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2章 侯爵令嬢
2章1話 随行命令
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【新帝国歴1129年4月3日 アリーシャあるいは若葉】
「随行、ですか?」
私、ランデフェルト公国公宮付きメイドにして、現代日本で不幸にして死んだ歴史オタク女の転生者、アリーシャ・ヴェーバー、は聞き返す。
「ああ。目的地はリンスブルック侯国首都。目的は、新型兵器の試験製造工房の視察だ。お前の意見が欲しい」
そう答えるのはランデフェルト公国君主、リヒャルト・ヘルツォーク・フォン・ランデフェルト殿下だ。若干14歳の少年君主で、いかにも君主然とした態度で振る舞う金髪の美少年だ。
「兵器……ですか……」
私は考え込む。
転生して来たこの世界で私は、付け焼き刃で貧弱な歴史と科学の知識を活かして、殿下に取り立てて頂くことになんとか成功していた。逆に言うと、ボロが出ればいつ冷遇されることになるか分からない。
「兵器と言っても、銃の一種のようだ」
「どうして今回、その視察をされることになったんでしょうか?」
私は尋ねる。
「銃と言っても、性能が段違いらしい。この銃なら、『災厄』との戦闘において、有効な攻撃手段となるかもしれない。その検討のための視察だ」
少し考えてみたけど、断るような理由は何もなかった。
リヒャルト様には、『できることをやってくれればいい』と言われている。そう言ってくれる君主様であるのだから、自分がどう役に立つのか分からなくても、とりあえず役に立つよう努力はしよう、というのが、この世界での私の基本方針だった。
謁見を終えて退出した私を、呼び止める声があった。
「ご機嫌麗しゅう、エックハルト様」
私はスカートを広げて一礼した。その嫌味たらしい挨拶の語尾に、また嫌味なニュアンスを込める。
エックハルト・エードラー・フォン・ウルリッヒ様。リヒャルト殿下の側近をしている男だ。瀟洒で物腰柔らかな伊達男だが、私はこの人を嫌っていた。なぜってこの人は以前、私の正体を探るために一計を案じて、私の所持品を壊して返し、あまつさえ田舎娘呼ばわりしたから。
「実にいいですね、そのゴミを見るような目」
エックハルト様は涼やかに笑う。
「何か用ですか?」
「今回の本題、リンスブルック侯国への訪問の件ですよ。あなたには技術相談役として随行していただきますが、その際、リヒャルト様とあまり親しい様子はお見せになさいませぬよう」
要するに、訪問使節団のエキストラAとして振る舞い、何か特別な人間であるかのように思われてはならない、そういうことのようだ。
「……ねえ、エックハルト様。一つお伺いしたいんですけど」
「何ですか?」
「私、そこまで君臣の別を違えてますでしょうか?」
私は正直、腹を立てていた。この世界の人たちは、特にエックハルト様は、何かと言えば身分の差を分からせるような干渉や口出しを、陰に日向に仕掛けてくる。
そりゃ、平民の女が君主の側に控えるなんてこの世界の基準ではあまり、よろしくないことなのかもしれない。でもそれって、私という人間の解像度をあんまりにも下げてないか、と思っていた。はっきり言って、ことあるごとに不純な動機で殿下の周りをうろちょろする身分卑しい年増女みたいな扱いをされることには我慢がならなかった。そもそもそんな風に考えるんだったら、随行させなければいいだけの話である。
リヒャルト様のことは確かに、正直、ちょっと可愛いとは思っている。だけど、少年らしい容貌とは裏腹に、結構な切れ者なのだ。リヒャルト様にはあくまで臣下としてお仕えする事は、私の宮仕えにおいての行動原理に含まれている。それを少しぐらいは評価して欲しかった。
それに、私の前世にして自分の中の自分でもある29歳の新井若葉が、14歳の少年についてあれこれ追求したら駄目だ、この話はこれでおしまい、と、常に自分に釘を差している。今の私、アリーシャ・ヴェーバーはそれよりは若くて、18歳だけど。でも、18歳で、道理の分かる大人。だから、自分では自分なりに気をつけているつもりだった。
そんな私の怒りには目もくれず、エックハルト様は眉のあたりに手をやって、軽く考え込んでいる。
「あなたもですが、それより問題は殿下が……。まあいいです」
「あんまり私は良くないんですけど?」
発言の端々に反応する私。
