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第一章 変わり始める日常
第2話 心の友よ、元気を出して
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「ど、どうした? この前西町の女の子がかわいいとか言ってたじゃん」
か細い声をタックが絞り出す。
「……キミが……そんなにひどい奴だとは知らなかったよ……」
「なんでっ!? 友達とヒソヒソ話しながら自分の方をチラチラ見てたって、目があったら恥ずかしそうにしてたから絶対気があるはずって言ってたじゃん」
「ヴィト君……」
「どうした?」
「もう許して……」
「えっ、あっ、ご、ごめん……」
なぜか泣きそうな顔で謝ってきたので何があったかはもう聞けない。聞いちゃいけない。
タックが何かやらかしていないことを祈りつつ、慌てて話題を変える。
「ま、まぁ彼女なんていなくても何とかなるし! オレもいたことないし! 一生できる気もしない! 野郎2人でできる何か楽しいことを考えようか!」
「うぐっ……ヴィト……心の友よ……!」
よくわからないけどがっちりと肩を組んで漢の友情を確認していると、ススリーが食器を下げに来ていた。
「あら、ヴィトがもし彼女を募集するならきっと応募者が殺到するわよ」
「「えっ?」」
聞き捨てならない言葉に二人同時にススリーの方を見る。
2. 心の友よ、元気を出して
「紹介してって女の子からよく頼まれるんだから。そんなの自分で直接声掛けなさいって断ってるけど。ヴィトは結構人気あるのよ。ヴィトのお店に来る若い女の子が増えてるでしょ? 最近、彼女たちの間では抜け駆け禁止条約みたいなのが結ばれたようだけどね」
全く知らなかった。
そんな条約はすぐに破棄すべきだ。
確かに最近はなぜか若い女性客が増えて売り上げも伸び、店長もニッコニコだった。
『わたしの配合の良さがついに世間に認められたのだ』とか店長も言っていたし、薬草ブームでも来たのかと思っていた。
なんでもっと早く言ってくれないんだ。
遠慮することないのにと思っていると、がっちりと友情を確認していたはずのタックの腕から力が抜けていき、微かに震えてきた。
漢の友情の危機が訪れた。
「ススス、ススリー、お、俺はどうかな? ほら、誰か『タックを紹介して!』なんて言ってる子は……?」
「紹介してと言われたことはないけど、タックも人気あるみたいよ」
ススリーの言葉で、タックの目に再び力が宿る。
「よし、ススリー、落ち着け。詳しく聞かせるんだ。何が望みだ! 願いを言え! 早く!」
興奮してどこぞの龍のようなことを言い出したタック。
落ち着くのはお前だ。
腕にも力が漲り、握りしめられた肩がちょっと痛い。
「でもタックに関してはヴィトとはなんかちょっと違うんだけどね」
「「と、いいますと??」」
「あたしも詳しくはわからないけど、受け? とか攻め? とかなんとかで女の子に人気? というか需要があるって聞いたわよ」
オレの肩に回されていたタックの腕が力なくずり落ち、俯いたまま動かなくなった。
声をかけようにもかけられない。
オレが今ここで何かを言っても、タックを傷つけるだけになるからだ。
というか、その話のもう一対はオレである可能性が高い。考えたくない。
「ユリちゃん……やっぱり……オレとヴィトを……」
タックは西町の女の子の名前を言いながら、何やら恐ろしいことをブツブツ呟いている。
聞きたくないので聞こえないことにする。
「まぁ人気がないよりあるんだからよかったじゃない。ほら、そんな顔してるとやっぱり受けだとか言われるわよ」
ススリーはしっかりわかっていた。
2人の心を抉り取って仕事に戻っていくススリー。
さっきまでは楽しかったはずなのに、なんとも言えない重たい沈黙が流れていた。
しばらくしてタックがぽつりと言った。
「刺激が欲しかったけど、そういう事じゃないんだよ……」
「わかってるよ……。平和な日々に慣れて、刺激が欲しいなんて我が儘を言ったから罰が当たったんだね……」
「神様、我が儘言ってごめんなさい……。もう贅沢は言いません……。刺激はいらないので彼女を下さい……」
あまり反省しているようには見えなかった。
お会計を済ませ、すっかりしょぼくれたタックを促して岐路に着く。
タックの分はオレが払っておいた。
だってオレたちは心の友だから……。
並んで歩くタックはいつもより小さく見えた。
沈黙のままトボトボと歩いていると家の近くに着く。
「それじゃお疲れタック。その、気にしないでいい夢見ろよ!」
「お疲れ、ヴィト。オレ、いい夢、みる」
片言になったタックと別れ、自分の家に着く。
身体を拭き、寝る準備を済ませてベッドに入る。
天井を見ながら先ほどのススリーとの会話を思い出す。
どうやらタックとの関係を一部の女子に邪推されているようだ。
確かに子供の頃から仲は良いし、よく一緒にいるが、さすがにそんな関係にはない。
オレもタックも異性に興味津々だ。
そして、タックには悪いがススリーからの朗報に若干浮かれているのも事実だ。
自然と笑みがこぼれてきてしまう。
「でも意識しちゃうと変な感じになっちゃうからな。あまり考えないようにしないと。まぁ神様に感謝しながら明日も頑張るか」
変わらない日々が大きく変わってしまうことなど露知らず、眠りについた。
か細い声をタックが絞り出す。
「……キミが……そんなにひどい奴だとは知らなかったよ……」
「なんでっ!? 友達とヒソヒソ話しながら自分の方をチラチラ見てたって、目があったら恥ずかしそうにしてたから絶対気があるはずって言ってたじゃん」
「ヴィト君……」
「どうした?」
「もう許して……」
「えっ、あっ、ご、ごめん……」
なぜか泣きそうな顔で謝ってきたので何があったかはもう聞けない。聞いちゃいけない。
タックが何かやらかしていないことを祈りつつ、慌てて話題を変える。
「ま、まぁ彼女なんていなくても何とかなるし! オレもいたことないし! 一生できる気もしない! 野郎2人でできる何か楽しいことを考えようか!」
「うぐっ……ヴィト……心の友よ……!」
よくわからないけどがっちりと肩を組んで漢の友情を確認していると、ススリーが食器を下げに来ていた。
「あら、ヴィトがもし彼女を募集するならきっと応募者が殺到するわよ」
「「えっ?」」
聞き捨てならない言葉に二人同時にススリーの方を見る。
2. 心の友よ、元気を出して
「紹介してって女の子からよく頼まれるんだから。そんなの自分で直接声掛けなさいって断ってるけど。ヴィトは結構人気あるのよ。ヴィトのお店に来る若い女の子が増えてるでしょ? 最近、彼女たちの間では抜け駆け禁止条約みたいなのが結ばれたようだけどね」
全く知らなかった。
そんな条約はすぐに破棄すべきだ。
確かに最近はなぜか若い女性客が増えて売り上げも伸び、店長もニッコニコだった。
『わたしの配合の良さがついに世間に認められたのだ』とか店長も言っていたし、薬草ブームでも来たのかと思っていた。
なんでもっと早く言ってくれないんだ。
遠慮することないのにと思っていると、がっちりと友情を確認していたはずのタックの腕から力が抜けていき、微かに震えてきた。
漢の友情の危機が訪れた。
「ススス、ススリー、お、俺はどうかな? ほら、誰か『タックを紹介して!』なんて言ってる子は……?」
「紹介してと言われたことはないけど、タックも人気あるみたいよ」
ススリーの言葉で、タックの目に再び力が宿る。
「よし、ススリー、落ち着け。詳しく聞かせるんだ。何が望みだ! 願いを言え! 早く!」
興奮してどこぞの龍のようなことを言い出したタック。
落ち着くのはお前だ。
腕にも力が漲り、握りしめられた肩がちょっと痛い。
「でもタックに関してはヴィトとはなんかちょっと違うんだけどね」
「「と、いいますと??」」
「あたしも詳しくはわからないけど、受け? とか攻め? とかなんとかで女の子に人気? というか需要があるって聞いたわよ」
オレの肩に回されていたタックの腕が力なくずり落ち、俯いたまま動かなくなった。
声をかけようにもかけられない。
オレが今ここで何かを言っても、タックを傷つけるだけになるからだ。
というか、その話のもう一対はオレである可能性が高い。考えたくない。
「ユリちゃん……やっぱり……オレとヴィトを……」
タックは西町の女の子の名前を言いながら、何やら恐ろしいことをブツブツ呟いている。
聞きたくないので聞こえないことにする。
「まぁ人気がないよりあるんだからよかったじゃない。ほら、そんな顔してるとやっぱり受けだとか言われるわよ」
ススリーはしっかりわかっていた。
2人の心を抉り取って仕事に戻っていくススリー。
さっきまでは楽しかったはずなのに、なんとも言えない重たい沈黙が流れていた。
しばらくしてタックがぽつりと言った。
「刺激が欲しかったけど、そういう事じゃないんだよ……」
「わかってるよ……。平和な日々に慣れて、刺激が欲しいなんて我が儘を言ったから罰が当たったんだね……」
「神様、我が儘言ってごめんなさい……。もう贅沢は言いません……。刺激はいらないので彼女を下さい……」
あまり反省しているようには見えなかった。
お会計を済ませ、すっかりしょぼくれたタックを促して岐路に着く。
タックの分はオレが払っておいた。
だってオレたちは心の友だから……。
並んで歩くタックはいつもより小さく見えた。
沈黙のままトボトボと歩いていると家の近くに着く。
「それじゃお疲れタック。その、気にしないでいい夢見ろよ!」
「お疲れ、ヴィト。オレ、いい夢、みる」
片言になったタックと別れ、自分の家に着く。
身体を拭き、寝る準備を済ませてベッドに入る。
天井を見ながら先ほどのススリーとの会話を思い出す。
どうやらタックとの関係を一部の女子に邪推されているようだ。
確かに子供の頃から仲は良いし、よく一緒にいるが、さすがにそんな関係にはない。
オレもタックも異性に興味津々だ。
そして、タックには悪いがススリーからの朗報に若干浮かれているのも事実だ。
自然と笑みがこぼれてきてしまう。
「でも意識しちゃうと変な感じになっちゃうからな。あまり考えないようにしないと。まぁ神様に感謝しながら明日も頑張るか」
変わらない日々が大きく変わってしまうことなど露知らず、眠りについた。
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