さようしからばこれにてごめん 愚かな貴方達とは、もう会いたくありません!

白雪なこ

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 婚姻書類を出し終えたアンリタンは、その場で嬉しげに小躍りしていた。そこに土産の菓子箱を片手に、ユーリ少年が戻って来た。

「あれ?アンリタン、もしかして、婚姻届をもう提出したのか?」
「えへ!ユーリと一緒に提出したいとも思ったんだけどぉ、少しでも早く結婚したかったのぉ!サインもちゃんと出来たっぽいし~!」
「ぽい?そ、そうか。まあ、ただ名前を書くだけとはいえ、婚姻届だし、緊張して綺麗に書けない者もいるだろうな。」

「そうですね。貴族の方はほとんどないのですが、平民の方の中には文字の読み書きができない方が多いので、必死に書く練習をしてきた名前の綴りを間違えたり、家族間での呼び名を正式な名前と勘違いして書いたりという記入ミスは結構あります。
 王都中央役所の証明発行課にて有料で発行している婚姻証明書を申し込んでいただければ、間違いを訂正した状態で、お出ししています。文字を書きなれない方は、記念として保管する以外に、他の書類を書くときのお手本として使用されることもある様です。
 貴族家でも、厳格な管理が必要な領地持ちでない家の場合、急な代替わりや婿入り等で把握できていない情報があったりしますので、申し込み者によって内容が限定されますが、役所に登録されている重要な情報も加えて書類をお出しすることも可能です。
 他に、美しい専用用紙に、お手本の様な綺麗な文字で出力するタイプもあります。結婚記念などで申し込まれる方も結構いるんですよ。王都中央役所内にある証明発行課でないと、即発行はできず、いまここでお渡しすることは出来ませんが、こちらの婚姻課出張ブースでも郵送の申し込みならばお受けできます。」

「名前を書くだけの書類に間違いなどはないと思うが、婿として家の情報は把握しておきたいな。よし、私宛で送ってもらおう。支払いは………これで良いな。頼んだぞ。」
「はい、承りました。今日の申し込みですと、来週にはお届けできるかと思います。」
「そうか、わかった。美しい用紙のものを記念に申し込むというのも良いな。アンリタン、私達も何年か経ったら申し込むか!」
「えー、そ、そうね。私はもっと別の楽しい方法買い物で結婚記念のお祝いをする方が良いかな~と思うけど、ユーリがそういうなら、申し込んでも良いと思うわ。」

 ユーリとアンリタンが2人だけで会話を始めたので、婚姻課の責任者は、軽く頭を下げた後、持ち場に戻って行った。

「結婚記念日か。今年から楽しみが増えたな。では、私の奥方のアンリタン。我が家に帰ろうではないか!」
「はーい、マイダーリン、一緒に帰りまーす!」

(おー、帰れ、帰れ、2度とそのツラ見せるな!ギャラリー一同談)

 身体を謎にクネクネさせながら、書類上夫となったユーリの腕に胸を押し付けるようにしてしがみ付いたアンリタンは、どうやら無事に王子なユーリを捕獲できそうだと、ご機嫌だ。

 人目を気にせず再びイチャイチャし出したユーリとアンリタン夫婦は、既に散々一方的に罵倒していたミスティーナの存在を忘れていた。

 そんな2人の後ろ姿に向かって、ミスティーナは、今までほとんど発することのなかった声をかけた。

然様然らばさようしからば是にて御免これにてごめん!」

 これは、この国でいにしえから大事にされて来た、別れの言葉である。

 ただの挨拶ではない。非常に強い言霊ことだまを込めることができる、一世一度レベルの別れの呪いである。

 ユーリとアンリタンは、背後から聞こえて来た呪いの言葉を聞き取れるだけの知識を持っていなかったため、自分達に向かってかけられた声とは気づかず、そのまま家に帰った。
 サロンに残された少女、ミスティーナは、無事に頭のおかしな人間との縁切りができたことに安堵し、2人の後ろ姿が見えなくなるまでその場から動かなかかった。

 ミスティーナが使った別れの呪いは、王国民の誰もがつかえる訳でもない。今現在は、ミスティーナの一族と他2つの貴族家でしか使えないと聞く。

 呪いの発動ができる数少ない人間にとって、この呪いに難しいことはない。ただ別れの言葉に魔力を込め、絶対に縁切りしたいと、強く願えば良いのだ。効果として、呪いが無事に発動した後は、相手がこちらを認識しなくなる。

 ちなみに、ほぼ一生に1回しか使えないと言うのは平均を取ればの話で、魔力の多いミスティーナは、片手ぐらいの回数は余裕で使えるだろうと、ストーカーや逆恨みして来そうな相手には、迷わず使えと親たちから命じられている。

 地味でくたびれた旅装束なだけでなく、容姿も偽装しているミスティーナ。実は親が心配するほどの美少女なのである。ユーリに知られれば、アンリタンの存在など、瞬時に消えてしまうレベルであったので、偽装中の出会いであったことは、ユーリを逃したくないアンリタンにとっては幸運だったと言える。

 絡まれている最中に呪いを使わなかったのは、誰が何の目的で絡んできたのか把握する前に「縁切り」してしまうと、家族に「よく知らない人間と縁切りした」としか報告できなくなるからである。ミスティーナ本人との縁切り後に、縁切りした相手が、ミスティーナの家族や親しい人間と、再び縁を結んでしまう可能性はゼロではない。厄介な相手と縁が絡まる可能性は避けたいが、気軽に呪う訳にはいかないのだ。ほぼ一生に1回しか使えない可能性のある魔力量の身内の中には、慎重になるあまり、呪いを発動することなく、一生を終える者もあるという。

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