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第4章 魔術学園奮闘編
第390話 こりゃァ楽しみなこッタナ。
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「それより冷蔵庫の話をすッペ。魔術具だから『魔冷蔵庫』か」
「はい。壁、床、天井を直接冷そうと思っています」
属性魔術の体系であれば物体を構成する分子の振動を少なくするのは風魔術の範疇になるのだろう。
運動が熱を生み出す。
「それは良いが、それだけケ?」
「え? 氷冷蔵庫より冷やす力は増すと思いますが……」
「そうだろうが、壁に近ければ温度が低く、遠ければ温度は高い。庫内温度にむらが出るな」
電気冷蔵庫というものを知っているヨシズミと、そんなものを知る由もないステファノの差がここにあった。
「庫内の空気を風でかき回してやれば温度が均一になり、冷やす効率も良くなンだ」
「なるほど。大鍋のお湯をかき混ぜるようなものですね」
「せっかく魔冷蔵庫を作るなら微風の術も組み込んだらいかッペ」
着火魔具の構造を真似て、貯蔵庫の外壁にダイヤルを設け、そのひねり具合で温度を変えられるようにする。
そこまで相談して、魔冷蔵庫の術式が成立した。
「やっぱりダイヤルは道具屋に作らせる必要がありますね」
「送風魔具の原型と一緒に注文したらいかッペ」
(送風魔具が仕上がれば、扇風機やサーキュレーター、換気扇などに応用できることがわかるだろう。それはステファノたちが自分で考えればよい)
ヨシズミは何もかも自分が教えてしまうつもりはなかった。
(この世界の文明は、この世界の人間が築くべきだ。苦労があるかもしれないが、楽しみもあるはず。オレが楽しみを奪うことはない)
「こりゃァ楽しみなこッタナ」
「楽しいですね」
ステファノは純粋に魔道具作りを楽しんでいた。
「次は何を作りましょうか?」
「気が早かッペ。まずは送風魔具と魔冷蔵庫を完成させるこッタナ。後のことはそれからだッペ」
「ほかの魔道具の術式を考えるのは良いかなと思って」
「道具屋の仕上りまでは何日かかかるだろうから、計画するのはいかッぺが……」
遠足の日を待ちわびる子供のような目の輝きを見て、ヨシズミはそれ以上強くは言えなかった。
それにしてもステファノはじっとしているということができない少年である。
「生活道具を魔道具化するとしたら、次は何でしょうね?」
「そうだな。オレの世界では科学で機械化してしたが、世の中を変えたのは3つの機械だったナ」
「どんな機械ですか?」
「洗濯機、冷蔵庫、そしてテレビジョンという機械だった」
ヨシズミはそう答えた。
「テレビジョン、ですか? それはどんな機械で?」
「この世界には比べるものもねェ。動く絵と音を遠くに届ける機械だナ」
「魔示板を通信機にした姿に近いかな?」
「そうかナ。観たままの動く絵を何百キロも離れた場所、数百万人を相手に送ることができたッペ」
テレビの同報性はステファノの想像を超えるものであった。
「そんなにたくさんの人が同時に同じものを見たり、聞いたりしたんですか?」
「そういうことだナ。社会的な事件の情報、スポーツや娯楽など内容はさまざまダ」
劇場を各家庭に置くようなものかと、ステファノは想像を巡らせた。
「テレビジョンは大発明だったが、この世界にはまだ早い。洗濯機や冷蔵庫の方が先に必要だッペ」
「家で世間事情を知ったり、観劇ができるのは良いことでしょうが、それより先に生活の苦労を減らしたいですね」
生活必需品を優先すべきだというヨシズミの忠告にステファノも同意した。
「冷蔵庫はちょうど考案したところですね。だったら次は洗濯機ですか?」
「家事の中で最も苦労している仕事の1つだッペ」
一度使えば二度と元には戻れなくなる商品がある。洗濯機はまさにそんな機械であった。
「どんな術式にしましょうかね?」
ステファノはワクワクしながら思案顔になった。
「オレの世界では機械仕掛けだったからナ。手洗いの動きを再現して商品化されているンだ」
