1 / 8
年末の明暗
しおりを挟む……この時期になると、一年というのはあっという間に過ぎるもんだよなぁ。
暦は十二月。今年も残すところあと一週間というところで。
一日や一週間は長く感じるというのに、カレンダーを見ればもう今年も終わりが近いのだから驚くばかりだった。
この時期は暇な時間が多くて宙ぶらりんな気分になっていたり、忙しすぎて何も考えられなかったりと様々だが、今年の私はほどほどに仕事をしつつ、余裕のある状態で年の瀬を迎えられそうな塩梅だった。
仕事納めまであと数日。
少ないながらもボーナスは出たし、年末か年始に何かしたいな、何ができるかなと考えながら日々の時間を過ごしていたわけだが。
そんな風に過ごしていると、会社用のメアドに一通のメールが来た。
件名は『同期で忘年会やらんかね?』というもので、差出人は今でも交流がなくもない同期の一人で。CCを見れば、同期全員に送っているようだった。
日時を確認すれば、開催日は今週末の金曜日になっていた。
今日は確か火曜日で、時刻を確認すれば定時まで一時間とちょっとくらいしかない。
……急な誘いだなぁ。
とは思ったものの、こういう機会はそうそうないのだと思い直して。自分で企画することはほぼないのだからと、参加するのもいいかなと思って参加の旨を返信した。
そして、他にはいったい誰が来るのだろうかと思いながら、その場はいったん仕事に戻った。
●
――金曜日になった。
今日中に片付けておくべき仕事をそつなくこなしてから、会社を出た。
花の金曜日で、同期での忘年会もあるとなれば、気分もそれなりに高揚するものだ。
今回の忘年会は会社の最寄り駅に程近い、居酒屋の全国チェーン店で開催されることになっていた。
よく予約がとれたものだと思ったが、着いてみて、なるほどと理由に納得した。
どうやら、参加者がそんなにいないようだったからだ。
まぁ急な誘いだしそんなものかな、とも思った。
――開始時間になって揃った人数は、両手で足りるくらいだった。
集まった面子は、それなりに付き合いのある連中だった。
忘年会などの機会以外にも、二三ヶ月に一回くらいのペースで飲みに行くことのあるやつらばかりで。だからこそ集まったのだろうと思った。
……まぁ気兼ねも要らない連中だし、ぱーっと気楽に飲むには都合がいい。
人数分のビールが集まったら、まずは乾杯だ。
がちゃんとジョッキをぶつけてから、一気に飲み干した。
集まったのは飲兵衛ばかりで、ジョッキの中身はすぐに空になっていた。
追加の飲み物を注文する。
ビールばかりのやつもいれば、最初の一杯だけ付き合ってカクテルやらチューハイを頼むやつもいた。
……誰が何を飲むのか、なんてのはよくわかっている間柄だ。
いつもお前は甘いのだよなぁとか、おまえだってビールばっかりじゃねえかなんて笑い合った。
飲み物のついでにつまみやら主食になりそうな料理を頼んでおく。
ここの売りは分厚いチキンステーキだった。ガーリックを効かせてカリカリに焼き上げているのがたまらないのだ。
明日は人に会う用事もないから、気にせず食べられるのが最高だった。
――料理や飲み物が来る間に交わされる会話の主な内容は仕事の愚痴ばかりだった。
やれあの上司は仕事ができないだの、客は常識が無くてゴミだ屑だと言い合って意気投合した後で、この後うちの会社はどうなるんだろうなぁなんてしんみりしたりもした。
ひたすら飲んで、話して、笑って。
腹も満ちて、酒に酔って、じんわりと満足感を感じ始めると、話す話題も少なくなって少し静かになった。
……まぁそれでも話は尽きないものだ。
自分でもどこから出てくるのか不思議になるが、どーでもいいようなちっさな話題でもとりあえず振って笑ってしまう。
――そうやって細々とそんなことを続けていると、店員がラストオーダーを伝えてきた。
もうそんなに経ったのか、なんて思いながら会計を確認して割り勘で支払った。
取りまとめは発起人の仕事だろと、過不足ない金額を手渡してから先に出る。
酒であったまった体に、外の冷たい空気は気持ちよく刺さってきた。
……これからどうするかなぁ。
二次会でも行くなら付いていこうか。久しぶりにカラオケとか行きてえなぁ、なんて思いながら視線を適当に回したときだった。
駅に向かう流れと飲み屋に向かう流れが混ざってごった返すひとごみの中に、見知った人影を見つけたのだった。
それは一組の男女だった。
一人は同期の紅一点で、もう一人はこれまた同期のそこそこ雰囲気イケメンだった。
……俺には負けるけどな。
ごめん見栄張った。あいつはイケメンだった。仕事もできるいいやつだった。
見ていると、二人の間にはなかなかいい雰囲気ができあがっているように見えた。
二人が見つめあいながら笑い合っていた。
……向かう先は雰囲気のいいバーだろうか。
この辺りはそういう飲み屋も探せばある。
そう思ったところで、後ろから声がかかった。
どうやら残りの連中も出てきたらしい。
視線を一度後ろにやって返事をした後で、視線をひとごみに戻してみたが、もう二人の姿は見えなくなっていた。
「……うらやましいねぇ、まったく」
こちらは女日照りの男衆。あちらはいい雰囲気のロマンスか?
――格差社会ここに極まれりってやつだな。世知辛いぜ。
そんなことを考えていると、これからどうする? なんて会話が聞こえてきたので、おらぁと声をあげて言ってやった。
「二次会行くぞ二次会! 今日は飲み尽すぜ!」
どうしたんだよいきなり、と半笑いの声が返って来たけれど、構うことなく道を進んでいった。
しょうがねーなぁという声が聞こえて、数人が付いて来る気配がした。
……付き合いのいいやつらだ。最高だぜまったく。
進んでいる途中で声をかけてきた客引きの兄ちゃんと交渉している間も、さっき見た二人の姿が脳裏にちらついたが、心中でけっと笑い飛ばしてかき消した。
――交渉はうまくいった。
割安で飲み放題。お通しにプラスで一品つく。なかなかの成果だった。
連れに結果を話せば大喝采だ。大したことじゃないとは言え、褒められるのは悪い気分はしないもんだった。笑いながら兄ちゃんについていく。
「よーし、飲むぞ飲むぞ!」
あっちはあっちで楽しめばいい。こちらにはこちらの楽しみがあるんだから。
……負け惜しみじゃねーぞ。断じてな。
誰に言い訳をするでもなくそう思いながら、二次会の会場となる居酒屋にみんなで入ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる