飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第355話 これはわれらの手に余るな。ドイルとヨシズミを呼ぼう。

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「研究報告会のことは聞いている。頑張っているそうだな」

 ステファノはネルソンと書斎で向かい合っていた。傍らにはマルチェルが控えている。

「仲間と良い研究テーマに恵まれました」
「キムラーヤにモントルー商会。どちらもなかなかの大店だ。染物屋は椿屋だったか?」
「左様でございます」

 モントルー商会はスールーの実家であった。椿屋がサントスの家族が経営する店だった。

「ステファノの発明品についてはギルモア家の肝いりということにさせてもらった。取引はネルソン商会うちを通してもらうことにしてある」
「トーマから聞きました。自分たちに直接接触してきた者もいましたが、ギルモアの名前を出してからはいなくなりました」
「それで良い。軍部と調整しなければならないこともあるのでな。しばらくは取引相手を制限させてもらう」

 ステファノは儲けや名声にさほど興味がない。ネルソンが外向きを管理してくれるというのであれば、それは歓迎すべきことであった。

「お前にとって怖いのは、軍部を始めとする権力による囲い込みであろう。軍務卿とはギルモア侯が既に話をつけられた。軍を優先して品物を納めることになるが、お前の身柄には手出しさせない」
「それは……ありがとうございます。安心して研究が続けられます」
「貴族諸侯や大手商人にもにらみは利いている。用心が必要なのは小物だな」

 事情を知らぬ小悪党が始末に悪い。身の程知らずにちょっかいを出す小物は出てくるであろう。

「卒業までの間は用心を怠るな。所詮は小物だ。大人数で押し寄せるようなことはないだろうがな」
「はい。油断せずに過ごします」

 ステファノはチンピラの怖さを身をもって知っている。弱みを見せればつけこんでくるのがチンピラのいやらしさであった。

「お前の仲間たちにも用心させるべきだな。身内を狙うのはやくざの常道だ」
「そう……ですね。伝えておきます」

 狙われるとしたら情革研の3人であろう。貴族であるミョウシンに手を出す馬鹿は、さすがにいまい。
 トーマは喧嘩沙汰くらいなら平気そうだが、スールーとサントスはそうもいかない。

(護身用の魔道具を早めに用意しておこうか?)

 ステファノは休み中の課題に護身具タリスマンの作成を加えた。

「さて4カ月の間に何があったか。先ずはお前の話を聞かせてもらおうか。ふふ、茶でも飲みながらゆっくりとな」

 ネルソンはマルチェルもソファーに座らせて、ステファノの報告に聞き入った。

 ◆◆◆

「ふうむ。発明品の情報は掴んでいたが、魔術修行がそこまで発展しているとは思わなかった」
「隠形五遁の応用。魔核マジコア、魔法円、そして化身アバターですか……」
「これはわれらの手に余るな。ドイルとヨシズミを呼ぼう」

 あれ以来・・・・ヨシズミはこの家に住み込んで警備と魔道具の管理を務めている。

「ドイル先生もこっちに来ているんですか?」

 ステファノが目を輝かせた。

「ああ。アカデミーが休みの間、アレも行くところがないのでな。ここに呼んである」
「誰かが見ていないと、どこに行ってしまうかわかりませんからな」

 マルチェルはそう言うと、廊下に出てプリシラに2人を呼ばせた。

「武術の修業も続けていたようですね。随分と体がしっかりして来ました」
「そうでしょうか? 鉄壁の型、套路、杖と縄。それに柔と言う武術を稽古しています」

 ドイルたちを待つ間、マルチェルが武術修行の話を持ち出した。

「話が済んだら一通り見せてもらいましょう。どれほど上達したか、楽しみですね」
「体術とイドや魔術を組み合わせる修行もしています。どこか魔術を撃てる場所があるとありがたいのですが」
「裏庭の射撃場が良いでしょう。弓の練習をする場所ですが、魔術を使っても安全でしょう」
「それは良いですね。魔術の練習をする場所が見つかるか心配だったんです」

 射撃場は平民の邸宅には不似合いであったが、ジュリアーノ王子のように王族、貴族が滞在する機会に備えて設けてあった。警護の人員が弓の訓練を絶やさぬようにという配慮である。
 鉄砲が発達しなかったこの社会では遠距離武器は弓が主流であった。開戦に当たっては弓矢の応酬が定例であり、騎士であっても弓の腕を磨くのが普通だった。

 ステファノは遠距離狙撃を特徴とする「遠当ての極み」も身につけている。射撃場が見つかったことは幸運であった。

「やあ、ステファノ君、元気でやっているかね?」

 どかどかと部屋に入って来たのはドイルとヨシズミであった。

「ふん。お前に教師姿が似合わぬことはわかっている。無理せず、普通にしていろ」
「左様です。貫禄などとは縁がありませんからな」

 ステファノの前で教師ぶろうとしたらしいドイルの振る舞いは、ネルソンとマルチェルに早速否定された。

「随分だね。まあ、僕も気取らない方が楽で良いが」
「ステファノ、元気そうだナ」

 ドイルたちのやり取りが落ちついたところで、ヨシズミがステファノに声をかけた。

「はい。アカデミーには思ったより親切な人が多くて、元気にやっています」
「そっケ。そりゃぁイかったナ」

 ヨシズミもステファノの体をしげしげと眺めて、その変貌ぶりに満足しているようだった。

「『イドの繭』も随分しっかりしたナ?」
「常にまとっているので、大分思い通りになって来ました」
「そりゃ楽しみだ。後で見せてもらうッペ」

 ヨシズミには筋肉の変化以外にも、イドの制御具合が大きな変化として観えていた。

「さて、繰り返しになるが、魔術修行の成果についてヨシズミたちにも聞かせてやってくれ」
「わかりました。まずは『虹の王ナーガ』のことから説明させてください」

 ステファノは4カ月間の成果について話し始めた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第356話 こういうやり方は珍しいんでしょうか?」

「随分といろいろあったんだナ」
「環境の変化もありましたから。無我夢中で工夫した結果なので、間違ったことがあるかもしれません」
「ふうん。間違ってるかどうかは知んねェけど、面白れェことはやってんナ」

 ヨシズミは楽しそうにそう評した。

「俺にとって一番面白かったのは、人のイドに自分のイドを混ぜるところだナ」
「チャンを指導した時の話ですか?」
「そうだナ。そんなこと普通は考えねェッペ」

 ……

◆お楽しみに。
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