「ここでは魔術が使えますからね。ふうん。汚れを落としたいんですよね」
「細かい口出しはしたくねェ。ヒントだけ言うなら、汚れには泥などの無機質と、汗や食べ物染みなどの有機汚れとがある」
「何となくわかります。泥汚れは叩いたり、踏んだりすれば落とせるんですが、食べ物の染みは落ちにくいんですよね」
ステファノは洗濯も仕事として行っていた。その大変さをよく知っている。
特に冬場の洗濯は修行僧でも辛い苦行であった。
「石鹸てのは衣類の繊維に絡んだ汚れを引き剥がす働きをしてンだナ。そこらをよく考えて術式サ考えたらいかッペ」
口を出さないと言う割には、ヨシズミは踏み込んだ助言を与えていた。やはり無駄な苦労はさせたくないという気持ちに勝てない部分があった。
「ここから先は自分で考えてみるといい。なるべく頭サ空っぽにして、魔法の特長を生かすことサ考えるんだナ」
「わかりました。何ができるかよく考えてみます」
もらったヒントだけでも何年もの研究成果に相当するだろう。後はステファノ自身が工夫する段階だった。
◆◆◆
1人になったステファノは、洗濯物と向かい合っていた。
実物を見たからどうなるというものでもないかもしれない。それでも、実際に洗濯物に触れることで思考を刺激できれば思いつくことがあるかもと考えたのだった。
借りてきたのはケントクの仕事着である。油や調味料の染みがついた、手強い洗濯物だった。
(これがきれいに落とせたら魔道具の性能としては十分だろう)
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第391話 土魔術で分離して、風魔術で集める。これで行けそうな気がする。」
(さて、どうしたら衣類と汚れを分離できるか?)
1つの方法は現実の洗濯を再現することであった。それなりの洗浄効果を見込むことができるだろう。
(でも、それじゃあ面白くないよね)
第一魔法っぽくないとステファノは思った。
(せっかく魔法を使うんだから、魔法でしかできないことをやりたい)
汚れとは何か? それを定義できないと衣類から分離することができない。
生地を認識できればそれ以外を汚れと定義すれば良さそうだが――。
……
◆お楽しみに。
「はい。壁、床、天井を直接冷そうと思っています」
属性魔術の体系であれば物体を構成する分子の振動を少なくするのは風魔術の範疇になるのだろう。
運動が熱を生み出す。
「それは良いが、それだけケ?」
「え? 氷冷蔵庫より冷やす力は増すと思いますが……」
「そうだろうが、壁に近ければ温度が低く、遠ければ温度は高い。庫内温度にむらが出るな」
電気冷蔵庫というものを知っているヨシズミと、そんなものを知る由もないステファノの差がここにあった。
「庫内の空気を風でかき回してやれば温度が均一になり、冷やす効率も良くなンだ」
「なるほど。大鍋のお湯をかき混ぜるようなものですね」
「せっかく魔冷蔵庫を作るなら微風の術も組み込んだらいかッペ」
着火魔具の構造を真似て、貯蔵庫の外壁にダイヤルを設け、そのひねり具合で温度を変えられるようにする。
そこまで相談して、魔冷蔵庫の術式が成立した。
「やっぱりダイヤルは道具屋に作らせる必要がありますね」
「送風魔具の原型と一緒に注文したらいかッペ」
(送風魔具が仕上がれば、扇風機やサーキュレーター、換気扇などに応用できることがわかるだろう。それはステファノたちが自分で考えればよい)
ヨシズミは何もかも自分が教えてしまうつもりはなかった。
(この世界の文明は、この世界の人間が築くべきだ。苦労があるかもしれないが、楽しみもあるはず。オレが楽しみを奪うことはない)
「こりゃァ楽しみなこッタナ」
「楽しいですね」
ステファノは純粋に魔道具作りを楽しんでいた。
「次は何を作りましょうか?」
「気が早かッペ。まずは送風魔具と魔冷蔵庫を完成させるこッタナ。後のことはそれからだッペ」
「ほかの魔道具の術式を考えるのは良いかなと思って」
「道具屋の仕上りまでは何日かかかるだろうから、計画するのはいかッぺが……」
遠足の日を待ちわびる子供のような目の輝きを見て、ヨシズミはそれ以上強くは言えなかった。
