気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

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第一章

8話「若き魔女は天才か?」

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 ジェラードがブラックバードの居場所について説明しようとした矢先に、二人の目の前は三メートルほどの大きさの黒鳥こくちょうが勢いよく降り立った。

「えっ。あ、あれが例のブラックバードですか!? ……うわっ! ちょ、ちょっと風が凄くてスカートがぁぁ!?」

 だがブラックバードが降り立った際に発生した風圧という衝撃でアナスタシアは帽子が飛びそうになったり、スカートの方は見事にめくり上がって純白のパンツが顕になっていた。
 一応ジェラードは横目で彼女を様子を確認したがそんなこと興味はなく、

「うむ、見ての通りだな。一体何百年ぶりの再開だろうか。まるで旧友に出会った気分だ」

 羽を収めてこちらをじっと見てくるブラックバードに視線を向けて呟いた。

「……先生。その台詞を鳥に使うのは間違っていると思いますよ」

 賢者相手に間違いを指摘してくるアナスタシアは風圧の時に服や帽子に付着した土埃を手で払い除けている。

「そうか? まあ気にするな。それよりもブラックバードを討伐することだけを考えるんだな」

 ジェラードは人差し指をブラックバードに向けて目の前の事に集中するように言う。

「大丈夫ですよ。どうせ先生があっという間に終わらせちゃうのでしょう? だったら私の出る幕なんてないですよ」

 彼女は気だるそうな感じで彼が早々に倒すような事を言ってくると確かにそれも可能ではあった。

「アナスタシアよ。お前がそう言ってくる事は既に想定済みだ。だから敢えて言おう。今回の討伐はお前が一人でやるようにと」

 だがそれでは面白くないとジェラードは一つの案が脳内を駈け巡り、魔女になったのなら鳥の一羽や二羽ぐらい簡単に倒せるだろうと課題を突きつけたのだ。
 
「……はぁ!? な、なな、何を言ってやがりますですか!! あんな大きな鳥を魔女になったばかりの私が倒せるんですか!?」

 すると一つの間が空いてからアナスタシアは目を丸くし口を大きく開けると、言葉遣いが滅茶苦茶ではあったが思考は真面もともに働いているようだ。

「倒せる倒せないじゃない。殺るんだ。それ以外の道はないと思え。というよりこれぐらい出来なければこの先の旅はついてこれないぞ」

 ジェラードはアナスタシアの言葉を聞いて尚の事、この課題は乗り越えて貰わないといけないと確信した。
 それはこの先、ブラックバードよりも危険な魔物が出てくる可能性が充分にあるからだ。

「ま、まじですか……」

 アナスタシアは表情を曇らせながら彼をジト目で見てくる。まるで疑っているかのように。

「ああ、マジだ。それと無論だが俺は手出しはしない。なんならお前があの太ましい両足に体を抑えられて、鋭利な嘴で肉を貪られようと俺は見ているだけだから安心しろ。まあ、死んだら流石に骨ぐらいはシャロンの元へと返しとてやる」

 彼女がブラックバードに食い殺されようと決して助ける気はないと明確に伝えると、最後の方は彼なりの慈悲であった。
 死んだら死んだで運と実力がなかったという事だとジェラードは思っているのだ。

「なんという悪魔のような事をぺらぺらと……。はぁ……分かりましたよ。その代わりにあれを私が一人で倒した時は先生にはを聞いて貰いますからね!」

 彼から鬼畜の所業とも言える言葉の数々と聞かされると頭が痛くなったのかアナスタシアは右手で額を抑えていた。だが彼女の中でもなにか思いついたようで、とある条件を申し出てきた。
 けれどこれでアナスタシアのやる気が出るのなら別にいいかと、

