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第4章 魔術学園奮闘編
第480話 魔術というものは想像より面倒なものなんだね。
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先に氷で防御を固めていた少年が、攻撃でも少女に先んじて一撃を加えた。
「水よ、集いて敵を撃て。水球!」
少年が振り出す短杖の先に水の玉が生まれ、ぐるぐると回りながらリンゴの実ほどの水球に成長した。
「飛べ!」
頃合いよしと発した少年の気合に乗って、水球は敵の標的目掛けて飛んで行った。時速にすると100キロほどの勢いで10メートルの距離をあっという間に埋めた。
ぼんと音がする勢いで竜巻に突っ込んだ水球は、簡単にはばらけなかった。水球を構成する水自体がぐるぐると渦を巻いているのであろう。多少いびつに拉げたものの、少し軌道をそらされただけで竜巻を抜けていった。
狙っていた中心からは外れたが、水球は標的の左肩に命中してゆらりと標的を揺らした。
「おっ、当たったね」
「今のはダメージになる?」
「標的が揺れたからな。気絶は無理でも打撲傷くらいにはなったんじゃないか?」
人間への攻撃だとしたらという想定で、トーマは見た結果を評した。
「あの程度の速さなら避けられるんじゃないか?」
「うーん、どうだろう? 生身の人間なら避けられるだろうが、標的を載せた台車を動かしてとなるとなぁ」
「止まっている台車は急には動かない」
「そうか。それなら止まらないで動き続けるとか……」
10メートルの距離で時速100キロの球を投げつけられたら、余程反射神経が良くないと避けられまい。止まっている的はいわゆる「シッティング・ダック」の状態だ。
「それが動けないんだな。防御壁が竜巻だからな」
トーマがしたり顔に解説した。
「台車を動かしても、竜巻はついて来てくれない。せっかくかけた防御魔術が無駄になっちまう」
つまり防御を失い、丸裸になってしまうのだった。
「向こうの氷魔術は標的本体を覆っている。あれなら台車を動かしても氷を失うことはない。ところが、彼女の方は標的の前の空間を指定して魔術を発現させている。それで台車を動かせなくなるわけさ」
「なるほど。魔術というものは想像より面倒なものなんだね。おっと、追撃か」
トーマが解説している間に魔力を練り上げたのだろう。優勢に立つ少年が2つ目の水球を撃ち出した。
今度は少女もやり方を変えた。そのまま水球を受けずに、台車を押して右手方向に移動させた。
水球は再び竜巻に衝突し、軌道を曲げられて標的の左肩があった方向に飛んで行った。
「竜巻の回転方向と反対に逃げたわけか。攻撃を読まれたね」
「水球の威力が把握できたからな。竜巻にそらされる方向がわかれば避けるのは難しくない」
「む。逆襲の気配」
少年の攻撃を耐え忍ぶ間、少女は魔力を練り上げていたのだろう。台車を竜巻の陰に戻しながら呪文を詠唱した。
「我は求める。風よ集え、集い、集いて力を増せ。強く高く、天に昇りて敵を撃て! 風雪崩!」
少女は宣言と共に、指輪をはめた拳を空に突き上げた。
台車の前で渦巻く竜巻は勢いを増し、目に見えるほどの密度となった。踊るように身をくねらせながら高さを増し、空に向かって伸びていく。
見上げる高さまで伸びあがると、獲物に飛び掛かる蛇のように、雪崩を打って少年の標的目掛けて急降下した。
少年も黙って見ていたわけではなかった。少女が攻撃魔術を放った瞬間に台車を引いて後ろに下がった。
自分と同じく少女の攻撃範囲が狭いことを見切っていたのだ。距離を取れば、魔術は届かないと。
「あー。勝負あったな」
首の後ろに手をやりながら、トーマがつぶやいた。
少女が放った風魔術は、先ほどまで敵の台車が存在した地点まで下降した。地面の塵を激しく巻き上げ、床を削り取る。
少年の台車は風魔術を完全に避けたように見えた。
「動き出した雪崩は止まらねえぜ?」
トーマの予言通り、地面に突き当たったように見えた竜巻の「頭」はそこで止まらず、後方に下がった台車に向かって地表を進んだ。
「しまった!」
少年は台車を横に逃がそうとしたが、間に合わない。高速の気流は負圧を発生させて周りの物体を引き寄せる性質があるのだ。台車は少年の意思に反して、竜巻に吸い寄せられた。
ガリガリガリッ!