それにしてもステファノはじっとしているということができない少年である。
「生活道具を魔道具化するとしたら、次は何でしょうね?」
「そうだな。オレの世界では科学で機械化してしたが、世の中を変えたのは3つの機械だったナ」
「どんな機械ですか?」
「洗濯機、冷蔵庫、そしてテレビジョンという機械だった」
ヨシズミはそう答えた。
「テレビジョン、ですか? それはどんな機械で?」
「この世界には比べるものもねェ。動く絵と音を遠くに届ける機械だナ」
「魔示板を通信機にした姿に近いかな?」
「そうかナ。観たままの動く絵を何百キロも離れた場所、数百万人を相手に送ることができたッペ」
テレビの同報性はステファノの想像を超えるものであった。
「そんなにたくさんの人が同時に同じものを見たり、聞いたりしたんですか?」
「そういうことだナ。社会的な事件の情報、スポーツや娯楽など内容はさまざまダ」
劇場を各家庭に置くようなものかと、ステファノは想像を巡らせた。
「テレビジョンは大発明だったが、この世界にはまだ早い。洗濯機や冷蔵庫の方が先に必要だッペ」
「家で世間事情を知ったり、観劇ができるのは良いことでしょうが、それより先に生活の苦労を減らしたいですね」
生活必需品を優先すべきだというヨシズミの忠告にステファノも同意した。
「冷蔵庫はちょうど考案したところですね。だったら次は洗濯機ですか?」
「家事の中で最も苦労している仕事の1つだッペ」
一度使えば二度と元には戻れなくなる商品がある。洗濯機はまさにそんな機械であった。
「どんな術式にしましょうかね?」
ステファノはワクワクしながら思案顔になった。
「オレの世界では機械仕掛けだったからナ。手洗いの動きを再現して商品化されているンだ」
「ここでは魔術が使えますからね。ふうん。汚れを落としたいんですよね」
「細かい口出しはしたくねェ。ヒントだけ言うなら、汚れには泥などの無機質と、汗や食べ物染みなどの有機汚れとがある」
「何となくわかります。泥汚れは叩いたり、踏んだりすれば落とせるんですが、食べ物の染みは落ちにくいんですよね」
ステファノは洗濯も仕事として行っていた。その大変さをよく知っている。
特に冬場の洗濯は修行僧でも辛い苦行であった。
「石鹸てのは衣類の繊維に絡んだ汚れを引き剥がす働きをしてンだナ。そこらをよく考えて術式サ考えたらいかッペ」
口を出さないと言う割には、ヨシズミは踏み込んだ助言を与えていた。やはり無駄な苦労はさせたくないという気持ちに勝てない部分があった。
「ここから先は自分で考えてみるといい。なるべく頭サ空っぽにして、魔法の特長を生かすことサ考えるんだナ」
「わかりました。何ができるかよく考えてみます」
もらったヒントだけでも何年もの研究成果に相当するだろう。後はステファノ自身が工夫する段階だった。
◆◆◆
1人になったステファノは、洗濯物と向かい合っていた。
実物を見たからどうなるというものでもないかもしれない。それでも、実際に洗濯物に触れることで思考を刺激できれば思いつくことがあるかもと考えたのだった。
借りてきたのはケントクの仕事着である。油や調味料の染みがついた、手強い洗濯物だった。
(これがきれいに落とせたら魔道具の性能としては十分だろう)
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第391話 土魔術で分離して、風魔術で集める。これで行けそうな気がする。」
(さて、どうしたら衣類と汚れを分離できるか?)
1つの方法は現実の洗濯を再現することであった。それなりの洗浄効果を見込むことができるだろう。
(でも、それじゃあ面白くないよね)
第一魔法っぽくないとステファノは思った。
(せっかく魔法を使うんだから、魔法でしかできないことをやりたい)
汚れとは何か? それを定義できないと衣類から分離することができない。
生地を認識できればそれ以外を汚れと定義すれば良さそうだが――。
……
◆お楽しみに。
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