気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

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第一章

4話「若き魔女の誕生」

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「もぉー! なんで私のベッドをジェラード先生が勝手に使ってるんですか! ……はっ!? も、もしかして先生は私の匂いが染み付いたベッドで……ナニをっ!」

 魔術試験を終えたばかりだと言うのにやたらテンションの高い様子でアナスタシアが自身の部屋へと戻ってくると、彼女が言っている通りジェラードはベッドの上で横になっている状態だ。
 
 だがこれには理由があり彼がアナスタシアの帰りをそわそわしながら待っていると、座っていた椅子が木製の影響なのか尻が痛くなると近くにあったベッドに腰を下ろしたのだ。
 そして何となく横になってみると思いのほか寝心地が良くて今に至るという事なのだ。

「自分で言っていて顔を赤くしてどうするんだ。それよりも帰ってくるのが遅かったようだが……何かあったのか?」

 先程の発言が恥ずかしいかアナスタシアが赤面しているとジェラードは頬杖を付きながら質問した。事実彼女が試験を終えて帰ってくるには少しばかり時間が掛かっているのだ。
 何処かで寄り道などをしていなければ、もう数十分ぐらい早くに戻ってきてもおかしくはない。

「ええまあ。それよりも先生は私が試験を合格したかどうか気にならないんですか?」

 彼女は遅れた理由は話さなかったがジェラードに顔を近づけると試験に合格したかどうか聞いてこない事が気になったのか質問させるかのように言ってきた。
 恐らくだが彼が中々結果を尋ねてこないことに痺れを切らしてしまったのだろう。

「まぁ気にならないと言えば嘘になるが……そうだな。一応聞いておくとするか。試験の結果はどうだった?」 

 ジェラードは横になっていた姿勢を正すと結局急かされるようにして尋ねた。
 するとアナスタシアは自信ありげな表情を浮かべてから緩んだ口を開いてこう言ってきた。

「もちろん合格しましたよ! そして言われた通り実技と筆記ともに一位という成績ですよ!
さぁどうですか先生! これで私のことを見直しましたよね?」

 右手でピースサインをしながら自身が一番の成績だった事を言ってくると、そのまま彼女は両腕を組んでジェラードを見下すような視線を向けてきた。

「見直すもなにも俺は最初から確信していたぞ。お前が全てにおいてトップの成績を取ることをな」
「あ、それは嘘ですね。普段から私の事を魔女よりも料理人の方が向いていると言って茶化していましたし」

 ジェラードは本当に思っていた事を言ったつもりなのだが、どうやら日頃の行いのせいで冗談の類だとアナスタシアは捉えたらしい。だけど彼女は約束通り全ての成績で一位になったのだ。
 
 ならば彼はアナスタシアに褒美を上げねばならないだろう。
 そう、この街で買った大量の甘い菓子の事だ。
 店の店主いわく、子供なら誰しもが好きだと言っていたから間違いないだろう。

「……幾ら気まぐれな俺だとしても本音ぐらい素直に言うぞ。だが俺の出した条件を突破した事は見事だ。であればお前には褒美をやらないとな」
「ほう、気まぐれという部分は自覚してるんですね。……って、それよりも褒美とは一体?」

 アナスタシアは試験に合格したことで調子に乗っているのか先程から若干上から目線はなんなんだろうかと、ジェラードは僅かに気になりはしたが今日ぐらいは大目に見る事にした。

 そして彼がベッドから立ち上がって手を叩くと、先程まで何も無かった机の上に大量のお菓子が出現した。
 
「これが褒美だ。腹がいっぱいになるまで食っていいぞ。全てはこの俺の金で買ったものだからな」

 大量の菓子に視線を向けながらジェラードが言うと、アナスタシアは体全体をわなわなと震えさせて信じれないと言った表情を見せいていた。

「えっ。こ、これって王都名物のカエルクッキーですよ!? しかもこんなに大量に……一体銅貨何枚使ったんですか……」

 彼女はこの大量の菓子の名称を的確に当ててくると、やはり店主いわくこの菓子は子供に人気らしい。ちなみにカエルクッキーはアナスタシアが言っている通りに王都の名物で、カエルの形をしているからその名が付いたと店主が熱く語っていたのをジェラードは覚えていた。

「お金の事は気にするな。いまは褒美を堪能すると良いぞ」
「わ、分かりました……。では、お言葉に甘えて頂きますっ!!」

 彼に言われてアナスタシアはお菓子の山に飛びつくと、普段からキノコや山菜などしか食べていなかったのが影響しているのか物凄い勢いで菓子の山が無くなっていった。
 そしてそんな光景をジェラードが後ろから見ていると、右手で何かを手繰り寄せるような動きを見せた。

「なあアナスタシアよ。折角今日から魔女になったのだ。そんな見窄みすぼらしい格好はここまでにして、お前に似合う服を俺が与えてやろうか?」
「はっむ? た、たひひゃにきょのか「飲み込んでから喋ろ」……んぐっ。確かにこの格好では魔女としては恥ずかしいですね」

 ジェラードの言葉にアナスタシアは菓子を食べる手を止めて自分の服とローブを見ながら呟く。
 彼女の着ている物は特訓の影響で何度も破れては縫って直している状態で流石にそろそろ限界が近いのだ。主にジェラードとの戦闘訓練のせいだが。