高い音を立てて風の刃が標的と台車の前面に食い込んだ。
がしゃん!
標的を覆う氷が音を立てて崩れ落ち、竜巻が標的に直接食らいついた。数秒表面をひっかいて線状の傷を残し、竜巻は風となって通り過ぎていった。
「それまで!」
審判が1分の経過を告げて、試合が終了した。
「竜巻の負圧を利用した?」
「そういうことさ。真っ直ぐ後退したのが敗因になったな。竜巻を押し出すのはユニークな技だが、あれは真っ直ぐにしか進まないぜ」
「後ろじゃなくて、横に避ければ良かったのかい?」
「まあな。射程距離が短いという先入観が咄嗟に距離を取る行動につながったんだな」
少女は一撃に勝負をかけた。自分の魔力で有効打を出すにはそれしかないと。
「魔術自体の射程距離は10メートルだ。その限界を突破するために、あいつは防御に使った竜巻にありったけの魔力を追加して、竜巻を押し出したんだ」
竜巻を起こすのは魔術であるが、起こった竜巻は自然現象になる。ほんの数秒持続するそれを、後から起こした気流で雪崩にしてぶつけたのであった。
判定の結果、標的の表面に傷をつけた竜巻によるダメージの方が大きいと認められ、少女が第一試合の勝者となった。
「ふうん。魔術の打ち合いとしては迫力不足だと思ったが、どうしてどうして。駆け引きの内容を知れば、なかなか面白かったよ」
スールーの言葉は3人の感想を代表していた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第481話 魔力の大小だけで勝敗が決まるわけではないんだね。」
第一試合の結果は、いろいろと示唆に富んでいた。
単純な術の優劣で言えば、少年の方が上であったろう。
少女は呪文を声に出して詠唱しなければ魔力を練ることができなかったし、術式構築にかかる時間も長かった。
しかし、それを踏まえた上で戦い全体の流れを支配していたのは、少女の方であった。
「あんな戦い方もあるのだね。自分の欠点を知った上で、持っている力を最大限に生かす戦略か」
「確かに作戦勝ち」
「男の方に油断があったのは間違いないが、それを誘ったのは女の方だったな」
……
◆お楽しみに。
「水よ、集いて敵を撃て。水球!」
少年が振り出す短杖の先に水の玉が生まれ、ぐるぐると回りながらリンゴの実ほどの水球に成長した。
「飛べ!」
頃合いよしと発した少年の気合に乗って、水球は敵の標的目掛けて飛んで行った。時速にすると100キロほどの勢いで10メートルの距離をあっという間に埋めた。
ぼんと音がする勢いで竜巻に突っ込んだ水球は、簡単にはばらけなかった。水球を構成する水自体がぐるぐると渦を巻いているのであろう。多少いびつに拉げたものの、少し軌道をそらされただけで竜巻を抜けていった。
狙っていた中心からは外れたが、水球は標的の左肩に命中してゆらりと標的を揺らした。
「おっ、当たったね」
「今のはダメージになる?」
「標的が揺れたからな。気絶は無理でも打撲傷くらいにはなったんじゃないか?」
人間への攻撃だとしたらという想定で、トーマは見た結果を評した。
「あの程度の速さなら避けられるんじゃないか?」
「うーん、どうだろう? 生身の人間なら避けられるだろうが、標的を載せた台車を動かしてとなるとなぁ」
「止まっている台車は急には動かない」
「そうか。それなら止まらないで動き続けるとか……」
10メートルの距離で時速100キロの球を投げつけられたら、余程反射神経が良くないと避けられまい。止まっている的はいわゆる「シッティング・ダック」の状態だ。
「それが動けないんだな。防御壁が竜巻だからな」
トーマがしたり顔に解説した。
「台車を動かしても、竜巻はついて来てくれない。せっかくかけた防御魔術が無駄になっちまう」
つまり防御を失い、丸裸になってしまうのだった。
「向こうの氷魔術は標的本体を覆っている。あれなら台車を動かしても氷を失うことはない。ところが、彼女の方は標的の前の空間を指定して魔術を発現させている。それで台車を動かせなくなるわけさ」
「なるほど。魔術というものは想像より面倒なものなんだね。おっと、追撃か」
トーマが解説している間に魔力を練り上げたのだろう。優勢に立つ少年が2つ目の水球を撃ち出した。