「ほう、別に構わんぞ。ただ常識の範囲内で頼む」

 ジェラードは内容を聞く前に了承した。ちゃんと常識の範囲内というのを添えて。

「もちろんです! では早速、この麗しき魔女の私が華麗に倒してみせましょう!」

 アナスタシアは綺麗な白い歯を見せながら笑うと、懐から杖を取り出してブラックバードの方へと足を進めた。
 どうやら向こうはずっと様子を伺っていたみたいで、その場から一ミリも動いていないようだ。

 
◆◆◆◆◆◆◆◆


「ひいいやぁぁ! 無理無理無理っ!」

 意気揚々とアナスタシアがブラックバードに挑んでから二十分が経過しようとしているが、現状は何一つ動いていなかった。強いて言うなら彼女はブラックバードに摘まれないように草原を走り回っている事ぐらいだろう。

「おいおい、そんなんじゃ日が暮れてしまうぞ。俺は日が落ちる前にふかふかのベッドの上で転がりたいんだが?」

 それを少し離れたところから見ていたジェラードは、数分前から何も変わらない状況に暇を持て余していた。そこではやく仕留めてくれないかと、鳥と共に草原を必死の形相で走り回っているアナスタシアに野次を飛ばす。

「し、知りませんよ! 文句言うなら少しは手伝ったらどうですか!!」

 アナスタシアは汗まみれの顔を彼の方へと向けると、まだ小言を言えるぐらいの体力は残っているようだった。

「さっきも言ったが手は出さん。何を言われようが決してな。それにさっき華麗に倒すとか言ってなかったか? ……まあなんにせよ引き続き頑張ってな。俺は少し仮眠をするから終わったら起こしてくれ」

 そんなに必死な顔を向けて言われても絶対に助ける意思はない事を再び告げると、ジェラードはもう少しぐらい時間が掛かるだろうとその場で横になると目を閉じて寝る体勢に入った。

「んな!? そ、それでも大賢者ですか!! この人でなし! 童貞馬鹿!」

 その光景を彼女は見ていたらしく罵詈雑言を浴びせてくると、

「童貞ではないッ!! ……おやすみ」

 この事だけは否定しておかないといけないと思いジェラードは久々に目を見開いて声に魂を込める勢いで言い放った。そして再び冷たい地面へと身を預ける。

「あっ!? 本当に寝ましたね! この気まぐれ賢者がぁぁぁあ!!」

 そんなアナスタシアの叫び声が草原に響き渡ると、彼は睡眠を優先するべく簡単に意識を手放した。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 あれから何時間が経過しただろうか。少しだけ仮眠をするつもりが、がっつり寝てしまったジェラードが目を覚ますと既にあたりは朱色に染まっていて夕方になった事を空が伝えてくる。
 しかし彼が周囲を見渡すと不思議な事にアナスタシアとブラックバードの姿が何処にもなかった。

「うーむ、アナスタシアやつもしかして逃げたか? もしくは巣に連れてかれたか……」

 寝ている間に何が起こったかは分からないが考えられる可能性は幾つもあった。
 だが何があったとしても骨はシャロンの元へと届ける約束は生きているので、取り敢えずジェラードは戦いの痕跡を探ろうと足を踏み出す。

「ちょっとジェラード先生! 私が逃げるわけないじゃないですか! それになんですか、巣に連れてかれたって。……そんなに私は信用がないんですかね?」

 そう不機嫌そうな声が聞こえてきたのは彼の背後からで、ジェラードは咄嗟に振り返ると……そこにはブラックバードが一羽だけではなく二羽三羽と全部で五羽が積み重なるようにして地に伏せていた。

 そしてその死んでいるブラックバードの一番上には、アナスタシアが破れたローブを纏いながら口をへの字にしてジェラードを見下ろしていた。
 見れば彼女の頬や額には土汚れや、かすり傷が多数付いているようだ。

