妹ばかりをひいきにする旦那様の前から消えたら、勝手に後悔し始めたそうです

睡蓮

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第4話

「お待ちくださいナーレ様!!」
「…?」

侯爵様とエレーナがよろしくやっているであろう一方で、私はすべての荷物をまとめて侯爵様の屋敷から去ろうとしていた。
特にこれという心残りもないし、気になることもない。
エレーナが綿また私のものを奪いたいというのなら、どうぞ好きにしてという思いしか抱いていなかった。
だから私もある意味素直に婚約破棄を受け入れる事ができた。
けれど、今私の事を呼び止めてくれた人はそうではなかった様子。

「こんなこと、許されるはずがありません…。ナーレ様、本当にこれでいいんでしょうか…」

心配そうな表情を浮かべながらそう言葉を発してくるのは、侯爵様の友人であり私にとっては相談相手になってくれていたケルンさん。
彼の立場は騎士であり、仕える貴族家の守護を使命とする人だ。

「もういいんですよ、ケルンさん。今まで私の事を見守ってくださって、本当にありがとうございました。これからは私に代わってエレーナが侯爵家にはいることになりそうですが、彼女の事をお願いしましね」
「ナーレ様…。あなたはいったいどうしてそこまで健気になれるのですか…」

絞り出すような口調で、ケルンさんは私にそう言葉を漏らした。
そう言っていただけるのはすごくうれしいのだけれど、私はあなたの思うような素敵な女性ではないのですよ…?

「私は侯爵様から、直接いらないと言われてしまった人間です。そんな私に、お情けなんて必要ありませんよ?ケルンさんこそ心がお優しいから、私の事を気にかけてくださっているのでしょう?でも、心配には及びません。こうなることは初めから分かって…」
「そ、そうではないのです!!」
「…?」

非常に珍しく、ケルンさんがやや語気を強めながらそう言葉を発した。
騎士として普段から冷静沈着な彼の姿を見てきている私にとって、そんな彼の雰囲気は意外なものだった。

「ナーレ様、私は心から願っていたのです。あなたの幸せを」
「……」
「侯爵様は以前、私に約束してくださったのです。必ずナーレ様の事を幸せにして見せると。私はそのお言葉をしんじてここまで侯爵様に尽くしてきたというのに、結果がこれではまるで裏切られたような気分です…」
「ケルンさん…」

その時彼が見せてくれた表情は、まるで侯爵様の事を恨んでいるといっても過言ではないほどのものだった。
…私の事をそこまで想ってくれる人が、今までに一人でもいただろうか…?

「ナーレ様、ひとつだけ相談があるのです」
「なんでしょう?」
「これは私の勝手な言葉ですから、嫌でしたら当然お断りいただいて結構なのですが…」

ケルンさんはそう前置きを行うと、私にとっては全く想像もしていなかった提案を続けて言葉にし始める。

「このすぐ奥に湖があるのはご存じですか?そのほとりに私の持っている別荘があるのです。もしもよろしければ、そちらをお使いください」
「お、お使いというのは…?」
「すぐ近くから見ていていただきたいのです。ナーレ様の事を捨てた侯爵様がこれからどうなっていくのか、自分勝手な振る舞いを繰り返されるエレーナ様がどのような末路を迎える事なるのか。そのすべてを、見ておいていただきたいのです」

ケルンさんは非常に強い口調でそう言った。
そこになにか裏がるような様子は一切感じられず、彼は心の底から本気でその言葉を口にしているのであろうことが読み取れる。

「で、でもそこまで面倒をかけてしまうのは…」
「問題ありません。使用人もつけさせていただきますから、困ったことがあればその者たちをお便りください。なにかあったらすぐに私が駆け付けますから」
「え、えっと…」

正直なところ、あまり行く当てもなかった私。
元いた家に帰ろうとはしても、そこに私の味方は誰もいない。
エレーナが完全に私を悪役に仕立て上げてしまっているからだ。

「そ、それじゃあ…。お願いしようかしら」
「ぜひどうぞ。私はこのまま黙っているわけにはいかないので」
「そ、それは…」
「エレーナ様と侯爵様には、しっかりと自分たちの行動を見直していただきたく思います。その果てにどのような結果が待っているかはまだ分かりませんが、少なくともこのまま終わりにするわけにはいきません。このまま何もしなければ、すべての責任をナーレ様が一人で背負われているも同然ではありませんか。私は騎士です。とても認める事はできません」
「ケルンさん…。どうしてそこまで私の事を…」

それは、聞かずにいようと思っていた疑問だった。
けれど、気づいた時には私はそれを口にしてしまっていた。
…ケルン様は騎士だから、騎士として私の事を守ろうとしてくれているのだろう。
でも、私は心のどこかでそこにもう一つの理由を期待していたのかもしれない。
そこになにか特別な思いがあったら、どうなったんだろうか、と…。

「それは…。今はまだ、お話をするには早いですね」
「へ?」
「その時が来れば必ず。私自身から話をさせていただきますから」

ケルンさんはそう言うと、そそくさと私の元から去っていった。
…その時の彼の表情が、少しだけ恥ずかしそうな雰囲気を見せていたのは、私の気のせいではないと思う…。

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