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第4章 魔術学園奮闘編
第386話 問題は糖分と水分の補給だけだな。
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「これで3人が太陰鏡の照射を受けたことになる。結果は人それぞれで興味深い」
「どうする? このまま2巡目に突入するかね?」
ドイルはやる気満々であった。
「まあ待て。結果を急ぐ気持ちはわかるが、焦る必要はない。太陰鏡もステファノも、逃げたりはせんからな」
「今日の分だけでもそれぞれ大きな変化がありました。先ずはこれを吸収することが大切ではありませんか」
ドイルとは違ってネルソンとマルチェルは冷静であった。
「魔視脳への刺激は蓄積される。間を空けても後退することはない。いつ再開しても問題ないッペ」
ヨシズミの言葉を聞いて、ドイルも興奮を鎮めた。
「まあいいさ。君たちがそう言うなら明日にしよう。僕はギフトの力でこの変化もすぐに吸収できるけどね」
そういう間にもドイルの化身たちが、ギフトに生じた変化を分析していた。
「僕のアバターたちは夜も眠らない。問題は糖分と水分の補給だけだな」
「魔視脳も体の一部だ。働くためには栄養と水が必要というわけだな」
ドイルは脳のリソースを多く使い切ることを福音として捉えていた。しかし、それだけ使うにはそれなりのエネルギーを消費する。補給が必要なのは当然であった。
「放熱にも気をつけるこったナ。脳が働けば熱もでる」
脳に熱がこもってしまったら、せん妄や脳機能障害を起こす危険がある。
「ごもっともだ。部屋の風通しに気をつけるよ」
ドイルは素直に頷いた。
「その点マルチェルや私のギフトは常時限界突破するタイプではない。脳が焼ける危険はなさそうだ」
「そうですね。旦那様が言う通り、わたしの場合はこれ以上大きな変化は期待しておりません。ステファノに組手の相手をしてもらい、未来視の特徴と使い勝手を探ろうかと」
マルチェルの行動方針はいかにもマルチェルらしいものであった。
「体を動かし、体と対話してみます」
「俺で良ければ喜んでおつきあいします」
ステファノはマルチェルの行動をサポートするつもりである。ギフトが進化したマルチェルには全く歯が立たないであろうが、自分自身の鍛錬としても良い経験になると考えていた。
「お前らしいことだな」
「そういう旦那様はどのようにされるつもりで?」
「私のギフトはあくまでも受け身だからな。使って鍛えるようなものでもない」
ネルソンはドイルとは対象的に静かに語った。
「では、何もしないと?」
「そうだな。これまでの自分と向き合ってみるか」
「それは……」
ネルソンはゆっくりと腕を組んだ。
「世の中を良くしようとやってきたこと、それらは本当に意味があったのか。今一度振り返るとしよう」
「旦那様」
「心配するな、マルチェル。たとえ意味がなかったとしても私は悔やまない。理想を目指して積み重ねた努力は私の一部なのだ」
できが悪かろうと自分の体を否定してどうなるものでもない。
「済んだことがだめだったら、これからやり直せば良いだろう」
何よりもネルソンには仲間がいる。今までの自分があればこそマルチェルがおり、ドイルがいる。そこにステファノとヨシズミが加わった。
ウニベルシタスを開けば更に新しい仲間が加わることだろう。
「進化したギフトは今後の失敗を減らしてくれる。注目すべきはそこだ」
取り返しのつかない失敗からキャリアをスタートしたネルソンである。
過去に拘ることの愚かさを誰よりも知っていた。
「幸い仲間に恵まれた。私1人ではできぬこともお前たちがいれば可能になる」
「飯屋流に不可能はない。そうじゃないかね?」
過去にこだわらない男ドイルは常に前向きであった。
「お前は少し過去を振り返った方が良いと思いますよ?」
調子に乗りそうなドイルに、マルチェルが釘を刺した。
「お前に関しては、評価するまでもなく明らかに失敗を繰り返して来たのだからな」
「見解の相違だな。僕に言わせれば失敗などない。僕の存在を疎ましく思う輩が、僕を貶めているだけさ」