「特別な事情があるのですよ。リンスブルック侯国にはリヒャルト様の許嫁、ヴィルヘルミーナ様がいらっしゃるのです」
「随行、ですか?」
私、ランデフェルト公国公宮付きメイドにして、現代日本で不幸にして死んだ歴史オタク女の転生者、アリーシャ・ヴェーバー、は聞き返す。
「ああ。目的地はリンスブルック侯国首都。目的は、新型兵器の試験製造工房の視察だ。お前の意見が欲しい」
そう答えるのはランデフェルト公国君主、リヒャルト・ヘルツォーク・フォン・ランデフェルト殿下だ。若干14歳の少年君主で、いかにも君主然とした態度で振る舞う金髪の美少年だ。
「兵器……ですか……」
私は考え込む。
転生して来たこの世界で私は、付け焼き刃で貧弱な歴史と科学の知識を活かして、殿下に取り立てて頂くことになんとか成功していた。逆に言うと、ボロが出ればいつ冷遇されることになるか分からない。
「兵器と言っても、銃の一種のようだ」
「どうして今回、その視察をされることになったんでしょうか?」
私は尋ねる。
「銃と言っても、性能が段違いらしい。この銃なら、『災厄』との戦闘において、有効な攻撃手段となるかもしれない。その検討のための視察だ」
少し考えてみたけど、断るような理由は何もなかった。
リヒャルト様には、『できることをやってくれればいい』と言われている。そう言ってくれる君主様であるのだから、自分がどう役に立つのか分からなくても、とりあえず役に立つよう努力はしよう、というのが、この世界での私の基本方針だった。
謁見を終えて退出した私を、呼び止める声があった。
「ご機嫌麗しゅう、エックハルト様」
私はスカートを広げて一礼した。その嫌味たらしい挨拶の語尾に、また嫌味なニュアンスを込める。
エックハルト・エードラー・フォン・ウルリッヒ様。リヒャルト殿下の側近をしている男だ。瀟洒で物腰柔らかな伊達男だが、私はこの人を嫌っていた。なぜってこの人は以前、私の正体を探るために一計を案じて、私の所持品を壊して返し、あまつさえ田舎娘呼ばわりしたから。
「実にいいですね、そのゴミを見るような目」
エックハルト様は涼やかに笑う。
「何か用ですか?」
「今回の本題、リンスブルック侯国への訪問の件ですよ。あなたには技術相談役として随行していただきますが、その際、リヒャルト様とあまり親しい様子はお見せになさいませぬよう」
要するに、訪問使節団のエキストラAとして振る舞い、何か特別な人間であるかのように思われてはならない、そういうことのようだ。
「……ねえ、エックハルト様。一つお伺いしたいんですけど」
「何ですか?」
「私、そこまで君臣の別を違えてますでしょうか?」
私は正直、腹を立てていた。この世界の人たちは、特にエックハルト様は、何かと言えば身分の差を分からせるような干渉や口出しを、陰に日向に仕掛けてくる。
そりゃ、平民の女が君主の側に控えるなんてこの世界の基準ではあまり、よろしくないことなのかもしれない。でもそれって、私という人間の解像度をあんまりにも下げてないか、と思っていた。はっきり言って、ことあるごとに不純な動機で殿下の周りをうろちょろする身分卑しい年増女みたいな扱いをされることには我慢がならなかった。そもそもそんな風に考えるんだったら、随行させなければいいだけの話である。
リヒャルト様のことは確かに、正直、ちょっと可愛いとは思っている。だけど、少年らしい容貌とは裏腹に、結構な切れ者なのだ。リヒャルト様にはあくまで臣下としてお仕えする事は、私の宮仕えにおいての行動原理に含まれている。それを少しぐらいは評価して欲しかった。
それに、私の前世にして自分の中の自分でもある29歳の新井若葉が、14歳の少年についてあれこれ追求したら駄目だ、この話はこれでおしまい、と、常に自分に釘を差している。今の私、アリーシャ・ヴェーバーはそれよりは若くて、18歳だけど。でも、18歳で、道理の分かる大人。だから、自分では自分なりに気をつけているつもりだった。
そんな私の怒りには目もくれず、エックハルト様は眉のあたりに手をやって、軽く考え込んでいる。
「あなたもですが、それより問題は殿下が……。まあいいです」
「あんまり私は良くないんですけど?」
発言の端々に反応する私。
「特別な事情があるのですよ。リンスブルック侯国にはリヒャルト様の許嫁、ヴィルヘルミーナ様がいらっしゃるのです」
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