今度は少女もやり方を変えた。そのまま水球を受けずに、台車を押して右手方向に移動させた。
水球は再び竜巻に衝突し、軌道を曲げられて標的の左肩があった方向に飛んで行った。
「竜巻の回転方向と反対に逃げたわけか。攻撃を読まれたね」
「水球の威力が把握できたからな。竜巻にそらされる方向がわかれば避けるのは難しくない」
「む。逆襲の気配」
少年の攻撃を耐え忍ぶ間、少女は魔力を練り上げていたのだろう。台車を竜巻の陰に戻しながら呪文を詠唱した。
「我は求める。風よ集え、集い、集いて力を増せ。強く高く、天に昇りて敵を撃て! 風雪崩!」
少女は宣言と共に、指輪をはめた拳を空に突き上げた。
台車の前で渦巻く竜巻は勢いを増し、目に見えるほどの密度となった。踊るように身をくねらせながら高さを増し、空に向かって伸びていく。
見上げる高さまで伸びあがると、獲物に飛び掛かる蛇のように、雪崩を打って少年の標的目掛けて急降下した。
少年も黙って見ていたわけではなかった。少女が攻撃魔術を放った瞬間に台車を引いて後ろに下がった。
自分と同じく少女の攻撃範囲が狭いことを見切っていたのだ。距離を取れば、魔術は届かないと。
「あー。勝負あったな」
首の後ろに手をやりながら、トーマがつぶやいた。
少女が放った風魔術は、先ほどまで敵の台車が存在した地点まで下降した。地面の塵を激しく巻き上げ、床を削り取る。
少年の台車は風魔術を完全に避けたように見えた。
「動き出した雪崩は止まらねえぜ?」
トーマの予言通り、地面に突き当たったように見えた竜巻の「頭」はそこで止まらず、後方に下がった台車に向かって地表を進んだ。
「しまった!」
少年は台車を横に逃がそうとしたが、間に合わない。高速の気流は負圧を発生させて周りの物体を引き寄せる性質があるのだ。台車は少年の意思に反して、竜巻に吸い寄せられた。
ガリガリガリッ!
高い音を立てて風の刃が標的と台車の前面に食い込んだ。
がしゃん!
標的を覆う氷が音を立てて崩れ落ち、竜巻が標的に直接食らいついた。数秒表面をひっかいて線状の傷を残し、竜巻は風となって通り過ぎていった。
「それまで!」
審判が1分の経過を告げて、試合が終了した。
「竜巻の負圧を利用した?」
「そういうことさ。真っ直ぐ後退したのが敗因になったな。竜巻を押し出すのはユニークな技だが、あれは真っ直ぐにしか進まないぜ」
「後ろじゃなくて、横に避ければ良かったのかい?」
「まあな。射程距離が短いという先入観が咄嗟に距離を取る行動につながったんだな」
少女は一撃に勝負をかけた。自分の魔力で有効打を出すにはそれしかないと。
「魔術自体の射程距離は10メートルだ。その限界を突破するために、あいつは防御に使った竜巻にありったけの魔力を追加して、竜巻を押し出したんだ」
竜巻を起こすのは魔術であるが、起こった竜巻は自然現象になる。ほんの数秒持続するそれを、後から起こした気流で雪崩にしてぶつけたのであった。
判定の結果、標的の表面に傷をつけた竜巻によるダメージの方が大きいと認められ、少女が第一試合の勝者となった。
「ふうん。魔術の打ち合いとしては迫力不足だと思ったが、どうしてどうして。駆け引きの内容を知れば、なかなか面白かったよ」
スールーの言葉は3人の感想を代表していた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第481話 魔力の大小だけで勝敗が決まるわけではないんだね。」
第一試合の結果は、いろいろと示唆に富んでいた。
単純な術の優劣で言えば、少年の方が上であったろう。
少女は呪文を声に出して詠唱しなければ魔力を練ることができなかったし、術式構築にかかる時間も長かった。
しかし、それを踏まえた上で戦い全体の流れを支配していたのは、少女の方であった。
「あんな戦い方もあるのだね。自分の欠点を知った上で、持っている力を最大限に生かす戦略か」
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……
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