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第5章 ルネッサンス攻防編
第616話 ウニベルシタスは『公器』ですからな。
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「先頃の大演習では王立騎士団も随分と活躍したそうですな」
各国代表を招いての軍事演習ではイドの盾が見学者の度肝を抜いた。参加した各地の騎士団中、ひと際目立ったのが王立騎士団だった。
ウニベルシタス初年度研修生であるアランとネロは、帰任後同僚の団員たちにイドの存在とその制御方法をいち早く指導したのだ。
「1年の差は大きい。よその騎士団が最初の研修生を送り出す時期に、こちらは独自の訓練を開始していたからな」
訓練方法やカリキュラムについては、つながりを生かしてウニベルシタスからノウハウを受け継いだ。
ステファノに出張指導を依頼したこともある。王国魔術競技会準優勝者の肩書のおかげで、団員にステファノが軽んじられることもなかった。
「アランとネロの2人を他の騎士団に先んじて受け入れてもらったことには感謝しています。ギルモア家よりも優先してもらいましたからな」
シュルツがマルチェルに礼を述べた。
ウニベルシタスとギルモア家の深い結びつきは言わずと知られている。ネルソン学長にとってギルモアはいわば本家だ。そこよりも先に王立騎士団員を研修生として受け入れたことには大きな意味があった。
「ウニベルシタスは『公器』ですからな。一貴族の持ち物ではないというところを示す必要がありました」
マルチェルが静かに首肯した。
「おかげで各領騎士団から交流の申し入れが増えました。訓練方法を学びたいと言ってですな」
これまでも騎士団同士の交流は存在したが、そこまで活発なものではなかった。対象も主に新人団員に限られており、基礎訓練が内容の中心だった。
競争意識の強い騎士団同士が、これほど大規模に交流する日が来るとはシュルツも想像していなかった。
「何しろイドの盾という新しい防御法を、戦術行動に組み込まねばなりませんからな」
シュルツの言葉にアランが激しく頷いた。
「重くてかさばる盾を持ち歩く必要がなくなったのはいいが、イドの盾をいつ出現させ、どう使うかということを部隊単位で考えなきゃなりません」
集団で戦うためには行動を揃える規律が必要だ。「盾」出現のタイミングを合わせ、隙間なく張り巡らせる調和行動を自然にできるまで訓練するのだ。
「魔術師との交流もむしろ増えている。あいつらにもイドの制御を教えて、自分の身を守ってもらわにゃなりませんから」
魔術師は打たれ弱い。それがこれまでの悩みだった。
その癖射程距離が短いため、攻撃時には敵に近づかねばならない。誰かが守ってやらなければ使い物にならない存在だったのだ。
イドの盾を身につければ、大きく状況が変わる。魔術師自身がイドの盾で防御壁を張ることができる。
「元々魔力持ちだからな。コツさえわかればイドの制御を覚えるのに、さほどの苦労はない」
ドリーの言う通りだった。魔術発動には魔核錬成を伴う。これまで感覚だけで行っていた行為を「イド」という理論で再解釈すると、魔術の術理が明かりに照らされたように浮き彫りになった。
魔術師はイドを認識すれば、非魔術師よりも上達が早い。それが事実だった。
そうなると、戦い方が変わってくる。
これまでお荷物だった魔術師を「前陣防壁」として押し立てることができるのだ。敵に同等の魔術部隊がいなければ、攻撃力ある防壁として敵の前線を蹴散らすものとなる。
魔術部隊同士の押し合いが膠着した場合は騎士団の出番である。敵の守りを打ち砕く鉄槌として、一丸となって突入するのだ。
「騎士団の優劣はこの突入行動で決まると言っていい」
これまでも騎馬突撃はあった。密集体系での突撃は物理的な破壊力で敵陣を蹴散らす力がある。
さらにイドの盾を追加することにより、騎士団は文字通り一本の槍となる。
