初恋

咲良

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日常

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文化祭が終わると、中間試験があった。赤点にならないように梅谷、酒瀬川、峯川の勉強を見てやる。バレー部全員赤点になることなく2年生は修学旅行に出たので1年だけで部活動をする。先輩たちが居ないので基礎練と3対3をひたすらする。
案外木下がリーダーシップを取ってくれたので1年だけの部活動も回っていた。
1年だけの部活動も最終日となる金曜日、2年の先輩たちは今日の夕方帰ってくるはずだ。
明日の土曜は休みになっている。

中間試験、修学旅行と佐藤さんとはほとんど顔を合わせていない。
顔を合わせないで済むこの期間に少しでも気持ちが落ち着いたような気がして佐藤さんへの恋心に気付く前の日常に戻った気でいた。

そんな中只野さんが部活に遊びに来た。
美容師の専門学校の推薦が決まったそうで報告がてら遊びにきてくれたのだが相変わらず僕の事を『ソルト』と呼ぶ。
「あの……それ、やめてください」
「まあまあシュガソル人気出てるし陰で呼ばれるより良いだろ?」
「でも……彼女さんに悪いですよ」
「は?あぁ!!アレな、アレは気にすんな」
「アレって…」
「あっ!じゃあお詫びにこれやろう!」
そういって渡してきたのは文化祭の時に撮った佐藤さんと僕のチェキだった。
「こ…れ……」
それを見た瞬間に平気になったと思っていた思いが逆流するような気がしてめまいがした。
「こ…んな…の…お詫びにならないじゃないですか」
平静を装うが言葉が詰まってしまう
「まあまあ、お遊びができるのは学生の良い所!よく学び、よく遊ぶ!しょうもない事してたなぁって笑い話になるからさ」
そう言った只野さんの笑顔が少し曇っていて、僕は見てはいけない物を見てしまった気がした。
「まあ、女って結構狡賢いよ。文化祭だとか、修学旅行だとかさ、イベント事の時に彼氏いないのは淋しいとかってさ、周期的にもそろそろだろうし、まぁ遠慮すんな」
「は?はぁ……」

数日前のチェキに心が揺れ動かされる。好きだと体中の血が湧き上がる。あの日、気付く前に佐藤さんの腕に抱きかかえられたことを思い出す。

僕の日常なんてこんなちっぽけなもので簡単に揺らいでしまうのだ。
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