「そうだろ? だから俺がお前に似合うとっておきの服をプレゼントしてやろう。さあ、こっちに」

 彼が新しい服を用意すると言って近づくように手招きする。

「……言っときますけど巫山戯た服でしたらそのまま殴りますからね」

 目を細めながら彼女は大賢者に向かって殴ると言ってきた。
 これは確実に調子に乗っているとジェラードは確信すると本当に巫山戯た服にしてやろうかとも思ったが、まあ今日だけは精神で無理やり抑えた。

「ふっ、きっとお前も満足する服装だと思うがな」

 ジェラードはそう言って近づいてきたアナスタシアに向けて右手を翳すと、彼女の服とローブが光り出して、それは瞬く間に光の微粒子となり形状が変化していく。

 だがその発光が眩しいのかアナスタシアは右手で目を隠しながら何か文句を吐いていた。
 しかしその発光も収まってくると彼女は自身の服装を見て驚愕の表情をジェラードに見せていた。

「な、なんですかこれは!?」
「うむ、よく似合っているぞ。やはり俺の同伴者となるならそれぐらいが相応しい」

 アナスタシアの服装は彼の魔法によって大きく変わった。
 まず先程まで着ていたくたびれたような服は消えて、今は何一つ汚れていない真っ白なノースリーブのブラウス服となっているのだ。

 しかも青紫色の紐ネクタイまで新調されていて、これは彼女の髪色に合わせたジェラードなりのサービス精神である。

 そしてスカートの方もちゃんと変わっていて色は黒でシンプルな物となっている。
 ……がしかし、丈が短めになっているのはジェラードの些細な悪戯でもあったりする。
 
 だが極めつけは魔術師にとって大切なローブだ。
 これなくして魔女や魔法使いを名乗ること叶わず。その大事なローブもしっかりと変わっていて、さっきまでの劣化していた物ではなく新品同様で尚且つ色は漆黒で如何にも魔女と言った雰囲気が伝わってくる。

「あとは……これを忘れてはならないな」

 ジェラードは自身の服装センスに満足気に頷くと右手に持っていた小箱を開けて中に入っていた金色のバッジを取り出した。これは魔術師協会が発行している魔女の証で全ての成績をトップで合格した者だけには特別に、バッジの真ん中にオリハルコンを加工して作られた宝石があしらってあるのだ。

「あっ! それ私の魔女の証ですよ! いつのまに取ったんですか!」
「そんな事にも気づかなかったのか? なら、まだまだだな」

 アナスタシアがお菓子を頬張っている間にジェラードが事前に自身の右手で手繰り寄せていた物はこれだったのだ。そして取り出したバッジをリスのように頬を膨らませて怒っている様子の彼女の胸元へと付けてあげた。

 だがやはりまだ年齢が若いこともあってかバッジが浮いているようにジェラードは感じた。
 これが真に似合うようになるにはあと五年は必要になるだろう。

「……くぅ」

 むすっとした表情を見せてくるアナスタシア。

「まあそんな顔をするな。ほれ見てみろ、これが魔女になったお前の姿だ」

 彼は魔法を使って手鏡状の物を出現させるとそのまま彼女の方へと向けた。
 するとアナスタシアは頬の膨らみをなくすどころか目を見開いて、

「こ、これが魔女の私ですか……。な、なんという絶世の美少女でしょうか! やはり私は美しいっ!」

 自身の体を触りながら余すことなく容姿を自画自賛しているようだった。
 しかしこの光景は以前にもジェラードは体験していたと、古き記憶が呼び起こされていた。

 それはシャロンの時も同じだったように自分の容姿には絶対の自信を持っていて、まったく同じ事を言っていたのだ。恐らくアナスタシアのその部分は親譲りなのだろう。

「まったく変なところだけ引き継いだのだな」

 ジェラードが何となく懐かしいとも言える感情に浸りながら言葉を漏らす。

「えっ? 何か言いました?」

 彼女は鏡から視線を外して彼の方を見てきた。だが幸いな事に内容までは聞かれていなかったらしい。流石に大賢者ともあろう者が思い出に浸るなんぞ柄ではないから助かったと言える。

「いや何でもない。……さて、いよいよ明日は朝から出発だ。今日はあまり夜更かししないで早めに寝ておけ。寝坊したらそのまま置いていくからな」

 ジェラードが明日から本格的に旅に出る事を告げる。

「はっ!? そ、そうでした! 私は旅がしたかったんです! つい魔女になれた喜びで本質を見失っていました……」

 アナスタシアは魔女になったことに満足していたようで当初の目的を忘れていたらしい。
 だが旅の件は彼女から言ってきた事なのだが大丈夫だろうか。
 些か彼は彼女の記憶力……というよりその場に流されやすい所が心配になった。

「意外とお前は馬鹿だな」

 だがそれは敢えて言葉にせず言い方を変えてそれとなく伝えた。

「ぐぬぬ。反論できないのが悔しい……ですがやっと旅に出れるのは嬉しいです! なので今日は先生に言われた通りに早めに寝ることにしますね!」

 彼の言葉が一撃となったのかアナスタシアは両手で頭を抱えて左右に振っていたが、やっと旅に出られる事が嬉しいらしく満面の笑みを浮かべて言ってきた。 

「うむ、それが良いぞ。じゃおやすみ」

 ジェラードが恒例の挨拶を言って部屋を出ようとする。

「はいっ! おやすみなさいです!」

 背後から彼女のどこまでも元気に溢れているような声を訊くと彼は顔が少し綻んだ気がした。
 それはやはりシャロンとの旅が彼の中で楽しかった思い出だからこそ、この状況があの時に似ていて嬉しいのだろうと。
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