飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第505話 畜生、落ち着いていやがる!

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 ステファノの攻撃が通り、トマスの攻撃はかわされた。ここまでは完全にステファノ優勢である。

(時間は、後20秒か? まだ早い)

 渾身の攻撃を繰り出すには、試合時間が残りすぎていた。攻撃の後の防御が間に合わない。
 試合時間ぎりぎりまで、トマスは何とかしのがねばならなかった。

 トマスはせめてもの抵抗に、台車を押して最後方に下がり、左右に動かした。ダウンタイム終了までの数秒間、ステファノの攻撃を一発でもかわそうとしていたのだ。

 ドンッ!

 トマスの努力を一顧だにせず、ステファノは「遠当ての極み」を長杖スタッフから撃ち込んだ。標的鏡ターゲットスコープの狙いは1センチの狂いもなくトマスの標的を捉える。

(畜生、落ち着いていやがる!)

 ようやくトマスがダウンタイムから復帰した。一旦防御を固めることを優先しようと、強度3倍の「氷柱」を発動した。

 ゴツッ!

 ぎりぎりで氷柱の守りが間に合い、ステファノの遠当てを受け止めた。細かい氷の粉が舞い散る。

(今回は鉄丸ではなかった。けん制のための攻撃か)

 ステファノが飛ばしたのはイドの塊だけで、試合冒頭のような鉄丸ではなかった。それだけでは氷柱を破壊する威力はない。
 しかし、トマスは貴重な手順を防御に使わされ、またもダウンタイムに追い込まれた。

(攻撃ができない。相手の手が速すぎる)

 ノータイムで術を繰り出すステファノは、トマスにとってこの上なくやりにくい相手だった。

(術の威力はそれほどでもない・・・・・・・・のだが、とにかく手数が多い)

 あと5秒耐えれば、最後の勝負に出られる。トマスは歯噛みする思いで、その時を待った。

蛇尾くもひとで!」

 トマスの想いをよそに、ステファノは長杖から不可視のイドを撃ち出した。直径10センチの見えない弾が標的目指して宙をかける。
 標的の手前1メートルで弾がほどけ、ヒトデの形に腕を伸ばした。

 どさり。

 鈍い音を立てて着弾すると、ヒトデの5本の足が吸い付くように氷柱に巻きついた。

「何だ? 何が当たった?」

 トマスの目には氷柱ごと標的が揺れたことしかわからない。

「火炎縛り!」

 蛇尾くもひとでには火属性の魔力が付与されていた。術式は今発動し、赤々と炎を上げるヒトデの姿が浮かび上がった。
 じゅうじゅうと蒸気を発し、ヒトデは氷柱を溶かした。

「あれは火属性の術かい?」
「ただの魔術じゃないよ、スールー。イドの塊にオリジナルの火魔法を乗せたんだろう」
「術というより生き物。あれもアバターだろう」

 スールーの疑問に応えたトーマとサントスには、ステファノがイドを飛ばしたところから観えていた。球状の見えない塊が宙を飛び、蛇がとぐろを解くように5本の足を広げて氷柱に絡みつく姿を観た。

 溶かされた氷は、塊のままぼとぼとと標的の足元に落ちた。蛇尾くもひとでは絡みつく力を強めて、標的を直接焦がし始めた。

 試合時間残り5秒。

「最大ループ! 氷弾マックス!」

 トマスはギフトと魔力の全力を凝らし、10倍パワーの氷弾を放った。飛んで行く氷は球ではなく、円錐形の槍状になっていた。根元の直径は20センチにもなっている。

 ステファノの標的を守るイドの盾と虹の王ナーガの鱗。その二重の防御を破れるとしたら、トマスにはこの攻撃しかなかった。

 たとえ陰気の洪水で魔力を中和されても、純粋な氷の質量で防御を貫く。そのためにトマスは氷魔術を選んだ。

 酷使した魔視脳は熱を持ち、トマスの目を霞ませる。氷弾が標的を撃つ瞬間を見届けようと、トマスは唇をかんで頭痛に耐えた。

土剋水どこくすい、鬼ひしぎ!」

 ステファノは氷弾に向かって、土魔法を乗せた長杖を振り下ろした。瞬間的に発生した大引力が氷弾を地面にたたきつける。
 まるで巨大な鬼に踏みつぶされた如く、氷弾は地表で潰されて粉々に砕けた。

「まだだ。行けっ!」

 トマスは汗を滴らせながら叫んだ。

 砕けたとはいえ、氷の勢いは止まっていない。土石流のように雪煙を上げながら氷の奔流が標的に向かった。

 ごうっ!

 氷の前に巨大な炎が膨れ上がった。雷丸いかずちまるが放った火魔法だ。

「ピーィイイッ!」

 雷丸の術はただの炎ではなかった。水を燃気水素清気酸素に分解し、燃やし尽くす術理の炎である。氷のかけらは一片たりとも炎を潜り抜けることができなかった。
 膨れ上がる炎はイドの盾に遮られ、標的を避けて上空へと広がった。

「それまでっ!」

 炎が消えた後に残ったのは、焼け焦げたトマスの標的と、対照的に傷ひとつないステファノの標的だった。

「勝者ステファノ!」

 その瞬間に、ステファノの優勝が決まった。

 ◆◆◆

 成績発表に表彰式、講師陣による講評などがあって大会は閉会した。情革研の仲間と合流したステファノは、4人で街に出て祝勝会を行うことになった。

「いやあ、終わってみれば圧勝だったね、ステファノ。危なげない戦いぶりだったよ」
「ありがとうございます。いろいろ反省がありますが、優勝できてよかったです」

 乾杯の音頭を取ったスールーが主役であるステファノに勝利を祝う言葉をかけた。

「これでアカデミーでやり残したことはないわけだね?」
「そうですね。明日修了認定書を受け取れば、学園での暮らしが終わることになります」
「たったの半年か。短い間だったな」

 いつもは陽気なトーマの声にも、心なしかしんみりしたものが混ざっていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第506話 名言というのは雰囲気を味わうものだよ。」

「あっと言う間だったな。あれもこれも中途半端だった気がする」

 ステファノも感慨無量だった。思い返せば、あの時こうすれば良かったという後悔ばかりだ。

「うつむくな。胸を張れ」
「サントスさん……」

 自分でもうつむき加減のサントスが、低い声で言った。

「お前の行動に手抜きはない。それで十分」

 バンスがいたならば同じことを言っただろう。下ばかり見ている奴にうまいものが作れるか、と。

 ……

◆お楽しみに。
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