「先の大演習では鋼鉄製の盾を構える重装騎兵団を、わが王立騎士団が文字通り吹きとばして見せた」
突入時はイドの厚さと密度が決め手となる。あたかも鋼を鍛えるように濃密なイドを均一に、隙間なくまとわねばならない。そこに集団行動訓練の要諦があった。
「じゃあ、騎士団としてはイドの導入には前向きなはずだね?」
シュルツとアランの説明を聞き、ドイルが尋ねた。確かに理屈上はそうなる。
「騎士団としてはそうなんだが……、きれいに一枚岩というわけでもないな」
「それはどういうことですか、アラン?」
言葉を濁すアランをマルチェルが追及した。
「みんながみんなイドを使いこなせるってわけじゃない。中にはイドだ、瞑想だってちまちましたことが苦手な奴もいるわけだ」
向き不向きというものがある。瞑想に向かない性格や体質の者は、イドの訓練から落ちこぼれてしまう。
「そういう連中が派閥を作って『魔力反対』を唱えているようだ」
彼らは自らを「反魔抗気党」と呼んでいた。面倒なのはかつて武力の頂点にいた優秀な団員を含んでいることだ。
「なるほど。かつての達人が『人並以下』の扱いを受けることになったのか。それは反発したくなる気持ちもわかるな」
ドイルが反魔抗気党の心情を慮って言った。「知力に欠ける体力馬鹿には適応が難しいだろうからね」と憎まれ口を挟むのを忘れないが。
「その連中の中にネロが混ざっている。どうにもあいつの考えていることが俺にはわからん」
アランは吐き捨てるようにそう言った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第617話 随分いい加減じゃないか。」
「そういう噂がこちらの耳にも入っています」
マルチェルはシュルツにも聞かせるようにそう言った。
「イドの制御が苦手な人間もいるでしょう。しかし、そうであってもあきらめる必要はありません。泳ぎを覚えるのと一緒で、時間をかけて慣れればいいだけのことなんですが」
「僕としては毛嫌いする対象が『魔法』にまで広がることが、腑に落ちないのだが。嫌いになるほど魔法と触れ合う機会も無かったろうに」
……
◆お楽しみに。
各国代表を招いての軍事演習ではイドの盾が見学者の度肝を抜いた。参加した各地の騎士団中、ひと際目立ったのが王立騎士団だった。
ウニベルシタス初年度研修生であるアランとネロは、帰任後同僚の団員たちにイドの存在とその制御方法をいち早く指導したのだ。
「1年の差は大きい。よその騎士団が最初の研修生を送り出す時期に、こちらは独自の訓練を開始していたからな」
訓練方法やカリキュラムについては、つながりを生かしてウニベルシタスからノウハウを受け継いだ。
ステファノに出張指導を依頼したこともある。王国魔術競技会準優勝者の肩書のおかげで、団員にステファノが軽んじられることもなかった。
「アランとネロの2人を他の騎士団に先んじて受け入れてもらったことには感謝しています。ギルモア家よりも優先してもらいましたからな」
シュルツがマルチェルに礼を述べた。
ウニベルシタスとギルモア家の深い結びつきは言わずと知られている。ネルソン学長にとってギルモアはいわば本家だ。そこよりも先に王立騎士団員を研修生として受け入れたことには大きな意味があった。
「ウニベルシタスは『公器』ですからな。一貴族の持ち物ではないというところを示す必要がありました」
マルチェルが静かに首肯した。
「おかげで各領騎士団から交流の申し入れが増えました。訓練方法を学びたいと言ってですな」
これまでも騎士団同士の交流は存在したが、そこまで活発なものではなかった。対象も主に新人団員に限られており、基礎訓練が内容の中心だった。
競争意識の強い騎士団同士が、これほど大規模に交流する日が来るとはシュルツも想像していなかった。
「何しろイドの盾という新しい防御法を、戦術行動に組み込まねばなりませんからな」
シュルツの言葉にアランが激しく頷いた。
「重くてかさばる盾を持ち歩く必要がなくなったのはいいが、イドの盾をいつ出現させ、どう使うかということを部隊単位で考えなきゃなりません」
集団で戦うためには行動を揃える規律が必要だ。「盾」出現のタイミングを合わせ、隙間なく張り巡らせる調和行動を自然にできるまで訓練するのだ。
「魔術師との交流もむしろ増えている。あいつらにもイドの制御を教えて、自分の身を守ってもらわにゃなりませんから」
魔術師は打たれ弱い。それがこれまでの悩みだった。
その癖射程距離が短いため、攻撃時には敵に近づかねばならない。誰かが守ってやらなければ使い物にならない存在だったのだ。
イドの盾を身につければ、大きく状況が変わる。魔術師自身がイドの盾で防御壁を張ることができる。
「元々魔力持ちだからな。コツさえわかればイドの制御を覚えるのに、さほどの苦労はない」
ドリーの言う通りだった。魔術発動には魔核錬成を伴う。これまで感覚だけで行っていた行為を「イド」という理論で再解釈すると、魔術の術理が明かりに照らされたように浮き彫りになった。
魔術師はイドを認識すれば、非魔術師よりも上達が早い。それが事実だった。
そうなると、戦い方が変わってくる。
これまでお荷物だった魔術師を「前陣防壁」として押し立てることができるのだ。敵に同等の魔術部隊がいなければ、攻撃力ある防壁として敵の前線を蹴散らすものとなる。
魔術部隊同士の押し合いが膠着した場合は騎士団の出番である。敵の守りを打ち砕く鉄槌として、一丸となって突入するのだ。
「騎士団の優劣はこの突入行動で決まると言っていい」
これまでも騎馬突撃はあった。密集体系での突撃は物理的な破壊力で敵陣を蹴散らす力がある。
さらにイドの盾を追加することにより、騎士団は文字通り一本の槍となる。
「先の大演習では鋼鉄製の盾を構える重装騎兵団を、わが王立騎士団が文字通り吹きとばして見せた」
突入時はイドの厚さと密度が決め手となる。あたかも鋼を鍛えるように濃密なイドを均一に、隙間なくまとわねばならない。そこに集団行動訓練の要諦があった。
「じゃあ、騎士団としてはイドの導入には前向きなはずだね?」
シュルツとアランの説明を聞き、ドイルが尋ねた。確かに理屈上はそうなる。
「騎士団としてはそうなんだが……、きれいに一枚岩というわけでもないな」
「それはどういうことですか、アラン?」
言葉を濁すアランをマルチェルが追及した。
「みんながみんなイドを使いこなせるってわけじゃない。中にはイドだ、瞑想だってちまちましたことが苦手な奴もいるわけだ」
向き不向きというものがある。瞑想に向かない性格や体質の者は、イドの訓練から落ちこぼれてしまう。
「そういう連中が派閥を作って『魔力反対』を唱えているようだ」
彼らは自らを「反魔抗気党」と呼んでいた。面倒なのはかつて武力の頂点にいた優秀な団員を含んでいることだ。
「なるほど。かつての達人が『人並以下』の扱いを受けることになったのか。それは反発したくなる気持ちもわかるな」
ドイルが反魔抗気党の心情を慮って言った。「知力に欠ける体力馬鹿には適応が難しいだろうからね」と憎まれ口を挟むのを忘れないが。
「その連中の中にネロが混ざっている。どうにもあいつの考えていることが俺にはわからん」
アランは吐き捨てるようにそう言った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第617話 随分いい加減じゃないか。」
「そういう噂がこちらの耳にも入っています」
マルチェルはシュルツにも聞かせるようにそう言った。
「イドの制御が苦手な人間もいるでしょう。しかし、そうであってもあきらめる必要はありません。泳ぎを覚えるのと一緒で、時間をかけて慣れればいいだけのことなんですが」
「僕としては毛嫌いする対象が『魔法』にまで広がることが、腑に落ちないのだが。嫌いになるほど魔法と触れ合う機会も無かったろうに」
……
◆お楽しみに。
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