613 / 694
第5章 ルネッサンス攻防編
第612話 だったらそれを目指したまえ。
しおりを挟む
「すべては生まれつき決まっているということか。わたしの努力は無駄だった」
ドリーは拳を握り締めた。
「それもまた愚かな発言だね。先天的な特質差などどこにでもある。背が低く生まれたことを絶望しても仕方ないと思うがね?」
馬鹿々々しいと、ドイルは肩をすくめた。
「あなたにとってはどうでも良いことだろう。だが、わたしにとっては生涯の目標だったんだ!」
ドリーは唾を飛ばして、言い返した。
「だとすると、目標設定を間違えていたということだね」
「簡単に言ってくれる」
噛みつくようなドリーの視線を受けても、ドイルの態度は変わらない。むしろ面白がっているようにさえ見えた。
「君は『双子に生まれたい』という目標を立てていたわけだ。それは無理筋だとわかるだろう?」
「……」
おちょくるようなドイルの言い方に、ドリーの眼に怒りの炎が揺らめく。
「ならば、目標を修正するべきだろう。君が考える上級魔術師とはそもそも何なのだ?」
「上級魔術師とは――魔術師の最高峰だ!」
「だったらそれを目指したまえ。実に簡単な話だ」
ドイルは真剣だ。本気でそう考えていた。
彼自身がそうやって生きてきたのだ。
選んだ道が行き止まりだった。信じた人に裏切られた。取り返しのつかない過ちを犯した。
それがどうした。そこで歩みを止めるのか?
道を変えればいい。踏み越えればいい。やり直せばいい。
当たり前のこと。それだけの話だ。
「要するに、やる気があるかないかだけの話だ。君の感情を言語化すれば、『今からすべてをやり直すのは大変なのでやりたくない』と言っていることになる。違うかね?」
「くっ……!」
言い返せなかった。その通りだということは考えるまでもなく、苦い味となってドリーの口中に満ちていた。
「まあ、同情はするがね。アバターが思念体双生児だというのは、僕にとっても驚くべき事実だ。衝撃を受ける魔術師がいても仕方がない」
そこまで言ってドイルは声の調子を変えた。
「だが――君は魔法師を目指したのではなかったかね?」
はっとドリーは顔を上げた。
「魔法師とは何か? 君は真剣に考えたことがあるかい?」
魔法師とは、世界に法則を見出し、その法則に寄り添いつつ因果を望む形に改変する者。
魔法師とは、因果の改変にあたり可能な限り世界の秩序を保とうと努める者。
「魔法師とは、科学に秩序ある意志を持ちこむ者だ。僕にとってはね」
「秩序ある意志……」
「そう。科学者である僕にとってはうっとうしい存在なんだが、ぎりぎり許容範囲という所かな」
絶対不変の前提は「法則」であり「秩序」だ。つまり「科学」なのだとドイルは言う。
「ネルソンは治療魔法という独自の魔法を創り出したよ。どんな上級魔術師にも真似できないことだ」
そもそも上級魔術師たちは「破壊」の術しか生み出していない。
それがドリーの目指すものか?
最大の破壊をもたらす魔術を生み出したいのか?
「わたしは! ――わたしは人を守り、世の中の安全を守りたい」
ドリーは自らを武人だと思っていた。しかし、それは武の道を究めたいということであって、戦争で人を殺したいわけではない。魔法も強くあるための術として頂を目指していた。
何のために強くありたいのか?
