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第十四章 音無しのジョバンニ

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 南門を抜けるとすぐに町は見えなくなり、変わり映えのしない荒野が両脇に広がった。
「旅は初めてかい?」
 ジョバンニの正面に座った中年の男が話し掛けてきた。
「ええ。分かりますか?」
「ああ。服も荷物も体に馴染んでいねえからな」
「そちらは旅慣れているようで」
 ジョバンニは男の風体を見て言った。
「まあな。気ままな暮らしさ」
 エンリコと名乗った男は、他の乗客にも声を掛けた。
「旅は道連れというからな。よろしく頼むぜ」

「おーい! どうしたんだ?」
 出発して二時間が経った頃、御者が前方に向けて叫んだ。
 街道の真ん中で男が一人、行く手をふさいでいる。警戒した御者は馬車を停めて、座席の後ろに手を伸ばす。そこには弓矢の用意がある。
「おっと、動くんじゃねえぜ。お前たちもだ」
 乗客のエンリコが、短剣を抜いて威嚇した。どうやら盗賊の一味だったらしい。
「どっ、どっ……どうぞお金です!」
 ジョバンニは震える左手・・・・・に金貨を握って、エンリコに差し出した。
「へっ? まだ何も言ってねえのに……」
 機先を制されたエンリコは、それでも金貨を受け取ろうと左手を出す。
「あわわわ……」
 震えるジョバンニの手から金貨が零れ落ちる。それを受け止めようと、思わずエンリコが身を乗り出した。

「ぐっ? てめえ……」
「そしてお前は倒れる」
 何しやがったと言い終わる暇もなく、心臓を一突きされたエンリコは崩れ落ちた。
「御者さん、前の賊をお願いします」
 ジョバンニは何事もなかったように声を掛けた。
「――はっ? おう!」
 気を取り直した御者は、取り出した弓に素早く矢をつがえると前方の賊に射かけた。馬車に近づいていた賊は不意を突かれて剣を抜く暇もなく、三本目の矢を背中に受けて倒れた。
「ジョバンニ様――」
「うん。うまくいったね」
 レンタル・メンタルでエンリコの行動を先読みした結果である。ジョバンニの剣技と併用すれば、盗賊如き相手にならなかった。

 やがて「音無しのジョバンニ」と異名をとる冒険者が誕生した瞬間であった――。

(完)
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