飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
521 / 694
第5章 ルネッサンス攻防編

第521話 こいつばかりはウチにしかできねぇ。

しおりを挟む
「それを言ったら3人も似たようなものじゃありませんか。3学期が終われば卒業でしょう?」

 ステファノがスールーに顔を向けて言った。トーマに限って言えば卒業ではなく中退だが、それを言い立てるのは無粋というものだろう。

「まあね。6月で3学期は終わる。学位の授与は夏休み明けの9月になるけどね」
「夏休みはお引越し」

 スールーとサントスは夏休みの期間中に、海辺の町サポリに活動拠点を移すつもりだった。
 やがて開校するウニベルシタスに近い場所で、新しい事業を始めようというのだ。

「スールーさんの教科書事業の方はどんな感じですか?」

 スールーには「志」がある。ステファノの魔法具が起こすルネッサンスが戦争を終結させる。それを見越した将来事業である。

 平和な時代が訪れれば、人口爆発が起こると悟ったスールーは、児童教育こそが未来の鍵だと確信した。
 自分で学校を開くつもりはないが、「教科書」を広く売り出すことなら自分にもできる。

「そのためには、自動印刷機を完成させないとね」
「トーマの頑張りに期待」
「そっちは任せといてくれ。試作機はできてる。後は量産性を上げるだけだ」

 自動機械が存在しない世界で機械を量産する。自己矛盾のような挑戦だった。
 それでもキムラーヤ商会の職人たちは、機構の単純化、部品点数削減、加工性向上、耐久性改善などに精魂を傾けた。

 作ってはばらし、組み合わせては作り直す。作業場に泊まり込んでの改良作業は、ついに実を結ぼうとしていた。トーマが商会に戻る頃には、量産機の設計が固まっているだろう。
 部品量産化に必要な加工機も、それに合わせて作り上げるのだ。

「へへへ。こいつばかりはウチにしかできねぇ。当面の間はな。分解してみたところで、狂いなく部品を作り、組み立てるのは至難の業だぜ」

 設計は写せても加工機がないのだ。すべての部品を手作りしていては、とても採算が取れない。

「肝心の『製版器』はメシヤ印の魔法具だ。これは真似しようがないからね」

 スールーが言う。

 ステファノが用意した「魔法具」がなければ、製版の魔法を付与することができない。魔法具に頼らず印刷用の版を作ろうとするなら、手彫りするしかなかった。
 できないことではないが、手彫りには時間がかかる。

 魔法具を有するキムラーヤ商会は圧倒的な技術的優位に立っていた。

 余談であるが、この格差をひっくり返そうと競争相手が必死に努力した結果、数年後に1文字ずつの版である「活字」が発明された。活版を使えば、魔法具がなくても迅速な印刷が可能となったのだ。

 魔法具の存在は技術進歩を阻害しそうだが、あえて独占させたことが、これに対抗する技術の発展を促した。ゴールさえ与えれば、科学はそれを現実化する。
 キムラーヤ、またはメシヤ流の役割は「パイオニア」として時代の最先端を疾走することだった。

 未来を示す先駆者がいれば、世の中はやがてついて来る。
 それがやがて止まらない大きなうねりとなって、世界を変えるのだ。

 決め手となるのは、圧倒的な先見性と技術的優位性。パイオニアはそれを示し続けねばならない。

「僕たち情革恊の役割は、時代の先頭に立って走り続けることだ。立ち止まることは許されない」
「ふん。わかってるぜ、スールー。4人の知恵を合わせて先を読み、俺たちの技術とステファノの魔法を組み合わせて作り込む」
「当然だ。圧倒的に勝つ」

 スールが強気に宣言すれば、トーマとサントスがそれに続いた。青雲の志は4人の胸に燃えていた。

「だったら、4人の連絡網が必要だね」
「皆まで言うな、ステファノよ。魔耳話器まじわきだろう? 原型は作り込んであるぜ」

 トーマは小さな袋を取り出した。中から現れたのは、そら豆に小指の先ほどの筒をつけた形の物だった。

「小さいな。これが改良型かい?」
「おう。筒の部分を耳の穴に入れて使う。これなら目立たないだろう?」
「うん。軽い。つけ心地も悪くない」

 新型魔耳話器まじわきをスールーが眺めている間に、サントスは早速自分の耳に装着していた。

「耳の大きさに合わせてあるからな。それぞれピッタリになっているはずだ」
「さすがキムラーヤ。芸が細かいね」

 各人の耳にオーダーメイドで合わせてあるというトーマの言葉に、スールーは素直に感心した。

 サントスとスールーから原型を取り戻し、トーマは4つのそれをステファノの前に差し出した。

「それじゃあ、先生、ひとつ頼むぜ」

 ステファノは黙って頷いた。一箇所に置かれた魔耳話器まじわきの原型に、軽く右手をかざした。

「はい。できたよ」
「おい、それだけかよ? 呪文とか、まじないとか、それらしいことはしないのか」
「最近覚えた技なんだ。ええと、『よく染みる出汁だし』みたいなものかな?」

 拍子抜けしたトーマに、ステファノは飄々ひょうひょうと告げた。イドの高周波化がもたらした効果のひとつだった。

 高速振動するID波は、対象のイドに瞬間浸透する。

「凄いことなんだろうが、どうにも呆気あっけねぇな」
「違うぞ、トーマ。本当に優れた技というものは、他人には簡単に見えるものさ」
「簡単と単純は違う」

 スールーとサントスにだめ出しされて、トーマは渋々納得した。

「わかったよ。難しいことを簡単そうにやって見せてるってことだな」
「そういうこと。そうだね、ステファノ?」

 片目をつぶって見せるスールーに、ステファノは苦笑した。

「そう……なんですかね? できてしまうと、難しいことだとは思えなくて」
「あ~、ステファノは天然で人を傷つけるタイプ」
「えっ? そんな……。天然?」

 渋い顔になったステファノを挟み、「そうだ、そうだ」と3人は盛り上がった。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第522話 あれがルネッサンスのゆりかごとなる場所か。」

 魔耳話器まじわきを得たトーマは、1人になる不安もなく、キムラーヤ商会に戻る準備を始めることになった。馬車か馬で手紙を運ぶしか連絡手段がないこの時代において、魔耳話器まじわきの利便性は圧倒的だった。

「これを道中で打ち込んで歩けばいいんだな?」

 ステファノから渡された小袋に、小さな釘が数十本納まっている。中継器ルーターの魔法式を付与した魔法具だった。魔耳話器まじわき同士の直接通話距離はせいぜい100メートルだが、中継器を間に入れれば距離の制約がなくなる。

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

処理中です...