ステファノと出会い、そのことを考えるようになった。それまではただ強くありたいとそれだけを考えていた。
強くなることに理由が必要だとは考えなかったのだ。
大切な人を守るためとステファノは言う。あいつらしく謙虚で気負いがない理由だ。
自分はどうだろう。多分同じだと思う。しかし、それだけでもないようなむず痒さが体の芯にある。
どうやら自分は秩序の維持者でありたいらしい。家族、知人だけでなく、見も知らぬ他人の安全さえも守る存在でありたいらしいのだ。
(格好つけの偽善者だ。とんだ正義漢面の道化者だ)
自分で自分が恥ずかしくなるが、それがドリーの偽らざる気持ちなのだ。
「結構。好きなだけ守り給え。君にはその力があるだろう」
ドイルの返事にはまったく屈託がない。理の当然と思うことを語っているだけだ。
「さしずめ君は『誰よりもうまく守る人』になりたいのだろう。そうなればいいさ」
「そんな簡単に……」
「目標とはできるだけ簡潔に、そして正確に定義すべきものだ。覚えておくといい」
ドイルの価値観は独特であったが、評価そのものは常に客観的だ。彼の眼から見ればドリーの悩みなど悩みとは呼べないのだろう。
「『誰よりもうまく守る人』か……」
口にしてみると、確かにそれが自分の理想である気がした。
「そうだな。わたしは守護者になろう」
ドリーは静かに宣言した。
誰を、何から守るのかもはっきりしていなかったが、それは自ら明らかになるという気がした。
「ふむ。おめでとう。目標再設定が終わったところで、アバターの話に戻っていいかね?」
「まだ何かあるのですか?」
「君には知的好奇心というものがないのかね、マルチェル? 思念体双生児であるアバターがなぜ魔獣のような外見をして、存在感を誇示するのか? 疑問に思わないかい?」
虹の王は認知された当初から強大な外見と迫力を有していた。能力は術者本人と共に成長するものでありながら、見た目と存在感は初めから巨大だった。
「そうですね。ギフトが発現したてのステファノなど、まだまだひよっこでした。その時から海の巨獣レヴィアタンと同視できる虹の王がアバターとは、随分先走った話ですね」
「そうそう。マルチェルの言う通りなんだ。結局『先走り』なんだよ」
アバターの外見と印象は「かくあるべし」と術者が信じる「能力の可能性」を具現化したものだ。
ドイルはそう言って、頷いた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第613話 いい答えだ、マルチェル。」
「アバターは思念体双生児だと考えられるが、特性的にはイドのコピーが人格化したものだ」
ドイルの言葉によれば、無意識の自我であるイドは自己の潜在能力、伸びしろを把握している。アバターはそれを鏡に映した存在だという。
ステファノのアバターが当初から強力に見えたのは、「成長可能性」を可視化した姿で発現したせいだった。
「しかし、実際の力はその時点のイドに等しい。ある意味見掛け倒しの存在なわけだ」
……
◆お楽しみに。
ドリーは拳を握り締めた。
「それもまた愚かな発言だね。先天的な特質差などどこにでもある。背が低く生まれたことを絶望しても仕方ないと思うがね?」
馬鹿々々しいと、ドイルは肩をすくめた。
「あなたにとってはどうでも良いことだろう。だが、わたしにとっては生涯の目標だったんだ!」
ドリーは唾を飛ばして、言い返した。
「だとすると、目標設定を間違えていたということだね」
「簡単に言ってくれる」
噛みつくようなドリーの視線を受けても、ドイルの態度は変わらない。むしろ面白がっているようにさえ見えた。
「君は『双子に生まれたい』という目標を立てていたわけだ。それは無理筋だとわかるだろう?」
「……」
おちょくるようなドイルの言い方に、ドリーの眼に怒りの炎が揺らめく。
「ならば、目標を修正するべきだろう。君が考える上級魔術師とはそもそも何なのだ?」
「上級魔術師とは――魔術師の最高峰だ!」
「だったらそれを目指したまえ。実に簡単な話だ」
ドイルは真剣だ。本気でそう考えていた。
彼自身がそうやって生きてきたのだ。
選んだ道が行き止まりだった。信じた人に裏切られた。取り返しのつかない過ちを犯した。
それがどうした。そこで歩みを止めるのか?
