの言葉は重みを持ってステファノの腹に染みた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 「面白くなってきた」「ステファノ達の活躍をもっと読みたい」「少しは興味がある」と思われた方は、よろしければ「お気に入り追加」「感想記入」をお願いいたします。(「面白かった」の一言でもありがたいです)

◆次回「第103話 色は匂へど、散りぬるを。」

「何だろう? 雑音で聞こえないところがある。いまはこれだけってことだろうか?」

 何度やってみても結果は同じであった。

「ふうん。思ったようにはいかないものだな。今度は実際に使ってみるか」

 部屋にある物、家具や私物のペンや服、背嚢などに試してみた。物であっても、ギフトを使い意識して視ればわずかに光をまとっていることがわかった。
  
 ……
  
◆お楽しみに。
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