飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
386 / 694
第4章 魔術学園奮闘編

第386話 問題は糖分と水分の補給だけだな。

しおりを挟む
「これで3人が太陰鏡ルナスコープの照射を受けたことになる。結果は人それぞれで興味深い」
「どうする? このまま2巡目に突入するかね?」

 ドイルはやる気満々であった。

「まあ待て。結果を急ぐ気持ちはわかるが、焦る必要はない。太陰鏡もステファノも、逃げたりはせんからな」
「今日の分だけでもそれぞれ大きな変化がありました。先ずはこれを吸収することが大切ではありませんか」

 ドイルとは違ってネルソンとマルチェルは冷静であった。

魔視脳まじのうへの刺激は蓄積される。間を空けても後退することはない。いつ再開しても問題ないッペ」

 ヨシズミの言葉を聞いて、ドイルも興奮を鎮めた。

「まあいいさ。君たちがそう言うなら明日にしよう。僕はギフトの力でこの変化もすぐに吸収できるけどね」

 そういう間にもドイルの化身アバターたちが、ギフトに生じた変化を分析していた。

「僕のアバターたちは夜も眠らない。問題は糖分と水分の補給だけだな」
「魔視脳も体の一部だ。働くためには栄養と水が必要というわけだな」

 ドイルは脳のリソースを多く使い切ることを福音ふくいんとして捉えていた。しかし、それだけ使うにはそれなりのエネルギーを消費する。補給が必要なのは当然であった。

「放熱にも気をつけるこったナ。脳が働けば熱もでる」

 脳に熱がこもってしまったら、せん妄や脳機能障害を起こす危険がある。

「ごもっともだ。部屋の風通しに気をつけるよ」

 ドイルは素直に頷いた。

「その点マルチェルや私のギフトは常時限界突破するタイプではない。脳が焼ける危険はなさそうだ」
「そうですね。旦那様が言う通り、わたしの場合はこれ以上大きな変化は期待しておりません。ステファノに組手の相手をしてもらい、未来視の特徴と使い勝手を探ろうかと」

 マルチェルの行動方針はいかにもマルチェルらしいものであった。

「体を動かし、体と対話してみます」
「俺で良ければ喜んでおつきあいします」

 ステファノはマルチェルの行動をサポートするつもりである。ギフトが進化したマルチェルには全く歯が立たないであろうが、自分自身の鍛錬としても良い経験になると考えていた。

「お前らしいことだな」
「そういう旦那様はどのようにされるつもりで?」
「私のギフトはあくまでも受け身だからな。使って鍛えるようなものでもない」

 ネルソンはドイルとは対象的に静かに語った。

「では、何もしないと?」
「そうだな。これまでの自分と向き合ってみるか」
「それは……」

 ネルソンはゆっくりと腕を組んだ。

「世の中を良くしようとやってきたこと、それらは本当に意味があったのか。今一度振り返るとしよう」
「旦那様」
「心配するな、マルチェル。たとえ意味がなかったとしても私は悔やまない。理想を目指して積み重ねた努力は私の一部なのだ」

 できが悪かろうと自分の体を否定してどうなるものでもない。

「済んだことがだめだったら、これからやり直せば良いだろう」

 何よりもネルソンには仲間がいる。今までの自分があればこそマルチェルがおり、ドイルがいる。そこにステファノとヨシズミが加わった。
 ウニベルシタスを開けば更に新しい仲間が加わることだろう。

「進化したギフトは今後の失敗を減らしてくれる。注目すべきはそこだ」

 取り返しのつかない失敗からキャリアをスタートしたネルソンである。
 過去に拘ることの愚かさを誰よりも知っていた。

「幸い仲間に恵まれた。私1人ではできぬこともお前たちがいれば可能になる」
「飯屋流に不可能はない。そうじゃないかね?」

 過去にこだわらない男・・・・・・・・・・ドイルは常に前向きであった。

「お前は少し過去を振り返った方が良いと思いますよ?」

 調子に乗りそうなドイルに、マルチェルが釘を刺した。

「お前に関しては、評価するまでもなく明らかに失敗を繰り返して来たのだからな」
「見解の相違だな。僕に言わせれば失敗などない。僕の存在を疎ましく思う輩が、僕を貶めているだけさ」

「万能の愚者」と揶揄やゆされてもドイルの心は痛まない。

「僕の価値は僕が知っている。他人の評価など無用だ」
「そこまで強気だと清々しいくらいだな。決してうらやましくはないが」

 マルチェルはいささか辟易へきえきした顔で言った。

「それよりも君たちはどうするつもりだね?」

 ドイルの質問はヨシズミとステファノに向けられたものだった。
 既に魔視脳が開放されている2人はこれからどう過ごすつもりなのか。

「オレはギフトってもンを考えてみた」

 ヨシズミは語りだした。

「戦場に出ていた頃、オレは魔法の特性を場合に応じて変化させた」
「それが二つ名『千変万化』の由来ですね」
「したが、オレ自身が変化したわけではねェ」

 相手にとって千変万化であったに過ぎない。

「普通に魔法サ使うなら、まだステファノよりオレの方がうまかッペ」
「もちろんです、師匠」
「だが、オレの魔法は人殺しの道具ダ」

 元の世界では違ったが、この世界に来てからは戦争の犬にされてしまった。

「オレも飯屋流を習って『不殺ころさず』の道に戻りてェと思って」
「師匠の杖術ならきっとできます」
「並の魔術師や剣士相手ならそう思う。したッケ、上級魔術師相手になるとな」

 高威力の魔術に立ち向かうには「不殺」のかせは重い。

「まして『神の如きもの』を相手にするとなればナ」
「師匠はその時でも『不殺』を貫くつもりですか?」

 ステファノは真っ直ぐにヨシズミを見た。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第387話 手を汚すのは大人たちでたくさんだ。」

「さあナ。本当のところはその時になんねェとわからねェナ」

 ヨシズミは断言を避けた。

 果たして相手はどのようなものなのか、その時にならなければわからない。「人ではないもの」であれば遠慮することはない。持てる力で討ち滅ぼせば良い。
 しかし、人であったり、人に近いものだったらどうするか?

「不殺」の制限を掛けた状態では相手を倒せないかもしれない。その時はーー。

(手を汚すのは大人たちでたくさんだ)

 自分やマルチェルの手は血に汚れている。ステファノに人殺しの重荷を背負わせるくらいなら、自分が手を下そう。ヨシズミは内心そう決意していた。
 
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

処理中です...