道を変えればいい。踏み越えればいい。やり直せばいい。
当たり前のこと。それだけの話だ。
「要するに、やる気があるかないかだけの話だ。君の感情を言語化すれば、『今からすべてをやり直すのは大変なのでやりたくない』と言っていることになる。違うかね?」
「くっ……!」
言い返せなかった。その通りだということは考えるまでもなく、苦い味となってドリーの口中に満ちていた。
「まあ、同情はするがね。アバターが思念体双生児だというのは、僕にとっても驚くべき事実だ。衝撃を受ける魔術師がいても仕方がない」
そこまで言ってドイルは声の調子を変えた。
「だが――君は魔法師を目指したのではなかったかね?」
はっとドリーは顔を上げた。
「魔法師とは何か? 君は真剣に考えたことがあるかい?」
魔法師とは、世界に法則を見出し、その法則に寄り添いつつ因果を望む形に改変する者。
魔法師とは、因果の改変にあたり可能な限り世界の秩序を保とうと努める者。
「魔法師とは、科学に秩序ある意志を持ちこむ者だ。僕にとってはね」
「秩序ある意志……」
「そう。科学者である僕にとってはうっとうしい存在なんだが、ぎりぎり許容範囲という所かな」
絶対不変の前提は「法則」であり「秩序」だ。つまり「科学」なのだとドイルは言う。
「ネルソンは治療魔法という独自の魔法を創り出したよ。どんな上級魔術師にも真似できないことだ」
そもそも上級魔術師たちは「破壊」の術しか生み出していない。
それがドリーの目指すものか?
最大の破壊をもたらす魔術を生み出したいのか?
「わたしは! ――わたしは人を守り、世の中の安全を守りたい」
ドリーは自らを武人だと思っていた。しかし、それは武の道を究めたいということであって、戦争で人を殺したいわけではない。魔法も強くあるための術として頂を目指していた。
何のために強くありたいのか?
ステファノと出会い、そのことを考えるようになった。それまではただ強くありたいとそれだけを考えていた。
強くなることに理由が必要だとは考えなかったのだ。
大切な人を守るためとステファノは言う。あいつらしく謙虚で気負いがない理由だ。
自分はどうだろう。多分同じだと思う。しかし、それだけでもないようなむず痒さが体の芯にある。
どうやら自分は秩序の維持者でありたいらしい。家族、知人だけでなく、見も知らぬ他人の安全さえも守る存在でありたいらしいのだ。
(格好つけの偽善者だ。とんだ正義漢面の道化者だ)
自分で自分が恥ずかしくなるが、それがドリーの偽らざる気持ちなのだ。
「結構。好きなだけ守り給え。君にはその力があるだろう」
ドイルの返事にはまったく屈託がない。理の当然と思うことを語っているだけだ。
「さしずめ君は『誰よりもうまく守る人』になりたいのだろう。そうなればいいさ」
「そんな簡単に……」
「目標とはできるだけ簡潔に、そして正確に定義すべきものだ。覚えておくといい」
ドイルの価値観は独特であったが、評価そのものは常に客観的だ。彼の眼から見ればドリーの悩みなど悩みとは呼べないのだろう。
「『誰よりもうまく守る人』か……」
口にしてみると、確かにそれが自分の理想である気がした。
「そうだな。わたしは守護者になろう」
ドリーは静かに宣言した。
誰を、何から守るのかもはっきりしていなかったが、それは自ら明らかになるという気がした。
「ふむ。おめでとう。目標再設定が終わったところで、アバターの話に戻っていいかね?」
「まだ何かあるのですか?」
「君には知的好奇心というものがないのかね、マルチェル? 思念体双生児であるアバターがなぜ魔獣のような外見をして、存在感を誇示するのか? 疑問に思わないかい?」
虹の王は認知された当初から強大な外見と迫力を有していた。能力は術者本人と共に成長するものでありながら、見た目と存在感は初めから巨大だった。
「そうですね。ギフトが発現したてのステファノなど、まだまだひよっこでした。その時から海の巨獣レヴィアタンと同視できる虹の王がアバターとは、随分先走った話ですね」
「そうそう。マルチェルの言う通りなんだ。結局『先走り』なんだよ」
アバターの外見と印象は「かくあるべし」と術者が信じる「能力の可能性」を具現化したものだ。
ドイルはそう言って、頷いた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第613話 いい答えだ、マルチェル。」
「アバターは思念体双生児だと考えられるが、特性的にはイドのコピーが人格化したものだ」
ドイルの言葉によれば、無意識の自我であるイドは自己の潜在能力、伸びしろを把握している。アバターはそれを鏡に映した存在だという。
ステファノのアバターが当初から強力に見えたのは、「成長可能性」を可視化した姿で発現したせいだった。
「しかし、実際の力はその時点のイドに等しい。ある意味見掛け倒しの存在なわけだ」
……
◆お楽しみに。
11
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる