初恋

咲良

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夏合宿⑩

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昼食に合宿所に戻り食後に宿泊していた部屋や、食堂、お風呂の掃除をみんなで分担してやって荷物をまとめ体育館に戻る。

今日は他校との練習試合だから練習に混ざれないのに今日も3年の先輩たちは来ていたが、いつもと違うのは制服のままだと言う事、それに他にも数人組の観客がちらほら居た。
「「木下くーーーーん!!」」
黄色い声援が聞こえる、木下がファンクラブの子たちに向かって木下が手を振るとまた黄色い声が上がる。
「お――お―――『昔の』王子様は人気もんだなぁ」
にっこり笑いながら正田さんは言うがその後ろにどす黒いものが見えるのは僕だけじゃないはずだ……
「「お――い勇作!!西高に負けんなよぉ!!」」
正田さんのクラスメイトなのか4人組の男子生徒も応援に来ているようだ
「はっはっ――バスケ部も西高に負けたんだもんなぁしゃーない俺が敵撃ってやるよ」
笑いながら男子生徒たちに返事をしている、バスケ部の連中か……と視線を向けるとその4人の中に米子が居た、米子は中学の時対戦した奴で、高校で再会した時に僕がバレー部に入るのが気に入らなくて絡んできた奴だ……先輩に連れてこられたのかは知らないが凄い睨んでくる。
対戦校が到着するまでみんな午前の最後に練習したサーブの練習をしている。
僕は壁打ちで終わったけど実際コートでフローターサーブを打ってみる。
あんなに入らなかったのに8割くらいの確立で入ってるのが不思議で仕方がない。
「肘、ちゃんと伸びてんな」
佐藤さんが目敏く声をかけてくる、肘そんなに曲がってたのだろうか?
「ココで打つって目標位置がずれてたんだよ」
不思議に思っていたのを察した佐藤さんが教えてくれる
「身長伸びたのと一緒に手足も伸びてんのにトス上げる位置が手前すぎて肘曲がっちゃってたんだよ」
なるほど、そんな単純な理由だったのか、やっぱり中学3年バレーから離れていたのは痛いな……

対戦校が到着し、監督からスターティングメンバ―が発表される。
なんと基本の調味料に木下が入るという只野さんが大喜びしそうなメンバーになったと思って只野さんたちの方を見たらやはりニヤニヤと笑っていた。なんだか監督も面白がってるんじゃないかと思ってしまう。

サーブの調子が良くなった峯川の殺人サーブが炸裂して、開始早々3点も取っていたが調子に乗りすぎた峯川がわざとゆさぶり前に落とすようにサーブしたボールは相手のチャンスボールとなり、強烈なスパイクで返ってきた。
サーブアンドブロックに力を入れている高校……僕は相手のサーブが繰り出される瞬間から緊張していた。
佐藤さんがうまく繋ぎ正田さんが真ん中にセットする、中央は木下、その後ろに各務さんだ。敢えてのど真ん中勝負、相手校が中心に集まりブロックのタイミングを見計らっている、凄い、最後まで見てる。
ど真ん中エース勝負だった各務さんのバックアタックをしっかりとワンチでブロックしていた。
多分、見た感じワンチしたブロッカーは1年だろう、2年ならドシャットしていたのかもしれない。相手コートの動きが激しくなる、今度はこっちがブロックする番だ、「ちゃんと見て飛ばなきゃ」ボールを追う、スパイカーたちが助走に入っているがセッターは正田さん側にセットしたので僕と木下は左に寄る、相手も前衛、後衛飛んでる、バックアタックの可能性もあるが、ボールが前衛の選手寄りだ、「今だ」と飛ぶと器用な木下も正田さんも同じタイミングで飛んで居て、きっちり3枚揃えられた。しかし僕から順に背が低くなっているので相手は強行突破でストレートに無茶打ちしてきた。大きくワンタッチしたボールを佐藤さんが先読みしていたかのように見事に拾うと黄色い歓声が飛んだがプレーはまだ続いている。
後衛になり飯田さんと交代した時
「貫悟~!!頑張ってぇ~!!」
対角の僕が後衛にローテすると言う事は佐藤さんが前衛になるってことなんだけど、前衛に回った佐藤さんは黄色い声の方へ手を振っていた。
「なぁなぁ、あそこの真ん中の髪の長い人、キャプテンの彼女なんだってさ」
酒瀬川がわざわざ報告してきた。
―彼女……居るんだ。『モテるだろうに』なんて失礼だったな……
3人組で応援に来ている女子グループの真ん中に小さくて髪の長い可愛らしい人が居た。







2-1で勝って3年の先輩たちも大喜びで正田さんの親友らしきバスケ部の連中も、その他応援に来ていたギャラリーも歓喜していた。
もちろん、みんなも……なのに、僕はなぜか喜べないでいた……



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