飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第461話 標的に鎧を着せて守っても良いのか。

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 後日、マリアンヌ学科長に「魔術試技の部」ルールを聞きに行くと、ステファノは1枚の紙切れを渡された。
 そこには魔術試技に関するルールが詳細に記載されていた。

 それを読むと、ステファノが知りたかった魔獣の使役は「お構いなし」ということであった。

 ルール上は、「自分以外の人間を試技に参加させること以外、何を使用しても構わない」という自由度の高さだった。

「雷丸、お前を参加させても良いらしいぞ」
「ピー」
「おお、やる気満々だな」
「ピー」

 ルール上、道具であっても生き物であっても、利用し放題となる。持てる者ほど有利だが、戦争とはそういうものと言われてしまえばお終いだ。

「標的に鎧を着せて守っても良いのか」

 もっとも、試合が始まるまで標的には触れられない。相手が魔術を放ってくる中で、標的に鎧を着せる余裕はなかなか見つかるまい。

 面白いのは標的の仕様であった。

「標的と遮蔽物が一体になっているのか」

 高さ1メートル程の台車が堅牢な遮蔽物になっており、競技者はその後ろに身を隠せる。台車の上には支柱が立っており、そこから標的がぶら下がっている。

「台車を押して移動できるわけだ」

 相手目掛けて攻め込んでも良し。台車を押して逃げ回っても良し。競技場内で動き回ることが許されていた。

「逃げる標的を狙う時は気をつけないとね」

 狙いがそれて敵の競技者に攻撃を当てたら、失格である。たとえ防御魔法で防がれてダメージがなかったとしても、当ててしまった時点で反則負けとなるのだ。

 競技開始時、選手同士は20メートルの距離で正対する。開始の合図で行動を始めるのだが、動きながら攻めても良いし、止まったまま攻撃を飛ばしても良い。
 近接戦、遠距離戦のどちらを選んでも良いのだった。

 一応、動ける範囲には制限があった。それぞれ10メートル四方のエリアを陣地として与えられている。
 陣地の外に出たら失格というルールになっていた。

「思ったよりも実践的なルールだな」

 動きながらの競技であるため誤射の可能性がある。選手への危険を抑えるため、競技者は定められた防具を着用しなければならない。
 標的と同じ素材でできた全身防具は、着ぐるみのような厚みがあった。

「うーん。着慣れた道着で参加したかったけど、ルールだから仕方がない。それにしてもこんな分厚い防具を着込んだら、動きに支障が出そうだな」

 魔術試技会前日までの間、希望者は標的台車と防具の試用が許される。これも事故防止と、参加者間の公平を期すための対策であった。
 何でも、魔術試技会のルールは魔術師業界では周知のもので、英才教育を受けている生徒は入学以前から同じ仕様の台車と防具に親しんでいるらしい。

 戦法にも流派ごとの「定石」が存在し、年々研究成果によって磨かれているのだ。

「作戦かぁ。どうやったら印象よく勝てるかなぁ」

 ステファノの悩みは他の生徒たちとは別次元にあった。

「蛇の巣」を使えば相手からの攻撃は無効化できる。在学生に上級魔術師がいない以上、ステファノの守りは鉄壁といえた。
 威力を抑えずに魔法を撃てば、敵の標的を破壊することも容易いだろう。

「当然相手も防御するだろうから、攻撃の威力はそんなに抑えなくても良いのかな?」

 防御に用いられるのは、氷か風が多い。ステファノの魔法なら防御壁ごと貫ける。

「氷を砕く時は、破片に気をつけないとね。飛び散った破片が敵に当たっても失格になっちゃう」

 範囲魔法も使いにくい。相手の競技者を巻き込んでしまうだろう。

「つまり、一点集中型の攻撃が望ましいわけだ」

 ステファノは戦いのパターンをあれこれと想像して、作戦を練った。

 ◆◆◆

「トーマは魔術試技の部には出場しないのかい?」

 研究報告会が近づいたある日、いつもの研究室でスールーが尋ねた。

「無理、無理。俺の実力じゃ標的に届くかどうかも怪しいぜ」

 開始位置なら20メートル。双方が最大限前進したとして、互いの距離は10メートルある。

「最接近したらようやく攻撃が届く距離だからな。戦いにならないよ」
「そうか。情革研から2名出場者が出たら面白いと思ったが、仕方ないね。ステファノに優勝してもらおう」
「そこは間違いないだろう。2年生にどんな実力者がいるか知らないが、ステファノの敵とは思えないからな」

 実力差がありすぎた。さらに言えば、攻撃手段の多さでもステファノの圧倒的な優位であった。

「魔術試技の部と言いながら、弓矢や礫を使って良いというのは思い切っているというか、潔いというか」
「妙な所で武張っているよな」
「それだけじゃない」

 スールーとトーマのやり取りに、サントスが加わった。

「お貴族様には魔術師が少ない。魔力抜きの武術で、お貴族様が参加できるようになっている」
「そういうことか! サントスにしては鋭いことを言うじゃないか」
「俺はいつも鋭い。奥ゆかしいだけ」

 貴族が参加するとなると、魔力を持たない者が多くなる。その場合、防御魔術で自分の標的を守ることができない。したがって、自陣の最後方まで下がり、弓矢で相手を攻撃するのが常道であった。
 今年はキムラーヤ商会謹製の照準器つきクロスボウが人気のようだ。

「後はギフトの出番になる。弓矢に威力を乗せるギフトとか、礫を飛ばすギフトとか」
「わかりやすいのは『怪力』とか、『投擲』。『百発百中』とかのギフトか」

 サントスのご高説に、スールーが蘊蓄うんちくを傾ける。

「ギフトって奴は秘するが華だからね。どんな戦闘系ギフトが存在するか、予断を許さないぞ」
「精神系のギフトもあるらしい」

 ぼそりと、サントスが怖い言葉を吐いた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第462話 うーん。作戦を練り直さないと……。」

「催眠、混乱、感覚異常――驚愕や爆笑というギフトもあるらしいぞ」
「そうか……。敵の精神を操作するという戦い方もあるんですね」

 ステファノにとっては盲点であった。標的への攻撃をシャットアウトしたとしても、自身の精神を操作されたら手も足も出なくなる。

「精神攻撃は許されているのかな?」
「敵への直接攻撃は反則じゃないのか」
「精神攻撃は『直接攻撃』とは判定されない」

 ……

◆お楽しみに。
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