「お、お前。……くっ、はははっ!! これはなんと言う事かっ! 想像以上の結果だなこれは!」

 ジェラードは一瞬表情が固まった気がしたが、次の瞬間には自然と笑みが溢れていた。

「何ですか急に? 寝すぎて頭がおかしくなりましたか?」

 それを見てアナスタシアはブラックバードから降りると、彼に近づきながら冷たく言い放ってくる。

 ジェラード自身はアナスタシアの今の実力では頑張ってもブラックバードを一羽倒せたら上出来だと思っていたのだが……彼の視界に映る光景はどうだろうか。
 その結果を大きく越えて、しかも五体満足である。まさに想像以上の結果と言えよう。

「まったく、俺が寝ている間に何が起こったと言うのだ?」

 笑うのを辞めるとそのままジェラードは、アナスタシアが一体どうやってブラックバードを倒したのか直接尋ねた。寝ていた事で大事な部分を見逃した事が彼の中で地味に悔しいのだ。

「ふふん、そ・れ・は・ですね。先生が寝た後さらに群れが来て多勢で私を追いかけ始めて、あまつさえこの大事な魔術師の証を狙って攻撃をしてきたのです。だから私は必死に取られまいと、ヤツらの眉間にガブレラル鉱石よりも硬い土魔法で形成した塊をぶつけてやりましたよ! ……まあ多少は時間が掛かりましたが」

 彼女はかすり傷を負った顔で自信満々にそう言ってると、若いというのは柔軟な思考が浮かぶものなのだとジェラードはアナスタシアの話を聞きながら思った。

 実はブラックバードは眉間が物凄く脆くて弱点なのだ。
 しかもガブレラル鉱石よりも硬いものが直撃したとなれば即死に持っていけるのだ。
 しかし戦い後の余韻がまだ残っているのか彼女の瞳には闘士が高ぶっているように見える。

「なるほどなるほど。確かにブラックバードは光り物を狙ってくる習性があるからな。伝え忘れていた、すまない。あと余談だがその鳥の身はかなりの美味と聞くぞ」

 頷きながらジェラードはブラックバードの生態について話すと、このクエストを受ける時に受付の女性が話していたことを思い出し、その黒鳥の身は”揚げても”焼いても”美味という事らしいのだ。
 
「そんな情報は要らないですし、重要な事は早めに言って下さいよ!」
 
 アナスタシアにとって魔物の味はどうでもいい事らしく、右手に握っている杖をジェラードに向けて頬を膨らませて怒っていた。

 だがまだ余韻が残っているかも知れない彼女が杖を向けてくるという事は、もしかしたら魔法を放ってくる可能性があるとしてジェラードは防御魔法を体に張り巡らせた。

 ……もっともそれはジェラードの早とちりで、アナスタシアは懐に杖を戻すと力が抜けるようにしてその場にへたり込んでしまったのだ。
 
「うーん、魔力量はまだ残っているから……単純に疲れか。だらしのない魔女め」

 ジェラードが指で輪を作ってそこからアナスタシアへと視線を向けると彼女の魔力はまだ全然残っていて、初の魔物相手に出力を絞らずに魔法を放った事で披露が一気に襲ってきていると判断した。

「う、うるさいですね……。初めて魔物を倒したんですから、これぐらい普通ですよ! ふ・つ・う!」
「あー、はいはい」

 アナスタシアはその場で腕を上下に振って普通を強調してくると、まだ減らず口を叩けるぐらいの余裕は残っているらしく、ここで暫し休憩したあとギルドへと戻る事をジェラードは提案する事にした。

 しかしジェラードには気がかりな事が一つあり、それはアナスタシアの体と残量魔力についてだ。普通の魔女で初陣なら魔力切れを起こして気絶してもおかしくない所を彼女は披露だけで抑えて、尚且つまだ魔力が八割も残っているのは疑問の塊であったのだ。

「まあ、それについては追々調べるとするか。まったく……不思議な娘だ」

 地面に腰を付けて空を見上げているアナスタシアを見ながらジェラードは呟くと、彼もその場に腰を下ろして右手を彼女に近づけると治癒魔法で傷を治し、破れたローブは修復魔法を掛ける事にしたのだった。
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