「万能の愚者」と揶揄されてもドイルの心は痛まない。
「僕の価値は僕が知っている。他人の評価など無用だ」
「そこまで強気だと清々しいくらいだな。決して羨ましくはないが」
マルチェルはいささか辟易した顔で言った。
「それよりも君たちはどうするつもりだね?」
ドイルの質問はヨシズミとステファノに向けられたものだった。
既に魔視脳が開放されている2人はこれからどう過ごすつもりなのか。
「オレはギフトってもンを考えてみた」
ヨシズミは語りだした。
「戦場に出ていた頃、オレは魔法の特性を場合に応じて変化させた」
「それが二つ名『千変万化』の由来ですね」
「したが、オレ自身が変化したわけではねェ」
相手にとって千変万化であったに過ぎない。
「普通に魔法サ使うなら、まだステファノよりオレの方がうまかッペ」
「もちろんです、師匠」
「だが、オレの魔法は人殺しの道具ダ」
元の世界では違ったが、この世界に来てからは戦争の犬にされてしまった。
「オレも飯屋流を習って『不殺』の道に戻りてェと思って」
「師匠の杖術ならきっとできます」
「並の魔術師や剣士相手ならそう思う。したッケ、上級魔術師相手になるとな」
高威力の魔術に立ち向かうには「不殺」の枷は重い。
「まして『神の如きもの』を相手にするとなればナ」
「師匠はその時でも『不殺』を貫くつもりですか?」
ステファノは真っ直ぐにヨシズミを見た。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第387話 手を汚すのは大人たちでたくさんだ。」
「さあナ。本当のところはその時になんねェとわからねェナ」
ヨシズミは断言を避けた。
果たして相手はどのようなものなのか、その時にならなければわからない。「人ではないもの」であれば遠慮することはない。持てる力で討ち滅ぼせば良い。
しかし、人であったり、人に近いものだったらどうするか?
「不殺」の制限を掛けた状態では相手を倒せないかもしれない。その時はーー。
(手を汚すのは大人たちでたくさんだ)
自分やマルチェルの手は血に汚れている。ステファノに人殺しの重荷を背負わせるくらいなら、自分が手を下そう。ヨシズミは内心そう決意していた。
……
◆お楽しみに。
「どうする? このまま2巡目に突入するかね?」
ドイルはやる気満々であった。
「まあ待て。結果を急ぐ気持ちはわかるが、焦る必要はない。太陰鏡もステファノも、逃げたりはせんからな」
「今日の分だけでもそれぞれ大きな変化がありました。先ずはこれを吸収することが大切ではありませんか」
ドイルとは違ってネルソンとマルチェルは冷静であった。
「魔視脳への刺激は蓄積される。間を空けても後退することはない。いつ再開しても問題ないッペ」
ヨシズミの言葉を聞いて、ドイルも興奮を鎮めた。
「まあいいさ。君たちがそう言うなら明日にしよう。僕はギフトの力でこの変化もすぐに吸収できるけどね」
そういう間にもドイルの化身たちが、ギフトに生じた変化を分析していた。
「僕のアバターたちは夜も眠らない。問題は糖分と水分の補給だけだな」
「魔視脳も体の一部だ。働くためには栄養と水が必要というわけだな」
ドイルは脳のリソースを多く使い切ることを福音として捉えていた。しかし、それだけ使うにはそれなりのエネルギーを消費する。補給が必要なのは当然であった。
「放熱にも気をつけるこったナ。脳が働けば熱もでる」
脳に熱がこもってしまったら、せん妄や脳機能障害を起こす危険がある。
「ごもっともだ。部屋の風通しに気をつけるよ」
ドイルは素直に頷いた。
「その点マルチェルや私のギフトは常時限界突破するタイプではない。脳が焼ける危険はなさそうだ」
「そうですね。旦那様が言う通り、わたしの場合はこれ以上大きな変化は期待しておりません。ステファノに組手の相手をしてもらい、未来視の特徴と使い勝手を探ろうかと」
マルチェルの行動方針はいかにもマルチェルらしいものであった。
「体を動かし、体と対話してみます」
「俺で良ければ喜んでおつきあいします」
ステファノはマルチェルの行動をサポートするつもりである。ギフトが進化したマルチェルには全く歯が立たないであろうが、自分自身の鍛錬としても良い経験になると考えていた。
「お前らしいことだな」
「そういう旦那様はどのようにされるつもりで?」
「私のギフトはあくまでも受け身だからな。使って鍛えるようなものでもない」
ネルソンはドイルとは対象的に静かに語った。
「では、何もしないと?」
「そうだな。これまでの自分と向き合ってみるか」
「それは……」
ネルソンはゆっくりと腕を組んだ。
「世の中を良くしようとやってきたこと、それらは本当に意味があったのか。今一度振り返るとしよう」
「旦那様」
「心配するな、マルチェル。たとえ意味がなかったとしても私は悔やまない。理想を目指して積み重ねた努力は私の一部なのだ」
できが悪かろうと自分の体を否定してどうなるものでもない。
「済んだことがだめだったら、これからやり直せば良いだろう」
何よりもネルソンには仲間がいる。今までの自分があればこそマルチェルがおり、ドイルがいる。そこにステファノとヨシズミが加わった。
ウニベルシタスを開けば更に新しい仲間が加わることだろう。
「進化したギフトは今後の失敗を減らしてくれる。注目すべきはそこだ」
取り返しのつかない失敗からキャリアをスタートしたネルソンである。
過去に拘ることの愚かさを誰よりも知っていた。
「幸い仲間に恵まれた。私1人ではできぬこともお前たちがいれば可能になる」
「飯屋流に不可能はない。そうじゃないかね?」
過去にこだわらない男ドイルは常に前向きであった。
「お前は少し過去を振り返った方が良いと思いますよ?」
調子に乗りそうなドイルに、マルチェルが釘を刺した。
「お前に関しては、評価するまでもなく明らかに失敗を繰り返して来たのだからな」
「見解の相違だな。僕に言わせれば失敗などない。僕の存在を疎ましく思う輩が、僕を貶めているだけさ」
「万能の愚者」と揶揄されてもドイルの心は痛まない。
「僕の価値は僕が知っている。他人の評価など無用だ」
「そこまで強気だと清々しいくらいだな。決して羨ましくはないが」
マルチェルはいささか辟易した顔で言った。
「それよりも君たちはどうするつもりだね?」
ドイルの質問はヨシズミとステファノに向けられたものだった。
既に魔視脳が開放されている2人はこれからどう過ごすつもりなのか。
「オレはギフトってもンを考えてみた」
ヨシズミは語りだした。
「戦場に出ていた頃、オレは魔法の特性を場合に応じて変化させた」
「それが二つ名『千変万化』の由来ですね」
「したが、オレ自身が変化したわけではねェ」
相手にとって千変万化であったに過ぎない。
「普通に魔法サ使うなら、まだステファノよりオレの方がうまかッペ」
「もちろんです、師匠」
「だが、オレの魔法は人殺しの道具ダ」
元の世界では違ったが、この世界に来てからは戦争の犬にされてしまった。
「オレも飯屋流を習って『不殺』の道に戻りてェと思って」
「師匠の杖術ならきっとできます」
「並の魔術師や剣士相手ならそう思う。したッケ、上級魔術師相手になるとな」
高威力の魔術に立ち向かうには「不殺」の枷は重い。
「まして『神の如きもの』を相手にするとなればナ」
「師匠はその時でも『不殺』を貫くつもりですか?」
ステファノは真っ直ぐにヨシズミを見た。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第387話 手を汚すのは大人たちでたくさんだ。」
「さあナ。本当のところはその時になんねェとわからねェナ」
ヨシズミは断言を避けた。
果たして相手はどのようなものなのか、その時にならなければわからない。「人ではないもの」であれば遠慮することはない。持てる力で討ち滅ぼせば良い。
しかし、人であったり、人に近いものだったらどうするか?
「不殺」の制限を掛けた状態では相手を倒せないかもしれない。その時はーー。
(手を汚すのは大人たちでたくさんだ)
自分やマルチェルの手は血に汚れている。ステファノに人殺しの重荷を背負わせるくらいなら、自分が手を下そう。ヨシズミは内心そう決意していた。
……
◆お楽しみに。
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